運転手さん、あのタクシーを追ってください。
勇樹さんは生前、すでにレストランなどの予約を取っていたらしい。
仮はその全てを把握していたため、事前のチェックはバッチリであった。
「よし、仮さん、こっち向いて!」
「おおーーー、はくにぃよりカッコいいよ!」
「ほっとけ」
デートも残り三日と迫ったこの日、相談員メンバーと仮は、デートに着て行くスーツを買いに来ていた。
「そうですか……? このスーツ、いい感じですか?」
「もうバッチリですよ!」
「いけめーんっ!」
女子二人からのグーサインに、仮も思わず照れる。
「じゃあこれにしますね!」
続いては美容店に。
「髪はこのままでいいのでは……?」
との仮に主張に対し。
「ダメ! 髪型も綺麗にしておかないと! 仮にも恋人なんでしょ!?」
「仮だけに……クックッ……」
「はくにぃ、おもしろくないよぉ?」
じっくり時間をかけ、バッチリ爽やか系に変身した。
デートまで残り二日。
「テーブルマナーもしっかりとね♪」
「む、難しいですね……。えーっと、ライスを掬う時は、フォークの背を上に……」
「ちょっと待って! 仮さん、それ間違った知識だよ? ライスを食べる時は、フォークは普通に持っていいの」
「そうなんですか? ……知らなかったなぁ……」
「うゆゆ……、ナイフとフォーク難しいよぉ……」
「リキュルちゃんは箸もうまく使えないんだから、テーブルマナーはまだ早いよ。……って、仮さん! それ飲んじゃダメ! それは手を洗う水だから!」
「そ、そうなんですか!? てっきりレモンが浮いてあるからジュースかと……」
「まさにテンプレだな」
デートまでついに後一日。
「んほおおおおおおおっ!! みなさん、ゆったりしていてくださいね! このスーホタクシーの乗り心地はタクシー界一ですから!!」
大声を上げつつ走る馬頭鬼一匹。
「どうしてスーホさん呼んだの?」
「今日は色々と準備に回らないといけないからね! 足が欲しかったんだよ。それに当日も必要となるだろうしね」
「それにしても恥ずかしいよ、これ。見てよ、周りの視線が寒いよ……」
馬頭鬼に引かれているリヤカーってだけでも目立つのに、この無駄な重装備がさらに周囲の目を集めてしまう。
「はくにぃ、寒いの? コタツ暖かいよ?」
「コタツの中に隠れていようかな……?」
目的のショップやレストランに九緒夢は入っていく。
荷台の上でお留守番の白夢とリキュルは、格好の晒し者になってしまったのだった。
「恥ずかしすぎる……!!」
「見てみて、はくにぃ! コタツから頭だけ出したら、亀さんみたい!! キトーごっこ、キトーごっこ!!」
「卑猥な言葉連呼しない! さらに目立つでしょ!?」
そしてついにデート当日、そして仮の最後の日を迎えた。
その仮はと言うと、バッチリとスーツを着て、髪を整え、まさに出来るイケメン風に仕上がっていた。
由紀さんとの待ち合わせは、レストラン近くの駅。
「……緊張しますね……」
「何言ってんの! これからが本番なんだよ! 今からそんなにガチガチじゃ間がもたないよ!」
午前十時。
待ち合わせ時間が来る。
「いらっしゃいました……!!」
仮の合図に三人は一斉に隠れる。
影からこそっと見てみると、とてもスレンダーな美女が現れた。
「……あの人が由紀さん、かな……?」
「うん。そうみたい……。すっごく美人だね、ハク」
「……ちょっと仮さんとは不釣り合いな気がするけどね……」
「そう? 私はお似合いだと思うんだけどなぁ。リキュルちゃんはどう思う?」
「う~~~ん……。きゅーお姉ちゃんの方が美人!」
「うは~、やっぱりリキュルちゃん、可愛すぎる~~~っ!!」
「しっ! 二人とも、黙って! 仮さん、移動し始めた! 僕等も移動するよ!」
「ラジャ!」
「ジャ!」
――その頃、仮はと言うと。
「お、お久しぶりです、由紀さん……!」
「ええ、お久しぶり、勇樹さん! 私、今日のこと、とっても楽しみにしていたの!」
「そ、そうなんだ……。あはは……」
緊張のあまり、言おうと練習していた台詞を全部忘れていた。
冷や汗たらたらな仮に、由紀さんが怪訝な顔を浮かべる。
「どうしたの? 勇樹さん。どこが具合でも悪いの……?」
「そ、そんなことないよ! 僕だって、ずっと楽しみにしていたんだからさ!」
「そ、そう? でも、無理しないでね?」
「う、うん! じゃあ、早速だけどどこか遊びに行こうか!」
「はい!」
仮は少しばかりギクシャクしていたものの、概ね順調にデートに向かった。
少し離れた店にでも行くのか、タクシーに乗り込む二人。
「よし、スーホさん、カモン!」
「ウマママママッ! あっし参上! ささ、皆さん、乗って下さい!」
九緒夢の掛け声と共にスーホ参上。
例のスーパーリヤカーも当然一緒だ。
「またこれに乗るの……? あの二人を追うんでしょ? 目立ってばれちゃうよ?」
「ノンノン、白夢さん。実はこのタクシー、ステルス機能も搭載しているんですよ?」
「な、なにそれ……」
本当にスーホが言い出すことは、毎度毎度嫌な予感しかしないから困る。
「ステルス、それは周囲と景色を同化させること。行きますよ! ステルス機能、発動!」
――●○●○●○――
――笑い声が聞こえる。
子供たちの差す指の先には、間違いなく僕らがいるだろう。
「アハハ、はくにぃ、ボク達、人気者になってるよ!」
「…………」
スーホのいうステルス機能。
それはリヤカーの車体にアルミホイルを張り付けただけのものだった。
「フッフッフ、アルミホイルは鏡のように周囲の景色を写す! 見つかることは決してない!」
この馬頭鬼、本当に頭は大丈夫なのだろうか。
思わず心配になるほど、このリヤカーは目立っていた。
元々目立つリヤカーが、今度は周囲の光を反射しながら走っているのである。
何事かと誰もが一度は振り向き、そして見なかったことにしてくるのだ。
「おかーさーん、あれなにー?」
「しっ、見ちゃいけません!」
なんてテンプレ的反応までいただくことが出来た。
「キュー、本当にスーホさんで良かったの……?」
「今更だけど、後悔してるかも……」
「あはははは! はくにぃ、キトーごっこ! キトーごっこ!」
「だーーー!! だからそれはやるなと言ったでしょ!?」
「わかった! じゃあ、コタツから頭を少しだけ出して…………カショーホーケーごっこ!」
「もう黙ってなさい!」
これだけ目立っているにも関わらず、前を走るタクシーはこちらに気付いてはいない。
「……どうしてばれないんだよ……」
逆に不安が募る。




