新たな家族
「……なるほどな。児童虐待問題か……」
先程のふざけた雰囲気とは打って変わって、天羅は真剣に相談に乗ってくれた。
「白夢。お前がやったことは、ある意味正解だし、ある意味不正解だ。この子を助けようとしたこと、これは褒められるべき行為だ。しかし、その後のことをまるで何も考えていない。そんなことでは相談員失格だ」
天羅は強い口調で、そして叱るように指摘してくれた。
「……そうだね……」
自分でも見込みや判断の甘さは理解できていた。
それでも直接他の人に言われるのは、やはりグッっとくるものがある。
改めて反省する白夢だった。
そんな様子の白夢に、天羅は一変、笑みを浮かべる。
「お前は確かに相談員としては失格な対応だった。でもな、この子のお兄ちゃんとしては、とても正しい判断だったと俺は思う。立派な男になったな、白夢!」
「……え?」
天羅の言う意味が、白夢はとっさに理解できなかった。
「テンプラ、今の、どういう意味……?」
「だから、立派な男になったって」
「いや、そうじゃなくて、その前」
「お兄ちゃんとして正しい判断って奴か? うむ。そのままの意味だ」
キラリと白い歯を見せ、笑う天羅。
リベルテもつられて上品に笑っている。
残された三人は、その意味も分からず、ただ突っ立っている。
「……お兄ちゃん……?」
リキュルが白夢に尋ねてくる。
その答えは代わりに天羅が答えた。
「そうだ。リキュルちゃんといったか。今日からそこの二人は君のお兄ちゃん、お姉ちゃんだ」
「――はっ!?」
「――えっ!?」
思わず顔を見合わせる白夢と九緒夢。
「……それって、もしかして……」
「ああ、リキュルちゃんの親権は俺達が貰い受ける! はっはっはっ! 母さん! やったぞ! 楽しい我が家に家族が増えたぞ!」
「やったね! 天ちゃん!」
手を取り合って喜ぶ二人。
あまりにも急展開で思考がついていけない。
「……ねぇ、九緒夢お姉ちゃん。もしかしてボク、本当にお姉ちゃんの妹になるの……?」
「そ、そうみたい……」
「……本当かよ……」
頭を抱えたのは白夢。
両親がこんな豪快な性格な人物などとうに知っていたが、それにしても大胆すぎる。
それに、少しばかり嫉妬もしていた。
自分がこれほど悩んでも、ゴールへの糸口すら見つからない迷路の中で、あっさり壁を壊して出口を作ってしまった両親。
越えられない壁のようなものを感じてしまったのだ。
「……まったく、反則だよね、それ……」
なんて皮肉垂れつつも、白夢の顔には少し笑顔が戻ってきていた。
「白夢よ。残りの面倒くさそうな処理は全て俺達がやっておく。役所連中には顔が利くしな」
「お土産たくさん買ってきたから、おすそ分けしないとね! じゃあね、三人とも!」
台風の様に現れた両親は、白夢から必要書類を取り上げると、すぐさまタクシーに乗ってどこかへ行ってしまった。
「……なにか都合の良すぎる展開だけど、でもなんとか無事終わったね……」
「そうだね……」
顔を見合わせ、互いに苦笑する二人の背中に、突如重みが発生する。
「お兄ちゃん! お姉ちゃん!」
リキュルが抱きついてきたのだ。
「ボク、施設なんか行きたくなかったんだ。でも、これでお姉ちゃん達と一緒に暮らせるんだよね?」
「……うん!」
「やったぁ! ボク、これほど嬉しいプレゼントをもらったことはないよ……!! だって、ずっと昔からお兄ちゃんとお姉ちゃんが欲しかったんだから……!!」
三人は仲良く手を繋ぎ、相談所へと帰る。
白夢は恥ずかしくてあまり乗り気ではなかったが、どうしてもと二人が言うものだから仕方なく手を繋いでいた。今日ばかりは、リキュルに逆らえない。
「えへへ……♪ ボク、やっぱり愛されていたよ……。だって、おかげで素敵な家族に出会えたんだから……!! 最高のクリスマスプレゼントだよ!」
とてもこそばゆいことを言うリキュルに、白夢もなんだか嬉しくなり。
最後の方は、みんなで手を振って歩いたのだった。
一日遅れのクリスマスプレゼントは、一人の少女の笑顔を取り戻してくれた。
光寺吸血相談所に、新しい家族が加わったのだった。




