第十章 四人の剣と深まる熱
小川沿いの岩棚で短い休息を取った四人は、再び移動を始めた。
シルフィアの回復魔法のおかげで傷はかなり癒え、零と蓮の動きも少し軽くなっていた。
しかし、追手の気配はますます強くなっていた。
黒崎零は先頭を歩き、鬼哭丸の柄に右手を置いたまま、周囲を鋭く警戒していた。
左肩の傷はまだ完全に塞がっていないが、痛みはだいぶ和らいでいた。
黒い羽織は血の跡が残ったまま、風に翻っている。
ルリアは零のすぐ後ろを歩き、零の背中に時折体を預けるようにしていた。
シルフィアの羽織を新たに借りて体に巻いているが、前が十分に閉じられず、透けたドレスが白い肌に張り付いた状態が続いていた。
歩くたびに柔らかな胸の膨らみが軽く揺れ、傷の近くの太ももに残る薄い血の筋が、朝の光に艶やかに光る。
銀髪が汗で頰や首筋に張り付き、紅い瞳は疲労と痛みで潤んでいた。
天城蓮は少し後方を歩き、二本の刀を腰に差した軽やかな足取りで周囲を警戒している。
左腕の傷はシルフィアの魔法でかなり回復したが、まだ完全ではない。
シルフィア・ルナ・ノクティスはルリアの横を歩き、淡い緑色のローブを着た小柄な体で杖を握りしめていた。
銀色の短い角と額の青白い刻印が、魔族の血を物語っている。
彼女は時折ルリアを心配そうに見つめ、回復魔法の準備を常に整えていた。
「ルリア様……まだ痛みますか?
私の魔法で、もう一度癒しますか?」
ルリアは小さく微笑み、シルフィアの手を弱々しく握った。
「ありがとう、シルフィア……
少し楽になったよ……
零と蓮さんとシルフィアがいてくれるから……頑張れる……」
蓮が後ろから軽く声を掛けた。
「ルリアちゃん、頑張ってるな。
お前が無事なら、俺たちも戦いやすいぜ。
零、お前はどうだ? 肩の傷、まだ疼いてるだろ?」
零は前を向いたまま、低く答えた。
「問題ない。
守ると決めた以上、傷など気にするものか。
シルフィア、お前も無理をするな。
回復役は貴重だ。
仲間が増えた今、皆で生き残る」
四人が谷間を抜け、木々が少し密集した森の入り口に差し掛かった頃、
突然、地面が微かに震え始めた。
重い金属の足音が複数、しかも大規模に響き渡る。
今度はこれまでとは明らかに規模が違う——三十人を超える聖騎士の本格的な大部隊だった。
重装騎士が前衛を固め、神官騎士が五名、後方には弓使いと魔導師が控え、聖なる光の旗が風に翻っている。
零の瞳が鋭く細まった。
「大部隊だ……三十人以上。
これは本隊の主力級。
皆、構えろ。
ルリアを中央に守れ。
蓮は右側面、シルフィアは後方支援。
俺が正面を抑える」
蓮は二本の刀を抜き、軽く構えた。
「了解。
お前の鬼哭丸が正面をぶち抜くなら、俺は右側を崩す。
シルフィアちゃん、魔法のタイミングは任せるぜ」
シルフィアは杖を握りしめ、淡い緑色の魔力を立ち上らせた。
「わかりました……ルリア様を守ります。
皆さんの傷を、いつでも癒します」
ルリアは岩陰に身を隠し、小さく声を上げた。
「零……みんな……お願い……無事で……」
聖騎士の大部隊が一斉に姿を現した。
先頭の隊長が聖なる光を宿した大剣を掲げ、声を張り上げた。
「魔王の落とし子と、三匹の犬ども!
ここで聖なる裁きを下す!
王女を生け捕りにし、侍どもは皆殺しにしろ!」
戦闘が始まった。
零が正面から鬼哭丸を抜き、青白い光を爆発的に放って突進した。
最初の重装騎士の盾壁を、鬼哭丸の横薙ぎが切り裂く。
ガキンッ! 金属の激しい衝突音が響き、盾が真っ二つに割れ、騎士が血を噴いて倒れる。
次から次へと重装騎士が波のように押し寄せてくる。
零は低く沈み、刃を回転させながら連続で斬り、突き、薙ぐ。
血しぶきが弧を描き、桜の花びらが血に混じって赤く舞い上がった。
蓮が右側面から高速で回り込み、二刀流で敵の側面を崩していく。
主刀で肩を斬り、副刀で脚を払い、動きを止めたところを零の鬼哭丸がとどめを刺す。
完璧な連携だった。
「零、右から三人が来る!」
「わかった!」
零は体を捻って攻撃をかわし、鬼哭丸を大きく振り回して三人の騎士を同時に切り裂いた。
血が噴き上がり、地面が赤く染まる。
後方の神官騎士が聖なる炎の渦と光の槍を連続で放ってくる。
シルフィアが即座に回復と防御の緑色の結界を展開し、四人を守った。
しかし結界が炎に耐えきれず、ひびが入る。
「シルフィア、結界を維持しろ!
俺が神官を狙う!」
零は鬼哭丸の光を最大限に放ち、炎の渦を切り裂きながら神官騎士に迫った。
蓮が横からサポートし、二刀で神官の護衛を切り倒す。
零の刃が神官のローブを深く切り裂き、血が飛び散った。
戦いは激しさを増した。
聖騎士の大部隊が四方を包囲し、盾壁と魔法の集中攻撃を仕掛けてくる。
零は正面を死守し、鬼哭丸を連続で閃かせて敵を斬り倒す。
蓮は右側面を高速で移動しながら敵の連携を崩し、シルフィアは後方から回復魔法と防御結界を張り続け、ルリアを守る。
四人の連携が、三十人を超える大部隊に対して奇跡的に持ちこたえていた。
ルリアが岩陰から心配の声を上げる。
「零……蓮さん……シルフィア……みんな、傷が……はぁ……っ、私のせいで……」
その瞬間、戦いの振動でルリアの羽織が大きく開き、透けたドレスがさらに乱れた。
白い胸の膨らみが激しく上下し、硬くなった突起が布越しにくっきりと浮かび、血の筋が太ももの内側を長く伝う様子が、零の視界の端に飛び込んできた。
零の集中が一瞬乱れ、聖剣の一撃がかすめて左胸に浅い傷を刻む。
「ぐっ……!」
蓮が即座に叫んだ。
「零、集中しろ!
ルリアちゃんは俺が守る!」
零は歯を食いしばり、侍の掟を思い浮かべた。
(……守るだけだ。
仲間が増えた今、ルリアも、蓮も、シルフィアも……皆を守る。
この甘い疼き、この視線の誘惑……振り払え!)
零の動きが再び加速した。
鬼哭丸が青白い光を爆発させ、五人の騎士を同時に切り倒す。
蓮が右から二刀で敵の足を止め、シルフィアの回復魔法が零の傷を即座に癒す。
四人の息が荒くなり、体に新たな傷が増えていくが、連携は崩れなかった。
神官騎士が最大規模の聖なる光の柱を放ってきた。
光が谷間を白く染め、四人を焼き尽くそうとする。
零は鬼哭丸を両手で構え、青白い光を最大限に集中させて光の柱を真っ二つに切り裂いた。
蓮がその隙に神官の中心に飛び込み、二刀で連続攻撃を浴びせる。
シルフィアが防御結界を強化し、ルリアを全力で守る。
最終的に、聖騎士の大部隊は四人の連携の前に次々と倒れ、残りの者は撤退を始めた。
戦いの音が静かになると、零は鬼哭丸を鞘に収め、荒い息を吐いた。
「勝った……ようだ」
蓮が刀を収め、地面に膝をつきながら笑った。
「はあ……はあ……四人になっただけで、こんなに戦えるとはな……
シルフィアちゃんの回復魔法がなかったら、俺たちはもう倒れてたぜ」
シルフィアは杖を握りしめ、疲れた笑みを浮かべた。
「皆さんが頑張ってくれたからです……
ルリア様を守れて、よかったです……」
ルリアが岩陰から出てきて、四人のもとに駆け寄った。
羽織が大きく開いたまま、透けたドレスが体に張り付き、白い肌を晒している。
「零……みんな……ありがとう……
はぁ……っ、みんなの傷……私のせいで……」
彼女は零の胸に体を預け、甘く熱い吐息を零の首筋にかけた。
柔らかな胸が零の体に押しつけられ、戦闘後の熱気の中で二人の息が重なり合う。
零はルリアを抱きしめながら、低く言った。
「守ると決めたからだ。
仲間が増えた今……皆で生き残る。
これからも、仲間はさらに増えるかもしれない。
俺の刀は、それだけ重くなる。
だが、それでも……俺は侍だ」
蓮が立ち上がり、シルフィアに軽く声を掛けた。
「シルフィアちゃん、回復魔法もう一回頼むぜ。
これからも、よろしくな。四人になったんだから、もっと強くなろうぜ」
シルフィアは頷き、淡い緑色の光を再び展開した。
四人は傷を癒しながら、静かに次の目的地を目指して歩き始めた。
血に染まった桜の花びらが風に舞い、四人の影を優しく照らしていた。
この逃避行は、仲間を増やしながら、
より過酷で、熱く、絆の深いものへと進化し続けていた——。
遠くの空では、新たな影がゆっくりと近づき始めていたことを、
まだ四人は知らなかった。




