第55話 行き止まり
離れのホール、最後の催し物はここで行われる。
天井には抽象画のような色鮮やかで落ち着くような絵が映され、空気の冷たさは壇上へと上がる生徒たちに緊張を走らせた。
そんな中の一幕。
私が今やろうとしていることは本当にそんなものだ。
いろんな学生がやるような……そんなことなのだ。
ちらりと隙間から客席を見ると、数え切れないほどの生徒が次のイベントは何かと待ちかねている。
ワクワクしながら、まるでテレビを見るかのように。
――――どうしても不安だ。
何度か深呼吸をしてみる。
ただいくらやっても心臓の鼓動は早くなるばかり、それに加え刻一刻とそれが近づいているのがわかった。
ふと視線を上げると壁にかかった時計が入った。
――9:55
いよいよだ。いよいよなんだ。
そう思うと私の体は鉛のように重たくなる。
目をつぶり、息を吐く。
もう一度目を開け、頭の中を整理し始めた。
「そろそろだから準備しててねー」
何度かみたことのある先生が私の肩を叩く。
わざわざ急かせる感じ、どうやら時間はそこまで無いらしい。
薄暗い舞台袖で座っていた私はゆっくりと立ち上がる。
見据えた先には灯りに照らされながらも立っている人がいた。
次のイベント、それは告白なのだ。
私はその後、終幕のアナウンスを担当している。
「はぁ、はぁ……」
小さく息を吸っては吐く音が聞こえた。
緊張しているのだろう。
そりゃそうだ、何人もの前でそれを行おうとしているのだから。
その彼女は、どこか浮かない顔をしている。
ただゆっくりと顔を上げ、正面を見据えた。
「――――くん、ずっと好きでした!どうか私と、付き合ってください!」
公開告白だ。
壇上にいる女性は、きれいな黒髪におっとりとした雰囲気を持った通常そんなことをしなさそうな人だった。
すごいよ。そうやって正々堂々とできるんだから。
これが修学旅行マジックとやらなのだろうか。
私には到底できる気がしない。
彼女の言葉を聞いたその本人が駆け足で壇上へ上がってくる。
その顔はどこか紅潮している。
そして彼女の前まで行くと、マイクを受け取った。
「僕も好きです!!」
途端に、沸き立つ観衆。
笑顔になって駆け寄る彼女とそれを受け止める彼。
ところどころで指笛のような音が鳴り、賛辞の言葉が送られた。
ああ、眩しいなぁ。
思わず目をつぶった。
こういうとき、普段の私だったらどうしていたのだろう。
大喝采、とてもそんなものを受けている自分が想像できない。
「凄いよねーあの二人、幼馴染なんだって!」
「ロマンチックだよねー!」
舞台袖でもそんな声が聞こえる。一体どこからその情報を仕入れてきたのやら……
ふと、その二人の顔が誰かに染まったような気がした。
私は今一体何を考えているのだろうか。
私がこれから起こそうと思っていることは一体何なのだろうか。
怖い、のだろう。
私はどうしようもないくらいに、一人になる可能性に恐れているんだろう。
かつての彼氏もそうだった。
ずっと隣にいて、いつの間にか離れるのが怖くなって、向こうも私と一緒にいるのが嫌ではなさそうだったし、確かに彼を思う気持ちもあったから付き合ったのだ。そこに嘘はない。
ただ彼はそんなことはなく、浮気まがいのことをして振ったのだ。
だからこそ、次の恋は慎重にと思っていた。
「私はチョロいな、やさしくされただけで落ちるなんて」
――――まだフリーですよ
……付き合いたいのだろうか。
彼に対して好意はある。
恩義も感じてる。
でもそれが今からの行動の説明にならないのだ。
紛れもなくそれは付き合いたいという願望だというのに不安が残り続けているのだ。
本当に私は、ここで決めてしまっていいのだろうか。
時間はもうない、決めるならもう今この瞬間。
「では次、閉会の言葉、白崎明さん」
「お願いします」
司会の言葉が沸き立っていた観衆へと響いた。




