第54話 キーホルダー
修学旅行三日目、いよいよ帰宅が眼の前に迫ったそんな日。
ある学生は最後の思い出作りにと木刀を買ったり、銃を買ったり……無法地帯かな。なんでそんなものを?あとなんで売ってるの?
その中に交じる僕もまた浮いてるような気がしてならない。
だってこの中で黙々とキーホルダー選んでるのなんか変じゃない?
「――――あ、これ良さげ」
隣で同じ場所を見ていた岡西がポツリと呟くと数ある中からひょいと取り上げる。
見ると、鹿モチーフのゆるキャラのようなもののキーホルダーだ。
そうだ、そうだ隣にもいた。良かった一人じゃない。
「鳴海……さんにあげるの?」
「まぁね、一応お兄ちゃんだし」
なんとも人好きのしそうな笑顔だ。
それにつられて思わず顔が綻びそうになる。
「見てみてコレ!」
そんなことは唐突に叫んだ佐田に弾き飛ばされた。
「すごくない?奈良県の形の人形!」
「そのチョイスは何?」
まさしく奈良県、都道府県の形だ。
自分でも言っててわからないが本当に文字のまんま奈良県の形なんだ。
では何を持って人形なんだろう。
「面白くない?だって帰ってきたときにコレ持って家入るんだぜ?」
「多分通報されるよ、パット見鈍器にも見えなかないからね」
半ば夫婦漫才のような息の良さを見せびらかして、徐々に岡西は佐田をなだめていく。
飼いならすとはまさにこのことだな。
「三人とも!外でソフトクリーム売ってるぞ!」
「え!?何味?」
「抹茶!、とバニラ!」
「行くっきゃねぇ!」
意気揚々と店先に出ていく佐田。
ここ三日過ごしてて気づいたことだが、どうやら林は食べ物に目がないらしい。
度々、団子やせんべい、漬物を買っては食べている。
一体財布に何円入っているのやら……
「やっぱ二人とも花より団子だね」
「……だね」
そんな二人と対象的に岡西はまたキーホルダーを眺める。
もちろん僕も眺めている。
お、この剣かっこいいな……
はっ!駄目だ駄目だ!こういうの買ったが最後どこにもつけられない置物と化すんだから。
よく聞く話だ。かくいう僕もその1人だというのに……恐るべし、金ピカドラゴンの剣。
そんなことを考えている僕の視界に手が入る。
え?岡西さん?それ買うの?
やめときな?後悔するぞ、数多の学生がそれを経験したんだから。
「コレ懐かしい」
「ッ!そ、そうだね」
「昔買ってもらったなぁ、懐かしい」
ゆっくりとラックに戻す岡西。
なんだろうこの安心感。
犠牲者が出なかったことへなのか、はたまた僕が買いたいからなのか……後者でないことを祈る。
「よし!とりあえず僕はこの子鹿キーホルダー買ってソフトクリームのほう行くよ。壮亮はどうする?」
壮亮呼び、なれないな。
「いえ、僕はもうちょっと見てます」
「そっか、んじゃ、先行ってるね」
穏やかな笑みを浮かべると、岡西はその場を後にする。
さて、こっから僕一人だ。
どうしようか。まだキーホルダーで悩むべきか。
っというかそもそも僕は一人暮らしだし、お土産も必要ないんだよな。もういっそ買わないって選択肢もある。
「うーん……」
「お困りですかな?少年」
どう考えても聞いたことしか無い声がふと僕の耳に入ってきた。
見なくてもわかる。
「何、中原」
「わ、バレちゃった。隠すつもりもないけどね」
そう言うと中原はしゃがみながら僕の隣に足を運んだ。
そして僕と顔を合わせると「えへへ」と笑う。
こいつもこいつで人を勘違いさせそうな笑顔して、何なんだこのカップルは。
「班の皆と歩いてたらさ、悩んでる姿の春馬が見えてね」
「別に悩んでなんか――――」
言い切る前に指を額に当てられる。
「だったらここにシワ寄んないでしょ?」
ドキッとするわ、やめてくれ。
心臓が持たないってこんなの。
「……お土産を、買ってくか悩んでて」
「買えばいいじゃん」
「でも親は今北海道だし、買うんだったら自分の分かなぁってだったら別に買わなくてもいいかなぁってさ」
「え?私は?」
さも当然と言いたげに首を傾げてみせる中原。
コテンと首を倒した拍子にふわりと髪がはずんで見えた。
「いやいや、なんで同じところ行ったやつにお土産を?」
「えー、だってこういうのって気持ちでしょ?」
「まぁ、そうなんだけど。なんか違くないか?」
「それにお前は彼氏から貰えよ」
「ええ、春馬からももらいたい!他人の金でもらうプレゼントは相手からしたら心象良いんだよ?」
「タダメシはうまいみたいな理論で最悪な例を持ち出すな」
「あと彼氏からはもらう前提かよ」
半ば強引のような気がするが、まぁいい。渚、明、もついでに買おう。
「いいじゃん!期待したってさ!」
「わかったわかった。良いよ。買うよお土産」
途端に目を細くして喜ぶ中原。
ジャラジャラとした中にとりあえず手を入れてみる。
ランダムで選んでプレゼントしてやれば納得するだろう。
――――全く。
ふと先ほどの剣に僕の顔が写った。
つい数ヶ月前まで考えられないような表情をしていた。
人にとっては短いと感じるような年月だが、僕にとってはやっぱり大きなものだったのだろう。
そうか、そうか。笑顔か。
取り出したキーホルダー、まさかの奈良県の形をしている。
「……ん、コレなんかどう?」
絶対無いだろうと思いながらもちろん冗談ですよ?のテンションで見せる。
こうしておかないとなんというか、本気にされそうで怖い。
「いや、私そういうの楽しみにしときたいから帰ったら貰うよ!」
あ、そう。ってことは三人分僕の独断と偏見で選ばないといけないのか。
誰かと意見交換しながらはできないらしい。
「そっか」
「文〜!」
「あ、呼ばれちゃったみたい」
「ん。じゃあ学校始まったら昼休み向かうわ」
「わかった。じゃあ、またね」
見るからに嬉しそうに去っていく中原。
幻覚だろうが、犬の尻尾が見えた気がする。
それよりも三人が喜びそうなものを考えないと。
やっぱり王道の鹿?それともゆるキャラの鹿?はたまた鹿が県を持ってるやつ?
鹿の種類がやっぱり多いな。
ううむ。じゃあ僕は――――
※※※
「あ、結構おいしいね、これ」
「でしょ?買ってよかったって思うよね」
先ほど買ったソフトクリームを頂きながら僕は歩いていた。
どうやらこの三人はもう食べ終わったらしい。
おかしいな。林に関しては二個目を僕と同時に買ったはずなのに。
ピンクの生き物か?
頭の中でなんとなく言葉を浮かべてみる。
すると、先頭を歩いていた佐田が振り返った。
「さーて、一通りブラブラしたけどさ、ここから何しようか?」
「決まってないよ」
目をパチクリさせる佐田。
「決まってないの?」
「まぁ、適当に埋めただけだからね」
「なーんで決めてないの?」
「だーって皆シカと触れ合うことしか考えてなかったんだもん」
「いや、それにしたってさ……一応埋めたんだろ?だったらとりあえずそこ行こうぜ?」
「えーと……公園……」
「おい、マジか、せめてお寺とか入れといてくれよ」
佐田が嫌がるのも無理はない。なんとなくで埋めたのだ。主に僕が。
近場に会ったのが公園だったからそこでまた考えよう、なんて意見が採用されるとは僕も思っていなかったけれどね。




