第4話 ここに繋がらない
「あのーイイトコロって一体どこに……」
「うっせぇな、黙ってついてこいや」
今、僕は女子ヤンキークラスメイトについて行っている。ここだけ聞いて果たして意味がわかるのだろうか。いやわからない。
今年に入ってからなるべく問題を起こさないように、起こさないように振る舞ってきたのに。なんで日曜の朝からこんなことに……
※
それは遡ること、二日前ほど前のこと。
「で!そこで私は春馬、くんを班に入れようと思うの!」
渚と僕は説得に奮闘していた。そりゃそうだ、なんの接点もないクラスメイトをいきなり自分たちの班に入れようなんて意味がわからないとなるのが普通である。だから嫌だったんだ。
「いや、そもそも誰だよ」
女子の中でもだいぶチャラチャラとした印象を受ける女子がそういったのを皮切りに、他のクラスメイトも一体何でこんなあまりにも陰キャなコイツを入れなきゃいけないという言葉が溢れ出てくる。
ただ、憤慨のような感情ではなく困惑の感情のほうが強かったと思う。あからさまにうろたえている女子もいたしね。
まぁでもここはなんだかんだありながらも僕が誰とも組めない旨を伝え渋々納得してもらうことに成功した。ここまでは良かった。別にこの人たちが悪い人ではないことはわかっている、「空気が増えても気づかないか」というふうに納得されたのは流石に心に来たが。
その後は特に何もなく、放課後まで時間が進み、僕が下駄箱へと向っているときにそれが起こった。
「あ」
驚く暇すらない勢いで腕を掴まれそのまま薄暗い部屋へと引っ張られた。
どうやら空き教室のようだと気づいたのは、不気味に笑う彼女と目があってから。
「こーんにちはぁ?」
瞬間的にカツアゲか何かだと直感した。下手したら全額持っていかれるかもしれない、せっかくバイトしてためたのになぁ。
「お金ですよね?」
「は?」
震えの混じった、絞り出した第一声だったと思う。我ながらよく声を出した。
「お願いですから命だけは……こんなのでも生きてるんですよ?」
「なになに?どういうこと?」
「命だけは……」
「いや、聞けよ」
引きづられる形で持たれていたところを椅子に座らされる。カツアゲでないとするのであれば一体他に何がある?なにかやばい秘密でも握られたか?持ってないと思うが……
……いや、一つある。渚との関係性だ。
「ごめんなさい!幼馴染なんです!変な関係とかじゃないです!」
「さっきからなんの話をしてんだよ!」
「私はただ、アンタと渚の関係を聞きたいだけなんだよ」
「いえ、あの!だから幼馴染なだけで……!」
テンパりながらなんとかそこまで言ったこと、きょとんとしたその女子の顔は覚えている。が何故かそこから日曜に会うことになり……
※
今に至る。
もし、これを他人に言ったらおそらく大笑いされた挙げ句に嘘の話で片付くだろう。意味がわからないもの。もしこれが想像の話だとしても、それでも意味がわからない。その想像主の品性、知性、感性を疑う。
そして今に至る、なんてカッコつけたがこうも思う「至らねぇよ」と。ただそこからの記憶が一切なく、スマホでカレンダーを見たときに用事があると書かれていたのだから、そういうしかない。
今年ももう終わるというのに何度自分に辟易すればいいんだ、末の追い込みが凄すぎてそのまま来年まで続く勢いだよ。
「ほい、ついたぞカラオケボックス」
「アッ、タコ漁船じゃないんですねカラオケなんですね」
「お前はあたしを何だと思って……」
「怖い人、?」
「あ?」
「今のキャンセルで」
スタスタと僕をおいて受付まで歩いていく。もちろんお金は渡した。五千円、多分帰ってこないだろう。
店員の少し困惑した顔が交互に僕と彼女を見たのがわかった。
「行くよ、あ、あとお釣り」
……帰ってきた、え?こんなに早く期待が裏切られることなんてあるか?まぁいい。そういうときもあるだろう。
ゆったりとした歩みでついていく、ある部屋で止まって中に来いと呼ぶのが聞こえた。店員のごゆっくりどうぞーの声が徐々に小さくなっていく。
「まぁ、座れよ」
「……あのー結局今日は何を……?」
デコデコとした荷物をおいた彼女を改めて眺めてみる。長いまつ毛に短めの髪、大きい目、ボブの髪、デニムのジャケット、長い白のズボン……と続く。いわゆるオシャレでかっこいいタイプの女性がそこに座っているのだ。
彼女の促しでぺたりと座る。そんな僕を尻目にメニュー表から油の多そうなものを注文していく。男が好きそうなメニューばかりだが決して僕は頼んでいない。
「単刀直入に聞くぞ?お前と渚の関係は一体何だ」
「いや、だから前にも行ったじゃないですか!幼馴染ですよ!」
「だからそんなわけねぇんだよ、あまりにも釣り合わねぇ」
眉間にシワを寄せた顔が効果音でもつきそうなほどの勢いでこちらを睨む。寒気がした。
「とは言っても、お前がどういう人かは知ってる、嘘ではないんだろう」
「え?どこかで会いました?」
「一年の頃同じクラスだろ」
「そうなんですね」
「は?何度か学校で班組んだろ?」
「いえ、全く覚えてないです」
「お前さぁ……まぁいいなんか幼馴染の証拠とかないか?」
そういえばカレンダーの方にそんなものを持っていけと書かれていた。特にそんなもの持っていないと困惑した記憶がかすかにある。
「あ、ハイ、一応保育園のときの写真なら有るんですけど……」
「けど……?」
「見てもらったほうが早いです。」
カバンから印刷してきた幼い頃の二人の写真を渡す。一人は紅白帽を手に持ち涙目でもう一人は紅のほうにして深く被っている。
「おい、これって……」
「気づきましたか……」
「「案外わからない」ですよね」
そう、深く被っているほうが僕とはいえ小さい頃の顔などすぐ変わってしまう。昔の写真から今どうなっているかなんて想像つかないものである。ただ一つ言えることとしては、渚は小さい頃からかわいいということ。初恋デストロイヤーとはよくいったものだ。
「ここまで嘘をつく意味もわからないしな、うんわかった、お前が幼馴染だと信じよう」
「あ、ありがとうございます?」
「じゃあ僕はこれで……」
「いやいや待て待て」
「むしろ本題はこっからだ」
「え?」
「おまえ、渚のこと好きだろ?」
一難さってまた一難とはこのことを言うのだろう。冷や汗が額を流れる、鋭い眼光と少し笑ったその顔は妙に美しく、魔性の魅力がある。だからといって惚れる訳では無いが。