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第38話 面白くない

 修学旅行。思えば僕にとっての修学旅行というのは友達でもない他人と生活をともにしなくては行けない苦行だった。


 小中とあまり良い学生生活を送ることができていなかったことや、クラスの背景だったことから友達がいなかったことも関係あるだろう。

 小学校ではクラスの陽キャどもと組まされて、夜中泣きながら眠りについたものだ。


 中学もひどかった。

 クラスで一番の無口とクラスで一番厄介者扱いされていたやつ……いわば余り物の班に入れられて、これまた真夜中号泣しながら寝た記憶がある。


 何がいいたいのかわかるだろう。


 僕にとって修学旅行というのは嫌な記憶を作るところ、という認識でしか無いのだ。仕方ないだろう。地獄でしかなかったんだから。

 ああ、思い出すだけでまた泣きそうだ。

 飛び交う怒号、暴れ狂う布団、割れる窓……




「――――次、春馬だよ」

「……あ、ご、ごめん」

「ドロ4!?」

「はい、林四枚〜!」


 いけないいけない。また自分の世界に旅立っていた。いやでも!こんなふうに友達と行きの新幹線で遊ぶ日が来るなんて……感無量だ。

 友達とウノなんてやったことなかったよ。ええ、()()()()


 でも、でもでもでもでも……今日からは違う!

 ふふふふ……今日からは――――


「……春馬、何考えてんだ?」

「へ?」

「……こういうのも何だけど、変態みたいな顔してたぞ」

「あ、へ?あ、そ、そう……ごめん。佐田くん」


 ……僕ってテンション高くなったら気持ち悪くなるのか。


 昨日の鳴海さんの件といい、今日のウノの件といい、初めて経験することばかりだ。


 窓の外を見る。毎朝見る外とは比べ物にならない速度で流れていく景色がそこにはあった。

 遠くにはビルがポツポツと立っていて、天気も快晴、眩しいくらいだ。

 こういう時にこんなことを思うのは変なんだろうけど



「……おもちゃみたいだ」



「ん……?春馬どーした……?」

「んーん、何でもない」


「あ、おい!岡西(にっしー)!スキップやめろ!」

「残念!何枚でもやってやらぁ!」


 今までこんなふうに友達とどこかへ行くことが楽しいだなんて知らなかったんだ。

 こうやって遊ぶことだって知らなかったんだ。


 林、岡西、ありがとう。

 だけど、


「はーい俺あっがりぃ!」


 金髪男(あいつ)は何が目的でこっちに?



 新幹線の席、というのは基本的に担任がぽんぽんと決めるものではない。コンビを組み、セットになった上で新幹線の席を決める、というものだ。僕は林と組んだ。


 だから僕と林が隣の席になる、というのはすでに確定していた。無論、小中のように行きだけでもうお腹いっぱいになるような事態は特に心配もしていなかったのだが……まさか前の席に岡西とあいつが来るとは予想もしていなかった。


 というか、部屋も同じっぽい。修学旅行の話の時に毎回休んでたやつはお前かよ。


「おーい強すぎだってーさとー」

「へへ、俺運ゲー全般強いから!」


 ……ウノって運ゲーなの?


 って、違う違う。

 さとー……本名は佐田斗真(さたとうま)、佐田の佐と斗真の斗をとって、さとーなのだそうだ。どう考えても佐藤さんとごっちゃになるだろう。意味がわからない。


 見た目からわかるほどの陽キャオーラに加え、相変わらずの金髪。よく見てみると耳ピアス、ネックレスもしてるじゃないか。よく先生に怒られないな……いくら寛大な高校であるとはいえ、流石にやりすぎじゃないのか?


 イケメンオーラという名のヤリチンオーラを醸し出しながら足を組んで座ってるし。


 顔は程々に良いからモテることは想像に固くないが、ここまであからさまだと落ちる女も女だな……


「――ん?どうした春馬?」

「あ、いや。なんでもないよ。佐田くん」

「……まぁ、言いたいことはわかるよ。あのときは本当に俺が悪かった」

「ちょうど色々あってさ」


 ……謝った?あんなクズの発言をしていたあいつが?なんなら渚に嫌がらせのようにナンパしていたあいつが?


 組んでいた足を下ろすと、深々と頭を下げる佐田。呆然とそれを見る僕、林、岡西。


「え?え?そこ二人って何かあったの?」

「なんなの?何があったの?」


 今何が起きてる?謝った?

 ……駄目だ同じことでずっと止まってる。電波が悪い時にサイトを開こうとしてるときの気持ちだ。砂時計が頭に浮かんだ。

 意味がわからない。理解ができない。本当にこいつ何が目的なんだ。


 こいつがやろうとしていたことは渚から聞いた。

 ……あんなことを起こそうとしていたこいつが謝るわけ無い。犯罪スレスレだぞ?それを起こそうとしていたんだぞ?


 決めつけは良くないことだとわかっている。だとしても僕はこいつを許してしまって良いのか?岡西、お前も被害者側なんだぞ、知らないだけで。


 ……でも、こんなふうに謝るってことは岡西にも謝るのか?それとももう謝ってるのか?


「……」


 駄目だ駄目だ。整理がつかない。というかいい加減頭を上げろよ。なんでそんなに謝るんだよ。クズはクズのままでいろよ。

 これじゃあまるで彼のことを信じないといけないみたいじゃないか。


「い、いいよ。別に……僕の方こそあのときは……」

「――――ありがとう、春馬」


「本当に何があったんだよ二人とも……」


 流石に謝られたら許すしか無い。未だに僕はこいつのことを信用できないが。

 佐田は優しく微笑んで感謝の気持ちを全面的に伝えてくる。


 気を取り直したのかウノのカードを見た佐田。


「……リバース」 


 ギリギリ聞こえないレベルで何かを呟いた。





「ひゃっほー!!和室だぁ!!」

「はしゃぎすぎだ。さとー」


 修学旅行は二泊三日、僕達はその間に止まる部屋に足を踏み入れた。

 明るい色をした木の扉を開ける、そこには昔ながらの旅館の部屋があった。イグサの匂いがふわりと香り、僕達を出迎えるかのように空いた窓からは雲一つない空が顔をのぞかせている。


 これにはトラウマだらけの旅館を想像していた僕もテンションがあがった。


 四人で使う部屋にしては少し狭いようにも感じたが、それもまた趣がある。


「なんか、奈良に来た!って感じがするねぇ……」

「ほらほら、さっさと荷物置いて別館行くよ!」


 林の文句を受け流しながら岡西は僕らに行動を促す。さすが生徒会長。こういう時に頼れる。


「ほら、さとーも!」

「いいじゃんか、まだ時間あるぜ?」

「でも集合時間まであと十分だよ?ゆっくり行くんだったらもう出ないと……」

「走ろう、な?」

「い、や、だ!」


 口を尖らしながらゴロゴロと部屋中を寝ながら駆け巡る佐田を横目に僕はゆっくりとリュックを下ろす。

 やっとこの重い荷物を下ろせた。二泊もあるとなると着替えだけでも結構重いんだよな。それに加え制服の予備や歯ブラシ、充電器、モバイル充電器……色々な使うものが入ってるんだ、死ぬほど重いに決まってる。

 実際そうだった。


 さて、おそらく行くのは五分前とかになるだろうし、それまでの短い時間広縁で外でも見てますか。


 この旅館は新幹線に乗り、バスでだいたい数十分したところにある。

 森林の中にあり、昔ながらの木造建築でできたようなどこか安心感を感じさせる作りになっていて個人的にすごく好きな雰囲気だ。それに加え僕達のような高校生が修学旅行で止まるにしては中々に高そうな印象もあり、私立でもないのによくこんなところを借りれたなぁなんて思ってしまう。

 外にはたくさんの木が茂り、枯山水のようなものが見える。これがまたなんとも美しく感じた。


「あ!ほら、もう五分前だよ!?もー!走りたくなかったのに!」

「へっへ、まだイケるぜ」

「……これ以上は本気でキレるよ?」

「まぁまぁ、落ち着いて岡西くん。とにかく出ようか。意外と近いかもしれないよ?」

「旅館内を走るなんてしたくなかったのに!」

「んじゃまぁ、行きますか」


 お、動くらしい。じゃあ僕も重い腰を上げますか。


「春馬くん!早く行くよ!もう走らないと絶対間に合わないから!」

「はい!」




 その後、僕達は無事集合時間に遅刻した。

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