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第3話 もうめんどくさい 

 その日の僕は確かに浮かれていたとは思う。少しでも彼女の役に立つことができたし、新しい友だちも増えた。しかしもっと大事なことがあったのだ。


 そもそも()()()()()()()()()()()()、いたとしてそれは()()()()一番それが大事なのではないか。


 盲点だった。そう感じながら久しぶりの他人とのコミュニケーションの疲れをベッドに落とし込む。


 小さい頃はこうではなかったのだろう。もう覚えていないが、かすかに渚以外の友達の姿も思い出せる。


 中学に上がってからすぐに話さなくなった田中くん、六年生の前期は仲が良かったものの後期に入ってから他の子と遊び始めた山田さん、通ってる高校が一緒でクラスも一緒なのに見向きもしない寺田くん。記憶のアルバムを一枚一枚開くようにゆっくりと思い出していく。


 その誰も僕を友人として見なかった、陰気な奴、ただのクラスメイトと思われていただろう。そうやって一人一人友人だと思っていた人たちが離れていく虚無感に近い何かは幼いながらも鮮明に覚えている。そんな中、いつも変わらず僕を照らしてくれていたのが渚だった。


「おーい!はーるまー!」


 だからこそ、そんなところに惚れたのかもしれない。そんな事があったから今の僕は渚にとってもただのクラスメイトに成り下がったのではないか、とも思ってしまうのだが。


「あれ?電気付いてるからいるんだよね……?」


 カーテンを見てぼーっと考え事をしていた頭にふと入り込んでくる声があった。おそらく渚だろう、何日かに一回彼女は僕の部屋の眼の前にある小窓から話しかけてくるのだ。


「はいはい、いますよー」


 そう言いながらカーテン、窓と開け渚に向き合った。ニコニコとした顔が見える。


 お風呂から上がってきたのか、髪はすこし濡れ、もこもことしたヘアバンドのようなもので止めている。それに加え、長いまつ毛とどこかハーフのような印象を受ける顔立ちはどことなく妖艶な雰囲気があった。


 クラスの男子たちがこれを見たらどんな反応をするのだろうか。学校と対して違いはないがこういう髪型や雰囲気を感じれるのは幼馴染の特権である。


「今日さ〜今日さ〜」


「はいはい」


「マナがね〜」


 他愛ない、くだらない、でも温かい。渚といるといつもそう思う。


「あーそうそう!そういえば聞いたよ〜」


「何が?」


「蒼井くんと一緒に帰ったんでしょ〜?」


 情報の伝達が早い、流石流行にも敏感な女子高生だ。おそらく僕達を見かけた友達から聞いたのだろう。


「どうだった?良い人だったでしょ?」


「まぁ、うん」


「えー何その薄い感じー」


 ここで良い人だったと認めてしまったらもう戻れない気がする、一生勝てない気がする。確かに良い人ではあった、変な関わり方をした僕に対しても普通の人と変わらないように関わってくれたし。


 ただ、ここで認めてしまったら渚を諦めないといけなくなる、瞬間的にそう感じた。


「ま、いいか!それよりさー!校外学習の班ってもう決めた?」


「いや、確か……」


 そういえば三時間目あたりでそんな話が出ていたような気もする。班を作れペアを作れと言われたとき基本的に窓を眺めている、そもそも誘ってくれる人がいないからだ。だからおそらく誰とも組んでいないだろう。


「誰とも組んでないと思う」


「じゃあさ!一緒の班にならない?」


 渚が僕を誘ってくれている、それ自体は何も変ではない、ただこういう切り出し方というか雰囲気のときはたいていなにかある。


「それまた何で?」


「いやーそれが岡西達と班がいっしょになっちゃって……」


 岡西……確か初めてクラスに来たときそんな名札をつけたガタイの良い生徒を見た気がする、そのときは渚に負けず劣らず周りに人が集まっていたということもあってなんとなくでも印象に残っている。


「……人と話すの苦手なんだけど」


「いやそれでもいいからさ!」


「この鬼が」


「いいじゃん!いいじゃん!」


「とはいってもさぁ、全然力になれないよ?というかこういうときこそ蒼井……さん?に頼めばいいじゃん」


「いや、それは……」


 彼女はそう言うと俯き、髪をイジイジとする。女の子らしいその姿はあまりにも破壊力が大きい。直視できない。いくら幼馴染で妹みたいなものだと割り切れたとしてもこれは耐えきれないと思う。


「なん、ていうか恥ずかしいじゃん……」


 ただ、その恥ずかしがっている相手が自分ではないことを改めて感じた。どうしたものかな、正直なところ僕が入ったところでそんななにかが変わるのか、とは思う。自分と関わりのある人、自分が関わろうと思った人ならまだしもなんの情報も得てない人と一緒に過ごせるのだろうか?


 できる気がしない。そんなことわかっている、それでも一歩踏み出せるのかが問題だ。


「……わかったよ、一緒の班なろう」


「ありがとう!」


 パッと顔が明るくなると、これまた少女のような笑顔を見せる。


 その顔を直視できないのはおそらく僕だけではないだろう。


「そもそも班ってもう決まったんじゃないの?」


「ふっふっふ……実は提出期限は来週までなんだよね!」


「へー」


「というか、聞いときなよ〜!」



 ※※※



 その日からしばらくして日曜、僕は都心の駅の前にいた。通常の僕であればこんなところにはいないというか行きたくない、それなのになぜいるのか。正直、自分でもどうしてこうなったのかよくわからない。


 少し深めにキャップを被り、なるべく黒く、地味目の色を選んで来たのにむしろこういう都心だと悪目立ちするのは一体なぜなんだ。そんなことを考えながら、ちょっとした広場のベンチへと腰を掛ける。


「一体いつ来るのか……というか何でこんな……」


 軽く頭を抱えてみる。いわゆるアピールだ、これにより周りは話しかけづらくなる。したがってその雰囲気を察して周りから人が離れていく、これにより逆に目立つことができる。これを僕は逆渚ゾーンと呼んでいる。


「あぁ、いたいた」


 ひどく冷たい声が聞こえる。冷酷、無情、非人情、そんな言葉が頭をよぎった。


「……こ、こんにちは」


「いやいや、そんなのいいから」


 じゃあいったいどうしろと。


「……何その不満そうな顔」


「いえ、決してそんなことは」


「とにかく、行くよ」


カラオケボックス(イイトコロ)

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