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第19話 成り行きで

 なにかに躓いた時、人は何を考えるのか。今までこんなことを考えたことはなかったがつい最近の自分と中原などとのいろいろな経験を得てそんなことを考える時間が増えた気がする。所謂自分と()()する時間そのものが増えたと感じているのだ。

 ……そんなことを考えているこの時間ですらも青春というものは起こりまくっているのだろう。


 林が休みで特にやることもない僕は昼休みさっさとご飯を食べるととりあえず手元にあった数学の教科書に目を落としていた。ただそれにしても……


(何だってあんなにみんな元気なんだろう)


 別に皆のことを馬鹿にしたり、イキったりはしない。ただの疑問だ。窓際の席、しかも一番奥。そんな場所だからクラス全体はよく見える。


 クラスを取り巻く雑音にも似た雨音、そんなものにも負けずにクラスメイトは皆笑いあい、日々を懸命に生きている。そんな中で僕が一人物思いにふけっているということを理解すると、それがなんだか馬鹿らしくも感じるのだ。

 だからこそ周りに疑問をむけることで寂しさを紛らわそうとしている。ただ話しかけられたくはないため教科書を読んでいるのだ。


「春馬くん」


 どこかの利発そうな声が聞こえた。向くと、そこには岡西がいる。

 ん?()西()()()()

 ゆっくりと体の節々が固くなっていくのを感じた。


「え、あ、えっと、はい。な、なんでしょうか?」


 少しのつっかえがありながらも返事になんとか応答する。額からじわじわと汗が滲んでいく。


「少し……話さないか?その……放課後さ」


 なんとも言いづらそうに言うものだから、直感的に内容を察した。

 ……一体何をしたんだ、中原。


「別に、良いです、けど……何用ですか?」


 ただそれに自信はない。


「あー……お前の彼女について……」

「いません」

「へ?」

「彼女なんていません」

「え?」


 勉強もできて、運動神経も良くて、そこそこに顔も良い(と思う)岡西がまるで寝耳に水とでも言いたげな表情を浮かべる。

 むしろこちら側が寝耳に水だ。

 僕に彼女はいない。自分で言ってて悲しいが彼女はいない。大事なことだから二回言いました。


「え?どういうこと?」

「いや、あの、むしろこちらがそれを聞きたいのですが……」


 少しの間沈黙が訪れる。岡西はまるで謎解きを解くかのようなポーズをしているし、それをただ眺めるかのような僕。

 しばらくして、あれ、これってどんな状況?と考え始めた頃。


「……悪かった。僕の勘違いか」

「あ、え?あ、はい、そうですか」

「すまん、忘れてくれ」


 両手に手を合わせながらそのまま僕の元を離れていく。一体何がしたかったんだ。いや、それよりも今日傘持ってきてないし……それの対策でも考えておくか。


 そんな感じで学校は終わった。




 小学生の頃から至って変わらない歩道。街灯もそこまで多くなく、当時は夕方怖い印象しかなかったが今や普通に通る道となっている。


「何で傘忘れてんのさー!私が持ってたから良かったものの」

「いや、まさかこんな形で借りるとは思わなくて……」


 学校が終わった。しかし僕に傘なんてものは無い。どうするか、そんなことを考えていたときに目の前にいたのが渚だった。たまたま今日一緒に帰る約束をしていて助かった。


「というか、わざわざいつもの公園まで傘なしでいかなくても良かったでしょ」

「……渚が他の男と一緒に帰ってるなんてバレたら色々と学校での生活に支障が出そうで……」


 少し驚いた表情になるもすぐに三日月の目が僕を見る。

 思わずそれにドキッとし、身震いをする。多分雨のせいだろう、そう考えよう。

 公園までの間小雨で本当に良かった、もしこれが普通の雨だったらと考えると……絶対風邪を引いてる。


「そういや、これって結構前から使ってるよね?」


 なんとはなしに話題を傘にむける。人というのは親密になればなるほど話すことが減っていくらしい。


「うん、何か中学校の入学祝いで買ってもらったやつなんだよね」

「へー……」


 ……それって当時から身長が変わっていないということなんじゃ。


「……いやな予感がしたから言うけど、身長は伸びてるからね!?」

「え、あ、うん。そっか」


 図星だった。軽く小突いてくる。こういう時の幼馴染というのは強い。


「もう、連絡取ってないなー中学の子たちと」

「俺も……というか小学校の友達と中学の時連絡を取ったの最後に誰ともしてないわ」


 昔の思い出話に花を咲かせる。渚はこちらをいじめっこのように目を細めて笑って見せる。


「覚えてる?昔の春馬、めっちゃヤンチャでさ。木下先生の机にパンツ仕込んだりしてたよね」

「いや、その話は……流石に恥ずかしい」

「えー私結構好きだったんだけどなー」


 好き、思わずその言葉に反応してしまう自分がいる。


「あのいたずら」


 ケラケラと笑う渚、ただひたすら思い出を振り返る僕。


「懐かしいな、最近こっちの道通ってなかったけど……確かこっちのほうが近道なんじゃなかったっけ?」

「そうそう!!ただ中学に上がってから春馬が私と一緒に帰ってるのをからかわれるのが恥ずかしくなってこっちより人通りが少ない道にしたんだったよね」

「そうだっけ」

「そうだよ!私あれでも少し悲しかったんだからね?」


 こちらに向けてくれるその笑顔に何度救われたことだろう。中学に上がって、確かにからかわれることが増えた。でもずっと渚への思いをなんとなくしか自覚してないかった自分がやっと渚のことを好きなんだと気づいた時、自分と一緒に帰ってるということがなんだか後ろめたく感じたのだ。

 周りのやつらは皆思いを伝えているのに、僕は何もしないで隣にいることを選ぶのか、と。

 だから今の今まで通ったことがなかったより人通りが少ない道にしたんだ。


「ほんと、懐かしいね」


 しみじみとそう呟いた渚に目にはおそらく昔の学校での生活が映っているのだろう。

 はぁと吐く息は暖かく、冬への切符はもう手にしていることをひしひしと感じる。


「こう見るとさ」

「変わんないね、春馬」


 その瞬間思い出なんてものを全部取っ払われ、胸の中を何かが刺さった気がした。でもなにかはわからない。ただ何か大事な物に深く刺さった気がしたのだ。


「……」

「どうしたの?」


 そう言いながらこちらの顔を除いてくる。一度視線を逸らしながらも苦笑いを作ってみせた。


「あ、いや、大丈夫だよ。別になんともない」

「そう?なら良いけど……昨日のこともあるし……」

「いや……それは!弁明、しただろ……」

「そうだけど!」


 鼻息を荒くしながらこちらに親指を立てる。


「春馬は私の大切な幼馴染なんだよ?心配になるよ!」

「……それはありがたいけど、そのグッドはどういう……?」

「え?何か、やらない?こういう時……」

「分からないけど、やるの?」

「何か自信無くなってきた……」


 肩を落とす渚。


「あ、そういえば!今日も(ふみ)ちゃん達って来るの?」


 唐突に目をキラキラさせながら尋ねてくる。おそらく目的が勉強からブレていることを察する。


「来るらしいけど……あくまで()()()だからね?」

「分かってるって!」


 こう見ると渚は女子同士の会話でここまで楽しみにしているのは珍しい気がする。基本的に受け身で会話に参加するからなのだろうか。自分から会話に参加しに行って良いというのが嬉しいのだろうか。


「あ」


 見ると、反対側から明と中原がきているのが見える。おそらくは向こうの道から――あ、目があった。


「おー……お邪魔だった?」

「いえ、お構いなく」

「わーい!文ちゃーん!」


 どうやら女子会が始まるらしい。渚の笑顔を見てたら分かる。そして渚に駆け寄ろうとして雨だったことに気づく中原も、だ。


 というかそもそもなんで僕の家でやることになってるんだろう。

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