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第11話 ヤバい奴らの仲介人

 なんというか、これまた一体どんな状況なんだ。未だ涙を拭き続ける隣の彼女を一度確認してからまた四季と明へ視線を戻す。いい加減泣き止んでほしいと思う。これじゃまるで僕が泣かしたみたいでとてもじゃないが二人の元へ戻れない。

 明と四季はついにはいちゃつき出した。キスをしてから二人共もう吹っ切れたのか絶えずニヤニヤしている。別にそれをキモいとは思わないが、一つ言わせてもらうならばこう言おう、『リア充くたばれ』と。

 あからさまなやっかみである。

 ……そんなことを言ってる場合では無かった。


「あー……ごめんね、こんなとこで泣いちゃって……ハンカチ、ありがと」


 涙の跡を残しながらも微笑みながらこちらを見る。一瞬その微笑みにドキッとした。なぜ僕に関わる人間はこうも顔がいいのか。


「あ、いえ……大丈夫……ですか?」

「んーん、だいじょばないけど……もー良いんだ」


 マスクを一度変えつつも濁った返事を返される。やっぱり素顔もきれいな人だ、何が自分の理想の顔を想像するだよ。まんま想像通りじゃねぇか。というかそもそもなぜマスクをする必要があるんだ。


「疑問なんですけど……なんでマスクを……?」

「……元カレを……」

「元カレを?」

「ストーキングしようと思って……ほら、制服みたいな黒い感じだったら夜とか暗い場所だと目立たないでしょ?その感じで顔も隠してて……」


 ああそうだったよ、僕に関わる人間の殆どがヤバい奴だったよ。忘れてた。そしてちょっと照れながらそんなことを話すな。そんなのドン引きだよドン引き。


「あ、そう、ですか……大変なんですね」

「そーなんだよー、コウタったら私を振った理由が私と釣り合わないーだよ!?」

「釣り合いすぎてるよ、もう私達は出会うために生まれたんじゃないかってくらいベストカップルなんだよ!?」

「え?あ、ハイ」

「……でも振られたことには変わらないんだよね……」


 ……何なんだこのハイテンションからの湿っぽい雰囲気は。いや僕も気持ちはわかるが流石に釣り合う釣り合わないなどという理由で別れた経験はない。というか一般的に有る人のほうが少ないしそもそも僕は人と付き合った経験がない。そんな人間に恋愛のことなど聞かないでほしい。振られ談義なら良い。


「まぁ、今日アイツもここ来てるみたいだしさ、どうにかして寄りを戻させようと思って班を抜け出してきたんだよ……あ!もちろん班長と先生に許可は取ったよ?」


 おいおい、そんなことを許可するやつなんてろくでもないな。


「一体誰がそんなことを……?」

「ウチのクラスの委員長と呉原先生」


 なんてこった、どうやらウチのクラスの担任らしい。


「まぁ、もう、諦めることにしたんだけどね」

「それまたどうして……」

「私より……良い人を、いつか、見つけるだろうし……」


 顔が見えないようにうつむくと悲しげに呟いた。こうも身長が高い人がうつむくと悲しげに映るのか。これはナンパ男に狙われそうだ。いや、案外怖がって話しかけないのかもしれない。意外とタッパがあると人は怖く映る。


「……まぁ良い……じゃないです、か?」


 僕には諦めろなんていう資格はない。未だに諦めたと言いながらもどこか希望を掴もうとしている自分がいるのだ。そんな人間にいくら仕方ないと慰められたって反感を買うだけだろう。

 だから僕ができることは陰ながら応援する日陰者に徹することだ。本当にそれで良いのか、それで良かったとして後悔はないのか、それは僕ではなく彼女自身が考えること……


「……すいません、そろそろ班に戻りますね、またどこかで――――」

「――分かった」

「ハイ?」

「ちょっとついて行っていいかな?岡西と話したいんだ」

「え?あ、え?」

「お願い!お姉さんお金なら割と出せるから……」

「いや、別に仲介手数料みたいなのはいらないですけど……」

「え?じゃあ身体で……?」

「どんな思考回路してるんですか、いらないですよ、というよりも先生に報告しなくても良いんですか?」

「まぁ……なんとかなるでしょ」


 絶対この人大人になってから高校生活(昔のこと)を思い出して恥ずかしくなるタイプの人だ。


 

 ※



「――――と、ということで新たに中原さんが班に参入する運びとなりました」

「いやいやいや、納得できるか!というかそもそも見てたのか!?」

「うん!見てたよー、確か明ちゃんが四季君とばっちりキスするところまで」

「ああ、死にたい……死にそう」

「……四季さん、気持ちはわかりますけどやめてください」


 現場は突如現れた台風の目(中原文世)、あの女子によって混沌を極めていた。中原が経緯を説明し、それに明がツッコミ、四季がネガティになった。情報供給過多で死にそうなのは僕だ。


 ただなんとかその場を無理にでも納得して貰う形でおさめた。いかんせん気まずい雰囲気は継続したままである。そりゃそうだろう、同級生に自分たちのキスシーンを見られた挙げ句に事細かに説明されたのだ、良い雰囲気などなるはずがない。

 徐々に多くなってきた人混みをかき分けながらもゆっくりと魚を見ていく。先頭から中原、僕、四季と明の順に並び、できる限り人の迷惑にならない程度に固まる。とにかく次の目的は決まった、岡西たちに会う。おそらく渚も渚で一緒にいるだろうし……


「あ!見てあれ!ペンギン!」


 中原がこちらを一瞬見てから指を指す。その方向にはペンギン界のキング、そのまんまの名前であるコウテイペンギンがいた。それもガラス越しにいるのではなく、館内を飼育員といっしょに散歩をしているのだ。


「ペンギン?……ごめん、ちょっと見てくる」


 真っ先に声を上げたのはこれまた四季だった。人にぶつからないようにしながらも忍者のような歩き方でペンギン元へと歩みを進める。道中小さい子にぶつかりそうになったときのあの必死な顔は遠くから見てる分には面白い。

 ペンギンをそんな必死に見に行くというのだからおそらく好きなんだろう。四季の後ろ姿を追う明が目に映る。こういう時手を繋いでいたりするのかな。


「あの二人……本当に付き合ってるんですかね?」


 なんとなく居心地が悪い。流石に振られた・振られるだろう組で二人ボッチ?というのはキツイ。当たり障りのない会話を……そう思ってカップル二人の話題を中原に投げる。いや今更ながら当たりも障りもしてるな、この話題。


「付き合ってるでしょ?何なら今も手を繋いでるし」


 どうやら手を繋いでいるらしい。僕には無駄に大きな中原の背中のせいでよく見えない、背が小さいと不便でしかない。

 やっぱり高身長は滅ぶべきだ。

 これもまたやっかみである。


「私達も繋いじゃう?」

「いえ、結構です」

「冷たいなぁ〜そんなんじゃモテないぞ?」

「別に良いです、それに貴方には岡西さんがいるはずです」

「いやぁ〜どうだろうね、また振られるかも」

「その時はその時です、また考えたら良いじゃないですか」

「……そんな簡単に言うねぇ。まぁいいやじゃあ、振られたら嫁にもらってね?」

「え?」


 大きな背中からゆっくりと顔の方へと視線を向けるとこちらをこれまた三日月の目で見てくる。その顔は真っ赤ではない、つまり照れてない。とんだビッチだ。


「……エンリョしておきます。僕には別に好きな人いるので」

「ええ!そうなの?えー誰誰?」

「言いません」

「えー、言ってよぉ〜……」


 こちらを一瞬笑いながら見て、また明たちに視線を戻した彼女は独り言を呟く。ただあからさまに僕にも聞こえるような声で。


「私もあの二人と同じように戻れないかな」


 おそらくこれは慰めろ、ということなのだろう。ただ僕にとってそれがどうなろうと関係ない。無視を決め込もう。そうしよう。


「ねぇ、私達ってもとの関係に戻れるのかな?どう思う壮亮くん」

「客観的な意見がほしいんだ」


 僕が返事をしないといけないように質問してきた。まともな恋愛経験がなく、岡西と関わったこともない僕に一体何を求めてるんだ。そんなもの分かるわけない。


「いや、あの……すいません。岡西さんと関わったことがないのでちょっと……」

「ごめんなさい、だろうなぁって思ってた」


 じゃあなんで無理やり回答させたんだ。ただただ僕が傷つくだけだ。

 明達と関わり始めてから一体何回傷を付けば良いんだ。ゆっくりとため息をつく。


「あれ?」


 その直後嫌な予感と共に中原の声が聞こえた。突如動き出した中原と人混みに揉まれかけながらも必死に眼の前の背中の服を掴む。


「あれコウタじ――な――――――」


 そしてそのまま中原の声は離れていく。ちょっと待て、じゃあこれは一体誰の……

 ゆっくりと上を向き、静かに下ろす。

 明らかに別人である。なんせ中原の頭に毛は生えてるので。


 ……考えたくはないが、そうなのだろう。


――春馬壮亮、高校二年十七の秋、人生初の迷子である――

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