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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
4章・ノグライナ王国での出会い。
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【過去編】別れ、そして。

 魔物と化した人達に襲われて、死を覚悟した私を守るように立ち塞がる3匹の巨大な雪豹は、私を襲おうとしていた元人達を次々とその鋭い爪で消滅させて行った。


 そこにケイレスとシルビアさんが私を抱きしめて無事を喜んでくれている中、雪豹達は残った魔物を追って奥に走って行った。


「ウルザ、あの雪豹達はいったい……」

「私も分からないよ……。 でも、魔物と化した人ばかり攻撃してるし、私達に敵対するつもりは無いんじゃないかな……」

「魔物じゃないわよね。 雪豹の魔物なんて聞いた事が無いし……」


 暫く地下神殿内でしていた戦闘音も無くなりが、3匹の雪豹達がこちらに歩いて来るのが見えたので、敵では無いと分かっていても念の為にケイレスとシルビアさんは私を守る様に立ち塞がった。

 2人の行動を見た3匹は足を止めてしばらくこちらの様子を伺っていたが、ユックリと座った。


「わざわざ座ったと言う事は、敵意は無いって事か?」

(えぇ、私がウルザ様を害する事は無いわ、ケイレス、シルビア)

「え……。 これは念話か……? いや……、それよりさっきの声はフェリスか?」

(そうよ、横にいるのは私の両親、どうやら私達3人は呪いによって魔物じゃなくて動物にされたみたいね……)


 巨大な雪豹となったフェリスは私に顔を近づけて来ると、そのフワフワの毛皮を擦りつけて来た。


「うぷ。 あなたは本当にフェリスなの?」

(ウルザ様、本当の事です……。 シルちゃんに果物を上げた記憶もハッキリと思い出せますし、地下神殿に移住して来た時あなたを抱きしめた記憶もあります。

 私自身も未だに信じられませんが、果物屋の娘フェリスで間違い無いです)

「フェリス。 フェリスぅ……」


 私はフェリスの顔を抱きしめると、ゴロゴロと喉を鳴らして嬉しさを表現していた。


「フェリス、雪豹になったご両親の体調は大丈夫なの?」

「どうやら私と違ってお父さんとお母さんは念話が使えないみたいですが、私となら意思疎通が出来るようなので体調の方も問題無いみたいです。

 念の為にいくつか質問してみましたが、問題なく答えてくれたので私の両親で間違い無いです)

「そう……。 なら良かった……。 私を守ってくれてありがとう……」


 私が2人にお礼を言うと、それに答えるかのようにフェリスの両親も私に顔を擦りつけて来たので、そのフワフワの顔を抱きしめると、喉をゴロゴロと鳴らして喜びを表していた。


「本当にフェリス達なんだね。 さっきも言ったけど助けてくれてありがとう」

(いいえ、私達があなたを守る事が出来るのはこれが最後になるでしょうから気にしないで下さい、ウルザ様)

「えっ、最後ってどういう事?」


 私は最後と言う言葉に動揺してしまい、出て来た声は震えてしまっていた。


(今は3人とも意識がハッキリしていますが、魔物と化した人達の様にいつ意識が無くなりあなたを襲うかもしれない……。

 その様な未来が来ない様にするためには、雪豹となった私達3人が安心して暮らせる地を探しに出るしか無いのです。

 ごめんなさいウルザ様、私の本心としてはあなたと最後まで一緒に居たかった……)


「ううん……。 私の為に旅に出る事を決意したんでしょ? それなら私はあなた達の意思を尊重するわ。 それにねフェリス、それとケイレス、周りを見て貰って良いかな?」

「ウルザ?」


 ウルザ様の言葉に促されケイレスやシルビアを含んだ私達が周りを見渡すと、沢山の者が倒れ伏して動く気配を見せない上に、絹擦れ音も聞こえない……。

 そう、戦闘に必死で気付かなかったが、立っている者は私達以外誰もいなくなっていた。


 え……。 これってまさか……。


(あ……。 もしかして、私達以外の人は……)


 私の念話もあまりの衝撃に振るえて伝わっていたと思うが、ウルザ様は力無い笑顔を作って告げた。


「そう……。 悲しいけど今回の事でこの都市も本当の意味で……終わりだね」

(ウルザ様……)

「だからフェリス、あなた達が安息の地を探しに出て行っても何も問題が良いの。

 でもね出来る事なら一つだけ……、1つだけお願いを聞いて貰っても良いかな?」

(私達に出来る事なら、なんなりと……)


 私が今からする願いはきっと2人は怒るかもしれない。 でもこれは私を養子縁組してまで守ると言ってくれた2人の為でもあるんだ。

 悲しくても歯を食いしばって自分の口で言うんだ!!


「…………ケイレスとシルビアさんの2人をあなた達の旅に連れて行って上げて……くれない……かな?」

『「ウルザ!?」』

「俺達2人はずっと側にいると言ったじゃないか! 何でそんな事を言い出すんだ!」

「そうよ、私達はあなたを本当の娘と思って今まで接して来たのに……。 何でそんな事言うのよ……」


 まさか自分の名前が出て来るとは思っていなかった2人は非難の声を上げて来るが、私もただ何となくで言っている訳じゃ無い。


「ケイレス、シルビアさん。 あなたの言葉はとても嬉しいわ。 でも、もうこの都市に未来は無いわ……。 それにね……、これを見て……」


 私は服を捲り上げてお腹を露にさせると、5人は目を剝いて私の脇腹を凝視した。


「そんな……ウルザ。 そのお腹は……」


 皆が驚いている理由、それは私の脇腹の1部が青く透明な物体へと変化し始めていたからだ。


「うん……。 私も魔物になりかけてるね。 青く透明な体と言う事は、私は多分スライムになるのかな?」

「なんで、何で言ってくれなかったんだウルザ!」

「皆が頑張って後少しで都市が復興しようとしている所なのに水を差したく無かったと言うのが大きいの。 別にケイレスとシルビアを軽視してた訳じゃ無いから安心して」

「でも、相談くらいはして欲しかったよ……」

「そこはごめんなさい……。 もし、完全に都市が復興して賑わいを取り戻せる事が出来たなら、私はあなた達に王位を譲って姿を消すつもりだったけど、結果は見ての通り……。

 だからケイレス、シルビアさん。 フェリス達と一緒にこの都市を脱出して自分達の安住の地を見つけて幸せになって下さい……」


 私は泣き顔を見られない様に歯を食いしばって無理やり笑っていたのだが、2人に急に抱きしめられた事で笑顔が崩れそうになる。


「ウルザ……。 もうどうしようも無いのか? 呪いを解く方法とかは……」

「ふふ……。 ケイレス、それは今まで散々やって来たじゃない……。 そして今の私達には無理だと結論もすでに出てしまっている……」


 私のその言葉にシルビアさんも泣きそうになっていた。


「もう……どうしようも無いのね………」

「そうだね……。 私もいずれ物言わぬスライムになってしまうからあなた達と一緒に行く事は出来ないわ………。 ここでお別れだね…………」


 2人は最後に強く抱き締めてくれていたが、しばらくするとユックリと私から離れて行った。


(ウルザ様……。 本当に良いの?)

「うん……。 それに私が魔物に変わってしまう所をあなた達に見られたく無いの……。 もう泣かないでケイレス、シルビアさん……。 最後くらい笑って別れましょう?」

「そんな事……出来る訳……無いじゃないか!! うぅぅ……」


 私は2人の涙を優しく拭うと、私は真面目な顔でケイレスに語り掛けた。


「ケイレス……。 あなたに託したい物があります……」

「俺に……、託したい物って……いったい……。 ぐす……」

「待っててね、今持って来るから」


 私は自室に戻り壁に掛けてあった物を持つと、重く感じるが何故か問題無く持ち上げる事が出来た事に自分でも驚きながらも急いでケイレスの元に戻って行った。


「お待たせケイレス。 私が託したい物はこれよ」


 私が持って来た『それ』をケイレスの前に置くと彼も驚いていた。


「ウルザ……。 これは君の母親の形見の魔剣バルムンクじゃないか!」


 そう、私がケイレスに託す物、それはお母様の形見である魔剣バルムンクだった。


「これはマーサ様の……。 ウルザいくら君の頼みでも流石にこれは受け取れ無い……。 この魔剣を君がどれだけ大切にしていたのか皆知っているんだぞ!?」

「そう……ですね。 確かにお母様の形見ですしずっと手物に置いて起きたいと言う想いもあります……」

「そうなんだろう? なら」

「でも……いつの日か暗黒神は復活して再び地上に顕現してしまうとケイレスは聞いたのですよね?」

「ああ、奴は散り際にそう言っていたが……」

「なら滅んでしまうこの都市と共に砂の中に埋もれるのでは無くて、信頼出来る人に託して暗黒神に対抗出来る力の1つとして未来に繋いで行って欲しい……。 と思うのは私の我が儘でしょうか?」

「それは理解出来るが……」

「未来の子供達の一助となる為に、ケイレス、持って行って……!」


 顔も知らない子供達の為に……。

 そこまで言われた2人はもう何も言う事が出来なくなり、魔剣バルムンクを布に包み込むと両手で受け取った。


「ウルザ……。 そう言う理由ならこの魔剣バルムンク、未来の子供達に届ける為に()()()()()()()()

 ですから……いつかあなた自身が私達の元に受け取りに来て下さい……」

「ふふ……。 そうだね……生きて会う事が出来たなら必ず……」


 そして私達は地下神殿の出口に向かった。


(ウルザ様、元気でって言うのも変かもしれないけどお元気で……)

「うん、フェリス。 2人の事お願いね」

(はい、この身に変えても……。 ウルザ様、いつかまた会う事が出来ると良いね……」

「うん。 その時は笑ってお話ししましょうね」


 フェリスとその両親は私に顔を擦りつけると、離れて行った。

 そして、私の前に立ったケイレスとシルビアの2人は目線を合わせる為に座った。


「ウルザ……。 やっぱり俺とシルビアはここに……」


 私はその先を言わせない様に人差し指で彼の唇を押した。


「その先は言っちゃ駄目。 あなたの次の役割は魔物になってしまう私を見守る事じゃ無くて、次の暗黒神の顕現に備えて力を未来の子供達へ繋いで行く事よ」

「それは分かってるんだが、娘として扱って来た君と別れるとなるとどうしても……」

「私も悲しいけど、いつかシルビアさんとの間に出来た子供を私と思って可愛がって上げて?」

「ウルザちゃん……。 また何時か会いましょうね……」

「うん……」


 私達は最後の抱擁を交わすと2人はユックリと離れて行き、フェリス達と共にまだ緑が所々残っている外へと旅立って行った。

 私は歩いて行く5人の背中に向けて最後の言葉を掛けたのだった。


『ケイレス! シルビアさん! フェリスさんとお父さん、お母さん、今まで……、私を守ってくれてありがとう!! 幸せになってね!!』


 私は大きく手を振り見送るが、その5人の背中は徐々に遠く……遠くなって行く。

 私は1人になってしまう恐怖に押し潰されて泣きそうになるが、自分に活を入れ5人が見えなくなるまで手を降り続けた。


 そして5人の姿が地平線から完全に消えた事を確認した私は手を下ろした……。


「お父様、お母様、シル……。 これで良かったんだよね…、後の事はケイレス達があの魔剣と一緒に未来へと繋いで行ってくれるよね……」


 私は地下神殿に戻ると一人歩く音が寂しく響いていた。


〖コッ、コッ、コッ…〗


(私は後どれくらい人として生きていられるのかな……。 怖いよ……みんな……)


 私はベッドの中に入り込み腕を組むと、魔物に変異していく自分に恐怖していた。



 それから私は死んでしまった人達を埋葬したりしていると、あっという間に数か月経ってしまったが私はまだ人の形を保ち続けていた。


「不思議だね、あの夜は一斉に皆が魔物に変異したのに……。 何か条件があるのかな? まぁ、それもここまで進行しちゃったら今更か……」


 確かに私の体はまだ人の形を保っているが、青く透明な部分は少しづつ増え始めていた。


 ==


 それからまた数か月経った。


〖ペタッ、ペタッ、ペタッ…〗


 そう、すでに靴を履く事も出来なくなった私は裸足で地下神殿内を歩いていた。


 変異し始めて少しするとある事実に気付いたのだけれど、私はもう数週間も食事を取っていないはずなのに水魔法で作り出した水分を摂取するだけで何も問題無く生きて行けていた。


 恐らく私の予想ではほぼ魔物に変異してしまっている事で、魔素を摂取し続けてそれを栄養としているのではと考えていた。


(暗黒神に大切な人達を奪われたのに、その暗黒神が撒き散らした魔素で生き残るか………。 全く皮肉なものだよね……)


 そして私は祭壇の上に飾られた小さな卵を見て、未だに孵らない不思議な卵を見続けていた。


「結局あなたは卵から孵る事なくずっとそのままだったわね……。 いつか遠い未来であなたが孵る事が出来たなら幸多き事を祈っているわ……」


 私は何時から祭壇に祀られているのか分からない卵に話しかけると、私は扉を固く閉めるともうこの部屋へと入る事は無かった。

 私が部屋を出た後にその卵はプルプルと振動していたが、私が気付く事は無かった。


==


 さらに数か月後。


〖ポヨン…、ポヨン…、ポヨン…〗


 さらに数か月立ち、私の体は青く透明なスライムへと変異してしまい、今は跳ねて移動していたが私は未だに地下神殿の中で暮らしていた。


(ケイレス達は安全な土地を見つけて幸せに過ごす事が出来ているかな……? またいつか会いたいな……)


 私は青く透明の体で星々が輝く空を見てそう呟いていた。


 ==


 さらに数十年の月日が経った。


 誰もいなくなった都市での暮らしも早数十年の時が経ち、人の手が加わらなくなった完成間近だった外壁や家屋がとうとう倒壊し始めてしまい、せっかく今まで防いでいた大量の砂が入り込み、容赦無く都市を覆い始めていた。


〖ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………。 ドドドドドドドドドド……〗


(とうとうこの時が来ちゃったね……。 お父様、お母様、あなた達が命を懸けて守ったこの都市を守り切る事が出来なかったこの不甲斐ない娘をお許しください……)


 砂が入り始めるとわずか数か月で都市が完全に埋まってしまい、最初からそんな都市など無かったかの様な砂だけしかない風景へと変わってしまっていた。


(都市も埋まってしまった以上、私に残されたのは地下神殿だけ……。

 でも、どうせ死ぬ事が無い体なら砂漠となった場所を延々と旅してみるのも良いかもしれないわね。

 何時かこの呪いを解くヒントが見つかるかもしれないし……)


 そして、私は地下神殿の別の出口から出ると、最後にこの場所とも別れを告げた。


(今までありがとう。 そしてさよなら、地下神殿……)


 こうして私はスライムとなった体で数百年、数千年、砂漠を旅し続けている内に様々な事を忘れて行った。

 私が暮らしていた都市の名や自分の名も、そしてお父様達やケイレス達の事も忘れてしまう程の長い時間を旅し続けたある日、岩窟で水が無くて死にそうになっていた2人に興味を持ち近づくと、私は男が持っていた剣に目を取られる。

 それは遥か昔、私を守ってくれた男が持っていた魔剣だったからだった。


 今の私は魔物だから攻撃を受けるかもしれないと言う恐怖を感じていたので、声を掛ける事を躊躇していたが、女性が危険な状態だったため勇気を出して声を掛ける事にした。


(み…ず…いる…の?)


 こうして共也とエリアに出会った私は共生魔法で絆を結び一緒に旅をする事となったのだった。




 =◇======




(これがシルが消滅した後に起きた出来事の全てだよ……。 スノウ……君のお母さんのフェリスは私の都市で果物屋をしていた人だったんだよ……)

(そう……だったんだね……。 母ちゃんは昔の事を全然言わないから知らなかった……。 ディーネ姉はどうしてバリルート山脈で母ちゃんに会った時に声を掛けなかったの? せっかく再会したのに)

(私も当時は記憶がかなり曖昧だったからね、フェリスの事を思い出す事が出来なかったんだよ。

 また会えたなら今度は再会を喜びたいなと思ってるよ?)

(ならその時は私がディーネ姉を背負って母ちゃんの所に連れて行くよ!)

(うん。 その時はお願い)


 こうしてフェリスやケイレス達を懐かしんでいた私を、シルは私を持ち上げるとスライムの柔らかい体に顔を押し付けて泣き続けていた。


(シル……。 今度こそ暗黒神を消滅させて世界を守ろうね?)


〖コクン〗


 シルは無言で頷き、私を抱きしめる力を強めたのだった。


最後までお読みいただきありがとうございます。

今回で過去編終了となります、長々と続きましたが次回からは話を進めて行こうと思うのでお付き合いお願いいたします。

次回はなるべく早く投稿しようと思ってます。


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