【過去編】絶望が始まる。
地下神殿の祭壇がある部屋に集まって貰った人達に、私はケイレス達が調べた砂漠化の事実を告げる為に祭壇の上に登った。
「ウルザ様、地下神殿で暮らしている者はほとんど集まりました。 一体どのような重要なお話しがあるのでしょうか?」
「え。 うん……」
私はちゃんと皆に砂漠化の事を伝えないと駄目だと分かっていても、中々言い出す事が出来なかった。
「ウルザ様?」
集まった人達は壇上に登った私が話し出さないのを不思議がっていた。
「ウルザ様、どうしたんだ? 何だかずっと黙ってるし顔色も悪いな……」
「何処か体調でも悪いのかね……」
私が砂漠化の事実を言い出せずに硬直していると、壇上の下で心配そうにこちらを見ているケイレスとシルビアの顔を見た事で覚悟が決まった私は口を開いた。
「皆さんに集まった理由、それは今後の都市に関わる新たな情報が入って来た為です」
『おぉ! 他所から支援でも入るのですか?』
「かもしれないな!」
「静粛に! 静粛に!」
一際大きな声で注意したケイレスのお陰で、各々勝手に話し始めそうだった所を止めてくれた。
「新たな情報を伝える為にあなた達に集まってもらいましたが、残念ながら悪い話しの方です」
『「え?……」』
頑張れ、ウルザ。 皆にちゃんと伝えるんだ!
「その情報を聞いたあなた達にはまた選択して貰う事になると思います」
「ウルザ様がそんな事を言うとは、それは一体どのような内容なのですか……」
「今からお伝えします……」
一度深呼吸をした私は、ユックリと集まった人達に語り始めた。
漆黒の玉が引き起こした爆発のクレーターの中心部から徐々に砂漠化し始めている事を、そしてそれを止める有効な手段が無い事を伝えると、やはり皆その情報を伝えた私の事を呆然と見ていた。
「ウルザ様……う、嘘ですよね? 漆黒の玉が落ちて爆発した場所なんて一体どれだけあるか見当も付か無いじゃないですか!!」
「私も信じたく無かった……。 でも実際にここにいるケイレスとシルビアさんが、クレーターの中心部から徐々に砂漠化しているのを確認しています。
ですからあなた達には選択してもらう事になります。 この都市を捨てて別の場所に移住して生きて行くのか、それとも砂漠化を止める事の出来る発見が見つかるのを期待して復興作業を続けるのか……を」
そんな都合よく見つかる訳が無いと分かっていても、ほんの少しでも可能性があるなら賭けて見たくなる……。 でも、そんな可能性に家族や子供達を付き合わせる事は出来ない……。
そう皆思ってるはずだ……。
「やっと……。 やっと都市中に散乱していた沢山の瓦礫を退ける事に成功して、これから本格的に復興に取り掛かろうと言う所でこれかよ!!!」
〖カン! カン…、カラカラカラ……〗
誰かが持っていた工具を床に叩きつけた音が静かになっていた部屋中に響く。
だが、その行為を誰も咎める事をしない所を見ると、皆同じ思いなのかずっと黙り込んでいた。
その中で家族全員が生き残っていた男の人が、私を心配して声を掛けて来てくれた。
「……ウルザ様は、ウルザ様はどうされるおつもりですか? これからこの都市が砂に飲まれるかもしれないと言うのなら、今ならまだ他国に逃げる事が出来るはずです!
ウルザ様も皆と一緒に他国へ行きませんか?」
私を心配して国外に逃げる事を誘ってくれる事は心の中で感謝するけれど、私はその誘いを受ける訳にはいかない……。
「ごめんなさい……」
「な、何故ですか!?」
「正直私を心配して声を掛けてくれた事はとても嬉しいです」
「なら!」
「ですが! 私はこの国の王であるギルバートと王妃マーサの娘であるウルザなのです。
この都市を捨てて他国に逃げる、という選択肢を選ぶにはこの国に思い出がありすぎるのです。
私は最後までこの都市に残り、砂漠化を食い止める手段を探したり、復興させるための努力をしてみようと思います」
「ウルザ様……」
「皆さんは自身や家族の事を第一に考えて決めて下さい。 他国に移住するのか、それともここに残って僅かな可能性に賭けるのかを……」
少しの沈黙が流れる中、一人の男性が手を上げて発言する許可を求めて来たので許可をだした。
「ウルザ様。 悪いけど俺達一家はこの都市を出て他国に移住しようと思う。 せっかく生き残った家族を俺が守らないといけないんだ……」
「先程も言いましたが、私はあなた方の決定を尊重します。 せっかく家族全員で生き残ったのですから、その命を大切に守って上げて下さい」
「あぁ……、必ず守ってみせるよ……」
「あなた達が他国に行く事を認めます。 ですが……」
「ウルザ様?」
「この都市で暮らした日々を忘れないで下さい……。
そして、もし私達が砂漠化を止めて復興する事に成功したと耳にする事があったなら、いつかこの都市へ戻って来てくれますか?」
「も、もちろんだ……。 ここは俺が生まれた故郷でもあるんだ、必ず、必ず戻ってくる……よ……」
「ウルザ様~~~~!! うああぁぁぁぁぁぁ……」
男とその家族は涙を流しながらこの集まりを抜けると、荷物を纏めて名残惜しそうに出て行った。
その家族が出て行ったのを見た人達が堰を切ったように名乗り出て出て行く姿を、私は見送るしか出来なかった……。
最初に出て行った人達と同じく、何時かまたここに戻って来て欲しいと約束を取り付けながら……。
(皆さん……。 お元気で……)
そして、出て行くと選択する人も居なくなった祭壇の周りは、ここに避難して来た当初に比べ凡そ半分となってしまっている為、祭壇の上から見る光景は随分と寂しく映っていた……。
=◇◇===
何人もの人達が移住する為に出て行ってから、さらに数か月がった。
あの後も私達は沢山の実験を繰り返したり、復興の作業も並行して続けていたが、砂漠の進行を止める方法は未だに見つかっていなかった。
そして、砂漠化の兆候を見つけた当初はそれ以上広がらず小康状態を保っていたが、1ヵ月経った辺りで徐々にだが砂漠化する範囲が広がり始めていた。
〖カッカッカッカ……〗
「どう、どうどう……」
『ブルルルル……』
1頭の馬に乗った2人の人物は、まだ所々に繁っている緑を遠目に見ながら呟いていた。
「また1つ森が砂に飲まれたのか……。
まだいくつか緑が見えるけど、それも長く保たないだろうな……。 しょうがない、今日はここまでにしてウルザの所に戻るとするか、シルビア」
「そうね。 皆の飲み水や生活用水をウルザちゃんだけで作り出すのは大変でしょうから戻りましょう、ケイレス」
俺の後ろにくっ付いているシルビアは、落ちないように必死にケイレスに抱き着いていたが、その背中に当たる柔らかい物体にケイレスが反応して硬直してしまう為、お互い気まずい空気がながれていた。
彼等はお互いを恋人同士と認め合った後も一線を越えずに過ごしていた。
要するに2人はシャイなのである。
「「うう、気まずい……」」
地下神殿の前に着いた俺達は馬を降りると祭壇がある場所にむかったのだが、そこではウルザが大きな水槽の中に水魔法で飲み水を作り出している所だった。
「あ。 ケイレス、シルビアお帰りなさい。 どうだったって……、その顔を見るとあまり芳しく無かったようだね。
また砂漠が広がってた?」
「あぁ……。 俺達が見て来た範囲ではまた1つ森が砂に飲まれてたよ……」
「そっか……。 ねぇ……、ケイレス、シルビア」
「他国に移住はしないぞ?」
「……私が言おうとしていた事を先に言わないでよ。 でもね、このまま砂漠化が進んで行けばあなた達まで……」
「その時はその時さ。 もしかしたら砂漠化も急に止まるかもしれないしな?」
そんな事が起こるはずが無いと内心思っているケイレスの心遣いが嬉しくて、私は笑顔が自然と出て来ていた。
「ふふ……。 ケイレスありがと、私の我が儘に付き合ってくれて」
「何を言ってるんだ、この都市が見事復興する事に成功して皆が戻って来てくれれば俺とシルビアが暮らす為の豪邸くらい用意してくれるだろ? そういう打算もあるんだよ」
「そんな事思って無いくせに!」
「バレたか!」
「バレバレだよ! あはははは!」
そうケイレスとシルビアは簡素ながらも挙式を上げて、晴れて夫婦となっていた。
その式には都市に残ってくれていたほぼ全員が参加して2人を祝福した。
あの時は2人の結婚式のお陰で僅かな時間だったけど、砂漠化と言う嫌な現実を忘れる事が出来たのだった。
だけど皆があまりにも夜遅くまで大騒ぎするものだから、私は寝れなくてイライラしていた。
〖ガハハハハハ!!〗
プチーーーン!
私は馬鹿笑いを聞いて我慢の限界が来てしまい、寝室の扉を勢いよく開けて怒鳴り付けた。
〖バーーーン!〗
「五月蠅ーーーい!! 寝れないでしょうが! 明日も朝早いんだから、いい加減に寝なさいよ!【ウォータ】」
バシャ~~~ン!!!
私は威力の弱めた水魔法を未だに騒ぐ人達に対して水をぶっかけたのだけど、全身ずぶ濡れになった自分と相手を見てさらに大笑いを始めた。
「ぷは!! ウルザ様が怒っちゃったじゃないか、しかも俺ずぶ濡れ!!」
「アハハ!! 俺も!俺も! さあウルザ様、濡れネズミの俺達にさらに追い打ちでウォータの魔法を打ち込んで下さい! さあ! さあ! さあ!!」
「あんた達何を言ってるのよ~~~!!【ウォータ】【ウォータ】【ウォータ】」
私が何度も威力を弱めたウォータを撃ち込んでいると、調子に乗った此奴らは上半身の服を脱ぎ捨てて私の魔法をわざと受け始めた。
いくら弱めの水魔法と言っても、しばらく浴びてれば酔いも覚めるでしょう。
「【ウォータ】【ウォータ】【ウォータ】【ウォータ】…………」
そう思っていた時期が私にもありました……。
「「あぁ…気持ちいい!! 新しい扉が開きそう!!」」
『いや~~~~~~!!!』
「「はう!!」」
私が男達の下半身に水の塊を打ち込むと、全員が前のめりに倒れてしまったので、やりすぎたかと思った私は倒れ込んだ奴らの元に駆け寄ったのだが、すぐに後悔する事になる。
何故ならこいつ等は股間を押さえながらも、頬を上気させてウットリと微笑んでいたからだ……。
「うぇ……。 気持ち悪い……」
『プ! あははははははは!!』
自然と出てしまった私の言葉に皆が大笑いするのだった。
こうして結婚式を楽しく過ごした私達は、復興作業や砂漠の進行を止める手段を探す事を、もう少し頑張ってみようと思える様になるのだった。
=◇◇◇===
「こう思い返してみると、2人の結婚式が行われたのが随分と前の話しみたいだね」
「そうだなぁ……。 俺達の結婚式以来みんなとの絆も強まったからなのか、復興のスピードも上がって都市の方も少しは形になって来たから、このまま順調に都市を囲む城壁の修復が終われば砂が都市に流入する事は防げそうだな」
「確かにそうだね、そうなれば後はユックリと再建して行けば、きっとまたあの美しかった街並みを見る事が出来るよね……」
「頑張りしょうね。 ウルザちゃん」
「うん、シルビアさん!」
私の左右に立つ2人が頭を優しく撫でてくれる事を嬉しく思いながら、こんな前向きの会話がこれからもずっと続ける事が出来るものだと思っていた。
そして私は自分の体に起きている変化を結局2人に打ち明ける事が出来ないまま、また数日を平和に過ごすのだった
(まだ、まだ大丈夫なはずよ。 せめて復興が終わるまでは保って……)
この時まではそう願っていた……。
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〖かちゃ。 き~~~~~……〗
夜になり復興作業に疲れた皆が深く眠りに付いている中、私の部屋の扉が静かに開かれて中に入って来る黒い影があった。
『はぁ~~… はぁ~~… はぁ~~~…』
私の眠るベッドに黒い影が覆い被さって来た事と、異様は獣臭で鼻を刺激されて目を覚ました私はそれを見た。
『ウ、ウルザ……さ、ま? …………お前の肉を食わせろーーー!!』
顔の半分がコボルト、半分が人の顔を持つ人物が涎をダラダラと垂らしながら私に襲い掛かって来た。
「ひっ!!」
私が短く悲鳴を上げた所でケイレスが部屋に飛び込んで来て、襲って来た人物をカリバーンで切り捨てた。
「幼子の……柔らかい肉……げふ」
コボルトの顔を半分持つ男は、ケイレスの持つカリバーンに胸を背後から貫かれると床に突っ伏して動かなくなった。
「はぁ、はぁ……。 ウルザ、無事か!?」
「わ、私は大丈夫だけど、この半分コボルトの顔を持った魔物は一体何処から侵入してきたの!?」
胸を貫かれ倒れていたコボルト?はすでに絶命しているらしく、床の上でピクリとも動かなくなっていたが暫くすると消滅して、小さな魔石が床に転がっていた。
「これはお母様と同じ……。 もしかして、ここに住んで居た人が魔物に変異してしまったという事?」
「それしか考えられない……。 ウルザ、この部屋だと逃げ場が無いからシルビアと合流して一旦神殿の外に退避しよう!」
「う、うん……」
私は魔剣バルムンクを瓦礫の中から見つけた時に、近くに転がっていた拳大の魔石がマーサお母様の魔石だと確信して、これまで遺品としてテーブルの上に起き大切にして来た。
それをゆっくりと両手で包み込みケイレスに守られながら部屋の外に出たのだが、部屋の外は地獄と化していた。
「止めろ! 止めろ! 俺を食うんじゃない! 痛い! 痛い!!!」
『ぶひひひひひぃ!!』
「あなた……目をさまし……」
〖ゴリ、ゴリ、バキ!!〗
『ウォォォォォ!!!』
『ゲギャギャギャギャ~~!!!』
〖ゴ! ゴ! ゴ! グチャ! グチャ!!〗
「グッ。 もしかしたらと思ったが、これは酷すぎる……!」
「ねぇ、ケイレス。 シルビアは何処にいるの!?」
「そうだ! シルビアは何処に!?」
私の指摘でケイレスは自分の妻のシルビアが居ない事を思い出して、声を張り上げた。
「シルビア! シルビア何処にいる! 返事をしてくれ!!」
「ケイレス! ウルザ! ここよ!」
「シルビア、その戦闘服は」
「急激な魔素の高まりを感じ取ったから戦闘準備をしていたのよ。 ケイレス、あなたの鎧も持って来たから鎧は無理でも小手とか装備して!」
「わ、分かった!」
ケイレスも小手など足甲だけでも装備する事が出来たので、地下神殿から脱出する為に移動をしようとしたが、出口を塞ぐ様に立ち塞がる魔物に変異した人の数が多すぎる!!
『あぁぁぁぁぁ~~~……』『ゲギャギャギャギャ!?』『アオオオオオオーーーーン!!』
「クソ! 気付かれたか!」
「ウルザちゃん。 私達から離れたら駄目よ!」
「う、うん!」
私達の存在に気付いた魔物に変異した人達が襲い掛かって来るが、ケイレスとシルビアによって討伐されて行くが、襲って来る魔物の数が多すぎる為数体が2人の防御網を抜けて無防備の私に襲い掛かってきた事で、私は殺されてしまう恐怖に目を閉じてしまった。
「逃げるんだウルザ!!!」
「ひっ……」
だが何時まで立っても私を殺すための衝撃が来ないので恐る恐る目を開けると、私の目の前には3匹の雪豹が襲って来た魔物達を討伐すると、私を守るように魔物達の前に立ち塞がっていた。
『シャーーーーーー!!』
あと数話で過去編は終わらせる予定です。
文章を考えるのって難しいですね拙い文章力で申し訳ない。
次回も過去編です。




