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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
4章・ノグライナ王国での出会い。
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【過去編】ディーネとシル。④

 暗黒神の憑依体が、自身や周囲にいた魔物達を魔力に変換して【暗黒魔法アポカリプス】を強引に発動してしまい巨大な漆黒の玉が魔法陣の中から現れると、ユックリと都市に向かって進んでいたが、ギルが命を懸けた斬撃を放った事によって球体の上半分を切断し排除する事が出来た。


 しかし、残った下半分でも都市ひとつ位なら簡単に壊滅させる事が出来る威力を持っている事は、先程上半分が上空で爆散して遠い地で漆黒の大爆発を起こしていた事で思い知らされていた。


 そして、漆黒の玉を切断したギルの命が今、尽きようとしていた……。


「はぁ、はぁ…。 ぐっ……、俺が出来るのはここまでだ。 シル……、残った下半分の処理は任せて良いか?」

「えぇ後の事は任せてギル……。 君と契約して色々な世界を見て回る事が出来て、私はこれまで生きて来た中で一番楽しかったよ……。

 もし君が転生して、そしてまた出会う事が出来たのなら……また一緒に旅をしましょう」

「ふっ。 何を当たり前の事を言ってるんだ……。 さあ、行ってくれシル、時間が無い……。 俺が生きて契約の力が残っている内に……!」

「えぇ、行ってくるわ。 さよならギル……」

「さらばだ……シル……」


 私は風魔法で遥か上空に飛び上がると、都市の中央にある物見塔の前に降り立った。


「さあ、暗黒神の憑依体と眷属の魔物達は退けたわ。

 後はこの漆黒の玉を処理する事が出来れば、また世界は平和な世界になるのよ!! そうよ、こんな玉一つに負けてられないのよ! 絶対に!!」


〖メキメキメキメキ、ドドドド!!!〗


 漆黒の半球は進路上に外壁があるにも関わらず何も無いかの様に進み、外壁を破壊しながら都市の中心部、要するに私がいる所を目指していた。


「【風魔法:障壁】展開。 その内側に魔力障壁も展開。 これであの半球を止める事が出来れば良いのだけれど……」


 私は都市の中心部の物見塔の前に浮いたまま、私は漆黒の半球を止めるべく魔力を全力で障壁に注ぎ込んで強化すると迎え撃った。


「こうして間近で見るとデカいわね……。 でも、弱音は吐けない……ギルやウルザの為にも!」


 私は両手を前に突き出し魔力障壁と半球が接触するのを待っっていると、その時はすぐに訪れた。


〖ズズン!〗


 魔力障壁に魔力を全力で注ぎ込んだお陰か半球を押し止める事には成功したが、私の体に信じられないほどの重圧が襲い掛かって来た。


「くうぅぅぅぅぅーーー!! いくら巨大だからって実体が無いのにこの重圧は一体何なのよ!?」


 私が今保有している全ての魔力を注ぎ込んだ魔力障壁は何とか漆黒の半球を押し止めたが。それだけでは足り無いようで徐々に物見塔のある方向へと押され始めていた。


「これだけ魔力をつぎ込んで障壁を強化しても駄目なの……? いいえ! まだよ、まだ引き出せる力が有るはずよ!!! 今出さなくて何時出すのよ、シル!!」


 私が引き出せる魔力を全て障壁につぎ込んで、やっと漆黒の半球の進みが止まった。


「ここまでやって止まるだけなの…? これ以上はもう……」


 均衡を保ってはいるだけのこの状況が続いた為、無意識に諦めそうになったその時、私は背後にある城から見られている事を感じたので一瞬だけ後ろを見た。

 そして私の目の中に飛び込んだ光景、それは城のテラスで目に涙を溜めながら私の事を心配そうに見ているウルザだった。


「シル! シル!! そのままだと、あなたが死んじゃうよ! 逃げて~~~!!!」

(この破壊の半球が迫って来る恐怖より、私の心配をしてくれるのね……。 泣かないでウルザ……。 あなたを守る為に、どんな事をしてでもこの魔法を防ぎ切って見せるから!)


 私が魔力障壁を城壁の外へ押し出そうとして少しづつ、少しづつ都市の外へ押して行く事が出来た。

 そして、何とか漆黒の半球を外壁より外へ押し出す事に成功したが、唐突に私の中から力が抜けて行く感覚に襲われた。


(まさか! ギル!?)


 そう……契約者のギルが今亡くなったのだ、そしてその影響を受け契約を結んで得ていた力も徐々に消失し始め、また漆黒の半球に外壁内部への侵入を許してしまった。


 ===


「あなた……。 お疲れ様でした、後は私達がこの国を守って行きます……」

「マーサ様、時間が有りません、名残惜しいでしょうが行きましょう……」

「えぇ……。 さよならあなた……何時までも愛しています……」


 マーサはギルバートの亡骸を抱きしめて額にキスをして別れを告げると、ケイレスと共に都市に向かって走り出した。


 ===


(まずい! まずい! 契約で得ていた力が無くなった今、間違いなく押し切られてこの漆黒の半球が都市中心部で爆発する! そうなるとこの都市で生きている者は全滅するぞ!!)


 城のテラスで両手を胸の前で組んで未だに私を心配しているウルザを一瞬だけ見ると、ギルと出会い契約し、世界を回っている時にギルがマーサと結ばれて、そしてウルザが生まれる映像が走馬灯のように頭の中を流れて行く。


 様々な事を思い出した私は今まで使う事を躊躇っていた最後の力を使う覚悟を決めたが、その力を使ってしまった後の結果が分かっているため、最後にもう一度だけウルザを見て心の中で別れを告げる。


(ああ……もう1度だけ、最後にもう1度だけで良いからウルザのお茶会に参加したかったな……。 さよならウルザ……都市のみんな……)


 シルの覚悟を察したのか、ウルザは嫌な予感を感じていた。


「シル? あなた何をするつもりなの!?」


 だがシルはもうウルザの声が届いていない。


「今残っているギルとの契約で得ていた力と、私の【存在力】を魔力に変換してこの漆黒の半球を弾き飛ばす!! ああああああああ!!!」


 精霊の私が実体として存在できる力を魔力に変換しているため、徐々に体が薄くなり始めるシルが漆黒の半球を再び外壁の外まで押し戻した時だった。

 突如弾かれるように上空に飛んで行った漆黒の半球は、雲がある場所まで上昇するとボロボロと崩れ始めた。


「うおおおおおおぉぉ!! シル! ギルバード様! マーサ様、万歳! 俺達は助かったんだ!!」


 漆黒の半球の崩壊を見ていた都市の人達は大歓声で私やギルバート達を称えていたが、私は薄くなり始めている体で、別の考えが頭を過っていた。


「確かに崩壊しているが、小さくなっても消滅していないだと? まさか……、あれが全てこの都市へと落ちて来るのか? 上半分が散った時でさえ周辺で漆黒の大爆発が起きていたんだぞ!!」


 シルの予感は悪い方に当たり、上空でボロボロと崩れ始めた半球は大小様々な漆黒の玉となり下降し始めた。


「止めろ……。 来るな……来るな!! 来るなーーーーーー!!!」


 シルの叫びは無情にも聞き入れられる事は無く、漆黒の大小の玉が都市へと落下してくる。


「間に合え!!」


 シルは両腕を上に掲げて都市全てを覆う魔力障壁を最後の力で張って、玉の大爆発を防いでいたがとうとうその時が来てしまった。


 私の存在力がもう……。

 ごめんなさいギル、私はあなたとの最後の約束を守る事が出来なかった……。

 そしてウルザ……、生き……延びて…………。


 シルの存在力が尽きてしまい、都市全域に張っていた魔力障壁も消失してしまった。

 そしてシルは都市の至る所で漆黒の玉が大爆発を起こす光景を見たのを最後に、意識を失ってしまうのだった。



 ――――


【大樹ユグドラシル】


 次に目を覚ますと私は本体であるユグドラシルから生えている枝の上に座っていた。


「私は存在の力を使い切った影響で、存在自体が消失したはずじゃ……」

『ユグドラシルの精霊たるシル、聞こえますか? ディアナです』

「ディ、ディアナ様!? お久しぶりです! 私にいったい何が起きたのでしょう……」

『あなたは存在の力を完全に使い切ってしまい消滅しかけていたのです』

「やっぱり私はあの時、存在自体を消失しかけていたのですね……」

『そうです。 ですがあなたは私の娘でもあるのですから何とか助けたかったのです……。

 ですが存在の力を消費し切ったあなたを助けるためには、ユグドラシル本体と魔力のパイプを強引に繋げる事でしかあなたを助ける術が無かったのですが……』

「ディアナ様?」


 言い淀む女神ディアナ様に私は会話の続きをお願いすると、衝撃の事を告げらる事となった。


『ユグドラシル本体と魔力のパイプを繋げてしまった為、今後あなたは多くの人から認識されず、そしてそれほど遠くに行く事も出来ません……。

 ごめんなさいシル、あなたを助ける事が精一杯で気付いた時には遅かったの……。 ごめんなさい……』


「そんな……、ディアナ様が謝られる事じゃありません!! 私の実力が足りなかったからこの様な結果を招いてしまったのです。

 私の方こそ暗黒神の暴挙を止め切る事が出来ずに申し訳ありませんでした……」


 そこで私は気付いた。 あの漆黒の大爆発の後、都市が、ウルザ達がどうなったのかを。


「ディアナ様!! ウルザ達はどうなりました!? 私が消える寸前に見たのは漆黒の玉が都市の色々な場所に落ちて大爆発をする所でした。

 お願いします、その後の事を教えてください!」

『シル……。 あの都市の事は忘れなさい……。 それがあなたの為でもあります…』

「ディアナ様!? 忘れるなんて出来る訳無いじゃ無いですか、教えて下さい!! ギルにウルザを守ると約束したのです!! ………ギル? ウルザって誰?」

『……今あなたの記憶に干渉して、あの都市の事やギルバート王達との記憶を封じる処理をしている所なのです……。

 もう少しすると都市の名前すら思い出せなくなる……でしょう……』


 ディアナ様の悲しい声が私の為に記憶を封じている事は分かる……。 分かるけどこの記憶は私の大切な、とても大切な……。


「止めてディアナ様!! いえ……ディアナお母様!! あの都市の人達の顔や、ギルと一緒に世界を回って様々な人達と会ったりした記憶を消すのは止めて! 私の宝物なの!!」


 あの都市での事が次々と思い出せなくなって行く。 ギルバート、マーサ、ケイレス、フェリス、そして……ウルザ。


『消しているのではありません。 いつか……、いつかあなたと同じく共生魔法を使える者が現れ契約する事が出来れば実体化出来るだけの存在力を取り戻す事が出来るでしょう。

 その時が来れば封印した記憶が解除されるように設定しておきました……。

 ごめんなさいシル……私の可愛い娘…』

「止めて! 止めてよディアナお母様! いや~~~~~~~!!!」


 いつの間にか気絶していた私が起き上がった時にはすでに他人から認識されなくなっていた。

 頭の中でユグドラシル本体からそう遠く離れる事が出来なくなった、というのは理解しているのだが、何故そうなったのか薄っすらと頭をよぎる程度で遂に思い出す事は出来なかった。

 本体の枝に座りながら私はその事を不思議に思っていたが、何度も繰り返す内に次第に気にしなくなっていった。



 そして長い年月が経ち、私の本体を信仰の対象とするエルフ達が村を作り、青水晶で出来た城を作り始め、村となって行くのを私はずっと見守り続けていた。

 たまに儀式をしに来るエルフが噂話をしていた中の1つに、魔法都市が暗黒神の憑依体を滅ぼして世界に平和をもたらしてくれた、だがその都市もその時滅んでしまった事を耳にした時は何故か頭が痛んだがそれもすぐ無くなった。


 順調に発展していく村は都市となりエルフ達のクリスタルフォートレス城が完成した事で、庭に流れる小川に足を浸したりして遊んでいると信じられない事が起きる、私に声を掛ける人族の子が現れたからだ。


 私はこうして共也と出会い共生魔法で契約し存在力を取り戻した事で、ディアナ母様が言っていた通りギル達と生活した記憶の封印が解除され急速に思い出して行った。


 私は次々と思い出した記憶の中で、自分をシルと呼ぶスライムに思い当たる人物の名を口に出した。


「まさか君は……。 ウルザ……なの?」

(うん。 シル……あなたが生きててくれて本当に嬉しい。

 私はこんな姿になって長い年月が経っちゃったけどね? でも今は共也からディーネって名前を送られたからこっちの名で呼んでね?)


「分かったよディーネ。 でも君のその姿はいったい……。 でも、君がこうして生きているって事は、他の人達も生き残っていたって事かい?」

 

(うん。 あなたが魔力障壁を張って魔法の威力を軽減してくれたお陰で、都市が完全に崩壊する事無く被害が抑えられたから、沢山の人達が生き残れたよ?

 そして皆あなたに感謝してた。 シル、その時の皆の言葉を伝えるね『シル。あなたのお陰で沢山の命がこうして救われました、ありがとう』ってね)

「あ……」


 シルはディーネに必死に何かを伝えようとして口を開けたり閉じたりしていたが、目から一筋の涙が頬を伝って地面に落ちた。


「わ、私は……。 あの時全ての力を使い切ってもあの玉を防ぎきる事が出来なかった……。

 その影響でここから離れる事も出来なくなって、記憶も封じられて長い年月あの都市がどうなったのか、君達が生き残って無事なのかすら思い出す事も出来なかったのよ……。

 そんな私に感謝の言葉を……」

(ふふ、皆と相談して決めていたのよ。 もし、この生き残った人の中で誰かがシルと再会する事が出来たら、さっきの感謝の言葉を伝えようってね)

「うぅ。 ありがとうディーネ、皆……」


 そして涙を拭ったシルは、改めてディーネに尋ねる。


「ディーネ教えて……。 私が消失した後どうなったのか。 そしてどうして人間だった君がスライムとなっているのかを……」


 ディーネはその時の事を言っても良いのか珍しく迷っている様子だったが、意を決して漆黒の玉が落ちて来た後の出来事を話し始めた。


(シル……私がこの姿になったのはあの魔法の呪いによるものよ……。

 でもすぐこうなった訳じゃ無い。 あの時の爆発を生き残った人達は、私達王家の人間が密かに建造していた地下神殿で暮らしていたのだけれど、暗黒神の呪いの影響が出始めると一人、また一人と知性の無い魔物に変わって行ったわ……)


 ディーネとシルが知り合いと言う事にも驚いた俺達だったが、それ以上にディーネが元人間と言う事にも驚いた俺達だった……。



ここまで読んで下さりありがとうございます。

もう少しで過去編を終わらせる予定なのでもう少しお付き合いをお願いします

次回も過去編になります。

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