表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
4章・ノグライナ王国での出会い。
90/290

【過去編】ディーネとシル。①

 私は契約者であるギルバートが、前線基地としている建物の前に部下達と共に来ていた。


 その建物を警護していた兵士に『シルが来た』とギルバートに伝言を頼む。


「はい! 少々お待ちを!」


 2人いた兵士の1人が建物の中に入って行くが、すぐ戻って来た。

 全力で走って来たのだろう、その兵士は息を切らせながら王からの伝言を私に伝える。


「お待たせしました! すぐに入ってくれとの事です!」

「ありがとう、では通らせてもらうね」

「「はっ!!」」


 私は会議室への通路を歩いて行くと、様々な役割を与えられた部屋から怒号が飛び交っていた。

 物資の確認、外壁の防衛の指示、兵士の配置場所など様々な声がそこら中から聞こえて来た。


 私は鉄で出来た扉が設置されている部屋へ入ると、そこはすでに戦場だった。


『まずは国民達の避難を優先させろ!! 彼奴らには外壁など大した時間稼ぎにならんぞ!!』

「現在兵士達が率先して城の方に市民達を避難誘導をしています!!」

『よし!! 次! 外壁のバリスタ担当者は指示を待たず、矢を設置した後は、魔物達の姿を確認した者から順次撃つように指示を出しておけ!!』

「了解しました! 今から外壁防衛の指揮官にその指示を伝えてきます!」

『おう! 奴らが魔法を都市内に撃ち込んで来るだろうだから流れ弾には気を付けろよ!』

「軍勢は尚も進行中。 やはり奴らの目的はこの国の様です、報告によると距離10kmを切りました!!」

『もし外壁に近づかれた場合は、別門から騎士隊を出撃させるかもしれない事を頭の中に入れておいてくれ。 恐らく決死隊になるだろうが頼む……』

「了解です!」


 正面で指示する青髪髭面の男が私と共生魔法で契約したこの都市の王ギルバート、その隣で巨大な両手剣を持って金髪をポニーテールにした華奢な様に見える令嬢が、ギルバートの妻でありウルザの母でもあるマーサ王妃だった。

 彼女は私がこの部屋に入って来た事に気付いた様で、小さく手を振って来た。


 それに気づき私に視線を向けて来たギルバートは、左手を上げて会議を一時中断させると私に話しかけて来た。


「シル、来たか。 行けそうか?」

「誰に物を言ってるの。 私達3人が居れば暗黒神の憑依体くらい簡単に倒せるはずだから、さっさと終わらせてテラスで待ってるウルザのお茶会に参加するわよ」


 この部屋にいた全ての人達が私の台詞に目を大きく剥くと、盛大に吹き出して笑い始めた。


「はははは!! 人類存亡の危機を作り出した暗黒神の憑依体との決戦を早々に終わらせてウルザのお茶会に参加するとは何と剛毅な!

 ……だがそうだな。 ウルザを怒らせてしまうと後が怖いから、さっさと終わらせて世界平和を手にしないと行け無いな……。 マーサ、我々も出るぞ! これが人類が存亡出来るかどうかの分水嶺だ!」

「えぇ、あなた。 あの娘、ウルザのためにも必ず生きて帰らないとですね……」

「そう言う事だ。 だがお前の大剣技を久しぶりに見る機会がこんな戦場とは残念でしょうがないよ。 シル、お前の力も存分に振るって貰うぞ?」

「ええ、そのためにあなたと契約したんだから、遠慮なく振るわさせて貰うわ。 ギルバート、マーサ、行こう暗黒神の憑依体を倒して平和を手しよう!」

「「ああ!! 皆行こう! 平和を取り戻しに!!」」

『「「おぉ!!」」』


 こうして私達は生き残れるかどうかすら分からない、暗黒神の憑依体の軍勢との戦争がここに開戦されたのだった。


 ===


 王城のテラスで4人分のお茶を用意して待つウルザは一人呟く。


「シル。 いつ頃帰って来てくれるかな……。

 お父様もお母様も必ず生きて帰って来て、このテラスでお茶を振舞わせて下さい。

 私はこの人類の未来を掛けた戦争に対して何も出来ないけど、せめてこのテラスで皆が帰って来れるように祈りながらたお茶を用意して待ってるからお願い。 生きて帰って来て……」


〖ドドドドドドドドドドド!!!〗


 未だに遥か遠くにいるはずなのに地響きを立て、そして山を黒く染めながらこの都市を目指して侵攻している魔物の大軍団の姿がテラスにいるウルザの目には映っていた。


――――


「バリスタ担当者は指示を待たず、矢を装填出来た端から次々に撃つんだ! 魔物共を近寄らせるな!!」

「魔法使い達も魔力が切れそうな者は自身の足ですぐ後ろに下がれ! この激戦の中、下がる手助けをしてやれるほど手が空いてる者はおらんぞ!!」

「戦況はどうだ?」

「ギルバート様!?」


 外壁の上へシルやギルバート達が昇って来た事で、慌ててこの場を預かる指揮官が膝を付こうとしたがギルバートが手で押し止める。


「兵長、膝は付かなくて良い。 それより状況説明を頼む」


 指揮官は顔を上げ状況説明を始めるが、あまり良い報告とは呼べるものでは無かった。


「はい。 現在バリスタと魔法部隊の混合攻撃によって、魔物達を外壁に近づく事を何とか阻止出来てはいます。

 ですが、今はまだバリスタの矢や魔法使い達の魔力に余裕がありますから良いですが、長期戦になると必ずその2つが疲弊してしまい物量に押され始める時が来るはずです」

「やはり長期戦は不利か……。 兵長の予想だとあとどれくらい保つか判断出来るか?」

「バリスタの矢もそうですが、魔法使い達の魔力もすぐに回復する訳では無いので後どれくらい保つかと言われると、すぐに返答する事が出来ません……」

「やはりそうか。 兵長の予想で構わん、あとどれくらいなら維持出来そうだ?」

「……恐れながら私の予想だとバリスタの矢は今のペースだと半日、魔法使い達は交代しながですが6時間もすれば魔力切れになるかと……」

「もし魔法使い達が魔力切れを起こした場合は、魔物達が外壁に張り付き始めるか……」

「はい、魔法による迎撃が出来ないとなると、必ず討ち漏らしが出始めるのでそうなるかと……」


 ギルバートは腕を組みどうすればこの状況を打破できるか考えていたが、すぐに顔を上げ私とマーサを見た。


「シル、マーサ。 魔法使い達が完全に魔力切れを起こしていない4時間後に、暗黒神の軍勢が外壁に張り付く事を諦めていない様なら、決死隊を募り俺達で直接憑依体を倒しに行くぞ」

「はい、あなた。 やはりそれしか道は残されていないのですね……。 シル、ごめんなさいね命を掛けさせる事になって」

「私は精霊なのだから大丈夫よ。 でもあなた達も生き残る努力をしないと駄目よ、今もお茶会の準備をして待ってくれているウルザのためにもね」

「そうね。 あの娘を一人に出来ないわね。 ふふふ、でもあの娘は意外としっかりしてるから、私達が居なくなっても国民達を纏め上げてくれるかもね?」

「マーサ。 ウルザを1人にするだなんて今は不吉な事を言うものじゃない……」

「あなた。 そうよね私達が死ぬ前提で動いたら本当にそうなっちゃう可能性があるのだから気を付けないと……」


 そしてシルは部下達に決死隊の募集をするように通達した。


「悪いけど決死隊の募集を任せて良いかしら?」

「はい! 冒険者ギルドにいる冒険者達にも決死隊に参加してくれか聞いてみます!」

「お願い。 悪いけど時間が無いわ。 手分けして募集して来て頂戴」


『「「はいっ!!!」」』


 シルの部下達が決死隊を募集しに都市中に散って行くと、ギルバートが再び兵長に話し掛けた。


「兵長3時間立っても奴等が手を引く気配が無い様なら、その時はまた会議室に伝令を出してくれ」

「分かりましたギルバード王。 それまでは私にここをお任せして今はお休み下さい! 都市は必ず守り切ってみせます!」

「兵長、ここは任せた。 シル、マーサ、会議室に戻るぞ!」

「兵長さん、ここはお任せします……」

「マーサ様、勿体ないお言葉です。 それだけで私達は頑張る事が出来ます!」


 こうして私達は一旦会議室に戻ると兵長からの伝令が来ない事を祈りながらも、少しでも体力を温存する為に無言で体を休めていた。

 だが、3時間後にその兵長からの伝令が来てしまった……。


「魔物達の攻勢収まる気配がありません! 魔法使い達も魔力の少ない者から徐々に魔力切れになる者が出始めたので後方に下がらせています!!」

「やはり奴はここで人類の命運を絶つつもりか……。 シル、マーサ、出るぞ!」

「「はい!」」


 私達が再び外壁の上に立つとそこには何人かの魔法使いが壁に寄りかかっていたが、その魔法使い達はどうやら魔力切れを起こして意識を無くしている様子だった。


「その者達はそっとして上げておいて下さい。 魔法使い達は魔力切れで気絶するのが分かっていながら、限界まで魔力を使ってくれた者達です。

 本当なら人手が足りないこの状況でしてはいけ無い事なのでしょうが、後で兵士達に後方に運ぶように指示しておきます」

「兵長、私に気を遣う必要は無いから、彼等を安全な後方で休ませて上げてくれ」

「ギルバート様……、ありがとうございます」


 ギルバートの許可を得た兵長は何人かの兵士達に指示を出して、気絶している魔法使い達を後方へ移送させていった。


「皆の努力を無駄にしないためにもこの戦い、勝たないとですね……」

「勝つさ。 私達3人が揃って出るのだ、必ず勝って帰ってみせる……」

「ギルバート様……」


 バリスタの矢はまだあるが大分心元無くなって来たので、外壁の防衛が出来るギリギリの人数を残して、シルの部下達が城門前に集めて来た決死隊の面々を眺めていた。

 そこには死を覚悟した沢山の冒険者、兵士達、そして魔法が少々使える文官までもが決死隊として参加してくれていた。


「皆の者これが最後になるかもしれないから王と言う立場を捨てて、最後に皆に聞いておきたい……」

「何でしょう? ギルバート様」

「ここにいると言う事は、死ぬ覚悟をもって暗黒神の軍勢に突撃する事を了承してくれたのだと思うが、もしかしたら2度とここに帰って来れないかもしれない……。

 本当にこの人類の存亡を掛けた特攻に付いて来てくれるのか? 背中を任せても良いのか?」


 そこに立派な鎧を着た冒険者の一人が声を上げる。


「それこそ今更ですよギルバート王、ここであいつ等を止めないと世界が本当の意味で終わってしまうのは、ここにいる冒険者達は全員が知っています。

 そんな状況ならどこに逃げても安全な場所なんてすでに何処にも無いんですよ。

 見て下さいよ、普段臆病者のこのシーフのチャックでさえ覚悟を決めて参戦してるんですよ?」


 そこにはナイフを持つ手を震わせた低身長の男が、自分の名を出して来た男に向かって驚きの表情を見せていた。


「【ケイレス】の旦那! そりゃ無いですよ! 俺だって英雄になりたいと思うは自由なんですから、少し位は評価してくれても良いじゃないですか!」


 シーフのチャックと呼ばれた男はハンカチを食い千切らんばかりに引っ張って悔しさを表現する仕草に、自然と周りの皆から笑い声が聞こえて来た。


「英雄か! そりゃ良い! この戦いに勝利して生き残る事が出来たら皆が英雄だな!」

『「「皆が英雄か、そりゃ良いな! 明日から俺達は英雄だ~~~!! アハハハハハハハ!!!」」』 


「先程までの悲壮感溢れる空気が変わって良い雰囲気になったな……。 ありがとう、これなら行けるかもしれん!」


 ギルバートが呟いた言葉は全員の笑い声に掻き消されたが、隣に立っていた私とマーサには聞こえていたので彼の背中に手を添えて彼を激励した。

 そしてギルバートは皆を鼓舞するように激励を飛ばした。


「みんな! この1戦が人類の運命を左右する決戦になるだろう。 だが俺達は奴らに勝利して必ずここに生きて帰って来るんだ!!

 行くぞ!! 未来の子供達に命のバトンを渡す為にこの戦い必ず勝つぞ!! 開門!!!」


『「「「未来の子供達のために!!!」」」」』


『かいも~ん!! かいも~ん!! ギルバート王御出陣!! みんなも生きて帰って来いよ!!』

『任せとけ~~~!!』 


 冒険者たちは力こぶを、女性の魔法使いは杖を掲げて門を潜り抜けて行った。

 そして全員が外壁の外に出たのを確認した兵長は門を固く閉めると、最後に跳ね橋を上げた。


(これで私達に退路は無くなった。 文字どうりの背水の陣だな、ウルザ許してくれ私は1人の親である前にこの国の王なのだ。

 出来る事ならお前だけでも安全な場所に逃がしたかったが、どこに逃げても一緒なら私達がここで命を懸けてこの戦争を終わらせて……お前を守る!)


 私達が外壁から出たのを見つけた魔物達は、獲物を狩る様な猛スピードで突進してきた。


「来たぞ魔狼の群れだ!!」


 あと少しで魔物達と接敵する、と言う時にマーサが魔物達の前に立ち塞り緑色に輝く両手剣を構えると、それを微かに見える速度で横凪に一閃した。


「流石マーサだな」


 大勢の魔物がマーサの放った緑色の剣閃によって、前を走っていた者から順に次々と切られて行き消滅して行った。

 それは扇状の数百メートルに及び、地面には夥しい量の魔石が転がっていたのだった。


「さすが【剣閃のマーサ】その剣の腕前は健在だな」

「あら、あなたその名はもう捨てたのだから言わない約束でしょ? それに獲物はまだまだいるのですから遠慮せずに倒しちゃっても良いのよ?」

「そうだった君の2つ名は言わない約束だったな済まない……」

「まあ良いわ。 皆さん呆けてる場合じゃ無いですよ、新手がすぐそこまで来ているので決死隊の皆さんの活躍を見せて下さいますよね?」


 マーサ王妃がおしとやかに笑っているが、何処か冒険者達や兵士達を煽っている様に見えるので皆が怒声を上げて新たに現れた魔物の群れに突っ込んで行った。


『「魔物がなんぼのもんじゃ~!! 行ったら~~~!!!」』


 次々と消滅していく魔物達を眺めながら、私達3人は最後尾に有るこの場に不釣り合いな玉座に座りふんぞり返っている漆黒の鎧を纏った暗黒神の憑依体を肉眼で捉えていた。

 だが、その憑依体は私達の視線を感じても指を口に当ててこちらを馬鹿にする様に笑っていた。


(良いでしょう……。 その余裕が何時まで保つか楽しみですね。 覚悟しなさい暗黒神の憑依体!!)


 


ここまで読んで下さりありがとうございます。

もう少しこの過去編は続く予定ですので気長にお読みください。

次回は『シルとディーネの過去編2』で書いて行きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ