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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
4章・ノグライナ王国での出会い。
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火急の報せ。

 暗黒神はすでに地上に顕現している。

 その言葉に皆は暫く呆然としていたが、先に我に帰ったジュリアさんが俺に尋ねて来た。


「と、共也ちゃん。 それは君の隣にいるシルって娘が言ってるのかな? もし本当に言ってるなら、どうしてそれが分かるのか聞いて貰って良い?

 この世界に住む人間にとって重要な情報だからね」


 俺は未だに俺の腕から降りてくれないシルに尋ねた。


「シル。 ジュリアさんが言った様に、何故暗黒神がすでにこの世に顕現しているのが分かるのか教えてもらっても構わないか?

 俺も知っておかないといけない話の内容だから、是非聞かせて欲しい」


 俺は真剣な眼差しでシルを見続けていると、諦めたように溜息を吐くとやっと腕の中から降りて地面に足を付けると暗黒神に付いて語り始めた。


「そうだよね、君達は奴に命を狙われている当事者なんだから、知っておかないといけない情報だね。

 共也、君は【共生魔法】と言うスキルを持っている。 これに間違いは無いかい?」


 シルには俺がどんなスキルを持っているか話してはいないのに、共生魔法と言うスキルを持っていると言い当てられて素直に驚いた。


「シルどうして俺がその魔法を持っていると知っている。 君には俺の固有魔法の名前を教えた覚えはないんだが?」


 友好的な人物とは言っても、さすがに自分の固有魔法をノーヒントで断言されている以上は警戒して当たり前だ。


「君にそんなに警戒されると悲しくなっちゃうから、その事も含めて今から説明するよ。

 そうだね……。 まずは共也、私と共生魔法で契約しよう?」

「はぃ? どうしてそうなる!?」


 俺はシルの唐突な提案に声が裏返ってしまうが、他の皆にはシルと何があったのか分からないので、心配した視線を向けられていた。


「共也さん、何か変な事でも言われたんですか? もしその方が敵対するような事を言うなら教えて下さいね。 この木を薪として燃やしますから!!」

「ちょっとエリア様! この樹木は私達エルフの信仰の対象だって言ってるでしょ! 怖い事言わないでよ!」


 エリアとリリーの2人が大声で言い合うものだから、シルが喋る事を一旦止めてしまった。


「やれやれ。 2人が落ち着くまで少し待とうか」


 エリアとリリーが落ち着くまで少し待っていると、皆に注目されている事を知った2人は恥ずかしくて小さくなるのだった。


 そして、2人が喋るのを止めて静かになったので、改めてシルに問いかけた。


「シル。 それでどうして急に共生魔法で契約をする、なんて話になるんだ? 共生魔法の事を知っているみたいだが、君は一体何を知っているのか教えてくれないか?」

「それはね……」

(それはシルも共生魔法を使えるからだよ……)

「え? 今の念話はディーネなのか?」

(うん……。 ずっと黙っててごめんね……。 共也、シルと契約して上げて。 そうすれば彼女の存在の力が安定して、皆にも見える様になると思うの)

「え……。 それは本当に?」


 ディーネの言葉の真意を問いただしたかったが、その前にシルが静かに右手の甲をこちらに向けて差し出して来た。


「ディーネに聞きたい事は山程出来たけど、取り合えず今はシルとの事を優先しようか」

「うん。 後で()()()()()事を必ず伝えるよ」

「思い出した?」

「うん。 共也、取り合えずシルと契約を」

「そうだった。 シル。 本当に俺と契約して良いのか?」

「むしろ私の方からお願いしたい位かな。 むしろ共也が私と契約して後悔しないか心配……」

「もうディーネ達と契約してるんだから、後悔なんてする訳が無いだろ?」

「ありがとう共也。 ああ、これでやっと色々な人と触れ合う事が出来るわ。

 ずっと誰にも気づかれずに過ごす日々はもうたくさん……。

 きっとあなたは私の運命の人。

 お願い、私をあなたの旅に連れて行って……」

「分かった。 シルが後悔しないなら一緒に祝詞を唱えよう」


 少しの間が空いた後にシルは力強く頷いた。


「お願い!」


 俺とシルは手を繋ぎ、ディーネ達と同じくいつもの祝詞を口にした。


『俺達は常に苦楽を共にし、楽しい時も病める時も共に歩いてく事をここに誓う!』

 

 俺とシルの宣言が終わると同時に俺とシルが緑色に光りに包まれた。


「シル!?」

「ああ、この感覚は何千年ぶりかな……」


 シルを包み込む緑の光りも徐々に落ち着くと、俺の横には涙を流して喜ぶ彼女が立っていた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【名前】:最上 共也   


【性別】:男


【スキル】


・『共生魔法』(契約者が一定数に達した為、魔法の発動条件が緩和されます)


 ・水魔法 (ディーネ)


 ・氷魔法 (スノウ)


 ・海流魔法 (マリ)


 ・樹木創造魔法 (シル)


『剣術』


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ありがとう共也、私と契約してくれて。 そして皆さん、私が神樹ユグドラシルの精霊であるシルです。 不束者ですがこれからもよろしくお願いします」


 緑色の光が収まった事で皆にも見える様になったらしく、俺の横に立ちお辞儀をするシルを驚愕の眼差しで見ていた。


「ほ、本当にシルって娘がいたんだね。 いや~、共也がてっきり若年層の痴呆になったのかと皆と相談してたんだけど、無駄になって良かった良かった!」

「鈴、お前どうも遠巻きに見ているなと思ったら、俺の事をそんな風に見てたのか!? あまりにも酷くないか!!?」

「きゃ~、ごめ~ん!」


 頭を押さえて逃げる鈴を追いかける中、エルフの3人はシルの前で跪いて頭を下げていた。


「神樹ユグドラシルの精霊であるシル様。 お会いできて光栄です私は」

「全て言わなくても大丈夫だよ。 先程言った通り私はあなた達エルフ族の事をずっと昔から見て来ましたから。

 それこそ人族の歴史が滅亡と繁栄を何度も繰り返されるくらいずっと昔から……」


 シルは過去に有った事を思い出しているのか、木漏れ日が降り注ぐ自身の本体を眺めていた。


 そこに、剣の中でずっと過ごしていたディーネが出てくると、シルに念話で話しかけた。


(シル。 久しぶりだね。 一体どれだけの年月が経ったのか私にも分からないけれど、私はあなたのが消えたあの日からずっと生きて来たよ……)

「私の姿が見えていて、しかも名前まで知っていたと言う事は、君はまさか名前すら忘れたあの古代魔法都市のお姫様かい?」

(そうだね……。 私も暮らした都市の名は忘れたけど、あの周辺の国を治めるで王の娘だった事は覚えてる。

 そしてシル。 私とあなたが一緒に暗黒神の軍勢と戦った事も、そして、暗黒神の最後の攻撃を完全に防ぐ事が出来なくて都市が滅んだ事も思いだした……よ)

「私が実体を維持出来なくて消えた事で都市が滅んだ事はかなり後になって知ったよ……。 それに関してすまないと思ってる……」

(勘違いしないでシル。 都市は確かに滅んでしまったけど、あの都市で暮らしていた人達は誰一人としてあなたを恨んだりしてなかったよ。

 あの時が来るまで私達は笑い合って過ごしていたじゃない……。 そう、あの最後の日が来るまでは……)




===========



【????歴 2057年 古代都市?????? 王宮にて】


 今私は緑髪の女性の後を追いかけて必死に名を呼び続けていた。


「シル! シルってば! ちょっと待ってよ! ねぇシルってば!」


 あまりにも食い下がって来るその娘に呆れてしまい、溜息を吐いて振り返った。


「はぁ……【ウルザ】……そう何度も私の名前を呼ばれても困るんだけど?

 私は君の父親と契約はしているが、あくまで個人として動いているのだから、その娘の君に呼び止められても私に返事を返す義務は無いのだけど?」

「うぅ、でもお父様と【共生魔法】で契約してるんだから、いつもの様に少しくらい私とお話し位してくれても良いじゃない……」


「う……。 ウルザ泣かないでくれ。

 酷い言方をしたのは悪いと思うが、今私達は近日中……、いや、今日にでも暗黒神の軍勢がこの国に攻めて来るかもしれないと言う時に、君一人のために時間を割く事は出来ないんだ。

 ウルザが生まれた時の様に平和な時代なら、私も喜んでウルザと話したり散歩に出かけたりしていたさ……。

 でも、今は暗黒神の軍勢が様々な国を滅ぼして回っている、そして大きな国で残ったのはこの国だけと言うのは分かってくれるね?」

「それは分かってるけど……。 こんな時代だからこそ悔いを残したく無いのよ。

 私は大好きな人とお話しして仲良くしてたいの……。 シル、駄目?」


(ウルザと呼ばれた私はこの時シルに無理を言ってる自覚はあったけど、今約束と取り付けないともう2度と会えなくなる……。

 そんな嫌な予感を、この時の私は感じていた)


「ぐっ! 君のその上目遣いのやり方は母親の【マーサ】から教わったな? あざとい所と本当にそっくりだぞ!?」

「あれ、バレた! えへへ~…。 ねぇ、シル~お願い~♪」


 私は胸の前で両手を組みシルに媚びる動作をしてみたが、自分でもその時の仕草はあまりにもわざとらしくなってしまったので失敗したと感じていたのだが、どうやらシルはわざとらしいと分かって居ながらも私のお願いに折れてくれた様で溜息を吐いた。


「はぁ……。 分かった、分かったから少しだけ時間をくれ。

 少し街を巡回をして異常が無いようなら、いつもあなたの家族とお茶会をしているのテラスに出向く事にするわ」

「シル、本当に!?」

「ええ、出向く場所はそこで合ってるんでしょう?」

「うん! じゃあシル、美味しいお茶とお菓子を用意して待ってるから必ず来てね!!」


 私は心の中でガッツポーズをすると、シルに手を大きく振りながらいつものお茶会をしているテラスを飾り付ける為に、まずは厨房で様々なお茶やお菓子を確保する為に走って行くのだった。


「良いのですか? シル隊長。 いつ暗黒神の軍勢が攻めて来るか分からない今の状況で、そんな安請け合いをしてしまって……」

「こんな今だからこそだよ……。 もしこの国が暗黒神達の軍勢に滅ぼされたらどうなる?」

「……あの軍勢に立ち向かえる勢力は無くなりますね……」

「そう。 もう私達があいつ等の軍勢に負けた場合、抗える勢力は人類には無くなるだよ?

 そんな嫌な現実を若干8歳位の娘に突き付けるのは酷だと思わないかい?」

「それは……、確かにそうですね。 ウルザ姫はただでさえ市民達の為になるような政策を色々と打ち出しているんですものね……」

「そう言う事。 あの娘が笑ってくれていたら兵士達も笑顔で頑張れるのだから、見回りを早く終わらせてテラスに向かう事にするわ」

「ふふ。 シル隊長も何だかんだと言いながらウルザ姫の事を可愛がってますよね」

「そう言う事。 それじゃ早く終わらす為に巡回に向かうわよ」

「はい!」


 私は今部下達を連れて都市中心部にある市場を巡回して来たが、そこは皆暗黒神の軍勢が近寄ってるとは思えない程活気に溢れていた。


「あ、シルちゃん。 今日入荷したばかりのリンゴがあるから持って行って! 暗黒神の軍勢なんてあなたにかかればきっと撃退出来るはずなんだから頑張ってね!」

「フェリスありがとう! 必ず勝利してみせるからね?」


 私がいつも買いに来る果物屋の店番をしているフェリスに、先勝祝いの前払いとしてリンゴを1つ渡された。


 私はそのリンゴを齧りながらフェリスと雑談をしていると、路地から小奇麗な服を着て花束を持った男が現れたと思ったら私の前に跪いた。


「シル嬢! 君の美しさに惚れた! この戦争が終わったら是非に私の妻に!」

「何言ってんのよ! あんたみたいな男がシルちゃんと釣り合う訳無いじゃない!!」

「そんな言い方って無いよフェリスちゃん……。 なら君でも良いから僕の妻に!」

「私でも良いからって何よそれ! 本当に失礼しちゃうわ!!」

「「「「あはははははは!!」」」」


(あぁ……。 このままずっとこの平和な日々が続けば良かったのに……)


 私は都市の巡回を無事に終えた事だし城に戻ろうとしていると、ふいに一緒に巡回をしていた部下の一人が私に話し掛けて来た。


「シル隊長。 暗黒神の軍勢がすぐそこまで来ている事を、ウルザ様に伝えなくて良かったのですか?」

「いや、暗黒神の軍勢が近づいている事位ウルザも気付いているさ」

「え……」

「もし暗黒神の軍勢が今攻めて来たら、今日と言う日がこの国の最後の日になるかもしれない。

 あの娘はそんな恐怖を感じながらも明るく振舞い、今日と言う日を大切に生きようと笑っているあの娘の頑張りを、私が怒って台無しにするのは悲しいと思わないかい?」

「そうですね……。 シル様、後の巡回は私達だけでも出来ますから、あなたは今からでもウルザ様に会いに行って上げてください。 あの人は私達の希望でもあるのですから」

「じゃあ、君達のお言葉に甘えてウルザとのお茶会をしに行ってくるかな」

「シル隊長。 顔がにやけてますよ?」

「う、五月蠅いな!」

「「「あはははは!」」」


 そんな楽しそうな笑い声が市場に響く中、城壁の外を警戒していた兵士から火急の報が入る。


『暗黒神の軍勢が現れました狼煙が上がりました!! 距離100km!! 後方には暗黒神の憑依体らしき人物も確認されているとの事です!

 シル様、王からの伝言で至急前線の軍議が行われている陣に来て欲しいとの事です』


「分かった。 私は装備など整えたらすぐに前線に向かうと伝えて……」

「了解です。 私は前線で待機している【ギルバート王】に伝えに行きますのでお早く」

「あぁ…」

(ごめんなさいウルザ。 やはり今日お茶会には行けそうも無いわ……。 だけど必ず暗黒神を打ち破ってウルザの元に駆けつけるから待っててね……)


 暗黒神の軍勢が来た。

 その報告が入った事によって都市中蜂の巣を突いた様な騒ぎとなり、私は王が待つ前線基地に赴く事となりウルザ姫とのお茶会に行く事は出来なくなったのだった……、永遠に……。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

今話からシルとディーネの過去編に少し突入します。

次回は“暗黒神の憑依体との邂逅”で書いて行こうかと思っています。

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