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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
3章・親善大使として親書を届けに。
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【別視点】 桃源 柚葉 編

【別視点】 桃源 柚葉


 何匹かいるゴブリンジェネラルの1匹を共也達から引き剥がす事に成功した私は、少し離れた港で1対1で対峙していたのだが、運の悪い事に多数のゴブリンが近くに有った倉庫の影から現れた。


(うわ~、マジか……。 ジェネラルの1匹を共也達から引き剥がせたのは良いけど、倉庫の陰から出て来たゴブリンの数がちょっと多いな……。

 でも、ここで私が此奴らの相手をしないと、間違いなく沢山の人が死んじゃう……。 覚悟を決めろ、柚葉!)


 両頬を叩いて気合を入れると、海を背にした私を取り囲んだジェネラルとゴブリンの集団を1人で相手取る事を決意して、鉄志が作ってくれた細剣を構えると氷と炎魔法を《固定魔法》で糸の様に細く生成して周りに展開した。


「さあ、ゴブリン達! 私はただで殺されるほど甘くは無いですよ。 もし私を殺すつもりなら、あなた達も死ぬ覚悟で来なさい!」


 そうゴブリン達にそう言い放つ柚葉は細剣を縦に振り抜くと、属性糸が遠くに離れていた1匹のゴブリンを両断すると紫の煙となって消滅した。


「ぎゃ?」


 ゴブリン達は仲間の1人が消滅した事を理解出来なかったらしく、辺りを見渡していた。

 そして、ゴブリンが消滅した場所に小さな魔石が硬質な音を立てて地面に落ちたその音を聞いて、ようやくゴブリン達は仲間が殺された事を理解したらしく、パニック状態となってしまい我先にとこの場所から逃げだそうとしていた。


 だが、倉庫の壁を破壊してゴブリンウォーリア―が現れると、その惨状を理解したらしく逃げ出そうとしていたゴブリンを咆哮を上げると同時に2匹切り捨てた。


『ぐぉぉぉぉ~~!!』

「ぎゃぁぁぁ~……」


 威圧を受けたゴブリン達は逃げ出すのを止めると恐怖に塗り固められた顔と震える手で、持っているボロボロの短剣を私に向けて来た。


「逃げてくれればそれで終わってたのに、余計な事をしてくれたわね……。 しかし、ゴブリンウォーリア―まで追加と来ましたか……。

 まあ、私は大勢を相手取る方が得意だから良いんだけど……ね!」


 私が細剣を振るうと炎と氷で出来た2本の糸が辺りを埋め尽くした事で、こちらを攻撃して来ようとしていたゴブリン達が次々と切断されて消滅して行った。


「ぐ、ぐげぇぇ!?」


 仲間が次々と切断されて消滅していく事に恐怖したゴブリン達は、ウォーリア―とジェネラルの方を見るがその行動を取った何匹かはまた切り捨てられ消滅していった。


 ウォーリアによって仲間を消滅させられた場面を見たゴブリン達は覚悟を決めたのか、短剣を構え突撃して来たがすでに私はこいつらを仕留める為の準備はすでに完了している。


 勢いよく突撃してきたゴブリン達だったが、突如足が縫い留められたかの様にその場から一歩も動けなくなった。


「ぐげげ!?」


 いくら動かそうとしても全く自分の足が動かない事に騒ぐゴブリン達だったが、足元を良く見ると光りに反射して細く輝く糸が、海から伸びて私の周りを埋め尽くしていた。


 そう、その糸は私が海水を固定魔法で凍らせた氷の糸を縦横無尽に配置した物で、それを踏んでしまったゴブリン達は足は凍り付いてしまい動けなくなった……と言う事よ。


「ふふふ……上手く嵌まってくれたね。 ジェネラルとウォーリア―は踏んでくれてないみたいだけどね……」


 足が固まった事で動けないゴブリン達の後ろで、こちらの事を警戒しているジェネラルとウォーリア―は、私に近づく事が出来ない事に苛立ちを見せながらどうしたものか思案している様子だった。


(出来ればこのままあいつ等が何もしないで時間だけが経過してくれると嬉しいんだけどな……)


 このまま時間稼ぎが出来ればそれはそれで構わないと思っていた私だったが、1匹のゴブリンがバランスを崩して地面に倒れて拘束されてしまった。

 その光景を見たジェネラルとウォーリア―は口角を上げて笑い合うと、まだ後ろで控えていたゴブリン達を掴み次々と私の周辺に放り投げ込んで来るが、当たり前だが地面に落ちたゴブリン達は凍らされて拘束されて行く……。


 私に当てる訳でも無いのにこいつ等は一体何を……まさか!!


 私の予想は当たっていた様で死んでしまうと魔石となってしまうため死なない様に足場として踏み潰しながら、私の元へと近づいて来るジェネラルとウォーリア。


「グゲ! うげぇ! ひぐ! あぁぁぁl!」


 足場とされて踏み潰されて行くゴブリン達は絶叫を上げているが消滅していないので死んではいないようだが、すでに瀕死の様で痙攣するだけとなっている。

 なるほど、と思ったのか他のゴブリン達も瀕死のゴブリンを足場にして私に近づいて来た。


「グッフッフ」


 こうして、またゴブリン達に包囲されてしまった私を見てジェネラルとウォーリアは凶悪な顔でほくそ笑んでいるが 逆に私も心の中でほくそ笑んでいた。


(ああ……。 私の思い通りに動いてくれてありがとう、ゴブリン達)


 私は自分の腕に巻かれているミサンガを見て()()()()を思い出していた。

 

――――――――――――


【中学時代の柚葉の回想】



【柚葉。 ごめんなさい。 今日もお父さんとお母さんは帰って来るのが遅くなるから、晩御飯は一人で済ませておいて下さい。 テーブルの上に今日の晩御飯代が置いてあります】


 中学生となった私が学校から帰って来ると、テーブルの上に置いてある手紙とお金を見つめながら溜息を吐いた。


(今日は私の誕生日だから、家族全員揃って祝おうって約束してたのに……嘘つき……)


 私は悲しくて悔しくて手紙を持ちながら涙を流していたが〖くぅ~〗と可愛らしく鳴る自分のお腹に顔を赤くして、テーブルの上に置いてあるお金を掴み取ると日が落ちかけているのに家の外に飛び出した。


 当ても無く彷徨っていた私だったが、気が付くと昔皆と通っていた1件の駄菓子屋の前で佇んでいた。


「あれ……、ここって駄菓子屋トヨ……?」


 呆然とその場でしばらく佇んでいると、帰って来た店主に声を掛けられた。


「あら? ユズちゃんじゃないかい? どうしたんだいこんな時間に」


 そこには、腰が曲がり髪が真っ白となった【駄菓子屋トヨ】の店主である【山根 トヨ】さんが私の横に立ちこちらを心配そうに眺めて居た。


「トヨさん……。 うわぁぁぁぁぁ~~!!」


 私は優しい顔をしたトヨさんの顔を見た事で今まで抑えていた感情が一気に溢れ出してしまい、そのまま声を上げて泣きだしてしまった。


「ゆ、ユズちゃん!? と、とりあえず中にお入り」


 駄菓子屋の中に入りトヨさんの自室に案内された私はタオルを貸してもらい顔を覆いながら、今日家で有った事をいつの間にか全てトヨさんに話していた。


「なるほどね。 ユズちゃんは今日が誕生日で、本当なら今頃はご両親が一緒にお祝いしてくれている予定だったのかい」


 私は首を縦に振り、頷いた。


「確かに悲しい事ではあるけど、お父さんもお母さんもユズちゃんの為に必死になってお仕事をしているってのは分かってるかい?」


 少しの沈黙の後、私はまた首を縦に振る。


「ぞれはわかっでる……。 でも、約束じてぐれだから……、今日だけは一緒に過ごせると思って楽しみにしてたの……。 う、う、う」


 私はトヨさんに両親と祝える事を楽しみにしていたと口に出してしまった事で、悲しい感情が溢れだしてしまいまた泣きだしてしまった。

 だけどトヨさんは、年を取ってしわくちゃになってしまった手で、私の頭を何度も撫でて慰めてくれていた。


「ユズちゃん、ここに良く通ってた頃に教えた、綾取りはまだ覚えているかい?」

「あ、綾取りなら今でも良くやってるよ?」

「そうかい? 私を相手にして、綾取りをどこまで続けられるかね?」

「でぎるもん!」


 意地を張った私はトヨさんと1本の毛糸を結ぶと、指の間を通して向かい合った。


「むぅ、負けないんだから!」

「ふふふ、私に勝てるかしらね?」


 トヨさんと延々と綾取りをしていると、店の方から騒がしい声が聞こえ始めた。


「トヨさ~ん! 駄菓子を買いたいんだけど今良いかな~?」


 えぇ~…この声は……。


「おや、共也ちゃんや室生ちゃん達じゃないかい、昔通っていた子達が来るなんて今日は珍しいね~」

「子……達?」


 菊流ちゃん達が部屋の中を覗き込み私を見つけるとパっと顔が明るくなり、皆がとよさんの部屋の中に入って来ると私を取り囲んだ。

 そして目聡く鈴が私の目を見て不思議そうに眺めて居た。


「あれ? ユズちゃん、もしかして泣いてた?」


 鈴が私の顔を見て涙の痕がある事に気付いてしまったので、何故泣いていたのか理由を聞いて来たので、観念して私は今日家に帰ってからの出来事を皆に告白した。


「じゃあ、今ここにいる皆で祝ってあげるよ!」

「え? 鈴?」

「そうだね。 たまには幼馴染達だけで誕生会をするのも有り」

「与一まで!?」

「ダグラス、共也、まだこの時間ならケーキ屋さんも開いてるだろうから行くぞ!」

「室生、行くから待てって!」


 女性陣はトヨさんの許可を得て部屋を飾り付けしてくれて、男性陣は小遣いを出し合って近所にあるケーキ店でケーキを買って戻って来た。


「柚葉、誕生日おめでとう! これは皆が少しづつお金を出し合って買って来た誕生日ケーキだから、一緒に食べようぜ!」

「ダグラス……みんなぁ……。 ありがどう……、ありがとう……嬉しいよぉ……ぅぅ……」

「さあ! ユズちゃん、蝋燭の火を吹き消して!」

「愛璃ちゃん……。 うん……」


 蝋燭の火を吹き消した後に、私達は切り分けたケーキを一緒に食べていると、トヨさんが私の近くに来て話しかけてくれた。


「ユズちゃん、これからも共也ちゃん達みたいな友達をずっと大切にするんだよ? そうすれば今日の様な事があってもきっと寂しい事も無くなるからね?」


 皿に置かれたケーキを食べながら私はトヨさんの言葉を聞くと、部屋の中で談笑している皆を見回した後に頷いた。


「良い笑顔だね、また何かあったらここにおいで? 一緒に綾取りしましょう?」

「うん……トヨさん、今日はありがとう。 また必ず来るね?」


 私はそれから何度か悲しい事があると駄菓子屋のトヨさんに会いに行き、綾取りの相手をしてもらって親交を深めて行った。


 だけど月日が流れ私が高校に入学してからは暫くトヨさんの駄菓子屋に行く事が出来ないでいたが、何故かその日、私は久しぶりに駄菓子屋の前を通って帰ろうとしていた。


「トヨさん久しぶりだけど元気にしてるかな」


 私は久しぶりにトヨさんの顔を見る事が出来る事に少しワクワクしながら向かったのだが、駄菓子屋を見て私は持っていた鞄を地面に落としてしまった。

 駄菓子屋には白黒の横幕が掛けられていて店舗には『喪中』の文字が掲げられていたからだ。


「ト、トヨさん!?」


 私は慌てて中に入ると、そこではトヨさんの通夜の真っ最中だった。


「み、皆に知らせないと……」


 私は駄菓子屋に通っていた仲の良い友達全員に涙声で連絡すると、トヨさんに最後のお別れをする為に皆が来るのを待った……。


「柚葉!」

「皆……」


 皆が揃った所で通夜に参列すると、トヨさんの娘さんと言う年配の方からとても綺麗な1本の毛糸を渡された……。


「これは?」

「あなた、柚葉ちゃんって名前で合ってるかしら?」

「え、ええ……私は柚葉で合ってますが……」


 娘さんによると、その綺麗な1本の毛糸を私に渡す事がトヨさんの遺言書の中にあった願い事の1つだった、と聞かされた私は震える手で毛糸を受け取った。

 そしてその毛糸を強く……強く握り締めて幼馴染のダグラス達と一緒に、その日は声を出して泣き明かした。


 私はトヨさんに貰った毛糸を大切に仕舞い込み、何かある毎に眺めてトヨさんとの思い出を懐かしんでいたのだが、ある思いが湧き出て来た事でその初心を忘れないように毛糸を使って身に付けれる物を作る事にした。


「私もいつかトヨさんの様に他の人に優しく出来て、そして守れるくらい強くなりたい……」


 託された毛糸を【ミサンガ】にして腕に嵌めると、私は強くなると決意してからは様々な古今東西の兵法書などを読み漁って血肉として行った。

 そして幼馴染とも昨日、高校卒業と言う節目で別れを迎えた私だったが、いつものように図書館で読み漁っていると、足元に青白い魔法陣が現れてこの世界に召喚されたのだった。



――――――――――――



(そう言えばあれからだったよね、私が様々な戦術を調べたりし始めたのって)


 死にかけのゴブリン達を足場にして襲い掛かって来るジェネラルやウォーリアを見た私は、薄く笑うと後方にある海へと飛んだ。


 つい先程まで私が居た場所に雪崩れ込んで来たゴブリン達は、海に向かって飛んだ私を驚愕の眼差しで見ている顔がちょっと可笑しかった。


 そして私は固定魔法で海面を固めて足場を作ると、難なく海に降り立った。


「ゴブリン達。 死地にようこそ」


 海に立つ私を凝視して1か所に固まっていたゴブリン達の周りを、火、氷、で出来た糸を網の様に隙間なく周囲を囲い込んだのだが、ジェネラル達は細い糸の魔法糸を持っている剣で切断しようとしていたが、固定魔法で出来た糸が切断出来る訳も無く徐々に剣の方がボロボロになって行った。


 私は奴らが足掻いて暴れている光景を見ながら少しづつ糸を縮めて行くと、地面に拘束されていたゴブリン達は次々と切り刻まれて消滅し魔石となって行く。


 生き残っていたゴブリン達もジェネラルとウォーリアーの悪足掻きによって、次々と自分達を覆う網に向かって投げられて行くが壊れるわけも無く次々と消滅して行った。


「ググググググ!!」


 そうして仲間のゴブリンを投げて殺していた2体だったが、気付いた時には残っているのはジェネラルとウォーリア―の2体だけになっていた。


「グゲア!」

「グガ!?」


 だが最後まで足掻こうとするジェネラルは隣にいたウォーリアーの頭を鷲掴みにすると、糸に投げつけたのだが、その行動はただウォーリアーが菱形に切り刻まれて消滅するだけだった。


「グガアァァァァァァァァ~~~~~~~~!!!!」


 残ったジェネラルも咆哮を上げて自身の持つ剣で糸に切りかかって何とか脱出を試みるが、それも私が糸を完全に縮めた事でジェネラルも菱形に切り刻まれ大量の紫の煙となり消え去った。


「ふぅ~、何と殲滅する事が出来たね……。 トヨさん、私……少しは強くなることが出来たのかな?」


 私は海面に立ちながら、トヨさんに貰った綺麗な毛糸で作ったミサンガを見ながら呟いた。 



ここまで読んで下さりありがとうございます。

今回は柚葉編でした。

次回は“愛璃と室生編”で書いて行こうかと思っています。

まだまだ文章が下手かもしれませんが応援よろしくお願いします。

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