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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
3章・親善大使として親書を届けに。
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【別視点】 金鳴 魅影 編

 【別視点】 金鳴 魅影


 今、私は薙刀を構えながら、自分よりはるかに大きな体躯を持つゴブリンジェネラルと対峙していた。


 最初は挑発に対して怒りを滲ませて私の後を付いて来たゴブリンジェネラルだったが、私の頭の先から足先までを舐め回すように見た後下卑た笑いを浮かべるジェネラルは、先程のお返しとばかりに自身の持つ長剣を私に突き付けた。


(馬鹿にされてますね……。 悔しいですが私の今の実力はゴブリンジェネラルより僅かに下、と言った所でしょうか……。

 ですが私が戦いの中で成長出来る可能性を考えると、このジェネラルを相手にするのは丁度良い相手なのかもしれませんね)


 魅影は自身が持つ薙刀に力を籠めて1度息を吐くと、ジェネラルと同じように再び相手に刃先を突き付けた。

 すると下に見ていた私に再び挑発されると思っていなかったジェネラルは、額に青筋を浮かべると怒声を放ちながら私の目の前まで突進して来ると、力任せに長剣を振り下ろして来た。


「ぐがあぁぁぁぁぁ!!」

「力任せの打ち下ろしなど、受け流してみせます!」


 薙刀を斜めに構えると長剣が薙刀を滑って行き地面に深々と突き刺さった。


「グガ!?」


 長剣を受け流された経験が無かったのかジェネラルは動揺して動きが止まったのを私は見逃さずに、隙だらけとなった腹部を薙刀で切り裂いた。


(な、固い!?)


 切り裂く事には成功したが薄皮を切った程度だったらしく、腹に負わされた傷から人とは明らかに違う紫色の血が少し出ているのを見て、私に殺し切る力が無い事を知ったジェネラルは私を再び嫌らしい目で眺め始めた。


 だが奴にもジェネラルとしてのプライドがあったのか、切り裂かれた箇所を指で撫でて自分の血が付着している事を確認すると、激怒して咆哮を上げた。


『ぐるあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

(嫌らしい目で見て来たり、怒ったりと忙しい生物ですね……)


 ジェネラルに激怒の咆哮を浴びせられた私だったが、自分でも驚く程冷静に聞き流す事が出来ていた。


(さあ……ここからが正念場ですね。 この戦いの中で成長できずに人生が終わるのか、成長してまた一つ壁を超える事で命を繋ぐのか。

 私の経験値となってもらいますよ、ゴブリンジェネラル!)


 咆哮を浴びても動揺せずに武器を構える私を見たジェネラルは先程とは違い、一人の敵と認めてくれたのか先程までの力任せの攻撃とは違い、油断する事無く一定のリズムで攻撃しながらも、私がどう動くのか予測しながら攻撃を加えて来ていた。


(こいつ! 強い!)


 だが私もただ攻撃を受けるだけではなく、所々で攻撃を受け流しバランスの崩れたジェネラルに斬撃を入れて何度も手傷を負わせていたが、私の力ではジェネラルの固い体に致命傷を与える事が出来ずに苦戦していた。


(相変わらず私は非力ですね……。 お婆様から言われて来た事が今になって理解出来てしまうとは……。 お婆様、私はもしかするとここで終わってしまうかもしれませんが、皆を助けるために最悪こいつだけは私と相打ちになってでも討ち取ります!!)


 ジェネラルの攻撃を何度も受けながらも、私は覚悟を決めて薙刀を持つ手に力を籠めるのだった。



――――――――――――


【魅影が中学時代の回想】


 中学生の私は薙刀の家元である実家に併設されている道場で、当主のお婆様(金鳴イネ)に薙刀の稽古を受けていた。


「魅影さん、魅影さん!!」

「はぁ、はぁ。 はい! お婆様、何でしょう?」

「少し休憩なさい、根を詰め過ぎてもいきなりあなたに実力が付くわけでは無いのですよ?」

「でも……。 このままだと家元の跡取りとして、あまりにも情けなくて……」

「確かに今のあなたは道場に通っている兄弟子達にまだ誰にも勝ててないですが、だからと言ってそんな無茶な訓練をした所で力関係が変わる事は無いと分かっているはずですよね?」

「それは……。 分かってします。 分かっていますが……」

「分かっていません! もし、このまま過度な訓練を繰り返すようなら、遠からず体を壊して薙刀を握る事すら出来無くなりますよ?」


 私はお婆様の言葉を聞いても何も言えずに、ただ俯く事しか出来なかった……。


 俯く私にイネお婆様は私の手を両手で優しく包み込むと、柔らかく語り掛けてくれた。


「魅影さん、今は強くなろうと焦ってしまうかもしれませんが、その強くなりたいと願う気持ちを持ち続けて稽古を続けて行く限り、あなたはきっと私より強くなれます。

 ですから(ばば)からのお願い……。 あなたは1歩1歩ゆっくりで良いから、着実に強くなって行って頂戴、薙刀が好きなんでしょう?」


 私の手をお婆様は自分の胸に包み込むと優しい眼差しを向けてくれた。

 その目を見た私は自然と涙が滲んで来て、素直に頷く事が出来た。


「はい。 薙刀が大好きです……」

「なら、魅影さんには私がこれまで薙刀で得た経験や技の全てを教えましょう。 暫くは地道な修行になるかもしれませんが、構いませんね?」

「はい、お願いします。 イネお婆様!」


 その後、私はまずお婆様の薙刀の理論などを示された書物などを読み漁り頭の中で再現して行く。 そして、お婆様の手が空いている時に直接指導を受けていたのだけれども、いつの間にか私は兄弟子達の事を気にしなくっていた。


「えい! はぁ! た!」


 理想の一振りを求めて毎日自分のペースで薙刀を振り続けていたが、学校帰りの途中で菊流さんの家にみんなで集まって漫画などを読んでその内容を楽しく話し合うのも忘れなかった。


 ……これくらいは良いよね? お婆様。


 そして……数年の時が流れた。

 私に薙刀だけでなく沢山の事を教えてくれたお婆様は、高校を卒業する1か月前に病院のベッドの上で最後の時を迎えようとしていた。

 意識が朦朧となって動けなくなったお婆様の手を、中学の時とは違い今度は私が包み込むと必死に声を掛け続けた。


「お婆様! しっかりして! 魅影はここにいます!」

「み、魅影?」


 お婆様は意識が朦朧としている中、私に気が付くと包み込んでいる手とは逆の手を頭の上に乗せると微笑んでくれた。


「魅影……自分のペースで良い……強くなりなさい……沢山の人を守れるくらいに……。

 あなたの成長した姿を見れないのは心残りではありますが、あなたの中には……私が経験して来た沢山の事を残したつもりです……。

 あぁ、魅影……私の大切な孫……。 どうかこれからも健やかに……成長……を……」 

「お婆様ーーー!!」


 私の頭の上に乗せていた手が力なくベッドの上に落ちた、それを見た病室にいた沢山の人達はお婆様に声を掛けたが、お婆様の顔はとても満足そうに微笑んだまま、戻って来てくれる事は無かった……。 




 数日後にはお婆様の葬儀もつつがなく終わり道場の方も私の両親が受け継ぐ事となった。

 私の両親は薙刀の最高指導者となり門下生の人達に指導などを行っていたが、私はお婆様が居なくなってしまった事で何となく気が抜けてしまい、薙刀を握る事すらしばらく止めていた。


 高校の卒業式が終わった事で一区切り出来た私は久しぶりに朝早く道場に入り、お婆様が愛用していた薙刀を手に持ち眺めていると、青い魔法陣が足元に発生しそのままお婆様の薙刀を持ったままこの世界、惑星アルトリアへと飛ばされて来たのだった。


 そして、転移先には卒業式以降もう会う事は無いと思っていた私の大切な仲間達もそこに居た。


――――――――――――

 

 昔の事を思い出した魅影はジェネラルが繰り出す剣での連撃を受け流しながら、祖母が残してくれた助言を思い出していた。


(ふふ……まだそんなに時間が立っている訳でもないのに懐かしく感じてしまいますね……。 お婆様、どうか私に共也さん達を守れる力を……)


 魅影は薙刀を握る手にさらなる力を籠めて立ち向かっていたのだが、ジェネラルの振るう剣を少しづつ……、少しづつだが確実に捌きながら徐々に押し返し始めていた。


『グ! グゲァァァァ!!』


 自分が徐々に押され始めている事に気付いたジェネラルは、遠巻きに見ていたゴブリン達に魅影を背後から襲うように指示を出し襲い掛からせた。


「そんな! このギリギリの戦いの中でゴブリンの相手をする余裕なんて……」


 何匹ものゴブリンが棍棒などで私を殴りに来たため、避けるだけで手一杯となってしまい攻撃する事が出来なくなってしまった。


「この!」

「ゲギャギャギャギャ!」


 ゴブリンとジェネラルの多重攻撃を避けきれなくなった魅影は、少しづつ衣服が切り裂かれて行く。


 所々肌が露になって来た私に邪な感情を隠そうともせずに下卑た笑いを向けるジェネラルに、強がりで微かに笑ってやるとそれが気に食わなかったのか、ジェネラルは頭に打ち下ろしを放って来た。


「こんの! 皆の為にも負けられません!!」


 だが打ち下ろしを避けようにもすぐそこまで迫っていて来た為、薙刀で受け止めるしかなった。

 そうして、打ち下ろしを受け止めた私に、周りに居たゴブリン達はチャンスとばかりに棍棒を私に投擲して来たため死を覚悟した。


(もう駄目、やられる!)


 だがゴブリン達が投げた棍棒が当たる寸前で魅影の体が微かにブレると、先程まで騒がしくしていたゴブリン達が切り刻まれて消滅していった。


(え……一体何が……)


 自身の体から何かが出て行きゴブリン達を消滅させた。

 その消滅させた者を見た時、私は目から涙が溢れそうになった。


『お婆様!!』


 それは私の知るお婆様よりかなり若く、30歳半ば位の黒髪をポニーテールにしている女性だったが一目見て、私はその人物が祖母のイネだと気付いた。


⦅御影……頑張りなさい⦆


 若いお婆様の容姿を模した分体は、周りにたむろしていたゴブリン達を瞬く間に切り刻んで討伐するとその言葉を残すと、空気に溶ける様に消えて行った。


(お婆様……あなたのくれたこの好機無駄にはいたしません!!)


 涙をボロボロになった和服の袖で拭い、周りに邪魔者がいなくなった魅影は先程と同じように薙刀を振るい、ジェネラルを少しづつ押し始めた。


「いやああああぁぁ!」


 信じられない物でも見るかの様に魅影を見ていたジェネラルだったが、最後は握っていた剣を逸らされた所に薙刀の先端が喉に突き立った。


『グ、グブ!』


 口から血を吐きだしたジェネラルは、薙刀を突き付けられた事で穴の空いた喉を必死に押さえていたが、すでに致命傷だったため私はそのままジェネラルの首を落とし消滅させようと近づこうとしたが、何を思ったのかジェネラルは手を前に突き出し〖来るな〗と言うジェスチャーを私にして来た。


「何のつもりですか?」


 だがジェネラルは何も答えずに口から血を吐きながら立ち上がると、自身の持っていた剣を地面に突き立てると右手を胸の前に翳し頭を下げて来た。


「まさか、あなたを打倒した私に敬意を払ってくれているのですか?」


 コクン


 ジェネラルは一度頷くと限界が来たのかそのまま消滅してしまい、立っていた場所には拳大の魔石が転がっていた。


「私を認めてくれてありがとうございます……。 あなたと戦ったこの経験は無駄にしないと誓います」


 私はジェネラルの魔石を拾い上げると共也達と合流するために、再びハーディ皇帝達がいる戦場へと移動を開始するのだった。


(お婆様……。 私を見守っていてくれて、ありがとうございます……)


 私はボロボロに引き裂かれた衣服を押さえながらも、守ってくれた祖母に対し感謝するのだった。



少し魅影の場面を書いてみました。

次回は柚葉編を書いてみようかと思っています。

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