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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
3章・親善大使として親書を届けに。
73/286

共同戦線を。

 メリムと名乗った海龍の指定した時間が迫って来ていたが、港にある赤い屋根の倉庫を全て捜索したが、未だにそれらしい小箱が見つかっていなかった。


「く……まだ見つからんのか! 指定された時間まで、もう無いぞ! 急げ!」

「は!」


 焦りを含んだシグルド隊長の怒声が港に響き渡るが、兵隊達がいくら倉庫の中をひっくり返しても目的の小箱が見つかる事は無かった。


「陛下! カムシンを連行して来ました!」

「良し! ここに連れて来い!」


 ハーディ皇帝は事前に卵を密輸したカムシンを連れて来る様に指示をしていたらしく、厳重に監視された護送車の中から出て来たカムシンは、両手や足をを鎖に繋がれた状態で跪かされた。


「カムシンよ海龍達が指定した時刻まで余裕が無い。 密輸した海龍の卵をどこに隠した、素直に話せ」


 カムシンは震える手で、自身の右手側にある一つの倉庫を指差した。


「あそこの倉庫の床下に小さく穴を掘り、そこに隠してあります……」


 その言葉を聞いた兵士達は、慌ててその倉庫の中の床を調べると、確かに一カ所だけ微妙に色の違う石材が使われている場所があった。


「ここか?」


 その床を見つけた兵士が隙間に剣を突き刺し石材を剥ぎ取ると、小さな小箱が置かれているのを見つけるのだった。


「陛下、ありました! 小箱です!」


 カムシンが言った様に床下から小箱を発見した兵士は、ハーディ皇帝へ手渡した。


「良し、この中にある卵を海龍達に返却すれば何とかな『なってもらっては困るのですよ陛下?』な!」

「陛下! 私の後ろへ!」


 何とか海龍達の指定した時刻に間に合った。

 そう安堵して油断していた俺達の背後から、ハーディ皇帝の台詞に被せて来た人物は黒のローブを纏って立っていた。

 そして、その人物の手には小さな箱が……。


 え? あの箱は今さっきハーディ皇帝に手渡されたはずじゃ……。


「貴様、その小箱の重要性を知っているという事はアポカリプス教団の者か!」

「はて、私がその様な団体の者だとどうして判断出来るのですかな?」

「なら何故私からその小箱を奪った! その小箱を海龍達に返されると計画が頓挫してしまうからでは無いのか!?」

「いやいや、私はただ単にこの箱が欲しくて『グノーシス殿! その声はグノーシス殿なのであろう? 私だ、カムシンだ! た、助けてくれ!』……はぁ」


 カムシンが黒のローブを着た人物の名を暴露しただけでなく助けを求めたが、彼は助けを求める声を聞くと呆れて溜息を吐いた。


「グノーシス殿。 あなたの依頼を受けたせいで、私はこのような惨めな恰好になってしまったのだ。 も、もちろん私を助けに来てくれたのであろう?」


 ハーディ皇帝から小箱を奪った黒のローブを着た人物の事をカムシンはハッキリと【グノーシス】と呼んだ事で、この場にいる人達全員に緊張が走った。

 それは、先程謁見の間で壊滅されられた小国の話しの中に出て来た人物の名が、まさにこのグノーシスの名だったからだ。


「……困りますねぇ、カムシン殿」

「グノーシス殿?」

「満足に依頼を達成する事も出来なかった上に、まさか私の名をこんな公衆の面前で暴露するとは……。

 そんな簡単なお使いすら満足に出来無い役立たずのお前を、何故私が助ける必要がある?」

「待って、待ってくれグノーシス殿! 私は私なりにあなたの期待に応えようとして!」

「やかましい! 貴様が暗黒神様の復活に役立てないと言うのならば、供物として少しは役に立ってみせなさい!!」


 怒声を上げたグノーシスが手に魔力を集めるとカムシンに向けて漆黒の矢を打ち出したが、シグルド隊長が間に立ち塞がると、青いオーラを纏う槍で薙ぎ払うと漆黒の矢は砕け散った。


「おや? 罪人を処刑する手間を省いてさし上げようと思ったのですが、その役立たずを助けてもよろしかったので?」

「こいつをどの様に裁くか決めるのはこの国の法律であって、お前じゃない。 それに、罪と言うならお前もだろう?」

「はて? この小箱の中に入っている物をこの国に持ち込んだからと言って、何故私が罪に問われるのでしょうか?

 海龍達が攻めて来たのは偶々であって」

「嘘を言うのもそこまでにしておけ。 海龍に壊滅させられた小国で、貴様を目撃したと言う情報が沢山上がってるんだよ」

「…………なるほど。 王家の者達の口は封じましたが、あの海龍達の攻撃を生き延びた市民達がいたのですね。 ……ふむ。 確かにそう言われると否定出来る材料が見つかりませんね。 まあ私が小国を滅ぼしたと言われても、今更ですがね?」

「意外だな。 もっと色々と誤魔化す事を言うのかと思っていたが、あっさり認めるとは……」

「フッフッフ」


 未だに薄笑いを浮かべながら海龍の卵が入っている小箱を手に持っているグノーシスに対して、シグルド隊長は槍の先端を向けたまま警戒を解かない様にしている。


「さてグノーシス、その小箱をこちらに渡してもらおうか」

「構いませんよ? 色々な対象者をこの空間に集める目的は達成した以上、こんな物に用はありませんしね」

「何だと!?」

「では、どうぞお受け取り下さい。 落としたら割れてしまうかもしれませんよ?」


 グノーシスは手に持っていた小箱を、シグルド隊長に向けて放り投げると同時に奴の足元に赤い魔法陣が展開された。


「貴様!」

「私に構っていて良いのですか? 箱が落ちてしまいますよ?」


 小箱を落下させる訳にもいかないシグルド隊長が慌てて受け取ると、奴の足元に展開されている魔法陣が発動しかけているのか強い光を放ち始めていた。


 そして、グノーシスは両手を上げて宣言した。


「さあ、皆さん、ここから去る私から『試練』と言う名の贈り物を送らせて頂きます!」

「試練?」

「そう! そして、見事私からの試練を乗り越えて再会する事が出来たならば、お茶でも一緒に飲んでお話しでもいたしましょうか」


 その訪れるかもどうか分からない場面を想像しているのか、グノーシスは頬を染めて口の端から涎を垂らしていた。


「待て! 試練の贈り物とは何だ! 貴様の目的は一体なんだ!?」

「私の目的は常に1つ、暗黒神様に復活してもらい人類を救う……。 それだけですよ」


 グノーシスは薄ら笑いを浮かべながらそう俺達に言い残すと、転移の魔法陣を発動させてこの場から消え去ってしまった。


「逃げたか……」

「ハーディ……。 あいつの言う試練とは一体何を指しているのだと思う?」

「分からん。 分からんが碌でもない事は確かだろうな……。  兵達よ何が起こるかわからん、周辺への警戒を強めよ! シグルド、箱の中に入っている卵が無事か確認をしてくれ」

「そうだった」


 シグルド隊長が箱の上部を音も無く綺麗に切り裂くと、蓋が徐々にずれて行きマリと同じような卵がそこに入っているのが見えた。


 前回と違う点は蓋の裏に禍々しい魔法陣が刻まれていた事だった。


「しまった!」


 シグルド隊長が蓋を手に取ろうと伸ばすがそれも叶わず、やたらとユックリと落下する様に見えた蓋が地面に落下すると渇いた音を響かせた。


〖コーーン!〗


 その蓋が地面に落ちると同時に、刻まれていた魔法陣の術式が発動してしまい爆発的に広がって行くと、城下町や港の全てを魔法式が覆いつくしもまだ広がり続けている。


「でかい……。 どこまで広がり続ける気だ……」


 ハーディ皇帝の呟きが聞こえたのかようやく広がる事を止めたその巨大な魔法陣は、雲に届くんじゃないかと言う程に大きく尚且つ様々な幾何学模様で構築されていた。


「おい、この魔法陣。 海龍達が集まっている湾の外にまで広がっているぞ!」


 どうやら海龍達もこの魔法陣に閉じ込められた様で、湾の入り口を見てみるとこの魔法陣によって出口が封鎖されてしまった様で出る事が出来なくなっていた。

 海龍の何匹かが魔法陣に体当たりや水弾を撃ち込んで破壊を試みるが、全く壊れる様子が無いので完全に魔法陣の中に閉じ込められてしまった形だ。


「海龍達ですら魔法陣の破壊は無理か……」

「陛下! 避難をしていた国民達も魔法陣の外へ出れないらしく、避難する事が出来ないみたいです!」

「おのれグノーシス。 このような巨大な魔法陣で我々を閉じ込めてどうするつもりだ……。 ただ閉じ込めた訳では無いだろうに……」


 海龍達も突然魔法陣によって閉じ込められた為か、状況が把握出来ずに右往左往しているみたいだけど、俺達も今何が起きているのかさっぱり分からないから、どうしようもない……。


「シグルド殿、その卵は俺に預からせてもらっても良いか? その卵だけは俺の手で守り抜いて、この騒動が終わったら海龍達の元に返してやりたいんだ……」

「ダグラス君……」


 ダグラスの決意の籠った言葉を聞いたシグルド隊長は、彼にこの卵を預けて良いのか悩んだ様だが、最終的に小箱を託す事に決めたのだった。


「ダグラス君。 その箱には沢山の人々の命が掛かっている、投げ出すんじゃないぞ? この騒動が終わったら、ちゃんと君の手で海龍達に返してやってくれ」

「ああ、シグルドさん、必ず海龍達にこの卵を渡す事を誓うよ!」


 シグルドさんから小箱を受け取ったダグラスは、卵が壊れない様に綿などを詰めて厳重に固定すると、自身の背中に背負った所で、兵士達から騒めきの声が上がり騒がしくなり始めた。


「シグルド隊長! 街のあちこちから火の手が上がってます!」


 竜騎士の一人であるアレンが飛竜に乗って空から街を見渡すと、様々な所から火の手が上がり始めていのが見て取れた。


「何だと!? 市民達は避難している最中なのだから火の手が上がるはずが……」

「いえ、火の消し忘れとかじゃありません。 魔物です! 魔物があちこちから湧き始めて、火をつけて回っています!」

「魔物が何故街中に……まさかこれがグノーシスの言っていた試練か!? 魔法陣で我々を閉じ込めた上で、魔物を呼び出すなど人のする事では無いぞ!!」


 シグルド隊長は激高し、蒼く輝く槍を強く握り締める。


「落ち着けシグルド、兵士達が付いているのだから市民達がすぐにどうこうなると言う事は無いだろう。

 だが強力な魔物が出現した場合、一般の兵士達だけでは対処出来ない可能性が高い。

 シグルド、お前が市民達の護衛隊長として国民達を城へ避難するように呼びかけてくれ。 我が国の英雄と呼ばれるお前が声を掛けるならば、素直に言う事を聞いてくれるはずだ。

 これはお前にしか頼めない事だ、行ってくれるか?」


 シグルドさんはハーディさんに頼まれた以上は行きたい気持ちが強かったが、もしこちらに強力な魔物が来た場合、今いる兵士達で彼を守り切る事が出来るのか分からなかった為、悩んでいた。


「ハーディ、市民達を守りに行っても良いが。 お前の護衛はどうするんだ?」

「ふ、ハーディか懐かしい呼び名だな昔は良くそう呼んでくれたのに、今のお前ときたら部下となってからなかなか言ってくれないから寂しく思うぞ?」

「茶化すな、緊急だからこそ昔の呼び方でお前を呼んだのだ」

「悪い悪い、俺はここに兵士達と共に残る事にするよ。 卵の心配もそうだが、グノーシスがわざわざ海龍達まで魔法陣の中に閉じ込めた理由が気になるんだ。まあ碌な理由では無いだろうがな……」


 シグルド隊長は、未だに魔法陣の壁に体当たりなどして破壊を目論んでいる海龍達を見るが、全く壊れる様子が無い事に少し残念な気持ちだった。


「確かに気になるな……。 ダグラス君、卵は当然としてハーディの事も頼む。 私は市民達の避難誘導をする為に向かう事にする」

「任せて下さいシグルドさん! 卵もそうだがハーディ皇帝もキッチリ守り切ってみせるさ」

「任せた! ハーディお前も剣が使えるのだから少しは働けよ!」

「五月蠅いわ! さっさと行け!!」

「はは! 生きてまた会おう! ティニー、クルル、オイフェ、アレンお前達はハーディの護衛に付いてくれ。 グノーシスは『試練』と言ったのだから、こんな少数の魔物を呼びだすだけで終わる訳が無いはずだ」

『わかりました! 隊長も国民達の避難誘導が終わったら、お早くこちらに合流を!』

「分かった、では行ってくる!」


 シグルド隊長は飛竜のフィーに跨ると、都市の出口から脱出しようと集まっている民衆達を、城へ誘導する為に飛んで行った。

 

「さて、シグルドが居なくなった今、これから何が起こるのか……」


 ハーディ皇帝の呟きが静かになった倉庫街に響き渡ったので、俺達の緊張感を高めて行った。


 遠くの方でシグルドさんが国民達に襲い掛かろうとした魔物を、フィーのブレスで焼き払っているのか戦闘音や魔物の絶叫がここまで聞こえて来ていた。

 だが、こちらは未だに目立った変化も無く今までと同じ様に倉庫街は妙な静けさに包まれていた。

 だが鈴が海龍達の異変を見つけたらしく警戒を呼び掛けた。


「ハーディ様、海龍達の様子が変だよ! 緑色の何かと戦闘してるのか暴れてる!」


 鈴の言葉に俺達は再び海龍達が集まっている湾の外を見て見ると、緑色の体を持つ何かに纏わりつかれて、必死に振り払いながら戦闘をしている海龍達の姿が目に入って来た。


「あれは遠くて良く見えないが、あの緑の体からしてマーマン……か?」

「その様です、徐々に増えているらしく、海が緑色に染まり始めてます!」

「海龍達を襲う事に何の意味があるのか分からんが、黙って見過ごす訳にはいかん! アレン、危険かもしれんが海龍達にこちらへ避難する事を呼びかけに行く事は可能か!?」

(素直に来てくれるとは思えんが、見殺しには出来ん……)


「お任せ下さい! それではメリムと名乗った海龍と交渉して来ます!」

「頼んだ!」


 アレンさんは海龍達が襲われている場所に飛んで行くと、進路上にいたマーマン達を飛竜のブレスで焼き払っていたが次々に湧いているらしくきりが無い。

 海龍達の上空に到達したアレンさんはメリムと交渉しているのかしばらく旋回していたが、少しするとこちらに戻って来た。


「アレン、メリムは何と?」

「このマーマン達が襲って来ている状況は私達の仕業かと聞かれましたが、こちらも知らない事だと伝えると、渋々ですがこちらに来てくれる事を了承してくれました。

 すぐこちらと合流しに向かって来るそうです」

「よし! まずは海龍達に纏わり付いているマーマン達を駆逐するぞ!」


 ハーディ皇帝は腰に帯びていた剣を抜いて上に掲げると、アーダン船長を含む港に停泊している全ての船舶に告げた。


「この港に止まっている全ての船舶よ。 お前達の船を今この時だけ接収する、訳も分からず魔法陣に閉じ込められてしまう混乱しているかもしれぬが、海に生きる者達よ生き残りたければ足掻け!!」


『うぉぉぉぉぉ~~~~~~!!!! やるぞお前ら~~~!!!』


 港に停泊して成り行きを見ていた様々な船から、怒声のような歓声が上がり慌ただしく戦闘準備が整えられていく。


 俺達もマーマン達を迎え撃つ準備を整え終わると、海龍達がこちらに向かって移動を開始したのか少しづつ紫の塊が湾の中に入って来た。


「ハーディ様、メリム達がこちらに向かって移動を開始した様です!」


 纏わりつこうとするマーマンを撃退しながら港の岸壁に辿り着いた海龍達は、こちらを攻撃する様な素振りを一切見せずに、こちらをその鱗と同じ紫色の目で俺達の事をジッと見つめていた。

 そして最後の海龍が湾の中に入って来たのを確認すると、アーダン船長が操る大型船などで湾を封鎖してしまい、これ以上海龍が襲われない様にマーマン達の行く手を阻んでいた。

 マーマン達は攻撃対象を海龍から邪魔をする大型船舶に変更したようで、船上では昇って来たマーマン達と激しい戦闘が始まっていた。

 

(人間達よ、本当に今回の事は貴様等が仕組んだ事では無いのか? それに、我々を守るとは一体……)


 メリムは疑念を含んだ念話を俺達に飛ばして来たが、俺達も何故グノーシスがこんな事をしたのか分からないので、応えようにも何と言って良いのか……。


 その為ハーディ皇帝が分かる範囲内で説明をし始めた。

 卵を盗んだのは1部の人間がした事、この魔法陣で我々を閉じ込めた事もその人間が何か目的があってした事を告げると、全部では無いが納得してくれたらしく、この試練が終わるまでは休戦する事に同意してくれるのた。


「この試練とやらが終わるまでの間だが、メリム生き残ろう」

(あぁ!)


 こうして俺達と海龍達は急遽共同戦線を組む事になり、この理不尽な試練を乗り越える事を目指すのだった。


グノーシスによって他国と同じように全滅させられるのでしょうか?

次回は“決死の覚悟”で書いて行こうかと思っています。

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