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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
3章・親善大使として親書を届けに。
72/285

一族の子供を。

 俺達の前には、今回アーダン船長の船を使い海龍の卵を密輸させたカムシンを断罪している所だったのだが、彼の口から密輸を指示した首謀者の名が語られた事で場は騒然としていた。


「アポカリプス教団の教祖グノーシスだと? 私は聞いた事が無いがジィ……、ターネルは聞いた事があるのか?」


 ハーディ皇帝はアポカリプス教団の事を、本当に聞いた事が無いらしく首を捻ったりしていたのだが、宰相のターネルさんはアポカリプス教団の事を知っているらしく、顔色が一気に変わりカムシンに再度尋ねた。


「カムシン! 貴様、教祖のグノーシスから海龍の卵を【()()】密輸するよう依頼を受けた!?」


 ターネルさんは焦りを含ませた怒声を、何も分かっていない顔をしているカムシンに向けた。


「え。 ターネル様、何をそんなに怒って……たかだか海龍の卵をこの国に持ち込んだくらいで……」

「今ここで切り殺されたく無ければ私の質問にさっさと答えんか!!」

「ひ! 3……いや、4個です……。 2つほど港まで来る事が出来ずに沈没しましたが、1つはその下民の手に。 もう1つは港の倉庫に隠してあります」


 それを聞いたターネルさんは、顔を真っ青にして頭を押さえていた。


「き、貴様は何という愚かな事を……」

「ターネル?」

「陛下……。 今すぐに都市全域に緊急事態宣言を発令してください。 海龍の大群がこの港町に攻めて来ます……」

「何だと!?」

「シグルド殿、1匹の海龍が重傷を負いながらも海に潜って撤退して行った、と貴殿の報告書の中に書かれてあったが、それは真か?」

「ええ、首を半ばまで切断されていたので、もう長くは無さそうでしたが……まさか?」


 シグルドの言葉を聞いたターネルは心の中で呟いていた(もう時間が無い!)と。


「陛下、一刻も早く民に港からの避難を呼びかけて下さい。 恐らくもうそれ程時間が無いはずです」

「ちょっと、ちょっと! こっちらにも分かるように説明してくれないかしら? 自分だけ分かってる顔で話を進められても、何の事を言ってるのかさっぱり分からないじゃない!」


 ジュリアさんの言葉を聞いたターネルさんも、少し冷静になったらしく、佇まいを正すと先程とは違いこちらにも分かるように説明をしてくれた。


「ジュリア殿、あなたがエルフなら知っていると思いますが、普段海龍は大人しくおいそれと人に危害を加える様な事はほとんどありません。 ここまではよろしいか?」

「ええ、その事は私も良く知っている情報ですね。 それで?」

「しかし、海龍達が大群で人の住む街を襲う事があるのです」

「まさかそれが今回の事例に当てはまると?」

「はい、何故海龍達が人の街を襲うのか。 その理由が自分達の子供に命の危険が迫った時なのです」

「あ、それで海龍の卵が密輸された=子供の命が危ないってなるのね」

「そうです。 特に今回は複数の海龍の卵を奪われましたからな。 海龍達の怒りも相当なものでしょう。 それをこの何も知らない馬鹿が密輸と言う最悪な手段で我が国に持ち込んだ事で、海龍達の怒りは我が国に向かって来る事となるのです……」

「じゃあ、ダグラス君に首を切られて撤退した海龍は仲間を呼びに?」

「はい、恐らくそれで間違い無いでしょう……」


 ジュリアさんはターネルさんの説明を聞いて、なるほど……。 と思ったが、彼の説明はまだ終わらない。


「そしてカムシンが本当に港の倉庫街に卵を隠しているならば、その気配をたどって大勢の海龍達が子供を取り戻すためにこの国を襲撃しに来るでしょう……」

「そこまでの事を海龍達が!?」


 ジュリアさんもターネルさんから聞いたその情報を聞いたのは初めてだったのか、目を大きく見開いて驚いていた。


「私も長く生きているので海龍達の習性知っているつもりでいましたが、その情報は初めて聞きました。 ターネルさん、その情報は一体何処から?」

「実は、我が国の周りにある小国のいくつかが1夜にして壊滅した事が有ったので、情報部に調べさせていたのですが、その時に上がって来た報告書の中に載っていました。

 どうやら今回と同じく海龍の卵を密輸して、海龍の襲撃を受けて灰巨となってしまったみたいなのです。

 何とか生き残った人達の証言では、海が大量の海龍達によって紫に染まっていたらしいです」


 小国が壊滅……。

 しかも壊滅させられた原因が海龍の卵を密輸した事だと言うなら、ターネルさんの言う通りこの都市も危ないのかもしれない。


「しかも報告書に載っていた情報はそれだけでは無いのです。 その小国では、先程カムシンが語ったアポカリプス教団のグノーシスと言う名の者が、王家に接触した居たと証言が上がって来ています……」


 その報告を聞いたジュリアさんが、方眉を上げてターネルさんを睨みつける。


「ターネスさん、それが何年前に起きた事か知りませんが、その情報を冒険者ギルドと共有していませんよね?

 私は常に各地にある冒険者ギルドの報告書を読み漁って来ましたが、国が壊滅するような情報が載った報告書を読んだ記憶がありませんよ?」

「確かに私の国が得たこの情報を冒険者ギルドに上げていませんが、我が国の諜報部が得た情報をホイホイと渡す訳にはいかないでしょう?

 もし情報を流した事を恨まれでもしてこの国がグノーシスのターゲットにされても困りますからね。

 それに、小国とは言え国が壊滅してしまったほどの情報を把握して無いのは、流石に冒険者ギルドの内部に問題があるのかもしれませんな?」

「な! 冒険者ギルドにアポカリプス教団のスパイがいるとでも?」

「間違い無いでしょうな。 でなければ国が滅んだ情報を、あなたが知らないなど有り得ないでしょう?」

 

 ジュリアさんはターネルさんの指摘を受けても、否定出来る要素が何も無いので黙る事しか出来なかった。


「ターネルさん、あなたの言う事が真実なら、今回この国に海龍の卵を持ち込まさせたと言う事は、奴の今回のターゲットはこの国と言う事で間違いなさそうですかね?」

「としか考えられませんな……。 カムシンの口からグノーシスの名前が出て来た時に、報告書の内容が頭を駆け巡りましたからな。

 奴が何故、海龍達を利用して国を壊滅させるのか、その理由は分かりませんが同じ手口を利用している以上、奴の計画はすでに大詰めと言う所でしょうか……?」


 ジュリアさんは、手荷物に入っていた羊皮紙を取り出すと、先程聞いた話しを凄い速度で記載し始めた。


「ハーディ様、ターネルさん、すでに遅いかもしれませんが、この情報を冒険者ギルドの各支部に流させて頂いてもよろしいですか?」

「それは構わんが、今回の情報もスパイによって握り潰される可能性があるのではないか?」

「それは大丈夫です。 今回のこの情報に関しては、私に与えられた特殊な押印を使います。 もし、スパイが私の書類を抹消しようとした場合は……。 命をもって後悔する事となるでしょうね」

「そうか。 そなたは数人しかいない冒険者ギルドの特別顧問だったな」

「……普段は優しくて綺麗な受付嬢をしているのですから、内緒にしておいて下さいね?」

「……自分で言ったらありがたみが薄れてしまうぞ?」

「それ以上言ったら怒りますよ?」


 ジュリアさんは凄い速度で書類を書き上げると、俺達とは別行動をすると告げると、各支部に情報を転送する為にケントニス帝国にある冒険者ギルドに急いで向かって行った。


「君達に謝罪する為にわざわざこちらに呼び出しておいたのに、君達を我が国のゴタゴタに巻き込んでしまってにはすまない。 だが、少しだけ兵士達に指示をする時間をくれぬか?」

「ハーディ皇帝、俺達に構わずに国民を守る為の指示を出して下さい!」

「済まぬ、すぐ指示を出してくるから待っててくれ」


 ハーディ皇帝が待機していた兵士達に街の人達を避難させる指示を出すと、兵士達は慌てて指示された場所の人達を逃がす為に走って行こうとしたが、俺達の居る謁見の間の扉が勢いよく開かれた。


「ハーディ陛下!! 失礼します!」


 一人の兵士が慌てた様子で、室内へ飛び込んで来た。


「何事だ! 今は他国の使者と会談中だぞ!」

「はい、それはわかっていますが緊急事態です!」

「何だと!? まさか、もう……?」

「沖合を巡回していた竜騎兵が、海龍の大群がこちらに向かって来ているのを確認しました。 今大急ぎで港町に住む民達を避難誘導をしている所です!」

「遅かったか……」


 ハーディ皇帝は椅子から立ち上がると、兵士達に国民達を集める場所をこの城に誘導するように告げると、解決策を考える為に再び玉座に座り直した。


「クソ! 何か、何か今回の事を穏便に解決出来そうな良い考えは浮かんで来ないのか!!」


 ハーディ皇帝が頭を抱えている中、シグルド隊長は今回の原因を作ったカムシンに近づいて行った。


「カムシン。 貴様が何も考えずに行動した結果が、こうしてケントニス帝国を揺るがす大事件となってしまった……。 今どんな気持ちか聞かせてくれないか?」

「シ、シグルド殿、私は海龍の卵を密輸だけで、悪いのは密輸を指示してきたグノーシス様であって、わ、私は悪く無い……」

「貴様! この期に及んで、まだその様な戯言を!! もう貴様の顔など見たくも無いわ!!」

「ひ、ひぃ!!」


 シリウス伯爵は、息子のあまりの醜態にとうとう我慢が出来なくなり、カムシンの首を刎ねようとして剣を振り下ろすが、シグルド隊長の槍で受け止められた。


「シグルド殿、この男の首を落とす事を何故何故止める!?」

「落ち着きなさいシリウス伯爵。 今この男を殺されると困るのだ」

「だがこの愚息は、ケントニス帝国を存亡の危険に晒しているのだぞ!」


 鍔迫り合いしている2人の後ろからターネルさんが、何故今カムシンに死なれると困るのかその理由を話し始めた。


「シリウス殿、こやつはまだ残り1個の卵を倉庫街のどこかに隠している。 それを早急に見つける為に、今こいつに死なれては困るのです。

 今回の事件が無事収束したなら、こやつの首を刎ねる事に口を出す事はしませぬ。 だからそれまでは我慢して下され」

「グ、ク!! カムシン、その命は少しの間預ける。 だからさっさと残りの卵の場所を吐け!」


 ターネルの言葉に剣を収めたシリウス伯爵はカムシンの胸倉を掴み上げると、何処に隠しているのか問い詰めると観念したのか倉庫の特徴を口にした。

 だが、卵を隠してある倉庫の特徴をカムシンが口にしたのだが、赤い屋根と言う曖昧な内容だった為、ハーディ皇帝は大勢の兵士達に先行して探すようにと指示を出して向かわせた。


「こ奴を連れて港に赴くしか、卵の場所を特定する事は困難か……」


 ハーディ皇帝は頭を押さえて玉座に深く座り込むと、何故かジッとエリアの顔を見つめていた。


「今更だが、そなたはシンドリア王の次女、エリア王女でよろしかったかな?」

「は、はい。 エリア=シンドリア=サーシスと言います。 遅くなりましたがこれが父からの親書になります」


 事前にエリアに預けていた親書を彼女が取り出すと、ハーディ皇帝に手渡した。

 するとハーディ皇帝は、その場で手紙を広げて始め読み始めた。


「ふ。 相変わらずグランクらしい(ふみ)だな……。 もう少し時間的余裕があれば、この文からアポカリプス教団の対策も出来たのだろうが、今更だな……。

 良いだろう、君達には竜騎兵を数名を付けるから、今からノグライナ王国へ向かいなさい」


 え? 今からノグライナ王国にって、これから海龍達が攻めて来るから、少しでも戦力が必要なんじゃ……。


「今から海龍達の大群が襲って来るなら、少しでも戦力が必要なのでは……?」

「今回の海龍達の襲撃は、我が国の貴族の1員が起こしてしまった事柄であり、君達は巻き込まれただけに過ぎない。

 大量の海龍を相手にする以上私達も無事では済まないであろうが、自分達の国くらい今ある戦力で何とか防衛してみせるさ」


 嘘だ……。

 小国とは言え国を破壊し尽くす海龍の群れを相手にして、魔国との戦争で疲弊しているこの国が耐えられるとは思えない……。


「だから君達はノグライナ王国向かい、まだアポカリプス教団の脅威を知らない者達に、奴らの恐ろしさを知らせてやってくれ……。

 カトレア、使者達を運んでくれる竜騎士達の元へ案内して差し上げろ」

「はい、皆さんこちらに」


 カトレア姫に案内された場所には、ノグライナ王国まで運んでくれる予定の竜騎士達が相棒のワイバーンと一緒に、俺達を出迎えてくれるのだった。


「皆様、こちらの者達を紹介させていただきます。 左からティニー、クルル、オイフェ、アレンこの4名が皆様をノグライナ王国へご案内いたします。

 私は海龍達の対応で戻らないといけないので、ここでお別れとなります。

 魔国との闘いは熾烈な物になるでしょうが、私はあなた方の勝利を祈っています。 どうかこのアルトリア大陸に住む者達の命をお救い下さい……」


 カトレア姫は1度俺達にお辞儀をすると、名残惜しそうにしながら王宮の方に戻って行った。


「さあ皆さん、飛竜の背に乗って。 ノグライナ王国に向けて出発しますよ」

「あ、はい……」


 残された俺達は4人の竜騎兵の操る飛竜の背に次々と乗り込むが、この国の事が心配で心が晴れる事は無かった。

 そして、ノグライナ王国へ向けて出発しようとワイバーン達が羽ばたき始めると、ダグラスがいきなり飛竜から飛び降りると、苦笑いしながらこちらに振り向いた。


「……悪いみんな……。 俺を置いて先に行ってくれ……」


 そんなダグラスの口から出たのは、俺達との別れの言葉だった。


「ダグラス、お前は何を言ってるんだ!」

「室生、俺はターネルさんの話を聞いてからずっと考えてたんだ、もし海龍達が攫われた子供を助けるために船を襲撃したのだとしたら、海龍の首を切りつけた俺はカムシンのクソ野郎の手伝いをした事になっちまう……。

 だからせめて、もう1個の残った卵だけでも俺の手で海龍達に返してやりたい……」


 ダグラスは自分の手の平を眺めながら自分の想いを俺達にぶつけると、背を向けて去ろうとしていた。


 ダグラスの想いを聞いた俺は1度大きく溜息を吐くと、飛竜の背に乗せてくれていたオイフェさんに自分も残る事を伝えると『しょうがないな!』と嬉しそうに、皆も乗せて貰っていた飛竜の背から飛び降りるとこの事件が片付いたら『皆で』ノグライナ王国に向かう事にするのだった。


「お前等……。 すまん……」

「恰好を付けすぎだよダグラス、もしカトレア姫がここに残ってたら、お前に惚れてたんじゃないか?」

「アハハ、あり得る~!」


 室生の冗談と鈴の笑う声が辺りに響いた事で、少しは重い空気が少し和らいたのだが、これから来る海龍達にどう対処するべきかずっと考えていた。

 

「皆さん。 ケントニス帝国のため残ってくれて、本当にありがとうございます。 大した事は出来ませんが、せめて皆さんを港まで運ばさせて下さい!」


 ティニーさん達の申し出をありがたく受けた俺達は再び飛竜の背に乗り込むと、今度は港を目指して空に飛び上がった。


「ひ、ひえええぇぇ。 た、高い!!」

「共也、水平線が紫に染まり始めてる!」

「本当だ……」


 上空に飛び上がった俺達だったが、鈴が指さした水平線には多くの海龍達がケントニスの港を目指してる泳いでいる姿が目に入って来た。


「海龍達があんなに沢山……。 時間がありませんので、このまま直接港の倉庫街に向かいます!」


 クルルさん達が、飛竜に滑空の指示を出した事で、凄まじい風圧を感じながら俺達は倉庫街にすぐ着くことが出来た。


「戦う前に死ぬかと思った……」

「お前等、何故ノグライナ王国に向かわずにこっちに来た!!」


 そこではハーディ皇帝が、港に建てられている全ての倉庫を兵士達が調べていたが、まだ卵が見つかっていないらしく、焦燥感が現場を覆っていた。


「クルル、オイフェ、ティニー、アレン、お前達にはこいつ等をノグライナ王国に送り届けろと命令したはずだぞ! それに海龍達がすでに湾外を埋め尽くし始めているのが見えないのか!」

「だからですよ……。 すでに俺達は今回の事件に巻き込まれているのに、あなた達を見捨てて行くなど出来る訳が無いじゃないですか。

 それに俺達は知らなかった事とは言え、カムシンの海龍の子を攫う片棒を担がされたんですよ?

 海龍達が子供達を大切にする種族だと知ってしまった以上、せめて自分達の手でその子を親に返してあげたいと思うのは当然じゃないですか。

 ハーディ皇帝、例えばですがカトレア姫が賊に攫われた場合、血眼になって取り返そうとするのでは?」


 例えをカトレア姫で表したのが良く無かったのか、ハーディ皇帝の目に血管が浮き出して来ると怒り始めた……。


「当たり前じゃないか、何を当然の事を! まさか君はエリスの事を攫うつもりでいるのか? そんな事許さんぞ!?」

「分かった! 分かりましたから! 例えが悪かった事は謝りますから落ち着いて下さい、ハーディ皇帝!!」

「はぁ、はぁ…。 済まん、取り乱した……」


 落ち着きを取り戻したハーディ皇帝に、何故俺達が港に戻って来たのか、その理由をダグラスが身振り手振りで伝えると、何とか防衛線に参加する事を許可された。


「分かった、だが無茶だけはしないでくれよ。 君達には重要な使命があるのだからな」

「分かってます。 みすみす死ぬようなへまはしませんよ」


 そこに兵士から海龍達が湾外で集まり始めたと報告が入る。


「陛下、海龍達が湾を埋める形に布陣してこちらに入って来ようとしていません!」

「何故だ、何故湾に入って来ない……」


 そこに湾への出入りを封鎖する形に集まった海龍達が、横一列に並び始めていた。


「まさか、あいつ等がやろうとしている事は!」

「陛下! 海龍達の様子が!」

「クソ!! 総員対衝撃防御!! 急げ!」


 ハーディ皇帝の指示と同時に、海龍の1匹1匹が首を上に向けて水弾を生成し始めると、それを上空で維持していた。


「なっ! 止めろ! まだ避難が済んでいない者も沢山いるのだぞ!」


 ハーディ皇帝の悲鳴の様な言葉とほぼ同時に、水弾が港町に放たれた。


 このまま港町に着弾すれば大惨事になってしまう。


 俺達が駄目だと思った瞬間に、長大な光の壁が現れて全ての巨大な水弾を防ぐ事に成功していた。


「鈴、大丈夫か!?」


 結界を張った鈴を見ると肩で息をしていて、とても辛そうにしていた。


「はぁ…、はぁ…、皆急いでね……。 結界を張った範囲が広すぎて魔力の消費が激しすぎるの……。 もしもう一度一斉射されたら私の魔力も保たないわ……」


 ハーディ皇帝は、先程の1斉射を防ぎ時間を作ってくれた鈴に感謝するが、未だに倉庫内にあるはずの海龍の卵を見つけられずにいた。


「使者殿が時間を稼いでくれたのだ、急いで探し出すんだ!」


 海龍達が放った1斉射を何とか結界で防いだ事で、何度も防がれては埒が明かないと思ったのか分からないが、海龍達が集まる中から1匹ゆっくりと湾の中に入って来た。


 湾の中に入って来たその個体を良く見ると、首が半分ほど切断されている。


 まさかあの海龍は俺達を襲った……。


 湾の中に入って来た個体は、あの時俺達に撃退されて逃走した海龍だった。


 そして、その海龍が港中に聞こえる程の大きな声で話し始めた。


『人間達よ先程の攻撃は警告だ。 私達も本当ならこんな事はしたくは無かったが、我が子等が貴様らに攫われ命を脅かされている以上容赦は出来ん!

 我々も虐殺するために来ている訳では無いため、太陽が水平線にかかるまでこの場で待つが、それまでに我が子を返されない場合は、今日でこの国は地上から消え去ると思え!!

 私の名はメリム。

 我が一族の子供達を助けたいと思い、命をかけている1匹の海龍だ!』


 城下町全体に響くほどの声で宣戦布告をするメリムに対して、俺達は息を飲むしか出来なかった。




アポカリプス教団の悪事がまた一つ明るみになりましたね。

次回は命懸けで書いて行こうかと思っています

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