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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
3章・親善大使として親書を届けに。
71/303

海流魔法の発現。

 未だに俺の腕に首を絡めて離れようとしない海龍の子は眠気が襲って来たのか、うつらうつらとし始めると何時の間にか眠ってしまった。


 安心して眠る海龍の子の姿を見た俺は決意する。 


「シグルドさん……。 人間の都合で攫われて親元から引き離されたこの子を殺す事なんて、俺には出来ません」

「そうか……。 君が選択した事だ、私個人としては応援して上げたいが、この海龍の子供は海が無いと生きて行けないんだよ? 君は旅を諦めて、この子が成龍になるまで共に生きて行く覚悟があると言うのかい?」

「それは……」


 シグルド隊長から、そう問われた俺はすぐに答える事が出来なかった。


(この子が成龍になるまで共に生きる……か。 地球にいた頃の俺ならそれでも良いと思っていたかもしれないが、今は俺に期待してくれる人達がいる。 それに……)


 ふいにエリアの顔を見ると、彼女は俺が旅を諦める選択をするのではないかと不安になった様で、愛用の杖を抱き締めていた。 


(そうだよな……。 ここで旅を諦める選択をしたら、エリアとの婚約話も無くなってしまう……。 だが、この子を見捨てる事も出来ない……。 一体どうすれば……)


 重い空気が辺りを包む中、大きな溜息を吐く人物がいた。


「はぁ……。 シグルド隊長、あまり若者に意地悪するもんじゃありませんぜ」

「……バレてた?」

「バレるも何も、元を辿ればこの海龍の子を攫ったのはあなた方帝国の貴族じゃないですか。 その不始末を共也に押し付けるのは、ちいと意地が悪いんじゃないですかい?」

「アハハ、すまんすまん! この海龍の子供の処遇を共也君がどうするのか見て見たくなって、つい……ね。 もし君が旅を続ける選択をしたとしても、ケントニス帝国が責任を持ってこの子を成龍まで育て上げて見せるから安心したまえ!」

「え……、本当ですか?」

「あぁ!」


 あれだけ悩んだのは今まで生きて来た中で初めてだったのに、ただ俺の決断を見たかったからと言う理由でシグルドさんは、この子の処遇を決めさせようとしたのか……。

 

 頭に来た俺がシグルドさんを睨むと、彼はバツが悪かったのか詫びとばかりにある選択肢を提示して来た。


「あ~~、共也君。 君のスキルは、お互いの同意があれば契約が出来るんだろう?」

「そうですね、今分かっているのはそんな所です」

「そうか。 でもその契約は、ずっと一緒に居ないと破棄されたりするのかい?」


 そんなの分かる訳が無い。

 このスキルが発動してからまだ半年も立ってないし、詳しい検証もして無いのだから……。


「いえ、詳しく検証した事が無いので、このスキルに関してはまだ分かっていない事が多いんです……」

「そうなのかい? 色々工夫出来そうなスキルだと思ったんだが……。 そうかまだ検証をしていないのなら、軽はずみな事は言わない方が良いか……」

(それは……可能だよ。)

「ディーネ!?」


 唐突なディーネの念話に驚いていると、説明が続けられる。


(共生魔法で1度契約……した後は、どこに居ても……共也と繋がってるから……。 この子が成龍になるまで……この港で育ててもらう事も可能……だよ?

 でも…この子が近くに……居ないから、契約した時に発現する魔法などは……使えないけど……ね?)

「契約した事で、人に危害を加え無くなるのなら十分だ。 共也君、契約出来るか試して貰って良いかね?」

「は、はい!」


 俺は悪いと思いながらも、眠りに付いたばかりの小竜に起きてもらい『君に名を付けても良いかな?』と問いかけるとすでに人の言葉が分かるのか首を縦に振った。


 もしかしてこの子も特殊個体だったりするのか?


 そう思いながらも、俺はこの子に相応しい名を考える。


「……そうだな、海を表すマリンと言う言葉を少し略して、マリ。 君の名は【マリ】……と言うのはどうかな?」


 もう少し工夫して良い名前を送って上げられれば良かったのだが、海龍の子はその名を気に入ってくれたらしく首を縦に振って了承してくれた。

 海龍の……マリが了承した途端お互いが光りに包まれると、その光がスッと中に入って来るのだった。


「まさか、あれで契約が完了したのかい?」

「恐らく……」

「共也、スキルカードを確認してみたら良いんじゃない?」

「そ、そうか!」


 柚葉の言葉で俺はスキルカードを思い出し急いで確認すると、契約者の欄にマリの名が刻まれていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【名前】:最上 共也   

【性別】:男


【スキル】

『共生魔法』

 ・水魔法(ディーネが近くにいる事が条件)

 ・氷魔法(スノウが近くにいる事が条件)

 ・海流魔法(マリが近くにいる事が条件)

『剣術』

――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「マリの名がある……。 そっか……これからよろしくなマリ」

「きゅ~~♪」


 紫色の鱗に覆われたマリの頭を優しく撫でると、気持ち良さそうに目を閉じるのだった。 


「はわわわわ! と、共也、後でマリちゃんを抱かせてね!!」

「菊流、落ち着けって……」

「だって。 この子すっごく可愛いんだもん!!」

「それは認めるが、まだ卵から孵ったばかりなんだから無理させたら駄目だろ?」

「うぅ……」


 可愛い物が大好きな菊流が暴走しかけたが、さすがに生まれたばかりの子に負担をかけるような事はしないでくれるようだ。


 そして、シグルドさんも一度マリの頭を撫でるが、全く抵抗する気配が無い。 どうやら俺と契約した事で、人と言う種を信頼している様だ。


「これでこの子が人に危害を加える事はほぼ無いだろう」


 良かった……。


「シグルドさん、この子を救う手助けをしてくれてありがとうございます……」

「ん? 何を言っているんだね。 君がこの子を助けたいと真剣に考える姿を見たからこそ、私は知恵を貸したにすぎん。 君の優しさが一つの命を救ったのだ、胸を張りたまえ! 最上共也!」

「あ……」


 そう強く名を呼ばれた瞬間、感極まって涙が頬を伝う。


 最初は千世ちゃんの様に他人を助けられる人間になろうと思い、彼女の墓の前で誓った。 だが、数年後、親護父さんと綾香母さんまでもが俺を命を懸けて守った事実に心が折れてしまった……。


 その後、困った人を助けられる人間になると言う誓いを実行する事も無く、中学、高校を何となく過ごし卒業した。 そんな俺をこの世界の英雄の1人である、シグルドさんが褒めてくれたのだ……。


 嬉しかった……。 


 召喚された次の日から、どんどん強くなって行く同じ転移者達に、俺は心の何処かで『また人の役に立つ事が出来ないのか……』そう思っていたから、彼に褒められた事で今までの悩みが晴れた気がした。


 涙を流す俺を心配して、エリアがハンカチを差し出してくる。


「と、共也さん、何か悲しい事でもあったんですか?」

「違うんだエリア……。 この涙は悲しいからじゃなくて、嬉しいからなんだ……」

「嬉しいから? マリちゃんが誕生した事にです?」

「ち、違う! 相変わらずエリアは天然だな……」

「酷い! 私は天然じゃないもん!!」


 頬を膨らませて抗議するエリアが可笑しくて、笑いながらも彼女の差し出されたハンカチで涙を拭うのだった。


「アッハッハ! これからも悩めよ青年! 君達の人生はこれからなんだからな!」

「はい!」

「うむ、良い返事だ。 さてと……」


 突如真剣な顔になったシグルドさんは人差し指で手招きするアーダン船長に対峙すると、マリの養育費の事で火花を散らし始めた。 


「アーダン船長、私が言いたい事が分かっているみたいだね」

「大体はね。 まぁ、俺の船にもマスコット的な存在が欲しいなとは思っていたから、預かる事は構いませんよ? では食費などの主だった経費は、ケントニス帝国が払ってくれると考えてよろしいか?」

「ぬ……。 因みにあなたの考えだと、どれくらいの試算になる予定?」

「そうですなぁ……。 今はまだ生まれたばかりなので小魚を与える程度で良いでしょうが、今回襲って来た海龍の大きさが成龍だとすると……」


 アーダン船長は腰にぶら下げていたソロバンを取り出すと、あのぶっとい指で器用に玉を弾いて行く。


「ざっとこれくらいですかね?」


 提示された金額の大きさに、シグルドさんは目を剥いた。


「こ、こんなに!? いやいや、アーダン船長考えても見なさい。 この子が成龍と成り君の船を護衛する事になった場合、今まで海賊対策に回していた費用などが丸々浮くではないか!」

「ほう? 確かにあなたの言おうとしている事に一理あります。 だが! このマリが成長して船を護衛出来るようになった場合、それは我々の努力あって金を出すだけの帝国が口を出して良い話しでは無い気がするのですが?」

「ぬぐ! だ、だが、もう少し金額を抑えてくれるありがたいのだが……」

「むう……。 命を助けられた手前、そう低姿勢でこられると……。 そうですな、負けに負けてこの金額で……」


 ジャラ、パチパチパチ……。


「これでどうですか?」

「……もう一声! 船長、頼む!」


 先程までここにいた英雄は何処へやら……。 今は必死にマリの養育費に頭を悩ませる武官がそこに居た……。 


 2人の養育費によるすり合わせは暫く続き、最終的にハーディ皇帝に相談して予算を捻出してもらう事になった為、この話は一旦保留となるのだった。

 

 グランク様からの親書をハーディ皇帝に手渡すと言うクエストも有るので、2人の話しが終わったタイミングで城に向かおうと提案したのだが……。


「マリちゃんって可愛いですね! 私の名前はジェーンです、今後ともよろしくね」

「あ! ズルいジェーンちゃん! 私は菊流よ、よろしくねマリちゃん!」

「きゅ~~?」

『「「「はぁ~~~。 可愛いです……」」」』


 小さくて人形の様に可愛らしいマリの容姿に女性陣はメロメロで、代わる代わる頭を撫でたりして可愛がってる……。


「わ、私も撫でて良いですか?」

「珍しい、魅影ちゃんまで!?」

「マ、マリちゃんの可愛い姿に我慢出来無くなって……」


 普段はあまり可愛い物に反応しようとしない魅影までもが撫でたりして可愛がり始めたが、当のマリが嫌がっていないので静観していたのだが……。


「キュ~~~♪」


 全員の腕に首を絡ませ甘えるマリにデレデレの女性達に『そろそろ城に向かうぞ!』と告げると、名残惜しそうに離れるのだった。  


「さて、この子をどう扱うかと言う問題も解決した事だし、次はハーディに今後の事を報告しないとだな」

「経費、養育費の件は解決してませんよ?」

「分かってるって! ハーディに言って予算を組んで貰うから少し待っててくれ!」


 こうして俺達はカムシンが犯した【海流の卵の密輸事件】とマリの扱いをハーディ皇帝へ報告する為に、港の郊外に建てられているケントニス城へと向かうのだった。



 =◇=====


【ケントニス城の一室にて】


『憲兵隊を借りていくぞ!』と言ってすぐに何処かに出て行ったシグルドの動向は気になったが、今日は良い天気なんだから、まずするべき事は昼寝……だな!


 鼻歌を歌いながらベッドで横になるハーディ皇帝だったが、部屋の外を兵士達が慌ただしく廊下を走る足音に寝入る事が出来ずにいた。 


 ガシャガシャガシャガシャ……。  ガシャガシャガシャガシャ……。 


 金属製の鎧を着て走れば、どうなるかなど分かりそうな物だが……。 しかも、皇帝である私の部屋の前をガシャガシャと音を立てながら走るとか嫌がらせか!?


 ガシャガシャガシャガシャ……。  ガシャガシャガシャガシャ……。 


 イライライライライライライライラ……。


「ああ! こうも五月蠅くては昼寝など出来るか~~~!!」


 バァーーーン!!


 勢いよくドアを開けて出て来た自分達の主の姿に、慌てていた兵士達も驚き足を止めた。


「誰かいるか!?」

「は、はは! 何用でしょうかハーディ様!」

「この騒ぎは何だ!?」

「そ、それは……」

「おやおやハーディ様、血相を変えてどうなされたのですかな?」


 主の激怒した姿を目にした兵士が委縮して何も言えなくなってしまう中、白髭を蓄えた男性がその兵士を庇う様に立ち塞がるとお辞儀をする。


「ジイか、この騒ぎは一体何だ!?」

「ハーディ様、公務中の時はジイで無く役職名でお呼びください」

「ああ、分かったよジイ……じゃない【宰相ターネル=ダース】! 役職名で言ったんだから、そんな怖い顔で俺を見ないでくれよ!」


――――――――――――


【宰相ターネル=ダース】

 2代に渡り宰相と言う立場で皇帝を支え続けている苦労人で、ハーディ皇帝が幼少の頃からの教育係でもあった為、ハーディ皇帝は宰相のターネルを今でも怖がっている。


――――――――――――


「それで? この騒ぎは一体なんだ、何か問題でも起きたのか? あぁそこの君、すまんが茶を入れて貰って良いか?」

「はい、少々お待ちを」


 外で控えていたメイドに紅茶を所望したハーディ皇帝は、香ばしく立ち昇る湯気に満足しつつユックリと口に紅茶を流し込んだ。 


「はい、大問題が発生しました……。 ランス伯爵家の3男カムシンが他国の商船を密輸に利用し、海龍の卵を我が国に持ち込みました……」

「ぶーーー!!」


 聞きたく無い情報が盛り沢山で、ハーディ皇帝は含んだ紅茶を吹き出してしまった。


「ちなみに密輸に利用された船舶は無事に港に着岸する事が出来ましたが、その時海龍3匹に襲われたと報告が上がっております……」

「ゲッホ、ゲホ!……。 待ってくれターネル、情報が多すぎる!」


 ハーディが落ち着くのを待って、ターネルは続ける。


「ですがご安心を。 近海を巡回していたシグルド殿の協力により何とか3匹共撃退する事に成功した様で、船も船員達も何とか無事と報告を受けております」

「船員達が無事ならば良かったが、何故カムシンはそんな馬鹿な真似をしたのか分かっているのか?」

「いえ、軽く尋問は行った様ですが内容が二転三転していて埒が明かないので、こちらに移送中との事ですな」


 ソファーに深く腰掛けるハーディは腕を組むと、1つターネルに尋ねた。


「なあターネル……。 どう対処すれば、他国と外交問題に発展しない様にする事が出来ると思う?」

「いっその事、ランス家を潰して誠意を見せますか?」

「ちょ! さすがに3男が仕出かした事で、今の当主に責任を取らせるのは酷だろ!?」

「では、どうされるおつもりで?」


 1度盛大に溜息を吐くハーディは、ランス家関係者を明日召集するようにとターネルに告げる。


「了承いたしました。 今からその胸の書簡を大至急送ります」

「頼む……」


 明日、被害にあった者達との交渉次第ではランス家を取り潰さないといけなくなってしまった事態に、2人は盛大に溜息を吐くのだった。



 =◇◇====

 


 視点は戻り、共也達は眩しい程の煌びやかな高級宿泊施設の前に立っていた。


「凄い豪華な宿屋……。 貧乏な私達が泊まったら破産しそう……」


 ボソリと呟く与一に全員が同意する程(エリアと魅影を除く)、庶民の俺達には場違いな場所だった……。


 ここって、もう絶対宿屋じゃないだろ……。


「えっと……、俺達は今日泊まる宿屋を紹介してくれと言ったのに、何故ここに立っているのでしょう? シグルドさん……」

「あ~~。 本当ならお手頃な宿屋を紹介するつもりだったのだが……。 ハーディ皇帝の命令で君達には今日ここに泊って貰う事が急遽決定したのだ」

「ここに……ですか」


 庭の正面には噴水があり、庭木も庭師が整えているのかとても綺麗だ。


「君達が言いたい事は分かるが、なにぶん今回はケントニス帝国の貴族が引き起こした不祥事だからな、宿泊料金は帝国が受け持つから私達を助けると思って遠慮なく泊ってくれ」

「分かり……ました」


 未だに呆然と立ち尽くす俺達を置いて、シグルドさんは帰還する為に馬車に乗り込む。


「取り合えず明日はハーディ皇帝と会談する予定だと言うを覚えておいてくれ。 迎えは昼前に寄こすから、ちゃんとここに居てくれよ? 絶対だぞ!?」


 心配そうな顔で何度もそう口にするシグルドさんはこれから城で明日の会議があるらしく、急いで向かうのだった。


 残された俺達は宿屋?の従業員の人達の案内によって各部屋へと案内されたのだが、そこでもあまりの豪華な内装に気後れする一般小市民の俺だった。


(こんな豪華な部屋で、俺は寝る事が出来るのか?)


 この後、とんでもなく高価な調度品を触ろうとする、ディーネ、スノウ、そして新たに加わったマリを止めるのに必死になる俺だった。



無事契約も完了し子供の命も助かりましたね。

次回は交渉で書いて行こうかと思っています。

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