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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
3章・親善大使として親書を届けに。
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海流魔法の発現。

 未だに俺の腕に首を巻き付けた状態から離れる様子の無い生まれたばかりの海龍の子供は、くっ付いている事で安心したのか、うつらうつらと船を漕ぎだしていつの間にか寝てしまった。


「シグルドさん……。 人間の都合で攫われて来たこの子を、殺す事なんて俺には出来ません」

「なら、どうするんだね? この海龍の子供は海が無いと生きて行けないんだよ? 君が旅をする事を諦めて、この子が成龍になるまで海と共に生活して行く覚悟はあるのかい?」

「それは……」


 シグルド隊長の問いに俺はすぐに答える事が出来なかった。


 じゃあ、生まれたばかりのこの子をこの大海原に捨てるのか? いや、出来るはずが無い……、それは千世ちゃんと約束した、恥じない生き方に入らないはずだ……。

 だけど……、この世界の人達を見捨てる事も出来ない……。


 俺がどうして良いか悩んでいる姿を見たアーダン船長が、助け舟を出してくれた。


「シグルド隊長、あまり意地悪を言うもんじゃありませんよ。 この海龍の子が攫われたのも、元を辿るとあなた達帝国の不始末じゃないですか。

 それなのに共也に海龍の子の面倒を背負わせようとするのは、ちいとばかり卑怯じゃないですかい?」

「あれ? バレてたか。 アハハ、すまんすまん! 共也君がこの海龍の子共の事でどう判断するのか見て見たくて、つい……ね」

「え……、それって」


 俺が頭の中に疑問符で一杯になっている所で、シグルド隊長が何故そんな質問をしたのか種明かしをしてくれた。


「共也君、先程聞かせてもらった君のスキルだが、今分かってる発動条件が名前を付けた上でお互いの合意があれば、一緒に生活出来るらしいじゃないか。

 でも、それはずっと一緒に居ないと駄目なのかい?」


 そんなの分かる訳が無い、このスキルが発動してからまだ半年も立ってないし、検証もして無いのだから。


「いえ、検証したりした事が無いので、詳しい事はまだ分かって無いんです……」

「そうなのかい? 色々工夫次第で色々出来そうなスキルだと思ったんだが……」

(それは……可能だよ。 契約……した後は、どこに居ても……共也と繋がってるから……この子を……この港で育ててもらう事も可能……だよ?

 でも…この子が近くに……居ないから、契約した時に発現する魔法などは……使えないけど……ね?)


 またディーネ先生の唐突に始まった『共生魔法』の授業が始まり、新たな情報を出された俺は驚く事しか出来なかった。


「それではシグルド隊長、ディーネが言った様に、まずは名付けをします。 その後にこの子と契約出来るか試してみますね?」

「ああ、君に負担を掛ける事になるのは心苦しいが頼む」


 俺は眠りに付いたばかりの小竜に悪いと思いながら起きてもらうと『君に名を付けても良いかな?』と問いかけて見たのだが、すでに人の言葉が分かるらしく首を縦に振ってくれた。


「良い名前を送らせて貰うよ。 ……そうだな、海を表すマリンの言葉を少し略して、君の名はマリ……と言う名でどうかな?」


 マリ、相変わらずもう少し工夫して誌的な名前を送って上げられれば良かったのだが、どうやらその娘は気に入ってくれた様で首を縦に振って了承してくれた。

 俺がマリと言う名を海龍の子に付けた瞬間にお互いが光りに包まれると、2人の胸の中に温かい何かがスッと入って来た。


「今のは、まさかあれで契約が完了したのか?」

「共也君、スキルカードを確認してみるんだ」

「そ、そうでした」


 俺は急いでスキルカードを確認すると、まだ誓いの言葉を言っていないのにすでに契約をした事を示す、共生魔法の契約者の欄にマリの名が刻まれていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【名前】:最上 共也   

【性別】:男


【スキル】

『共生魔法』

 ・水魔法(ディーネが近くにいる事が条件)

 ・氷魔法(スノウが近くにいる事が条件)

 ・海流魔法(マリが近くにいる事が条件)

『剣術』

――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「俺の事を受け入れてくれたって事だよな? これからよろしくなマリ」

「きゅ~~♪」


 俺がマリの紫色の鱗に覆われた頭を撫でると、嬉しそうに目を閉じて再び首を腕に絡めて来た。


「はわわわわ! と、共也、後で良いからマリちゃんを抱かせてね!!」

「菊流、落ち着けって……」

「だって。 この子すっごく可愛いんだもん!!」

「それは認めるが、まだ卵から孵ったばかりなんだから無理させたら駄目だろ?」

「うぅ……」


 菊流の可愛い物を抱っこしたい病が発動しかけたが、さすがに生まれたばかりの子に負担をかけるような事はしないでくれるようだ。


「これでもうこの子に関しては大丈夫だろう。 この海龍の子が人に危害を加える事は、よほどの事が無いとあり得ないだろう」

「シグルドさん、この子を助ける道筋を提示してくれてありがとうございます」

「何を言っているんだね。 大半は君の魔法のお陰ではあるが、助けたいと思った気持ちが伝わったからこそ、その子も君の想いに答えてくれたのだろう。

 君の思いが一つの命を救ったのだ、自信を持ちたまえ! 最上共也君!」

「あ……」


 俺はこの世界に来た時に、唯一得ていた共生魔法と言うスキルの発動条件も分からず、他のスキルを何も所持していない状態で、この世界に召喚された。

 その事に対して俺の中ではいつかどうにかなる、と強がっていた部分もあったのは否定出来ないが、やはりどんどん新しいスキルを覚えて強くなって行く幼馴染達の事を、羨ましく思っている自分がいたのだろう。

 そして、今日この世界で英雄と呼ばれるシグルドさんに認められた事で、心の中にずっとこびり付いて離れなかった「役に立ててないんじゃないか」と言う想いを彼が否定してくれた事で、俺はいつの間にか目から一筋の涙を流していた。


「と、共也さん、何処か痛い所でもあるのですか?」

「違うんだエリア……。 あ、あれ……、変だな……。 俺は気にしていないつもりだったのに……」

「アッハッハ! これからも悩めよ青年! 君達の人生はこれからなんだからな!」


 俺は袖で涙を拭っていると、シグルドさんがアーダン船長にマリの事で相談し始めていた。


「とは言っても、その剣の中で海水も無い状況での生活は無理だろうな……。 アーダン船長、この子を預かって育ててみないか?」

「あ~…、やっぱりこちらに問題を投げて来ましたか……。 では食費などの経費をケントニス帝国で面倒見て貰えると思ってよろしいか?

 今はまだ生まれたばかりなので小魚を少し与えるだけで良いでしょうが、今回襲って来た海龍の大きさが成龍だとすると、食費が凄い事になりそうですしねぇ?」


 頭の中では毎日与える食事の量などの計算が行われているのか、引きつった笑みをアーダン船長は浮かべていた。

 だが、食費の事を振られたシグルド隊長もこの子が成長して成龍になった場合、満足するだけの量の魚や肉を、と考えた場合とてもじゃないがこの交渉を簡単に済ませる訳にはいかなかった。


「ぬ……、それを言われてしまうと反論しずらしな……。 だ、だがこの子を面倒見る事に関して君達にも十分にメリットがあるのではないか?」

「ほう? どのようなメリットがあるのかお聞きしても?」

「この子が大きくなり成龍となった場合、海龍の気配があるだけで海の魔物達は近寄ってすら来ないだろう? その分普段より多く積み荷を乗せる事も出来るから、輸送費で十分稼げるではないか!」


 確かにその言い分も有り得るとは思うが……。 いや、待てよ? 今の説明では大きくなる前の食費の事が含まれてない!


「いやいやいや、シグルド隊長の提案だと成龍になってからの稼ぎの話しであって! 子供の頃の食費の話しが出て来て無いじゃないですか!」

「いやいやいや、それは船長の投資と言う部分が大きくてだね! そんな個人の投資を国が支援する訳にはいかんのだよ!!」

「おま! それは先程の言い分と大分食い違う気がするのですが!?」

「かと言って私個人が負担できる金額では!!」


 アーダン船長とシグルド隊長の交渉は暫く続き、最終的にシグルド隊長がハーディ皇帝に相談して予算を捻出してもらうから少しだけ待ってくれと懇願されたので、この話は一旦先送りとなった。

 

「マリちゃんって可愛いですね! 私の名前はジェーンです、今後ともよろしくね」

「あ! ズルいジェーンちゃん! 私は菊流よ、よろしくねマリちゃん!」

「きゅ~~?」

『「「「はぁ~~~。 可愛いです……」」」』


 小さくて人形の様に可愛らしいマリの容姿に女性陣はメロメロで、代わる代わる頭を撫でたりして可愛がっていた。

 普段はあまり可愛い物に感情を表に出そうとしない魅影までもが、マリを撫でたりしていた。

 当のマリも優しく接してくれる女性達に対して全く嫌がっている素振りを見せず、むしろ挨拶してくれた一人一人に首を腕に絡ませてお礼をしている様子だった。


『キャ~~!! 可愛い!!!』


 女性陣の発した黄色い歓声に驚きつつも、可愛がられてる事を分かっているのかマリは終始ご機嫌の様子だった。


「さて、この子をどうするかと言う問題も解決した様だし、次はハーディ皇帝にもこの事を報告してもらわないとだな」

「経費の事は解決してませんよ?」

「アーダン船長、分かってるから少し待ってろ!!」


 シグルド隊長とアーダン船長は睨み合いながらも皇帝の住む城まで同行してくれるようだ。

 こうして俺達はカムシンが犯した密輸事件とマリの事をハーディ皇帝へ報告する為に、港の郊外に建てられている城へと向かう事になるのだった。



 =◇=====


【ケントニス王城の一室にて】


 良い天気だったので昼寝をしていたハーディ皇帝は、部屋の外を兵士達が騒がしく動いている足音に苛立っていた。


「騒がしいな……。 せっかく時間が出来たから昼寝をしていたのに、こうも五月蠅いと気分が滅入るな……」


〖ダダダダダダ……。 ダダダダダ……〗


 イライライライライライライライラ……。


「ああ! こうも五月蠅くては昼寝をする事も出来んではないか!! 誰かいるか!?」

「は、はは! 何用でしょうかハーディ様!」

「この騒ぎは何だ!?」


 そこに白髭を蓄えた男性が入って来て、ハーディ皇帝へお辞儀をする。


「ジイか! この騒ぎは一体何だ! こんな天気の良い日に騒々しい!」

「ハーディ様、公務中の時はジイで無く役職名でお呼びください」

「ああ、分かったよジイ……じゃない!【宰相ターネル=ダース】! 役職名で言ったんだから、そんな怖い顔で俺を見ないでくれよ!」


――――――――――――


【宰相ターネル=ダース】

 先代の皇帝の時から宰相を続けている苦労人、ハーディ皇帝の教育係でもあったため、問題児であったハーディ皇帝は厳しく躾けられたターネルを今でも怖がっている。


――――――――――――


「それで? この騒ぎは一体なんだ、何か問題でも起きたのか? あぁそこの君、すまんが茶を入れてくれないか?」

「はい、少々お待ちを」


 外で控えていたメイドに紅茶を入れて貰ったハーディ皇帝は、カップをユックリと口へ運んだ。


「はい、大問題が発生しました……。 ランス伯爵家の3男カムシンが他国の商船を密輸に利用し、海龍の卵を我が国に持ち込んでしまいました……。

 ちなみに密輸に利用された船舶は無事に港に着岸する事が出来ましたが、その時海龍3匹に襲われましたが何とか撃退しております」

「ぶーーー!!」


 口に含んでいた紅茶をハーディ皇帝は盛大に噴き出してしまった。

 どうやらあまりにも刺激の強い情報をいきなり報告されたので、気管に入ったらしい。


「ゲッホ、ゲホ!! タ、ターネル、その襲われた船舶に乗っていた乗員達は無事なのか!?」

「はい、それはご安心を。 近海を巡回していたシグルド隊長が船舶を沈めようとしていた海龍の1匹を撃破し、他の海龍も何とか船に乗っていた者達によって撃退する事に成功したので、何とか船も船員達も無事でした」

「それは不幸中の幸いだったか。 それで、カムシンの密輸が判明したのは何時だ?」

「ほんのさっきです。 普段大人しい海龍に襲われた事を不審に思ったシグルド隊長が船の積み荷を検分した所、怪しい小箱が出て来た様で甲板でその検分をしている最中にカムシンの馬鹿が……、おっと失礼、カムシン殿が」

「ごめん、それって言い直す意味ある? ひっ! ごめんなさい! 続けて!」


 ハーディ皇帝の言葉に真っ白に染まった眉毛を痙攣させながらも、ターネルは報告を続けた。


「ゴホン! カムシン殿が船舶が襲われた原因らしき小箱を自身が船員に金を握られて密輸した事を、シグルド隊長を含むその船に乗っていた乗客や船員全員に暴露したみたいです……」

「な、そいつは馬鹿か……」

「馬鹿なのでしょうな……。 それで密輸を暴露した事でシグルド隊長に拘束されたカムシンは、現在この王城へと移送中との事です……」


 ハーディ皇帝はソファーに腰掛けた状態で腕を組むと、1つターネルに尋ねた。


「なあターネル……。 どう対処すれば、他国と外交問題に発展しない様にする事が出来ると思う?」

「いっその事ランス家を潰して、誠意を見せますか?」

「ちょ! さすがに3男がした事で、今の当主に責任を取らせるのは酷でしょ!?」

「では、どうされます?」


 暫くハーディ皇帝は考え込んでいたが、1度盛大に溜息を吐き出すとターネルに思い付いた事を話してみる。


「取り合えずランス家の当主を明日召集しよう……。 そして3男と、シグルド隊長を含む海龍に襲われた船員達を交えて交渉する事でしか、今の所落しどころが思い浮かば無い……。 ターネルはどう思う?」

「まあ、そこが無難な所でしょうな。 今回の関係者が揃っている場で、今回の賠償金とかを決めるのが良さそうですな」

「ターネル、伝令を出す役を任せて良いか? これからの事を思うと頭が痛くなって来た……」

「それは構いませんが……。 では伝令をランス家に出しますぞ?」

「頼む……」

「誰か、誰かおらぬか?」


 ターネルの言葉に反応した1人の兵士が、執務室に入って来た。


「はっ! 何か御用でしょうか!?」

「この書状をランス家当主に至急届けて来てくれ。 ハーディ皇帝の名前を出せばすぐに渡してくれるはずだ」

「分かりました、すぐに届けに向かいます」

「頼んだぞ」


 兵士は宰相の書いた書状を受け取ると、すぐに部屋を出て行った。


「さて、何事も無く収まると良いのですが……」

「収まると思えないんだけど?」

「私もそう思います……」

『「はぁ…」』


 この後に始まる交渉に頭が痛くなる2人は、盛大に溜息を吐くのだった。



 =◇◇====

 


 視点は港に戻り、普段は泊る事など出来そうに無い程外見が豪華な宿屋の前に共也達は立っていた。


「えっと……、ここは一体……」

「凄い豪華な宿屋……。 貧乏な私達が泊まったら破産しそう……」


 与一の言葉に皆が同意する程シグルド隊長の案内された宿泊先は、煌びやかな外装で飾り立てられている上にとても大きな宿屋だった。


 これ、もう宿屋じゃないだろ……。


「そうだな、普段なら目玉が飛び出るくらいの値段設定なんだが、今回はケントニス帝国の貴族が引き起こした不祥事だから全額帝国が負担する事になってるから安心してくれ。

 ハーディ皇帝によれば明日、今回の事で謝罪を含めた会談を行いたいとの事だから、今日はここで泊まってくれ」

『はぁ……』


 地球でも泊まった事が無い程の豪華な宿屋を前にして、俺達は気の抜けた返事をシグルド隊長に返す事しか出来なかった。


「取り合えず明日ハーディ皇帝と会談する事を覚えておいてくれ。 迎えは昼くらいに寄こすから、ちゃんとここに居てくれよ? 絶対だぞ!?」


 そう言い残したシグルド隊長は、自身が呼んでいた馬車に乗り込むと王城へと帰って行った。


 残された俺達がどうしたら良いのか宿屋の前で立ち尽くしていると、従業員の人達によって各部屋へと案内されたのだが、そこでもあまりの豪華な内装に気後れする俺達一般小市民だった。


(こんな豪華な部屋で、俺は寝れるか?)


 恐らく俺の仲間達も同じ事を(エリアと魅影は除く)思ってるんだろうな、と想像すると少し可笑しかった。


無事契約も完了し子供の命も助かりましたね。

次回は交渉で書いて行こうかと思っています。

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