召喚された幼馴染達
本編3話目です。
結局スキルの使い方が分からなかった俺は、隣に居る菊流と今後どうするか話し合おうと広間の壁際に移動すると、まさかと思う人物の不快な笑い声が背後から聞こえて来た。
「ゲハハハハ! お前らもしかして最上と花柳かぁ?」
「下平……」
最悪だ。 こいつまで召喚されて来ているとか、どんな確率だよ……。
「花柳はともかく最上 、弱っちいお前らまでこっちに呼び出されたとか、この世界マジで終わってんな!! しかも、ちょろっとスキル担当官と会話してる声が聞こえたけどよぉ、現地の人間も知らないスキルしか持ってないなんて普通にやべーだろ! ゲハハハハ!!」
耳障りな笑い声で俺を罵って来るこいつは 下平 陸男。 先日同じ高校を卒業したが、何故か俺に絡んでくる上に必要以上に煽って来る変な奴だ。
「下平、お前は相変わらず五月蠅いな……。 こんな小説みたいな状況に皆不安になってるのに、普通さぁ、顔見知り合いに出会えた事を普通は喜ばないかぁ?」
「最上、手前俺様が普通じゃないって言いたいのかよ」
「あれ? お前自分が普通の神経をしてると思ってたのか? これはビックリだ!」
「き、き、きっ様―――!!」
相変わらず散々俺を煽って来るのに、逆に煽り返されたら即切れるって、どんだけ単細胞なんだよこいつ……。
だが、下平が殴りかかろうとした拳を誰かが掴むと、地面に引き倒して押し付けて制圧してしまった。
肌が薄黒いが、そいつは俺の良く知る奴だった。
「よう、共也、菊流」
下平を地面に引き倒して関節技で制圧した人物は、保育園の頃からの幼馴染の1人でアメリカ国籍を持つ黒人のハーフ【ダグラス=相馬】が軽い口調で話し掛けて来た。
そして、ダグラスの背後から続々と俺の知り合いが笑顔で現れた。
「共也君、菊流ちゃん、元気そうでなりよりです!」
この黒髪をポニーテールにしている娘は 金鳴 魅影。
薙刀の扱いを教える家元の娘で、茶色の目を持つ純日本人の特徴を持っていて和服がとても似合う女性だ。
「共也、菊流ちゃん先日の卒業式ぶり!」
魅影の後ろから現れたのは【林 鈴】灰色の目を持ち、茶色の髪をセミロングにして肩の辺りでスッパリ切り揃えている身長155cmだが、胸は立派に育っているの女の娘『あ?』……女性だ。
心の声が聞こえるのか笑顔になった鈴の背後から、他の幼馴染達が顔を見せるのだった。
【福木 愛瑠】、【斎藤 鉄志】、【日番谷 与一】、【桃原 柚葉】、【上座 室生】、俺を合わせると計12名もの知り合いがこちらの世界に召喚されていた。
…………こんな偶然が有り得るのか?
偶然にしては出来過ぎな状況に頭を悩ませていると、大人しくなった下平を解放したダグラスが心配そうな顔を俺に向けて来ていた。
「共也、お前変なスキルが発現したんだってな?」
「ダグラス、あんた!」
今にも怒鳴りそうになっていた菊流を制止すると、隠し事をしてもしょうがないと思った俺は静かに頷いた。
「あぁ……」
「下平の言っていた事は本当だったか……。 皆に話しててみろよ、もしかしたらラノベ脳の俺達がそのスキルの使い方を思いつくかもしれないしな」
「久々に聞いたな、お前の『ラノベ脳』って言い方」
「うっせえ! で、どうするんだ?」
「教えるさ。 これだよ」
先程手に入れた自分のカードをダグラス達の前に差し出すと、皆にスキルに関する説明文を見せたのだが、一様に頭を捻って唸っていた。
「何この説明文……」
「柚葉でもそう思うよな……」
「当たり前じゃない、簡略化しすぎて何を言いたいのかさっぱり分からないわよ!?」
「確かにこのスキルカードに書かれている文章だけだと、意味がさっぱりわかりませんね。 この文言だけだと、地球で言うと結婚式でする宣誓みたいな文言ですし……」
魅影も悩みながらこの謎のスキルの使い方を考えてくれるが、結局解決策など思い浮かぶばずも無く皆が黙り込んでしまう。
だが魅影は何とか解読しようとしてカードをジッと見ていると、ある事に気付いた。
「共也君、これってもしかしてだけど契約魔法のような物じゃないのでしょうか?」
「あ、契約魔法か」
「ええ、この『共に誓った』と書いてある文面は、お互いが契約を了承したと言う事を指し示しているんじゃないでしょうか?」
「確かにそう捉える事も出来るけど……。 契約って言っても誰とするんだ?」
「そこはさすがに私では分かりませんが……」
申し訳なさそうにする魅影だったが、契約魔法の可能性があると分かっただけでも少し気が楽になった気がした。
「『契約魔法』その可能性を俺は思いつかなかったんだ。 助かったよ魅影、ありがとう」
「い、いいえ、共也君の助けになれたのなら良かったです」
柔らかく笑う魅影に感謝していると、また空気の読めない下平のアホが気持ち悪い笑い声で俺を馬鹿にして来た。
「ゲハハ!! 何だよその結婚を前提にしたような意味の分からないスキルは!? きもちわりぃ~~!!」
「「「「・・・・・・・」」」」
ここに居る全員が、下平に絶対零度の様な視線を向けている事に奴は気付いていない。
そして、ダグラスは深く溜息を吐いた。
「な、なんだよダグラス……」
「下平、いい加減少し黙ったらどうなんだ? 今は皆が少しでも生き残れる確率を上げる為に、情報を交換しているんだぞ?」
「そ、そんな事言われなくても俺だって分かって『だったら、今すぐその不快な笑いを止めろ!!』ひぃ!」
ダグラスに一喝された下平は、顔が青白く染まると腰が抜けたのか床に尻餅を付いてしまった後は押し黙ってしまった。
下平は相変わらず小心者の上に、小物感が凄いと言うか……。
ようやく静かになった下平を放置して俺は再度周囲を見渡すと、フロアの端には召喚された小学校低学年位の子供達が集まっているのを見つけたが、その子供達を兵士や侍女さん達が必死に宥めている姿が見て取れた。
他にどんな人物が召喚されたのかと思い興味深げに周りを観察していると、服の袖を引っ張られる感覚に視線を下に向けると、金髪青目の美少女が興味深げに俺に視線を向けていた。
彼女は首筋のうなじが見える位短く刈り込んでいるが、もみ上げは鎖骨辺りまで伸ばしていて、パッと見ると人形じゃないかと思うほど整った顔を持つ女の娘だった。
そんなお人形の様な少女が、俺の袖を引っ張りながら何か言いたそうにしていた。
「どうしたんだ? 君も召喚されてここに来た1人かい?」
「うん。 それでお兄さん、さっきの会話を聞いてたんですけど、お兄さん達はもうパーティーを組む予定なのですか?」
「気心が知れている人物とパーティーを組みたいとは思っているけど。 えっと君の名は……」
「ジェーンです!」
「え?」
「私の名前は【カナリア=ジェーン】と言います。 親しい人からは良くジェーンと言われてるので、お兄さんも私の事をジェーンと呼んくれると嬉しいです! もし、今度パーティーを組む時人が足りなかったら私を呼んで下さい! そう言いたくて呼びかけたのです」
「ああ、分かったよ。 ジェーンちゃん、俺の名は最神 共也だから、共也と呼んでくれ」
「共也……共也……。 覚えたのです! これからは共兄と呼ばせてもらいますが構わないですか?」
「ああ。 これからお互い大変だろうけど、頑張って生き残って行こうな?」
「はい! 共兄、きっと呼んで下さいよ!?」
可愛い……。
彼女の可愛さに気付いた時には、すでにジェーンの頭に手を置きその柔らかそうな金髪を優しく撫でていたのだった。
するとジェーンは慌てて頭を撫でている俺の手を振り払うのではなく、しっかりと握って来た。
「と、共兄。 頭を撫でられるのは嫌じゃないですけど急に撫でられると驚きますから、今度からは事前に言ってもらえるとですね……。 ん、んん!?」
彼女の頭を何度か撫でると、気持ちよさそうな声が漏れていた事にちょっとビックリして離れると、半目になったジェーンは何処か疑う様な視線を向けて来た。
「…………もしかして、共兄って女たらしだったりします?」
「いや。 今まで1度もそんな事を言われたことが無いから、そんな事は無いと思うぞ?」
「本当に?」
「本当に」
「むう……………」
本当の事を言っているので堂々としている姿をしばらく見つめていたジェーンは、ふと疑わしそうな半目を止めたが、何処かまだ信じられ無い様な表情をしていた。
「まだ少し私の女の娘センサーが反応していますが、女たらしでは無いと言うのは本当みたいなので今は信用して上げます……。 共兄なら変態さんの様な事はしないと確信は得ていましたが、一応自衛の為に確認を……ね?」
そう言うとジェーンは可愛らしくニカっと笑って来た。
どうやら俺はジェーンに揶揄われていた様だと理解した。
「ジェーン!」
「きゃあ! えへへ。 共兄、私は他の子供達と少し話をしてきますので、また会った時にでもパーティー加入の件を考えて貰って良いですか?」
「ああ、考えておくよ。 また今度な」
「うん。 バイバイ、共兄!」
小さく手を振ってジェーンと別れた俺は幼馴染組の所に戻った所で、兵士さん達から召喚された者には個室が用意されていると告げられ、各自今後過ごす為の部屋へと案内してくれる事になったのだった。
自分の部屋にあるベッドの上で横になった俺は、今日1日で有った事を考えていると、いつの間にか寝入ってしまっていた。
=◇===
―――コンコンコン
「あ!?」
どれだけ寝ていたのか分からないが、俺はノックされる音で目を覚ますと慌ててベッドから飛び起きたのだが、窓の外はすでに陽が落ちてすっかり暗くなっていた。
「少し寝てたのか……」
ベッドから起き上がりノックされ続けているドアを開けると、そこにはこの部屋まで案内してくれた兵士さんが立っていた。
「共也様、この後あなた達を召喚した広間で皆様を歓迎する晩餐会が開かれますので、出来れば参加して欲しいとの事なので、よろしくお願いします」
「ああ、ありがとう。 もうその会場に向かっても大丈夫なのかな?」
「はい、大丈夫です。 立食形式の上、各自で食事を始めても良いように、料理もすでに用意されているはずです」
「じゃあ、このまま向かう事にするよ、ありがとう」
「いえ、これが私の仕事なので気にしないで下さい!」
兵士さんと別れた俺は、集合場所に指定されていた広間に到着すると、そこには数多くのテーブルが設置され様々な料理が所狭しと並べられていて、すでに何人もの転移者が食事を楽しんでいた。
小市民の俺とは違い、今広間に入って来た幼馴染達は全く緊張した様子を見せていない。
そんな幼馴染達と一緒に料理を楽しんでいたのだが、また光輝が菊流に気持ち悪い発言をしたため全力で殴られて吹き飛んだりと、いつもの光景が異世界に来たのに繰り広げられた事で、少しホッとしている自分に驚いていた。
皆が食事を取りながら雑談して親睦を深めている会場に、白を基調とした上で下品で無い位の金の刺繍が施された豪華なドレスを纏って、金髪をポニーテールにした青目の少女(7~8歳位か?)が、正面に設置されている壇上に1人で立つと、皆がその少女に視線を向けた。
すると彼女はユックリ息を吸うと、口を開き喋り始めた。
「皆様、お食事をお楽しみの所まことにすいません。 私はこの国シンドリアの【第2王女のクレア=シンドリア=サーシス】と言う者です。 皆さまにはクレアと呼んで貰えると嬉しいです」
第2王女が出てきたことも驚いたが、まだあの年なのに立派に王族として対応してるんだなと思い、感心する俺だった。
「明日の朝に、皆様には私の父であり、この国の王であるグランクに謁見してもらう予定が御座います。 そして、その場であなた達に今後の事で重要な説明をされる予定ですので、遅れる事が無いようにお願い申し上げます」
明日の朝に王への謁見か……。 服装とか礼儀作法とか俺って全く知らないんだけど……。
「今回、服装や礼儀作法など、皆様にとってはまだ分からない事ばかりだと思うので、私達もそこは気にしないようにしますので、気にせず参加してくださいね?」
クレア王女は、何故かチラリと俺を見てニッコリ微笑むのだった……。
あ……はい、俺の思った事なんてお見通しなんですね……。
クレア王女の登場でこれからどうなるかな?