ケントニス帝国の港に。
「本当~に申し訳ありませんでした……」
「申し訳ありませんでした……」
今、俺達はアーダン船長が座る椅子の前で、頭を床に付けて謝罪していた……。 要するに土下座だ。
「全く酷い目にあったぜ……。 本来なら海に叩き出してる所だが、わざとでは無いと言う話しだからそこまで強く言う事も出来ねえ……。
与一……と言ったか? 次からは他の人に聞いてから料理を作ってくれよ?
ましてや毒草は、どうやって料理しても普通の人間には食べられ無いから『毒』って付いてる事を忘れないでくれな!?」
「はい、ごめんなさい……」
厳しい言葉を投げかけられて項垂れている与一だったが、実際死人を出しかねなかった状態だったのでアーダン船長の言葉に素直に頷くしかなかった。
「さて、長々と言ってもしょうがないから、今回の毒草混入事件はこれで水に流す事にしよう。 1週間も一緒に航海するんだから、これ以上もめて船内の空気が悪くなっても困るからな」
「アーダン船長……」
与一に殺されかけたアーダン船長の許しも得る事も出来たので、俺達は頭を上げた。
その後、貯まった食器の後片付けなどを済ました俺達は、自分に割り当てられた部屋に戻って休む事にしたのだが、密航したエリアには部屋が用意されて無かったので、ケントニス帝国に着くまでの間は強制的にジュリアさんと一緒の部屋で寝起きする事になった。
「ジュリアさんはせっかくの休暇なのですからユックリしたいでしょう? だから私は共也さんの部屋で、一緒に寝起きする事に」
〖パシン〗
「あ痛! 菊流さん頭を叩かないで下さいよ!」
「エリアが羨ましい事を……。 じゃなくて馬鹿な事を言ってるからでしょ!? ほら、行くわよ!」
「菊流さん痛い! ああ、共也さん!」
「ふふふ、それじゃ皆、また明日ね」
「はい、おやすみなさい。 エリアの事お願いします」
菊流に左耳を引っ張られて女性陣の部屋に連行されて行くエリアを見送った後は、俺も自分の部屋に戻って朝まで寝ようと思ったが、剣の中で大人しくしてくれているディーネとスノウの2人と少し遊んでから寝る事にした。
「ディーネ、スノウ、忙しくしてごめんな。 少し一緒に遊ぶかい?」
(遊ぶ~)(遊びたい!)
ディーネとスノウの2人に剣から出て来てもらうと、話したり遊んだりと、寝る時間ギリギリまでいっぱい遊び親交を深めるのだった。
そして、そろそろ就寝する時間が近づいて来たので、俺達3人は波の音が響く部屋のベッドの上で一緒に寝る事にするのだった。
=◇===
与一がアーダン船長に毒料理を振舞ってから、今日で4日目の朝になった。
「ん~~~! 今日も元気に食堂業務を頑張りますか!」
甲板上で背伸びをしている俺の後ろから、元気の無い声を掛けられた。
「朝から無駄にテンション高くするのは止めてよ共也……」
「鈴は相変わらず朝はテンション低いな」
「うっさいよ! 僕が朝弱いの共也も知ってるじゃん! それなのに毎食ご飯を作る事になって、でも頑張らないといけないと思って……。
少しは僕の苦労を分かって欲しいな!?」
「それはありがたいと思ってるよ。 だから配膳の方は俺達がやってるじゃないか」
「う、それはそうだけどぉ……」
俺と鈴が揉めてる理由。 それは船旅が始まった当初はP晩飯だけの約束だったが、忙しくて朝食を用意する事も出来なくなっていったアーダン船長が、俺達を食堂担当として雇った事が原因だ。
最初は渋っていた俺達だったが、アルバイト代を出すからと言われたので、結局朝昼晩と料理を作る事になったのだった。(未だに俺達は、この世界での資金が心元無い……)
こうして文句を言い合いながらも4日目に突入した俺達は、料理を作る事や配膳する事にすっかり慣れたもので、忙しく動きながらも完成した料理を摘まんで腹を満たしていた。
「あ、ダグラスさん! それは作り置きで焼いてた奴じゃないですか! どうして食べちゃうんです!?」
「ああ、魅影が作り起きしてたやつだったのか。 悪い悪い。 美味しそうだったから、つい、な? モグモグ」
「……悪いと思っていない様なので、ダグラスさんの朝食は抜き……とメモに書いておきますね!?」
「ぐ! ゲホ、魅影悪かった! だから朝食抜きはマジで止めてくれ!」
「でも、そうやってあなたが作り置きの食材をバクバク食べるから、どんどん食材の量が足りなくなるんですよ!!」
2人がそう言い争っても、次々に入る注文でその話は有耶無耶になってしまう。
「姉ちゃん、俺は肉を焼いてくれ。 朝からガッツリ食べてないと力が出ないんだ!」
「俺は軽めの方が良いから魚だな。 食いすぎると逆に体調が悪くなっちまうんだ」
「分かりました、今から必要な量を焼くので少しだけお待ち下さい」
「「早めに頼むぜ!」」
今から焼く料理……、それは先程ダグラスが摘まみ食いした魅影の作り起きで……。
「あ、あの~~。 魅影さん?」
「何ですかダグラスさん。 私、これから注文の入った料理を焼かないといけないのですが?」
その食材を使う予定だった御影は明らかに不機嫌になっているが、船員達の注文を無視する訳にもいかないので、彼女は注文の入った肉と魚の両方の料理を作る為に、食材を今から下ごしらえしようとしていた。
「あ、あの~~。 …………魅影さん?」
「ダグラスさん、後でお話しがありますから逃げないで下さいね……?」
「ひ、ひぃ!!」
こうしてダグラスは朝食後に魅影に連行されて、説教される事が決まった。
「今から下処理とかするから少しだけ待ってて、すぐ作る」
「お、おう。 少し位なら待つから出来たら教えてくれ……」
料理を注文した船員達も、ダグラス達のやり取りを見た後では急いでくれとも言えないので、少し位なら待つのは大丈夫と与一に伝えると、その間に飲み物の用意する為に食堂の椅子に座りに向かって行った。
何故与一が注文を受ける所に居るのか。
それは、なるべく彼女が料理をする前の食材に触らないで良いような体制にしたからだ。
「むう、皆酷い。 少しくらい食材を私に触らさせてくれても……」
「与一お前……、あれだけの事をしておいて……」
どうやら、与一はあまり反省していないようなので、朝食後に皆で説教しておいた。
==
少しばかりのトラブルもあったが、ケントニス帝国に向けて船は順調に進んで行く。
アーダン船長の説明では、恐らく後2~3日でケントニス帝国の港に入港する事が出来るだろうと説明を受けたが、俺達は今日も今日とで船員達の為にせっせと料理を作っていた。
「ふう、今日も何事も無く1日が終わりそうだな。 与一さん! 俺にはアジフライ定食でお願いします!」
毒草料理を食べさせられて以来、アーダン船長が食堂に寄りつかなくなっていたのを不思議に思っていたのだが、久しぶりに食堂に現れたと思ったら何故か与一を『さん』付けで呼び始めていた。
「皆の手前もあるし恥ずかしいから、その『さん』を付けて呼ぶのは止めて欲しい……」
「アハハ! 自分でも何故与一さんにこの呼び方をするのか分からないんですよ。 いずれ治るとは思うのでそれまで我慢してください!」
「こんな事になるなら作った料理を出すんじゃ無かった……」
「与一姉、今更じゃないですか?」
「うう、ジェーンちゃんが虐める……」
こうして、忙しい船旅ながらも楽しく過ごしていた俺達だったが、突如船が大きく揺れて食堂内の食器などが落下して割れた事で事態は一変する。
食堂の扉を勢いよく開けて入って来た1人の船員が、顔を真っ青にして先程の揺れの原因を船長に報告する。
「アーダン船長! げ、現在、海龍と思わしき群れがこちらを追跡中。 先程の揺れは海龍が撃ち込んで来た水魔法の水弾が、近くに着弾したためだと判明してます!」
「直撃では無かったんだな?」
「はい、直撃していない事は、確認していますので大丈夫です!」
「分かった。 俺もすぐに甲板に上がるから、それまでは逃げに徹しろと船員達に伝えるんだ!」
「はい! では一足先に甲板に戻ります!」
「ああ、だが海龍に攻撃はするなよ、何故追われているのか分からんし、生半可な攻撃は奴らの怒りを買うだけだからな」
「はい! それも伝えておきます!」
報告に来た船員はアーダン船長の指示を携えて、また甲板に戻って行った。
「しかし、海龍の群れか……」
アーダン船長は帽子を深く被り直すと、深刻な面持ちのまま食堂から出て行った。
「ジュリアさん、海龍と言う種族はやはり手強いんですか?」
「室生ちゃん、そうね強いわ。 だけど、強いと言っても海龍1匹位ならそこまでの脅威では無いけれど、群れで襲って来ると話は変わって来るわね……。
皆、海龍が襲って来ているなら食堂に誰も来ないでしょうから、私達も甲板に出て遠距離攻撃が出来る人は援護した方が良いかもしれないわね。
各自、部屋に置いてある装備を取ったら甲板に集まりましょう」
『はい!』
俺は部屋に置いてあった魔剣や防具を装備して甲板に出ると、船の帆は全て広げられていて、今まで以上の速度で後方を追って来ている存在から逃げている様だった。
「アーダン船長。 手伝いに来ました!」
「共也、すまん! 俺達を狙ってる存在は後方から追いかけて来てるらしいんだが、夜だからどんな奴なのか確認が出来ねえんだ!」
アーダン船長の言葉を聞いて後方を見ると、確かに暗くて良く見えないが、薄っすらとだが地球で言う所の首長竜のようなシルエットを持つ存在が、2~3匹ほど潜ったり飛び出したりを繰り返して、こちらへ向かって来ているのが微かに見えた。
「アーダン船長、何か手伝える事が有るなら手伝いますので、遠慮なく言ってください!」
「助かる! 今は逃げる速度と拮抗してるから追い付かれる様な事は無さそうだが、これが何時まで保つか分からないから、注意だけはしていてくれ!」
そうこうしていると、ジュリアさんも甲板に上がって来ると操舵しているアーダン船長の元に移動して、後方から追いかけて来ている存在を確認した。
「接近している存在の動きを見る限り海龍だとは思うのですが、アーダン船長、あなたはどう思われます?」
「儂も海龍だとは思うが、本当に海龍なのだとすれば、何故この船を狙って来たのかが分からん。 本来、海龍は大人しい生物のはずだから人を襲う様な行為はしないはずなのだが……」
「確かに説明がつきませんね……」
「だから今から後方へ照明弾を打ち込んで、敵の正体と数を確認するからジュリアさん達も見ておいてくれ!」
「それが良いですね。 分かりました!」
そして照明弾を詰め込んだ船員が大砲を後方に向けると、アーダン船長の指示を待った。
「船の後方。 我々を追いかけて来る存在に向けて、照明弾発射準備ー!!」
「準備完了しています。 何時でも撃てます!」
「良し! 今だ、撃て!!」
「撃ちます!」
〖ドドドン!!〗
3発照明弾を発射した音が船上に響き渡ると、少しして渇いた音が響き渡った。
〖パン! パパン!〗
後方に撃ち込まれた照明弾によってその一角だけが昼の様に明るくなると、首が長く紫色の鱗に覆われていて胴体にはヒレが4枚付いている首長竜と言われる海龍の姿が3匹ほど確認出来た。
「やはり海龍です! 数は3!」
照明弾によって敵の正体と数がわかったので、少しだけだがこの騒動を解決する糸口が見える様になるかもしれない。
だが、海龍達は俺達のそんな考えなど知らぬとばかりに、さらに攻撃を仕掛けて来た。
海龍達は俺達との距離が縮まらない事に痺れを切らしたのか、水魔法で作った水弾をこちらに打ち込んで来た。
「攻撃が来るぞ! 対衝撃防御!」
〖ドン、ドパーーン!〗
「うおおおぉぉ!」
「船の近くに着弾!」
海龍の放った水弾が、またも船のすぐ横に着弾した為、襲われた当初と同じ様に衝撃で船が大きく左右に揺れた。
「う、うわ!」
船が左右に大きく揺れた衝撃で、運悪く縄梯子を登っていた一人の船員が、海に投げ出されてしまった。
「ト、トニー!!」
海に落ちてしまった船員を救助しようとして、アーダン船長が船の速度を落とそうとするが、すでに海龍の1匹がトニーと呼ばれた船員に牙で噛みつこうとして襲い掛かっていた。
「スノウ、落ちてしまった船員を氷檻で囲って! ディーネはその氷檻で守られた船員をこちらに水魔法で引き寄せて! 出来るかい?」
((任せて!))
俺は咄嗟に剣の中で休んでいた2人に、海に落ちた船員の救助をして貰う様に指示を出すと、まずはスノウがトニーと呼ばれた船員を氷檻で取り囲んだ。
〖ガギン! ギギギギギ〗
「ひ、ひぃ!」
スノウの氷によって何とか船員が海龍に食い殺される事を防ぐ事が出来たが、氷檻に食いついた海龍はその船員を逃がすまいとして尚も食い下がってくる為、与一が氷魔法の《アイスアロー》を放って船員から引き離そうとして攻撃するが、厚い鱗に弾かれてしまった。
だが、そのお陰で船員から一瞬だけだが注意を逸らす事には成功した。
(共也、水魔法を操作して、縄を氷檻に結び付けたよ~~)
「ナイスだディーネ! ダグラス、菊流!」
「任せろ!」「任せて!」
身体強化の出来るダグラスと菊流が隙を付いて縄を引っ張ったお陰で、トニーと呼ばれた船員を救出する事に成功したので海龍の餌食になる事は無くなった。
甲板に引き上げられたトニーを見て、アーダン船長は他人の目が有るのにも関わらず、彼を抱き締めた。
「息子よ良くぞ生きて戻って来た、俺は海龍に引き寄せられて行くお前の姿を見て、最期を覚悟したぞ……」
あの慌て様を見て何となく分かっていたけれど、やっぱりトニーさんはアーダン船長の息子さんだったか。
「さすがに俺も死んだと思ったよ……。 共也、とそのちっこい2人に俺は助けられた……、で良いんだよな? ありがとうな助かったよ」
トニーは、スノウとディーネを優しく撫でて、命を助けてくれた事へ感謝を表していた。
((撫でてくれてありがとう! 助かって良かったね!!))
トニーさんの救出を成功したので、何とか犠牲者が出る事はなかったが、海龍側も俺達の事を警戒したのか、また付かず離れずの状態になってしまった。
だが、何故海龍達がこの船を狙って襲って来たのか、それが未だに分からずにいたが、直接海龍達に襲って来ている理由を聞く訳にも行かないので、諦めるまで逃げ続けると言う選択を選ぶより道が無かった。
そして、アーダン船長の指示で、このまま逃げ続けながら交代制で仮眠を取る事を提案されるのだった。
「取り合えず、このままの速度を維持したまま逃げ続けよう、もしかすると海龍達も諦めて帰ってくれるかもしれないからな。
このままずっと追いかけて来る可能性も有るから警戒しつつも、数時間交代で仮眠を取って行こうと思う。 ずっとこの緊張感の中、寝ずに活動していると、必ずどこかでミスが出るだろうからな」
「アーダン船長の代わりは誰が?」
「儂は大丈夫だ。 徹夜は慣れているし、他の誰かにこの舵を任せて何かあったらそいつが責任を取れるとも思えんからな」
「それはそうですが……」
「それと、遠距離攻撃が出来る者は、海龍が船との距離が縮めようとしたら軽くで良いから攻撃してくれ」
遠隔攻撃が出来るのはジュリアさん、与一、鈴、室生、この4人か……。
「ジュリアさん、悪いが牽制しながら魔法攻撃を頼む」
「良いけれど、一応殺さない様に撃つわよ?」
「私も今回の襲撃は腑に落ちないので、むしろ殺さない様にして上げて下さい。 だが、念の為に……、トニー少しの間、この舵を頼む」
「お、親父?」
アーダン船長はトニーに舵を任せると船長室に戻って行った。
だが、アーダン船長は愛用の武器である片刃の斧を持って、すぐ帰って来るとトニーさんから再び舵を受け取った。
「お前達は自室に戻って仮眠を取って来るんだ。 だけども遠隔攻撃が出来る者は、残って防衛を手伝ってくれ」
「了解」
こうして俺達と海龍の距離は常に一定に保たれたまま、深夜になり、そして朝を迎えた。
==
「水平線から太陽が顔を……」
「クソ! こいつらしつこすぎるだろ! ジュリアさんの魔法も何発かしっかり当たってるのに、諦める素振りすら見せやしねえ!」
ダグラスが愚痴が聞こえたのか、海龍達が水弾を何発も打ち込んでくるが、鈴の結界術で防いだり、ダグラスが両手剣で切り払って直撃するのを防いでくれていたため、未だに船に大きな被害が出る事は無かったが、徹夜で操船していた船員達は眠気の為に所々で船を漕いでいる姿が見て取れた。
「しっかりしろ手前ら! 海の男の名が泣くぞ!!」
「お、おう……!」
(船員達の限界も近いか……。 だが、海龍達は何でここまで俺達を執拗に追いかけて来る?)
アーダン船長が頭の中で必死に考えを纏めようとするが理由など分かる訳も無く、朝日が水平線から顔を出しても、俺達の逃亡は続いていた。
太陽もすっかり真上に昇り船員達もこの緊張感の中ずっと頑張って来ていたが、とうとう限界を迎える者が出始めていたが、海龍は未だに諦めずに船の後ろを付いて来ていた。
だが少しづつ距離が詰められて来ているのか、海龍達の撃って来る水弾の着弾地点が徐々に船に近くなり始めていた。
「くぅ…、きっついな~。 1発1発の威力が大きいから、僕の結界で防ぐのもギリギリだよ……」
鈴が結界術で直撃しそうな水弾を選んで防いでくれているが、昨日の夜からずっと起きていた鈴も、目に見えて疲弊していた。
「共也、どうするの? このままだと僕達……」
「鈴……」
そこに俺達へ、さらなる不幸が襲う。
「船長! 風が!!」
「風がどうした!?」
「風が止みます!!」
「な、何だと!!」
物見櫓で辺りを見ていた船員の言葉に俺達が驚いていると、すぐに風が止んでしまい帆船であるこの船は航行不能となってしまった。
「こ、こんな重要な場面で凪だと!!」
「船長! 海龍が来ます!!」
後方からずっと付いて来ていた1匹の海龍が、遂に船に追いつき鎌首を持ち上げた所で、俺達はこの船が沈没する事を覚悟した。
「クソ! あと少しでケントニス帝国だと言うのに!!」
そうして船を沈める為に勢いを付けようとした海龍は、頭を船に向けた所で船にいた全員がそれを見た。
こちらの船を沈めようとして攻撃して来た海龍の首に1本の線が走り、ゆっくりとずれて行くと海に落ちて行った。
皆何が起きたのか理解出来ずにいると船体に大きな影が映った為、俺達は慌てて辺りを確認すると1匹の青い飛竜が船の周りを旋回しているのを発見した。
船の周りを悠々と飛ぶ飛竜を俺達が不思議に思っていると、俺達の目の前の甲板上には青の鎧を纏い青のオーラを放つ槍を持った人物が、いつの間にかそこに立っていた。
「アーダン船長、あなた達が海龍に襲われて攻撃されていた、で良かったんですよね?」
「あ、ああ、【シグルド竜騎士団長】か、助かりました。 ですが何故ここに?」
「まあ、その説明は残りの1匹を、討伐してからにしようじゃないか」
1匹?
「残り2匹では? 私達は3匹の海龍に追われていたのですが……」
「ああ、ここからじゃ見えにくいか。 一番後ろにいる海龍を見てみると良い」
「後ろの? あれは……。 海龍は何か白と黒の模様が入った生物に襲われているのですか?」
「恐らくシャチの群れだな。 シャチが群れで海龍を襲うって珍しいよな」
【シャチ】という言葉に航海初日に釣りをしていたメンバーは気付いた。 シャチの贈り物をしてくれたシャチ達なのではないかと。
「ガアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァ……!!!」
海龍の周りの海が徐々に赤く染まって行くと、後方にいた海龍は断末魔を上げて海に沈んで行った。
「凄いね、シャチの群れが海龍を倒しちゃったよ」
「シャチ達が……」
「まぁ、シャチの事は後にするとして、残った1匹は君達が相手をするかい?」
シャチに襲われている仲間を目にして右往左往していた残りの1匹だったが、最後の意地とばかりにこちらに突っ込んで来た。
「しかし、普段大人しい海龍が少数とは言え群れで。 しかも執拗に人間が乗る船を襲って来るってあまり聞いた事が無いな。 アーダン船長、あんた達一体海龍達に何をしたんだ……?」
「何もしてませんよ! 夜に急に襲って来たので、ここまで必死に逃げて来たんです!」
「そうなのか? ふむ……。 ケントニス港に着岸したら一度この船に積み込まれている荷物を確認した方が良いかもしれないな」
「積み荷を、ですか?」
「ああ、恐らく俺の予想が合っているなら、っと残りの1匹が来たぞ!」
残りの1匹が船に突っ込んで来ていたが、鈴が結界で海龍の突進を受け止めてくれた。
「んぎぎぎぎ~!! あっ…、もう無理。 あとは頼んだ……」
「鈴姉!」
海龍の突進を防ぎ切った所で、鈴は魔力切れを起こしたらしく、うつ伏せに倒れてしまい船を守っていた結界が消滅した。
そんな鈴を心配したジェーンちゃんが、引きづりながら船内に運び込んでいた。
そんな鈴が少し心配だが、今は海龍の相手が優先だ。
結界に受け止められてしまった事で動きが止まった海龍に、室生が魔法銃で雷属性の玉を放つと命中したらしく、海龍は痺れて動けなくなっていた。
「これだけ船に近ければ! 俺の両手剣が届くんだよ!」
ダグラスが両手剣を振り抜くと、動きの止まっていた海龍の首を半分近くまで切り裂いた。
「キイィィィィィィィィ!!!」
絶叫を放ち、致命傷を受けた海龍は口から血を流しながらも、先程までの荒々しい雰囲気が無くなると、しばらく甲板上にいる俺達を何処か寂しそうな目で眺めていたが、最後には諦めたのか静かに海中へと潜って消えて行った。
「あの傷では助からないと思うのだが、どこに向かったのやら……」
シグルド隊長の言葉は、俺達が昨日の夜からずっと海龍に追われていた状況から解放された事を示していた。
そうした安堵感から俺達と船員達は一斉に甲板に力無く座り込むのだった。
「はっはっは、休むのは構わんがもう少し頑張れ! ケントニス帝国の港が見えて来たぞ?」
「もう無理だ! 少し休憩してから向かう事にしよう!」
「「「「さ、賛成……」」」」
さすがのアーダン船長も徹夜で操舵したのは疲れたらしく、遠くに港らしき物が見えるが休憩する事を提案して来た。
アーダン船長の許可も出たので、俺達は少しの間甲板上で横になって休息を取ってからケントニス帝国の港に入る事にしたのだった。
港が見えましたが疲労のために一時の休息に入りました。
次回は竜騎士団団長シグルド=ラーセルで書いて行こうかと思います。




