スキルの発現。
本編二話です。
一度休息を取る為に退出する事となったエリア王女の背を見送った後、1人の男の兵士が皆の視線を自身に集める為に手を上げた。
少しすると、彼は皆の視線が自分に集まっているのを確認した所で胸から1枚のカードを取り出して掲げると、今後重要なアイテムとなるカードの説明を始める声が広間に響き渡った。
「これから召喚された皆様には自身が獲得したスキルを確認出来るカードをお渡ししますので、そのカードに血を1滴たらして下さい」
「ほら共也君、これだ。 このカードは【スキルカード】と言い、後で必要になるから必ず無くさないようにな」
「グランクさん、ありがとうございます」
一見何の変哲も無いツルツルと加工処理された真っ白なカードを手渡された俺は、説明役の兵士の次の言葉を待った。
「血をカードに垂らすと、その血に含まれる様々な情報をカードが解析して、あなたの氏名やスキルなどが表示される仕組みとなっています。 カードで自身がどの様なスキルを獲得しているか確認されましたら、この旗の下にスキルに詳しい者がいますので報告をお願いします!」
確かに兵士とは違い緑色のローブを纏っている複数の人物が、この国の国旗らしきシンボルマークの下で待機していた。
場の雰囲気に流されていたが、兵士の『皆様』と言う言葉にハッとした俺は慌てて広間の中を見渡すと、ここには俺と同じく沢山の人が召喚によって呼び出された様で、明らかにこの国の人間には見えない人達が今の状況に付いて来れていなかった。
「共也君、何か分からない事でもあるのかね?」
「デリックさん……」
デリックさんは、俺がしきりに周りを気にしている姿に疑問に思った彼が声をかけてくれた様だ。
「いえ、あまりにも沢山の人が召喚されたんだなと思って驚いていたんです」
「ああ……。 今回は異世界の者を召喚出来るスキルを持つ者に、大陸中から集まってもらったからな……。 そして今回が最初で最後の試みだったのだ」
「最後とは?」
この俺の質問に対して、デリックさんはすぐに答えてくれたのだった。
「実はな……。 異世界の者を召喚するスキルを使用した者は、例外無くそのスキルを消失してしまうからななんだ……」
「スキルの消滅……。 デリックさん、あなたは世界中から集めたと言われましたが、皆この事を承知の上で集まったと言う事ですか?」
「ああ……。 皆スキルの消滅を覚悟の上で集まっているのだ」
「何故そこまでして……」
「それはな……。 人類側の戦力が、もう限界に近い所まで来ているからなんだ……」
「そこまでこの世界に住む人達は魔族に押されているのですか?」
「そうだ。 恐らく早々に魔族との決着を付ける事が出来なければ、魔族の奴隷や食糧とされ人間と言う種が絶滅する可能性すらあったのだ」
『人類と言う種の全滅』デリックさんの台詞に、俺はまさか……。 とも思ったが彼の顔は真剣だった為、何も言う事が出来ないでいた。
「・・・・・」
「強制的にこの世界に呼び出された君達には、心の底からすまないとおもっている。 だが、我々ももう後が無いと言うのは理解してくれ……」
「デリックさん……」
「本来ならあまり協力的でない他国も、今回の召喚に関しては協力的に動いてくれたよ。 お陰で今回の集団召喚を執り行うと言う流れになったのだ」
「他国も協力的に動いたと言う事は、もう異世界の者を召喚する事の出来るスキルを持つ者はいなくなってしまったのでは無いのですか?」
「その事に気付いたか。 共也君の言う通り、召喚スキルを持つ者は今日の為にここに集められ、行使された以上、当分の間【異世界者召喚】のスキルを持つ者は当分現れる事は無いだろうな」
異世界人を再び召喚する為に必要なスキルが人類側から消失した。 この事実に、彼等も覚悟を決めた顔をしていた。
「だが、強制的に召喚された君達にとっては、魔族と人族の争いに巻き込まれてしまったのだ、いい迷惑だろうな……。 縁もゆかりも無い所か、世界すら違う人達の未来を背負わされたのだから……」
確かにその事は考えさせられるが、デリックさん達も戦争を終わらせる事の出来ない自分達の不甲斐なさを嘆いているのか、力強く握りこんでいる彼の拳からは血が滴り落ちていた。
「デリックさん、俺の事でそこまで責任を感じ無いで下さい。 実は俺、元々旅に出ようと思って居た所だったんです」
「そうだったのか?」
「はい。 ですから、むしろ俺に取っては新たな世界に来れてちょっとドキドキしているんです。 不謹慎ですが、新しい出会いで何かが生まれるのかもしれないと期待してる自分がいるんです。 だから今回召喚してくれて感謝しているくらいですよ?」
「なら、君に頼っても良いのかい?」
「ええ、勿論です。 昔、俺の命を救ってくれた人に最後まで恥じない生き方をすると誓ったと言うのも有りますし、困ってる人が助けを求めているなら見捨てられませんよ」
頬を掻いて苦笑いする俺を見たデリックさんは、目頭を押さえて今にも泣きそうになっている姿を見せまいとして必死に耐えていた。
「すまん共也君……。 歳を取ると涙腺が緩んでしまっていかんな。 私に出来る限り事があるのなら、君達に協力を惜しまないつもりだ。
だから、困った事があったら遠慮なく言ってくれ……」
「はい!」
そんなやり取りをしていると、先程兵士の人から説明を受けたスキルカードの1枚が俺に手渡された。
「ええっと、まずはこのカードに血を1滴垂らして自分の取得したスキルを確認するんでしたね」
「これをどうぞ」
「あ、どうも」
近くにいた兵士の人から針を借りて指に刺して滲み出て来た血を1滴カードに垂らすと、俺の血液に反応したカードが微かに光ると、文字が浮かび上がり名前やスキル名が表示された。
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【名前】
: 最上 共也
【性別】
: 男
【称号】
: 無し
【スキル】
・【共生魔法】
・共に歩むと誓った者と力を合わせる事が出来るようになる。
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「【共生魔法】…………?? 共に歩むと誓った者と???」
説明文を何度読んでもさっぱり分からないスキルに、俺は首を捻る事しか出来なかった。
どうやら俺は使い方すら分からないスキルを獲得した様だった……。
「と、共也君、取り合えずスキル担当官に報告しに行ってみたまえ。 もしかすると、彼等なら何か知っているかもしれん」
「そう……、ですね。 行って来ます」
カードに記載されているスキルの説明内容も全く意味が分からない文面だったが、取り合えずデリックさんの言う通りスキルの担当官なら何か知ってるかもしれない。
そう思い報告に向かおうと歩を進めようとすると、担当官が驚きの声を上げた為フロア内がざわついていた。
「せ、聖剣顕現……、それに聖剣術……。 そして……。 おお、おお……称号に【勇者】と表示されている……こ、この方は勇者様だ!!」
『おおおおおおおおおおお!!』
担当官から発せられた『勇者』、この一言によってフロア内が再び湧きたった。
『おおぉ……。 勇者の称号を持つ者がとうとう……、これで人類は助かるぞ!』
『勇者様が現れたのなら、魔王を討伐出来る可能性も出て来たな! これで私達の地位も安泰だ!』
魔王討伐だなんて簡単に言ってくれる……。 命を懸けて戦うのは俺達なんだぞ……って あいつは!?
好き勝手な事を言う人達に、胸がざわつくがそれどころではない。
今も勇者様と持てはやされて騒がれている人物を、俺は知っている【黄昏 光輝幼馴染の1人が嬉しそうな笑みをしながらそこに立って居た。
何で光輝がここに……。 まさか!?
光輝が居るので、俺と同じく青の魔法陣に飲まれた菊流も?と思い辺りを見渡すと、そこに赤い髪を持つ探し人が現れた。
「共也! 共也! 良かった……。 青白い光に飲まれて知らない人達に取り囲まれていたから、怖かったよ……。 共也?」
「菊流、無事で良かった……。 少し周りを見渡してみてくれ、俺達の知ってる顔がちらほらある……」
「え……?」
慌てて広間に居る人の確認した菊流は、俺達が多数の見知った顔がある事に気付く。
「あれは……光輝。 鈴、魅影ちゃん……。 うげ! 下平までいるじゃない……。
他にも何人か見知った顔があるわね……。 なんだか私達の知り合いが多くない?」
「それもあるが驚くなよ菊流、光輝にいたっては勇者様らしい……」
「あ~。 うん……、何て言って良いか分から無いけど、善人面が似合うあいつらしいと言えばらしいんじゃない?」
「やっぱり菊流もそう思うか……」
2人で苦笑いをしていると、話題の勇者様もこちらに気づいたのかキラキラと表現出来そうな笑顔をしながら、手を振りながらこちらに近づいてきた。
「菊流ちゃん! 俺達が何時も読んでいた小説みたいな展開で驚いたけど、君が一緒ならどんな苦しい試練でも頑張って行けそうだ!
これは、僕と君でパーティーを組んで世界を救え、と言う天の采配に違いない!」
自分勝手な解釈で気持ち悪い台詞を大声で連発する光輝に対して、菊流は心底嫌そうな顔を隠そうともしていなかった。
「光輝。 あんたとパーティを組むなんて嫌に決まってるじゃない……。 それにパーティーを組むなら、気心の知れた共也と組むから諦めて頂戴」
「共也だって? ああ、居たのか。 菊流ちゃんの存在ばかりに目が行ってて君に気付かなかったよ」
「お前なぁ……」
パーティー勧誘を断られた光輝はようやく俺と言う存在を認識したのか視線が合うと、菊流の時とは違い嫌そうに顔を歪めていた。
こいつ、昔から菊流に好意を寄せてるのを知っていたが、どれだけ露骨に俺を毛嫌いしてんだよ!?
1発殴ってやりたい衝動に駆られるが、今はスキル担当官の元に行く事が先決と言う事を思い出し、こいつとの会話を終わらせる事にした。
「ふう……。 取り合えず俺と菊流は今から発現したスキルを、担当官の人に報告しに行かないといけないから、話があるならまた後にしてくれ」
「・・・・・・分かった」
光輝は不満タラタラの表情だったが、あまり長く話すとまたこいつの歯の浮く様な台詞を聞かないといけないので、俺と菊流は光輝と別れて自分のカードに表示されたスキルの内容を、スキル担当者さんに報告する為に向かうのだった。
「まずは私から報告するね、共也」
「ああ」
菊流が先陣を切り自身のカードに刻まれたスキルを報告すると、担当者は興奮した様子で菊流にスキルの内容を確認した。
「おお、この女性はスキル剛力に格闘術の2つが発現していらっしゃる。 剛力と言うスキルは自身の筋力を常に増加してくれる有用なスキルです。 そして、格闘術のスキルも同じくとてもありふれていますが、とても有用なスキルの1つです。
報告を受けて思いましたがスキルが発現したばかりだと言うのに、このスキル構成はとても素晴らしい!」
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【名前】
:花柳 菊流
【性別】
:女
【称号】:無し
【スキル】
:格闘術
:剛力
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菊流のスキル構成は担当官も称賛する程で、将来必ず強くなれると太鼓判を押される程だった。
「共也、頑張って!」
そして菊流の声援を受けた俺が、担当官にスキルカードに記載された説明欄を見せた途端、彼の表情が固まった。
「え、えっと~~~……」
「あの?」
「お、おい。 この人のスキルを知ってる奴っているか?」
「はぁ? お前が知らないスキル名でも記載されて……って、何だこのスキル!?」
案の定スキルの専門家である担当官達でさえ驚いてしまう程、俺のスキルは今まで聞いた事が無いスキルらしい。
「共生魔法……。 この世界の長い歴史の中で、獲得された様々なスキル名が記載された本がありますが、その中にも記載されていない聞いた事の無い魔法ですね……。
カードに記載されている説明分もいまいち要領を得ないですし、私達ではこのスキルの詳細を判断しようがありません、申し訳ない……」
担当官達が謝ってくれるが、知らないものはしょうがない……。
落ち込んだ気持ちが顔が表に出ていたのか、担当官達は慌ててスキルの種類を説明してくれた。
「我々では判断出来ませんが、ユニーク魔法である事は間違い無いので諦めないで下さい! いずれ説明文の内容が理解出来れば、ユニークである以上とても強力なスキルかもしれないので気を落とさすずに頑張ってください!」
結局担当官達に見放された俺は、自分でこのスキル共生魔法の謎を解明していくしかないのだった。
主人公のスキル名が判明しましたね、もう少し慣れたら挿絵も入れていきたいな。