出航、そして樽?
港町アーサリーで宿屋を経営しているダランさんの所に宿泊する事となった俺達は夜食の時間になると、この宿自慢の魚料理を期待して食堂の席に着いた。
そして、サーシャさんが宿屋に宿泊している全員に、豪勢な魚料理を振舞ってくれたのだが、一口食べるとその美味しさに皆が唸り声を上げた。
「うめぇ! これは自慢料理と言うだけの事はあるな!」
「ダグラス五月蠅い、黙って食え!」
「サーシャさん、このお魚料理がとても美味しいのですけれど、何か秘訣でもあるのですか?」
「あら魅影ちゃんだっけ? 実はねその料理にはハーブだけじゃなくて、ポーションなどに使われる薬草も使ってるのよ」
「ポーションに使われる薬草って、確かちょっと苦みが在りましたよね?」
「そうそう、魅影ちゃん良く知ってるじゃない。 でもね、その薬草の苦みが料理に良いアクセントを加えてくれるから、味が引き締まって美味しくなるのよ」
「へ~、そうなんですね。 今度料理をする機会があったら試してみますね、教えてくれてありがとうございます」
「良いのよ、もし料理の事で聞きたい事があったなら遠慮なく聞いてね?」
「はい!」
料理の作り方を聞いた事が切っ掛けとなり、仲良くなった魅影とサーシャさんは、しばらく料理の話題で話し込んでいた。
和気あいあいと雑談をしながら美味しい魚料理を食べ終えた俺達は、室生と愛璃の2人は外に観光へに出かけて行き。
ダグラスは俺達に今日は早めに休むと伝えるとさっさと部屋に戻って行ったりと、各自船旅に出る前の自由時間を堪能していた。
だが、何故か俺は無性に海が見たくなったので、一人で海を見に行く事にした。
今来ている海岸の砂浜に座ると、俺の視界の先に有る海面には満月がとても綺麗に映っていて、しばらくその月を見ながら小波の音に耳を傾けていた。
〖ざ~~。 ざざ~~~〗
あまりにも波の音が心地良いのでしばらく聞いていると、いつの間にまウトウトとし始めていた。
〖ざ~~。 ざざ~~~〗
〖ジャリ〗
「ハ!」
もう少しで寝てしまいそうになっていると、後ろから砂を踏みしめる音が聞こえて来たので慌てて振り向くと、そこには与一が左手を腰に当てて呆れた表情をして立っていた。
「やっぱりここにいた。 共也も菊流と似た行動パターンの持ち主だから分かりやすかったわ」
「与一……」
「隣良いかしら?」
「あ、ああ……」
そう許可すると与一は俺の隣に座り、一緒に月の映る海をしばらく眺めていた。
「綺麗な海ね。 ここが異世界だなんて思えない位に……」
「俺もそれは思ってたよ。 この世界に来てからと言う物の、毎日が慌ただしかったからな……」
「そうね。 あなたが行方不明になる位には、忙しい日々だったね」
「う、あれはしょうがないじゃないか、ダリアの罠でクラニス砂漠に飛ばされたんだからさ……」
「ふふ、そうだね。 ねぇ共也知ってる?」
与一は自分の膝の上に顔を乗せて、俺を上目遣いで見て来るのでドキドキしてしまう。
「な、何をだ?」
「あなたが居なくなってから、菊流が情緒不安定になった事」
普段他人を揶揄う与一はそこには居らず、真剣な顔で問いかけてくる彼女に誤魔化そうとせずに、真摯に答えるべきだと判断した俺は静かに頷いた。
「あぁ……。 保育園のあの事故以降から、菊流はこんな俺とずっと一緒にいてくれたんだ。 離れていて見る事は出来なかったが、何となくそうじゃないかなとは思ってたよ……」
そんな俺の答えを聞いた与一は、素直に答えた俺に意外そうな顔を向けて来ていた。
「へぇ……。 朴念仁の共也でも、菊流の気持ちは気付いてたんだ」
「朴念仁ってお前……」
「ふふ、本当の事なんだから良いじゃない。 そんなあなたにずっと言うべきか悩んでいたけど、教えて上げる」
「何をだよ……」
「今、私達が座っている、まさにこの場所で菊流はあなたが居ない事で泣いてたの、そしてあなたが帰って来ない事に絶望してしまい、自ら命を絶つ一歩手前だったのよ?」
「そこまでだったのか……」
「えぇ、そんな菊流の想いを知ったあなたは、知らなかったで終わらせるの? 共也」
菊流は俺がいなくなった事で情緒不安定になっていたとダグラス達から聞いたが、そこまで深刻だとは思っていなかった自分の浅慮に腹が立って、情けなくて、そんな想いから俺は気付かない内に下唇を思い切り噛でいた。
「でも、菊流の想いに答えるかどうかはあなたが決める事だから、今は普段通りに接して上げてね。 意識しちゃったら、菊流は普通に話せなくなるでしょうからね」
「分かった。 でも、菊流が自らの命を絶つ寸前だったなんて思いもよらなかったよ……。 最悪な事になる前に気付かせてくれてありがとうな、与一」
「どういたしまして、それより共也、私に何か言う事は無いの?」
「お前はいつも飄々としてるから、俺が居なくなっても気にしなかったんじゃないか?」
「あら、失礼ね。 私はあなたを何年でも、何時までも待つつもりでいたわよ? この命が老いて尽きるまでね?」
今与一が発した言葉の意味がしばらく理解出来ずにいた俺だったが、その言葉の中に込められた彼女の想いを知ってしまった。
そして、膝の上に顔を置いて真顔でこちらをジッと見つめている与一の目は真剣そのもので、この想いは冗談で無く本気なんだと理解出来てしまった。
「与一、さっきの言葉は本気で言ってるのか? 今までそんな素振りは全く見せなかったのに……」
「だからあなたは朴念仁だって言うのよ、女性の本当の気持ちを知ってこそ、男は一人前になる物なのよ? まあそれがあなたの良い所でもあるんでしょうけどね。
ねぇ共也、もう私の気持ちも知られちゃったし、これからは誰にも遠慮しなくて良いわよね?」
今も与一の勢いにタジタジの俺なのに、これ以上何を仕掛けるつもりだよ……。
「お前なぁ。 そうやって遠慮しないって言うが、まだこの世界で俺達の立場も定まって無いのに、そんな事考えられないって……」
「確かに、あなたの言う事は正しいわ。 でもね共也、あなたは私の言う事を一つ聞く義務がある事に気付いてる?」
与一のこの言葉に俺の頭には疑問符で一杯になっていて、彼女は一体何の事を言っているのだろうと言う言葉が頭の中をグルグルと駆け巡っていた。
「なんだそれ? お前は何の事を言ってるんだ、俺はそんな約束した覚えは無いぞ?」
「ちょっと卑怯な手だったけどね。 あなたがダリアの罠で転移される時に、私が何て言ったか覚えてる?」
……俺は自分が転移する時のにどんな会話を与一としたか、必死に思い出そうとしていた。
☆★☆★☆★☆★
「ジェーン、与一、必ず帰って来るからその間、菊流の事頼んだぞ!」
「共兄! 必ず帰って来て下さい!」
「共也! 生きて帰って来れたら1つ言う事を聞きなさいよ!」
ん? 今与一は何て言った?
「共也! 生きて帰って来れたら1つ言う事を聞きなさいよ!」
本当に言ってやがる。 そして、俺はそれに答えてしまったと……。 せっこ!!
☆★☆★☆★☆★
「思い返してみたけど確かに言ってるな、妙に変な言い方をしてるなと後で思ったが、そう言う事だったのかよ……」
「ふふ、それに気づかずに答えてしまった共也が悪い」
「いやいや、あんな緊急事態に、そんな言い回しに気付く奴なんていないだろ! はぁ……、それで与一は俺に何をさせたいんだ?」
俺が与一に問いかけると、彼女は立ち上がりお尻に着いた砂を払いのけると、後ろ手に両手を組むと俺の周りを歩き出した。
「何も無いよ? ただ、共也に私の思いを知って欲しかったの。
本当ならその約束を理由に呼び出して、告白しようと思ってたのだけど、絶好の機会がいきなり訪れたから思わず告白しちゃった。 だから、その約束はもう良いの」
「与一……、俺はな……」
与一に答えようとした瞬間、何故かエリアの悲しい顔が頭に浮かび、どう答えて良いか分からなくなってしまった。
「はぁ…、あなたって本当に不器用ね。 あのね共也、この世界は一夫一妻制度が敷かれている日本じゃないの、だから妻を何人娶っても文句を言われる訳じゃないのよ?
私は本妻に拘らないし、それは菊流も一緒。 私達の願いは、あなたと一緒に年を取って老いて行きたいの、死が私達を分かつまでね……」
照れ隠しなのか、足元の砂を海に向けて蹴っている与一の後ろ姿は、月明りを受けている影響で俺には幻想的に映って見えていた。
「与一お前……、そこまで俺の事を?」
「ああ、もう! 言ってるこっちが恥ずかしくて、顔がどんどん熱くなっちゃうじゃない! 長々語ったけど私が言いたいのは、共也、私はあなたの事を愛してる。 その事だけは覚えておいて?」
鈴に続いて与一まで俺を好きと言ってくれた事に、嬉しさを覚える俺がいたが、まだトラウマを克服出来ていない自分に腹が立った。
だけど、今はこんな俺を好きと言ってくれた女性に礼を言うべきだと思い俺は笑顔を返した。
「分かった。 与一ありがとうな……」
「もう、こんな場面でその笑顔は卑怯よ、キュンと来ちゃうじゃない……。 あなたって実は女たらしの気があるんじゃない?」
「俺にそんなつもりは無いんだが……」
「気を付けた方が良いわよ? あなたを好きな娘って割と多いんだから」
「例えば?」
「言う訳無いでしょ! ん? そう言えば口約束とは言え、さっきの権利を使わないのは勿体ないわね」
「おいおい、無茶な事をさせるのは勘弁してくれよ?」
「そんな口約束如きで酷い事を言うつもりは無いわよ、失礼ね。 そんな私を信じる事が出来ないあなたには仕返を受けて貰おうと思ったけど、今はこれで勘弁して上げる」
そう言うと、与一は俺の横にしゃがみ込んで頬に口づけをすると、すぐに離れてしまった。
「ふふふ、おやすみ共也、明日からもよろしくね……」
与一にキスをされた頬を手で押さえたまましばらく呆然としていたが、上機嫌で宿屋へと帰って行く与一の背中を、俺は暫く見送り続けた。
その後どう言うルートで宿屋に帰ったのか覚えていないが、朝になるとベッドの上で寝ていたので何事も無く帰って来たのだろう。
ベッドから起き上がった俺は急いで船で旅立つ準備をしようとしたが、ダグラスと室生はすでに宿を出る準備をしている所だった。
「共也起きたか。 夜遅くに帰って来たからギリギリまで寝かせてたんだが、もう少し早く起こした方が良かったか?」
「いや、大丈夫だ。 俺も急いで出る準備をするよ」
室生が親切に語りかけてくれたので大丈夫だ、と返事を返した俺は急いで宿屋を出る準備を終えて外に出ると、そこにはオリビアさんとテトラちゃんが馬車に乗っていて、これから王都に帰る所のようだ。
「長い旅になるでしょうけど皆、無事に帰って来るのよ?」
「はい! オリビアさん、帰ってきたらまた稽古を付けて下さいね!?」
「もちろんよ! テトラちゃんも妹弟子が出来て嬉しいみたいだから、早く帰って来てあげてね?」
「店長! ……菊流姉さん、帰ってきたらまた色々と教えてくださいね、待ってます」
「テトラちゃんありがとう。 お土産とか期待しててね、2人とも帰り道は気を付けて」
「皆さん頑張って来てくださ~~い」
「はいよーー!」
〖ガラガラガラ……〗
2人は手を振りながら街の出口に馬車を走らせて行くと、見えていた背中もすぐに人混みの中に消えて行った。
「どうしても知ってる人と別れる時って湿っぽくなっちゃうよね……。 それじゃ、そろそろ港に行かないと乗船時間に遅れちゃうわね」
菊流は目に浮かんでいた涙を袖で拭い取り、そのまま俺達は多くの船が停泊している港に向かって移動を開始するのだった。
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港に着いた俺達の目に入って来たのは様々な船が停泊している姿だった。
「でけえ港だな……。 どの船が俺達が乗り込む予定の船なんだ?」
「どれだろうな……」
俺達が港の入り口でウロウロしていると、1人の女性エルフさんが俺達を見つけると手を振って来た。
「みんな~~。 ここよ~~、この船がケントニス帝国行きみたい!」
ジュリアさんだ、もう港に来ていたのか。
バリスさんに頼まれていた冒険者ギルドの仕事を終えてすでに港に来ていたジュリアさんが、今回俺達が乗るケントニス帝国行きの船を見つけてくれたので、そこに向かい。
船の前で乗客の確認をしていた船員に身分証を見せると乗船を許可されたので、みんなで一緒に乗り込むのだった。
ようやく乗船出来た船の甲板の上で寛いでいると、船員達が出航する為に帆を張り始め、怒声のような掛け声を発し始めた。
「行くぞ野郎共! ケントニス帝国に向けて出航だ!」
『「「「あいあいさ~~~!!」」」』
「お、見ろよ、船が岸壁から離れ始めたぞ!」
ダグラスが興奮した様子で声を出すと、帆で風を受けた大型船が岸壁から離れ始めると割とすぐに湾から離れ始めた。
「ん? 共也、あれはすでに遠くでハッキリと区別する事が難しいが、宰相のギードさんじゃないか?」
「ギードさん? 本当だ、でも見送りに来たって感じじゃないよな……」
遠くの方から宰相のギードさんらしき人物が港に慌てて入って来て、何か大声で叫んでいたが、すでにそれなりの距離が離れてしまっていて、何と喋っているのか全く聞き取る事が出来なかった。
「…………ぃ、……ぉ……」
港からギードさんが大きく手を振っていたので、俺も振り返すと✕印をギードさんの両腕を使って違うと表現していたが、何と言ってるか分からない上に意味が分からないので、どう答えて良いのか分からずどうしようも無かった……。
暫くこんなやり取りをしていると、岸壁にいたギードさん達も見えなくなってしまったので、俺は諦めて自分に割り当てられている部屋に向かう事にした。
宰相であるギードさんが、わざわざ港に来た上に何故こちらに側に大声で訴えかけてたのか、結局分からず仕舞いだったな……。
もう見えなくなってしまったギードさんの事を考えるのは止めて、自分に割り振られた船室の扉を開けて中に入ると、何故か樽が1つ部屋の真ん中に置かれていた。
……何だこの樽。
しかも、その樽が微妙にカタカタと動いているのはホラーでしか無い……。
俺は恐怖心を感じながらも恐る恐るその樽に近づくと、勢いよく蓋を開けた。
〖カパン〗
「あ!」
なんとその樽の中にはエリアが膝を抱えたままの状態で入っていて、俺と目線がバッチリ合うと彼女は笑顔を作って俺に片手を上げて挨拶をして来た。
だけど俺は、エリアが何か言う前に蓋を閉めて何も見なかった事にした。
「共也さん、蓋を閉めるなんて酷いです!!」
俺が閉めた蓋を勢い良く開けてエリアが出て来たが、その蓋を開けて出て来たエリアの恰好は某国民的アニメの最後にソックリだったので、俺はつい吹き出してしまった。
「ア、アハハ。 エリアのその恰好、サザ〇さんそっくりで! は、腹が!」
その後エリアは、蓋を再び絞められた事より、出て来た姿を笑われた事に対して怒り心頭で、しばらく猛抗議をして来た。
「笑うなんて酷いですよ共也さん! せっかく皆と合流する為に色々と頑張ったのに!!」
「あ、エリア、お前まさかグランク王達の許可を得ずに来たな!?」
先程港で合った事を思い出す。
何故ギードさんがあれ程までに必死に岸壁から、俺達に大声を張り上げていたのかが今やっと理解出来た…。
俺が質問すると、エリアはペロちゃんみたいな顔をして誤魔化そうとして来たので、両方の頬を引っ張ってさらに質問したら、笑顔なのか涙目なのかわからない顔で許可を貰って無いと自白した……。
「どうすんだよそれ……。 今頃グランク王が大激怒して兵士達に叫んでるんじゃないのか?」
「それは書置きを置いて来たので大丈夫です! しかも時間が立ってから、見つかるように工夫してたんですよ? 私って凄くありません!?」
俺は無言で再びエリアの両頬を引っ張った。
☆★☆★☆★☆★
【その頃、王城では】
「まだあのアホ娘は見つからんのかーー!! ついこの間も1か月半も行方不明になったのに、また今回も失踪だと!! 早くあいつを見つけ出して連れて来んかーーー!!」
その時、エリア付きの侍女が顔を真っ青にして執務室の中に入って来た。
そして、その手には1枚の手紙が握られている。
「グ、グランク王様、この様なお手紙がエリア姫様の机の隙間から……」
「何だ! 見せてみろ!!」
グランク王は侍女から手紙を受け取り読み始めて行くと、徐々に額に血管が浮きあがり手に持っていた手紙を握り潰した。
「あんのアホ娘が~~~!!! 帰ってきたら絶対にただじゃおかんぞ~~!!!」
グランク王が握り潰した手紙を、王妃であるミリアさんが手紙の皺を伸ばし読み始めると、クスリと微笑を浮かべるのだった。
【お父様、お母様、私は共也さんと離れて暮らす事は、もう考えられないんです。
ですので私もケントニス帝国に大使として向かいたいと思います。
王女としての責務も大切だと理解していますが、それ以上に共也さんと一緒に居たいと思う自分の気持ちに嘘はつきたく無いんです。
この様な無責任な行為を許して下さいと申しません。
帰ったら必ず罰を受けますので、今回だけは共也さんと一緒に旅に出る事をお許し下さい。
エリア=シンドリア=サーシスより 愛しの家族達へ。】
「ふふふ、あの娘ったら……。 あなた良いではありませんか、あの大人しかったエリアの燃えるような恋なのですから応援して上げましょう?」
「だがなミリア、第一王女としての責務が……」
「何を言っているのですか、あなたが私を口説く時はもっと過激だったじゃありませんか。 真夜中に私の実家に……」
その言葉は言わせないとばかりに、ミリア王妃の口をグランク王は塞ぐ。
「わぁ~~!!! 分かった! 分かったから! それ以上は皆がいる所で言うのは止めてくれ!!」
「ふふ、言質は取りましたよ?」
「くぅ……。 また周辺国への良い訳の日々が始まるのか……」
「ふふふ、エリアこっちの方は何とかしまから、その恋を成就出来る様に頑張って来るのですよ。 それともあなた、もう1人子供を作ります?」
「そ、それは……。 ぶ、部下の目もあるから、その話しは夜にな……」
「はいはい。 まったく素直じゃないんだから」
こうしてグランク王の怒りも何とか収まった事で、ミリア王妃は港町の方角を見て微笑むのだった。
☆★☆★☆★☆★
そして船の中に戻る。
「お前は、最初、パーティーを組む時に、公務が有る時は、組めない時が、あるかもしれないって、言ってたじゃないか!」
俺はエリアの柔らかい頬を引っ張りながら苦言を呈していると、モゴモゴと何か言っているので一旦手を離すと、頬を擦りながら話し始めた。
「と、共也さんを召喚してから今までずっと一緒に行動してたのに、今更半年近くも遠く離れて別々に活動するなんて考えられません!!
えぇ! 王女としての責務よりも共也さんと一緒にいる事を選んだんです!
この答えで満足ですか!?」
「エリア、お前……」
「共也さんはどうなんですか!? 私が近くに居なくても……、平気……なんですか?」
勢い任せでぶちまけたエリアの言葉は後半に行くにつれ徐々にか細くなって行き。 そして、心配そうな顔で俺の答えを待っていた。
俺の答えは……。
「俺も……。 エリアが居なくて寂しく感じていたさ。 正直こうやってエリアの顔を見れてホッとしている自分もいるよ」
俺からの答えはそれで合っていたのか、エリアは満面の花が咲いたかの様にニッコリと微笑んでいた。
「今はそれで良いんです! 世界に平和が訪れた時には、結婚してくれるんですものね?」
「結局その約束は履行されるんだな……」
「当たり前じゃないですか。 女と言う生き物は、重要な約束事は忘れない生き物なんですよ! 知りませんでした?」
小馬鹿にされた事で少しイラ付くが、こうしてエリアと話していると落ち着くのは本当だ。
俺とエリアが今後どうしようか考えていると、部屋のドアがノックされると同時に扉が開けられて菊流が入って来た。
「共也、これからの事を皆と話し合いをしよう………って、はっ? 何でエリアがいるのよ? 今回はお留守番って……」
「どうやらそこにある樽に入って密航して来たらしい。 しかも王様達の許可は貰ってないらしい、まるで蛇の傭兵の動きだよ……」
菊流は額に手を当てて、エリアの行動に呆れていた。
「呆れた……。 あなた港にギードさん達が来てたのよ? 恐らくあなたがケントニス帝国に向かう船に乗り込んだのも予想して来たんだと思うわ……。
絶対帰ったら酷い事になるわよ……?」
「構いません! 覚悟して来ましたから! でも……、本当に怒られたら2人とも助けて下さいね?」
冷や汗をかきながら懇願するエリアに俺と菊流は『締まらないな~』と思いながらもパーティーメンバーが全員揃った事に喜んでいた。
でも、エリアが密航した件はどうしよう……。
パーティーメンバー勢揃いの回でした。
次回はケントニス帝国港にを書いて行こうかと。