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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
3章・親善大使として親書を届けに。
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出発前の休暇。

 シンドリア王国の親善大使として、ケントニス帝国とノグライナ王国の両国へ親書を届けるクエストを王家から直々に指名依頼を受ける事となった俺だったが、船の手配など必要な手続きが数日かかると言う事なので、俺は1日ほど自由時間と決めて王都を1人で歩いて回って見る事にした。


 ……のだが……。


「いや~、奢って貰って悪いね共也! まぁ、君も僕みたいな美少女と一緒に散歩する事が出来るんだから満足だよね?」

「…………」

「……ね!」

「……………」

「……黙って無いでそうだと言え!」

「ぐえ! 首を絞めるな首を!」

「だったら黙って無いで何とか言え!」


 そう、1人で王都を回って見るつもりだったのに何故か一緒に行動している上に、結界術で作った踏み台に乗り俺の首を絞めているのは幼馴染の一人、鈴だった。


「美少女って言うが、お前は俺と同い年『身長が低いから少女で通る!』さいですか……。 まぁ、確かに美少女で通らなくは無いと思うが……」

「でしょ!? 共也がそんな歯の浮くような事を言ってくれるなんて、僕は嬉しいよ!」

「1ミリもそんな事思って無いだろ……」

「ありゃ、バレバレか、さすが幼馴染と言った所だね。 んで、たまたま見かけたから共也を追いかけて来たけど、今日は何する予定だったのさ?」

「ん~。 これからちょっと長旅になりそうだから行っておきたい所があってな」

「へぇ~~。 この王都に共也の心を射止めた人でも出来たのかい?」


 違うと言っても信じてくれないだろうから、盛大に勘違いさせて揶揄ってやろう。


 そう思った俺は、曖昧に頷いた。


「え? マジで!? うわ~ぁ、とうとう共也もその気になったのか!」


 鈴は赤く染まる頬に両頬に手を当てて喜ぶ動作をしたが、すぐに真顔になると俺を鋭い目つきで見て来た。


 何でだ?


「共也、君が想い人が出来たのは良い事だとは思うけど、菊流の事はどうするのか聞かせて貰って良いかな? これは結構マジな話しで……」

「お前が何を言いたいのか何となく分かるが、こんな真昼間の街中で話す内容じゃないだろ……」


 俺の指摘に、鈴も今いる場所が大勢の人目の有る大通りだと言う事を思い出すと、徐々に声が小さくなって行った。


「ん? あ……。 ご、ごめん……」

「分かってくれたなら、それで良いさ。 えっと鈴が聞きたかったのは今日の予定だったよな。 これから冒険者ギルドにいるジュリアさんに頼んでいた品物を受け取ったら、今日の目的地に向かう予定だよ。

 鈴、さっきの質問の答えもそこで話すから、良かったら一緒に付いて来るか?」

「……分かった。 付いて行く」


 鈴はいまいち納得していない顔をしているが、付いて来る事を決めた様だ。


 ==


 すでに見慣れた冒険者ギルドの扉を開いて中に入ると、何時もの受付カウンターに立っているジュリアさんが俺を見つけると、嬉しそうに小さく手を振ってくれた。


「まさか共也の心を射止めたのはエルフであるジュリアさん!? もしそうなら菊流の勝ち目は……ぶつぶつ」


 鈴の勘違い発言は聞き流しておいて、ジュリアさんが居るカウンターに向かうと、依頼の品である白い花を()()受け取った。


「え? ジュリアさん、俺は1束だけ依頼したはずじゃ……」 

「うん、そうなんだけどね。 私の分も渡すから、上げて来て貰って良いかな?」

「ジュリアさん……。 ありがとうございます、必ず渡して来ます……」

「うん。 共也ちゃん、行ってらっしゃい」


 俺が2束の白い花を持って鈴の元に戻ると、1束を鈴に差し出した。


「共也、これは?」

「これから行く所に必要な物だよ。 良く考えると鈴が手ぶらだから、2束で丁度良かったかもしれないな」

「白い花束って……。 共也、まさかあんたがこれから行く予定の場所って……」


 鈴は白い花束。 そして、これから向かう所と言われて何となく想像が付いたみたいだから、俺は目的地の名を教える事にした。


「そうだよ、リディアの眠る共同墓地さ」



 =◇====


【シンドリア王国・共同墓地】


 俺と鈴は、都市郊外にある共同墓地に足を踏み入れると、1つの小さな墓石の前に白い花束を2束備えると、この世界の形式に合ってるのか分からないが、地球式に手を合わせるとリディアの冥福を祈った。


「共也、君はまだあの王都襲来の時の事を気にしてるんだね……」

「そりゃ気にするさ……。 俺が駆けつけるのが後1分でも早ければ、リディアを助ける事が出来たんだ……」

「でもそれは君のせいじゃ……」


 鈴は俺のせいじゃないと言いかけたが、思い止まり最期まで言うのを止めてくれた。


「鈴、お前も気づいてるんだろう? これで3度目だと……。 3度も目の前で、助けたいと思った人の命が俺の手から零れ落ちた事を……」

「……1度目は千世ちゃん、そしてもう1つはこの娘。 後は……親護さん達の事を言ってるんだね?」

「そうだよ……。 あの時も必死に2人を助けようとしたが、結局助ける事が出来なかった……」


 俺が膝を付いてリディアの墓に祈っていると、鈴が1度溜息を吐いて呟いた。


「それでか。 共也、君は菊流の好意を受け入れる事が怖いんだね?」

「……………」

「何も言わないって事は是と取るよ? 君は菊流の好意を受け入れてまた助ける事が出来なかったら。 と考えているんだね……」

「あぁ、そうだよ。 菊流が俺に寄せてくれる好意何て、とっくに気付いていたさ。 でも、もしまた千世ちゃんや、親護父さん達の様に助ける事が出来なかったら?

 そう思うと菊流の想いを受け入れる事が、怖くて出来なかったんだ……。 決して菊流を嫌ってる訳じゃ無い……」

「それはまあ共也の行動を見てれば分かるけど……。

 でもね共也、私達は命の軽いこの世界に召喚されて、明日死ぬかも知れない状況に置かれてしまった以上は、後悔だけはしない様に行動して欲しいんだよ。

 ……これが2人の共通の幼馴染から送るアドバイス」

「鈴……」


 ずっとリディアの墓の前で跪いていた俺は、鈴の言葉に思う事が有って顔を上げようとすると、目の前が黒い物で覆われてしまうと同時に、額に何か柔らかい物が押し付けられる感触が伝わって来た。


「え、鈴?」

「えへへ、我慢出来なかったから額にだけどキスしちゃった♪」


 両手を後ろで組んでユックリと離れて行く鈴の頬は赤く染まっていて、今までそんな素振りを見てた事すら無かった彼女の行動に驚きが隠せなかった。


「鈴、お前……」

「ごめんね共也」

「何でお前が謝るんだよ……」

「それはね、後悔しないように行動して欲しいって言ったけど、その言葉が一番刺さったのが私自身なんだ……。 さっきのキスで、共也も私があなたに好意を抱いてるって事に気付いたでしょ?」

「…………」

「ちょっと!? 気付かなかったとか言うの本気で止めてよ、未だに顔が熱くてしょうがないんだから!」


 俺が無言だった事に相当不安になったのか、再び焦って掴みかかって来ようとしたが、草に足を取られて転びそうになったので、鈴の体を支えると手の中に柔らかい感触が……。


 サッと離れた鈴は体を抱きしめて徐々に俺から距離を取ると、非難する目を向けると口を開いた。


「……共也のスケベ!」

「何で助けたのに非難されないといけないんだよ! 今のは完全に事故だろ!」

「あ~、あ。 せっかく告白したのに、その日に手を出されちゃうとか私って男の見る目が無かったのかなぁ?」


 こいつ、絶対にそんな事を思って無いクセに……。

 その証拠に鈴は、ずっと俺が困る顔をニヤニヤと楽しそうな顔で見続けている。


「お前なぁ……。 そうやって緊張すると人をおちょくるクセがを直せよ……、そんなんだから高校の時も何度も校舎裏で告白されても、ガッカリされてそのまま告白を無かった事にされたのを忘れたのか……」


 俺がその事を指摘すると、鈴は当時の事を思い出したのか涙目となって反論して来た。


「共也酷い! あの後、愛璃ちゃん達に見つかって長々と説教を受けてから、ずっと気にしてるんだから掘り返さないでよ!!」

「分かってるんだったら直せって! こう毎回おちょくられると真剣な話が出来ないじゃないか!」

「何で真剣な話しを……って、え、共也それって……、僕との事を真剣に考えてくれるって事?」


 まさか俺がこんな事を言うとは思っていなかった鈴は、ちょっと驚いた顔をしていた。


「俺がこんな性格だから、今はあくまで保留だけど……。 それでも良いか?」

「うん。 私の事を真剣に考えてくれるだけでも嬉しい……」

「この戦争が終わる頃までには答えを出せる様にしてみるから、気長に待っててくれ」

「分かった……。 ん? 戦争が終わったらってワードは最近何処かで聞いた気が……」

「す、鈴さん? リディアの墓参りも済んだし、そろそろ城の方に……」

「城! そうだ城だ! 確か共也って、この戦争が終わって平和になったらエリアちゃんと結婚するって聞いたけど、僕達の事はどうすんのさ!?」


 藪蛇だったーーー!!


 どう言えば鈴が納得してくれるか頭をフル回転して考えていたのだが、鈴の方が先に喋り始めた。


「いや、待てよ? そうか。 共也がエリアちゃんと結婚すればこの国の王になると言う事なんだから、沢山の子供が必要になる……。

 そうなると側室が必要になるんだし、そこに僕が入り込める事が出来れば……一生安泰じゃん!

 エリアちゃんの事も僕は嫌いじゃ無いし、良い事しかない!」


 顎に手を当ててブツブツと呟く鈴の目は真剣そのもので、声を掛けて良いのかどうか悩む程だった。


「共也!」

「な、何だよ」

「もし本当にエリアちゃんと結婚する事になったなら、共也が王になる以上は側室が必要になるだろうから、僕が立候補して上げる♪」

「……どうしてそんな結論に至ったのか鈴の性格を考えたら何となく分かるが、そんな簡単に決めて良い事なのか?」


 俺の言葉にキョトンとした鈴の顔がちょっと可愛いと思ってしまったが、今はそれどころじゃない。


「いやいや、共也むしろどうして立候補しないと思うのさ。 好意を持つ男と一生添い遂げる事も出来る上に、食うに困らない席がコネで手に入るなら即決するっしょ!?

 あ、そうか、そうだよ! 側室なら菊流ちゃん達も誘う事が出来るし喧嘩も起きない!」

「あ、あの……、鈴さん?」

「共也、菊流の事は僕も協力して上げるから、君に好意を持ってる人を全員側室に誘ちゃおう!」

「はぁぁ!? お前自分が何を言ってるのか分かってるのか!?」

「将来に関わる大事な事なんだしそんな事分かってるよ。 でも、魔族との戦争が無事終わったらエリアちゃんと結婚する事は決定してるのなら、僕1人くらい側室として養ってくれても良いじゃん!」

「じゃんって……。 鈴の事はエリアに相談するから、菊流達にはまだこの事は黙っていてくれ。

 まだ魔族との本格的な戦いは始まって無いし、エリアとの婚姻はあくまで本人同士で決めた事なんだから、いつ破談になってもおかしく無いし色恋ばかりの事を考えて失敗したく無いって言うのもある。

 それに一番の問題は親しくなりすぎると、失う事を真っ先に考えてしまう俺の性格が……」


 やっぱり俺はまだ親しい人を失う事を恐れてしまっている。

 鈴に性格を直せって言えた立場じゃ無いな……。


「良いよ良いよ。 私達はまだ若いんだから数年くらい待つなんて余裕だし、焦る必要も無いんだからユックリと人生を歩んで行こうよ。

 私もエリアちゃんと一緒に側で共也を支えて上げる」

「鈴、すまん……」

「ニヒ! こんな謙虚な鈴さんに惚れちゃったかな?」

「またそうやって緊張しているのを誤魔化す……」

「う、少しくらいなら良いじゃん……馬鹿……」


 それ以降無言になった俺と鈴だったが、遠くから俺達2人を呼ぶ声が聞こえて来た。


『共也く~~~ん、鈴ちゃ~~~ん』


「あの声はジュリアさんだ。 結局あの人もリディアのお墓参りに来ちゃったんだね、ねぇジュリアさんって共也に対して随分優しいし……、あの人も側室候補にしちゃう?」

「止めろ馬鹿。 そんな事言ったらジュリアさんに失礼だし、あの人とはこの距離感で良いんだよ」

「ふぅ~~ん。 そんな物かね、脈はありそうだと思うけどな」

「無い無い、あの人が俺を見る目は弟を見る様な感覚だよ」

「相変わらずの朴念仁だな……、こりゃ菊流達も苦労するよ……」


 俺達を見つけたジュリアさんは手を振りながら近づいて来ると、リディアの墓の前で合流する事となった。


「リディアちゃんのお墓が気になったから、一旦休憩を貰って結局自分で来ちゃったわ」 


 リディアの墓前に座って、暫く手を合わせて祈っていたジュリアさんだったが、祈りが終わると直ぐに立ち上がった。


「共也君、君達が親善大使として、ケントニス帝国とノグライナ王国に行く事になったって聞いたのだけれど、それは本当の事かしら?」

「えぇ、本当です。 アポカリプス教団の事も説明する必要があるので、適任者として俺達が選ばれましたが……。 どうかしました?」

「ううん、確認したかっただけだから気にしないで。 それじゃ私は戻るからここで失礼するわね」

「はい。 クエスト受注する為に冒険者ギルドに寄ると思うので、後日よろしくお願いします」

「分かったわ。 鈴ちゃん、共也君もあまり遅くまで遊び回っちゃ駄目よ?」

「大丈夫ですよ、鈴もこう見えて立派な成人ですから!」

「カッチーン! こう見えてって一言余計だ! 馬鹿共也!」


 俺と鈴が取っ組み合いを始めたのを見たジュリアさんは軽く笑うと、冒険者ギルドへと帰って行った。


「はぁ、はぁ、俺達も帰るか……」

「そうだね……」


 こうしてリディアの墓参りに来たのに、鈴から告白を受けたりと変な1日だったが、俺のトラウマに向き合う良い切っ掛けとなる日だった。


 

最後までお読みいただきありがとうございます。

港に出発する前の貴重な1日を、鈴と一緒に行動した姿を描いてみました。

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