表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
3章・親善大使として親書を届けに。
55/286

亡くなった兵士達のために。


 牢を破って脱獄した上に、多くの兵士達を切り殺してシンドリア王国を出奔した光輝とダリア。

 その2人を捕縛するべく幾多の追っ手を差し向けたグランク様だったが、最終的に逃げ切られてしまい行方不明となってしまった。


「そこ! 慎重に運べよ!」

「はっ!」


 次々と中庭に並べられて行く遺体を前にして、俺達、特に菊流の顔色が良く無かった。


「共也……。 今回の光輝の暴走ってさ、きっと私が拒絶したからだよね?」

「……一因ではあるかもしれないけど、菊流は正直に想いを伝えただけだ。 それに……」

「それに?」

「あいつは、脱獄する際に多くの兵士達を切り殺した。 その時点で、今回の事件は光輝自身の問題責任なんだから、菊流が責任を感じる必要は一切無いよ」

「でも……。 もしかしたら、光輝とは違う関係を築く事も出来たのかと思うと……」


 違う関係……。 それは光輝の彼女になっていれば、と言う意味で言っているのだろうか……。


「馬鹿な事を言ってんじゃないよ、菊流。 あんたが悪く無いのは、私達幼馴染の女性陣が認めてるんだから信じなさいよ!」

「鈴ちゃんの言う通りですよ。 逆に菊流ちゃんに聞きたいのですが、あなたが光輝の彼女になっていたとして、毎日笑って過ごしている自分が想像出来るのですか?」

「魅影ちゃん……、無理、だと思う……」

「ほら、答えは出てるじゃない。 それに、もう事件は起きたのよ。 後悔するより、今後の事を考えるべきよ」

「そうよ。 それに、グランク様やギードさんも、私達に何か依頼したい事があったから、中庭に集めたんでしょうしね」

「柚ちゃん、愛璃……。 分かった……」


 口では納得した様な事を言っていたが、やっぱりショックは大きい様で彼女から率先して喋りかける事は無かった。


「菊流、シャキっとしろ。 与一やジェーンちゃんも、お前の事を心配してるんだぞ?」

「あ……」


 ダグラスに言われてようやく気付いた。

 私の視線の先で、心配そうにこちらを見つめる与一とジェーンちゃんがいる事に……。


「与一、ジェーンちゃん……」

「あんたが気落ちするのも分からなくはない。 だけどね、そうして下を向くのがこの人達への弔いになるの?」

「ならない……よね」

「分かってるなら良い。 もしそれでも気になるのなら、今度光輝を見つけたら処して彼等の仇を討てば良い」

「菊流姉に絶縁を言い渡されたからか知りませんが、流石に脱獄して兵士さん達を斬殺するのは、もう許されない行為だと私は思います!」

「与一、ジェーンちゃん……。 そう……だよね。 今回、光輝がやった事は、どんな理由があっても許さる事じゃないよね……」


 そう呟いた菊流は拳を強く握り込むと、力強く顔を上げると正面を向いた。 その顔に迷いは無くなっていた。


「もう迷わない。 次に光輝に会ったら、子供の頃から続く因縁に決着を付けるわ」


 その菊流の迷いの無くなった表情に全員が安堵していると、中庭にデリックさんとギードさんを連れたグランク様が中庭に現れた。  


 そして、俺達が揃って中庭にいる事を確認したグランク様は、宰相のギードさんに目配せをすると、彼は一歩前に歩み出た。


「君達に集まって貰った理由、それはすでに予想がついていると思うが、あるクエストを君達に受けて貰いたいからだ」

「クエスト?」


 周囲からざわめきが起きる。


 そりゃそうだ、俺を含む全員がてっきり光輝を連れ戻す手伝いを打診されると思っていたからだ。


 そんな中、室生が手を上げてギードさんにクエストの中身を尋ねた。


「ギードさん、まさかそのクエストの内容とは、国外へ逃亡した光輝を捕縛する事ですか?」


 その室生の言葉を聞いた全員の体が強張るのが分かったが、ギードさんは逆にその言葉を聞いて薄く笑うと首を横に振った。


「違います。 我々がお願いするクエストの内容。 それは〖氷の魔石の採取〗です」

「氷の魔石……ですか?」

「はい」


 氷の魔石なら街中でも確保出来るんじゃ……。


 そう疑問に思っている事が全員の顔に出てしまっていたらしく、ちゃんと説明するべきだと判断したグランク様が、ギードさんに変わり話し始めた。 


「何故君達に氷の魔石の採取依頼を出すのか話す前に、君達に事前に伝えておくべきことがある」

「何でしょう?」

「後で他の転移者達にも伝えるつもりだが、今回この様な不幸な事故が起きてしまったが、我々が君達転移者を危険視する事は絶対に無いと言う事を伝えておきたかったのだ」

「・・・・・・・」

「心配していたんじゃないのかい? 我々が、君達を危険視する可能性があるんじゃないかと」


 グランク様の言う通りだ。 俺達は明け方に合流した時最も懸念していた内容だ。 

 もし、この国が俺達転移者を危険視するような事があれば、残念だけど皆でこの国を出て身を隠しながら暮らそうと……。


「やはり気にしていた様だね」

「はい……。 もし、俺達を危険視するような事があれば、皆で国を出ようと相談していました」

「ふふ、やはりか。 だが、安心したまえ、将来義理の息子になる男を害するような事は私だってしたくは無いからな」


 『義理の息子』その言葉に、皆は頭の中は暫く疑問符で一杯だったが、その意味を理解した途端驚きの声を上げた。


「「「「「「はぁ!? 義理の……息子!?」」」」」


 皆の言葉がハモった瞬間、物凄い速度で接近してきた菊流が俺の首を絞め上げた。


『ちょっと共也、どう言う事よ!?』

「く、菊流、苦しい!」

「そんな事はどうでも良いのよ」


 どうでも良くねえだろ! し、死ぬ!!


「それより、グランク様の言った義理の息子の意味を答えなさいよ!! あ、あんた、まさか転移先の砂漠でエリアと子供を……?」

「ちょっと落ち着いて、菊流ちゃん。 共也君の顔が真っ赤だよ!」

「魅影ちゃん……。 ちっ!」


 舌打ち!?


 魅影が間に入ってくれたお陰で何とか解放されたが、菊流の下衆を見る様な視線に恐怖すら感じる。


「げほ、げほ!」

「で?」

「な、何が〖で?〗なんだ?」

「……どうしてグランク様が、あんたの事を義理の息子と呼ぶのかって事よ! 説明しなさい共也!」

「そ、それはだな……」


 菊流の迫力に圧倒された俺が言い淀んでいると、グランク様が楽しそうに爆弾を投下しやがった。


「はっはっは。 何だ共也君、エリアと婚約した事をまだ報告していなかったのかね?」

「ちょっ!」

『こ、婚約ですってぇ!? あんた、まさか本当にエリアを襲って妊娠させたんじゃないでしょうねぇ!?』

「ち、ちが! グランク様もエリアから報告を受けたのなら、何故そうなったのか知ってるでしょ!? 笑ってないで、助けて下さいよ!」

「うむ、助けてやりたいのは山々だが、愛娘を奪おうとしている君を認めるには少々時間がかかりそうでな。 と言う事で、自力で解決してくれたまえ!」

「共也ーーーー!!」


 切れ散らかした菊流が俺の胸倉を掴み、前後に激しく揺さぶって来る為、まともに説明する事すら出来ない。


「グランク様、話しが進まないのでお戯れもそこまでにして下さい……」

「おぉ、すまんすまん。 悲しい話しばかりだと皆が気にすると思ってな。 さて菊流君、先程の「何故」氷の魔石の採取を君達に依頼するのか。 その説明をするから、一旦怒りを鎮めて貰っても構わないかね?」

「後で、何故エリアと婚約する事になったのか、その説明をしてくれますよね?」

「約束しよう」


 婚約の説明をする約束を取り付けた事で、菊流も一旦矛を収め列に戻って行ったが、その視線は雄弁に物語っていた『もし、エリア妊娠させたから、責任を取っての婚約だったら……殺す』と……。


 砂漠でやけにならなくて心底良かったと思い返し、過去の自分を誉めてやりたかった。


「ゴホン。 では、何故氷の魔石が足りないのか説明いたいます。 率直に言いますと、今年の夏が猛暑だった事と、あなた達転移者達を召喚する際の魔力源として氷の魔石を大量消費していた為に、いざ使おうと倉庫を確認した所ほとんど在庫が無くなっており、急遽今回のクエストをあなた達に発注する運びとなったのです」

「なるほど。 それで、その……。 氷の魔石が必要な理由って、もしかして……」


 ギードさんは、チラリと今も中庭に並べられて行く兵士達の亡骸に視線を向けると、静かに頷いた。


「えぇ、兵士達の亡骸を氷の魔石で凍らせて、故郷の家族の元に帰らせようかと思いまして……」

「やはり……」


 中庭に目をやると、黙祷する兵士さんが薄く水色に輝く石を亡骸の胸に置くと、すぐに霜が覆い氷始めていた。 


「あれで数日は亡骸の鮮度を保つと共に、アンデット化する事を防ぐ事が出来ます。 ですが、遠方から来ていた者もいた為、そこまで維持するだけの魔石が無いのです」


 その説明をギードさんから受けた俺達は、全員で目配せした後に頷いた。


「そのクエスト、受けま……、いえ、受けさせてください」

「おぉ、助かります! では、今から冒険者ギルドに指名依頼としてクエストを発注させて頂きます!」 


 そう言うとギードさんはすでに用意していた1枚の羊皮紙を取り出すと、近くを通りかかった兵士に依頼をしに行くようにと使いに出すのだった。


「共也君、大丈夫かい?」

「レイルさん……。 俺の事より、レイルさん、凄い顔してますよ?」

「しょうがないじゃないか! ミルルに会いに帰れないんだから!!」


 彼の濡れ衣はダリアの策略だった事が明らかになった事で、本当ならすぐにでも自分の領地に帰っても良かったのだが、今回の事で治安が悪化する事を懸念したグランク様がレイルさんに警備隊として残って欲しいと懇願して来たものだから断る訳にもいかず……。

 ミルルちゃんに会いたいが家の為と思い、連れて来た兵士さんと共に暫く王都に残る事を決めたらしい。


「グランク様に頼まれたから王都に残ったが……。 ダリアと光輝め、余計な事をしおってからに!!」

「すいませんレイルさん……。 まさか、光輝がダリアを連れて一緒に脱獄するなんて、予想出来ませんでした……。」

「共也君、確かに君の幼馴染が起こした事件かもしれないが、菊流君も彼のストーカー行為の被害者だと聞いた。 ならば君が謝る事じゃ無い。 頭を上げてくれ」


(レイルさんはそう言ってくれるが、俺がもう少し上手く立ち回っていれば、こん回の事件も防ぐ事が出来た気がする……。 いや、菊流を物扱いする今の彼奴とは、いくら話し合っても無駄……か……)


 そんな俺の心情を察してくれたのか、レイルさんは俺の肩に手を置き慰めてくれた。


「まぁ、私も心底自分の領地に帰りたいが、王都に残ると決めた以上、治安維持の仕事も手を抜くつもりはない。 だから……その……。 ありきたりな事しか言えないが……頑張りたまえ」

「……はい」


 少しは気を取り直した俺が顔を上げると、そこには領地の方角を悲しい顔で見ているレイルさんがいた。


「はぁ……。 ミルルに暫く会えないとか……。 トホホ……。 もし、私がいない間に、ミルルに良からぬ事を考えているボーイフレンドが出来て居たら!!」


 あ、これは長くなりそうだ。 と察した俺達は氷の魔石を採取出来る場所に行く為に、持って行くのに必要な装備を尋ねるのだった。


「必要な装備? 共也君、まさか何処に行くか確認もせずに了承したのかね!?」

「は、はい……」

「人の為なら詳しく内容を確認しないのは君らしいと言えば、らしいのだろうが……。 皆の命を預かっているのだ、今後は慎重に動く事を心掛けなさい。 最低でもクエストの内容は確認するように」

「はい……」

「まぁ、小言はここまでにして、()()()()と付く以上、寒い所で取れるに決まってるじゃないかね。 場所はバリルート山脈の粉雪が舞い散る中腹付近だったはずだ」


 俺達が向かうのはバリルート山脈……。 しかも、雪が舞い散る中腹で採取か……。


 防寒具持ってる?

 と視線で訴えかけたが、全員見事に首を横に振った。


 だよなぁ~~……。 はぁ……。 明日、クエストを受注する前に、全員分の防寒具をオリビアさんの店で揃えるか……。 



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


「なあ……、本当に俺達と一緒に防寒具を買いに行くつもりか?」

「共也、このまま薄着で山に、しかも雪が降る標高に登れる訳無いだろ……」

「室生の言う通りだぜ。 それともお前は俺達に凍え死ねとでも言うのか?」

「そんな事は言わないけどさぁ……」

「それに、オリビアさんの店に行くんだろ? 菊流達の話しで、彼女の店はユニークだって聞いてたから気になってたんだよな! だから、早く入ろうぜ!」

 今俺達はオリビア雑貨店の前に立ち、本当に入店するのかと最終確認をしている所だった。


「そうそう、ダグラスの言う通りだよ。 それとも私達に知られたら不味い事でもあるの?」


 身長が少し低めの(鈴がそう主張している)彼女が背伸びをしながらて指差して抗議してくる姿は、どこか子供時代を思い出してホッコリする。


(鈴本人には絶対に言えないが……)


「無いけど……。 はぁ……鈴、俺は警告したからな?」

『「「「「警告?」」」」」』


 そんな初めて店を訪れる幼馴染達とは別に、俺の言った意味を理解した菊流達は乾いた笑いしか出て来なかった。


「あ、あははははは……」


「行くぞ」


 カランカラーーーン♪


 扉に付けられた入店を告げるベルが鳴り響くと、丁度店内で清掃をしていた黒い兎の耳がピクピクと動きこちらに向いた。


「おや、共也さん達じゃありませんか! 昨日ぶりですが、何かご入用で?」

「実はバリルート山脈に登る事になったんだけど、俺達って防寒具を持っていなくてさ」

「あ~~。 あそこは確かに防寒具無しでは確かに厳しいですね……」

「そうなんだよ……。 だから防寒具が欲しいんだけど、人数分あるかどうかオリビアさんに相談したくてさ。 呼んで来て貰って良いかな?」

「人数分?」


 俺の背後からゾロゾロと入店して来るダグラス達を見て、テトラちゃんは納得してくれた様だ。


「おぉ、確かにその人数分となると私では判断しかねますね。 共也さん、店長を呼んで来るので少々お待ちくださいね。 て~~~んちょ~~~~……!」


 店の奥へとオリビアさんを呼びに行ったテトラちゃん。 その彼女が戻って来るまでの間に、少し店内の商品を眺めて居た女性陣から感嘆の声が上がる。


「魅影ちゃん、ざっと見たけどここの店の品って、結構品質高いよね?」

「うん。 地球にある高級品店より、もしかしたら良い品かもしれませんね……」

「……ねぇ、室生♪」

「買わないぞ?」

「何でよ! 2人で貯めたお金もあるんだし、自分が欲しいと思った服くらい買ってくれても良いじゃない!」

「「「「2人で!?」」」」

「「あ……」」

「「「「そこの所詳しく!」」」」


 そんな幼馴染の夫婦漫才を横目に、テトラちゃんと、モコモコ青髪のアフロヘアを揺らすオリビアさんが店の奥から歩いて来るのが目に入った。


「共也ちゃんいらっしゃい。 昨日の今日で私の店に来てくれたのは嬉しいのだけど、テトラちゃんの話しだと、バリルート山脈の雪が降る場所まで登るから人数分の防寒具が必要って話じゃない?」


 今回防寒具を必要としている人数を確認したオリビアさんは、綺麗に割れた顎に手を置いて何かを考えている様子だった。


「オリビアさん?」

「あらごめんなさい、ちょっと考え事をしていたわ。 確かにその人数の防寒具を用意するのは良いのだけれど、理由を尋ねても良いかしら? もしかしてだけど、あの勇者の事で何かあったわけ?」


 言って良いものか悩んでいた俺の服の袖を引っ張ったのは菊流だった。


「共也、オリビアさんは昨日光輝の異常性を目撃しているんだし、事情を話して協力してもらうべきだと思う」


 そうだな、昨日、オリビアさんも光輝の異常性を目の当たりにしている以上、無関係とは言えないか。


「オリビアさん、実は……」


 光輝が投獄されてから今に至るまでの経緯を話すと、彼女はハンカチを取り出し目頭を押さえて涙をぬぐった。


「そう、亡くなった兵士達のために氷の魔石を求めてバリルート山脈にね……。 良いわ、必要な防寒具は人数分用意して上げるけど、その代わり条件があるわ」

「な、何でしょう?」

「そう身構えないで頂戴。 条件とは他でも無いわ、私とテトラちゃんの同行を許可して欲しいのよ」

『えぇ!?』


 驚きの声を上げたのは俺達では無く、同行する事が急に決まったテトラちゃんだった。


「何よテトラちゃん、私の決定に不満でもあるのかしら?」

「不満も何も、私と店長がいなくなったら誰が店番をするんですか!?」

「数日位、店を閉めても大丈夫よ大袈裟ねぇ。 テトラちゃん、あなたは殺された兵士さん達の為にバリルート山脈に行こうと思わないのかしら!?」


 指先を突き付けられている上に、正論を言われたテトラちゃんはそれ以上何も反論する事が出来ずに、俺達のクエストに参加する事が強制的に決まるのだった。


「行きます……。 行かせて頂きます……」

「よろしい! て事で、共也君、クエストに私達が参加するのは確定ね!」

「……あの、俺達はまだ同行を許可して『ん?』……了解しました!」

「よろしい!」


 こうしてまたもや参加人数が増えてしまったが、今回は魔物退治がメインである以上、あのオリビアさんが参加してくれる事に喜ばない方がおかしかった。


「頼りにさせて頂きます。 では、近々冒険者ギルドに俺の名前で指名依頼が入るらしいので、日取りが決まったら2人に教えれば良いですか?」

「えぇ、防寒具だけじゃなく、他にも雪山で活動するのに必要な物を用意しておくわ」 


 その後、退店しようとする俺達に待ったを掛けたオリビアさんによって、散々服のサイズなどを細かく計測される事となるのだった。


 やっと解放された頃にはすでに太陽は真上を通過して、昼を大幅に過ぎてしまっていた。


「城に戻る前に皆で飯を食うか?」

「それでも良いね。 僕、流石にお腹が減ったよ……。 そう言えばさ、ここって鉄志が働いている鍛冶屋が近くにあったよね。 どうせなら鉄志も誘う?」

「鉄志……あ!」

「ダグラス急に大声を上げるなよ、ビックリするだろ!」

「わ、悪い室生……。 後な……謝るついでに喋るが、鉄志からお前に伝言を頼まれてたの忘れてた……」


 どうやらダグラスによると、鉄志が働いているドワンゴ武具店に武器の相談に寄った際に、鉄志から伝言を頼まれていたらしい。


「わりぃ、室生」

「お前なぁ……。 はぁ……。 それで、鉄志は何てお前に伝えてくれって言ったんだ?」

「室生の射撃スキルを利用した武器を制作出来るかもしれないから、一度工房に寄ってくれって話しだった……かな……。 テヘ!」

「・・・・・・・」


 大の大人が舌を出して誤魔化そうとしても気持ち悪いだけだぞ……。


「ダグラス、それすっごい重要な伝言じゃない……。 ねぇ、ダグラス今度一緒に戦闘訓練しましょ?」

「も、模擬戦?」

「そうよ。 勿論木刀じゃなくて刃引きの奴ね?」

「愛璃待ってくれ!! 本当に悪かったと思ってるんだから、お前とは武器の相性が酷すぎて勝負にもならないんだから勘弁してくれ!!」

「……次は無いからね」


 何とか訓練と言う名の拷問をギリギリ回避したダグラスだったが、ドワンゴ鍛冶店と言う言葉に腰に差した魔剣に目が行った。 


「あ。 俺も帰ってきたら親方に魔剣の事を報告する約束だったんだ!」

「ほら見ろ! 俺だけが忘れてた訳じゃ『ダグラス、今からでも練兵場に行く?』……何でも無いです……」


 俺達では、黒色火薬も無いこの世界でどうやっても室生の「射撃スキル」を生かす事が出来なかったが、鉄志がそれを可能に出来るかもしれない。

 普段は無表情の室生も表情を綻ばせながら、予定に無かったドワンゴ親方の武具屋に急いで向かうのだった。



バリルート山脈に大人数で氷の魔石を取りに行く事になりました。

次回は山脈に向かう予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ