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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
2章・新たな出会い。
54/285

情報共有、そして。

 各自飲み物を確保した所で、エリアと共に砂漠で見つけた遺跡の話しをしようとしたのだが、耳聡く遺跡の話しをする事を聞きつけたミーリスが急遽参加する事になるのだった。 


「共也、何やら面白そうな話をしようとしておるが、我もお前を心配しておったのだぞ? 何故儂にも一声を掛けんのじゃ……」


 口を尖らせていじけるミーリスの姿を見た皆が、何故か俺に冷たい視線を向けて来る。 


 え、俺だけが悪いの?


 でも、実際この構図は幼子を虐める成人男性にしか見えない為、俺は慌てて話し合いにミーリスを呼ばなかった事を謝罪した。


「いや、ミーリスを忘れていた訳じゃ無いんだ……。 それに、ほら、鈴をミーリスの所に図書室の鍵を借りに行かせただろ? その時に一緒に連れて来てくれるかな~って期待をしていたのも事実だぞ?」

「共也最低! そこで僕に責任を擦り付けるだなんて酷い!!」


 後でどんな事を鈴に言われるか考えると憂鬱になるが、今はミーリスだ。


「でも、結局儂は今まで呼ばれなかった……」

「いや、まずは幼馴染達との情報共有が先かなと思ってただけであって、決してミーリスを仲間外れにした訳じゃないんだ」

「ふ~ん、幼馴染ねぇ……。 そこに居る青髪アフロの巨人族の女もお前の幼馴染なのか?」

「巨人族の女なんていな……あ……」


 椅子に座ってテトラちゃんと談笑していたオリビアさんをミーリスが指差すものだから、誰の事を「巨人族の女」と言っているのか分かってしまう。


 その為、巨人族と言われてしまったオリビアさんも面白く無い。


「あら~、私はちょっっっと大きい人種の女性よぉ~~? 間違ったら駄目じゃないちっちゃい子猫ちゃん?」

「ち、小っちゃい子猫じゃと!?」

「ちょ、ちょっとオリビアさん! その人が私とアーヤがお世話になってるミーリスさんなんですよ!」

「あらそうなのね、ならあなたが噂の『魔法部隊大隊長様』なのね」


 自分の事を知っていると言われたミーリスは先程「小さい」と言われた事も忘れて小さな胸を張る、だがオリビアさんの言葉を続きがあった。 


「でもぉ、立場は立派なのにちょっと体の事を言い返しただけで動揺するだなんて、器が小っちゃいわね。 あらごめんなさい、()()小っちゃいの間違いね」

「んな!?」


 お互いが気にしている事を言われた2人は、オリビアさんは見下ろして、ミーリスは机の上に登って目線で火花が散るくらい近くで睨み合いをしている……。


「はぁ……。 砂漠で見つけた遺跡の話しを再開したいんだから、2人ともそろそろ睨み合うのを止めて席に付いてくれないか?」

「「だってこいつが!!」」

「・・・・・・・」

「「分かった……」」


 無言で睨んだ事で2人共やっと怒りを収めて大人しく着席してくれたので、俺はようやく砂漠で見つけた遺跡の話しを再開する事が出来たのだった。


「で、共也。 本当に砂漠に遺跡なんてあったの?」


 ずっと遺跡の話を聞きたくてウズウズしていた鈴がまずは口火を切った。


「実際にあったんだよ、しかも砂漠にある遺跡なのに人が暮らすのにとても快適な空間だったんだ」

「人が暮らしやすいって適温に保たれていたって事だよね? 本当にそんな都合の良い遺跡なんてあったの?」

「柚葉、信じて無いな? エリア、例の石片を皆の前に出して貰っても良いか?」

「分かりました。 え~~っと、あ、ありました。 皆さんこれなんですが」

「んん?」


 机の上に置かれたその石片に皆何の変哲も無い只の石片だと判断した様ですぐに興味を失ったが、真っ先にその石の価値に気付いたのはこの図書室の主であるミーリスだった。


「と、共也。 この石片は、ダンジョンの壁を破壊して持ち帰った訳では無いんじゃよな?」

「違う違う、そもそもダンジョンの壁は壊れてもすぐ消えてしまう上に、外に持ち出せないだろ?」

「そう、そうよ、何で気付かなかったのかしら……。 この石片はさっきから薄暗かった図書室をほんのり照らしてるわ。 これはダンジョンの壁と同じ効果を持つ人工的に作られた石片……なの?」


 そのオリビアさんの言葉に、ダグラス達も俺が言いたかった事が理解出来た様でその石を食い入るように眺めていた。


「共也、お主は先程「遺跡」と申したな。 まさか、その遺跡は……」

「そうだよミーリス。 遺跡内の全てがこの素材で作られた、巨大な地下遺跡だったんだよ」

「……あなた達が持ち帰ったたったこれだけの石片だけど、人類にとってどれだけの価値があるか計り知れないわね……」

「オリビアさん、それ程までにこの石片が存在している事が驚きなんですか?」

「そうね、分かっている人類史の中で何度もダンジョンの壁と同じ素材を人工的に作る実験が行われて来た事は知ってるけど、一度も成功した事例は無かったはずよ、愛璃ちゃん」

「え、でも、一度も成功した記録が無いなら、何でこれがここに?」

「柚ちゃん、何故私とミーリスが驚いているのか分かってくれた様ね。 本当なら存在しない素材がここにある……。 これは人族の歴史が動くわよ!」


 歴史的瞬間に立ち会っていると言う実感に、オリビアさんはちょっと興奮気味だ。


「クラニス砂漠か……。 そんな場所に人類の歴史を揺るがす程の遺跡があるだなんて、歴代の魔法隊長の記憶にも無いと言う事は、一体どれ程昔に建築された遺跡なのか想像もつかんな……」


 ミーリスは腕を組むと、座っていた椅子の背もたれに寄りかかる。


「古文書にすら載ってない古代の遺跡か……」

「ミーリスさん、共也が嘘を付いていると言う可能性は?」

「柚葉、お前……」

「しょうがないじゃない、いくら異世界とは言え文明の発達した地球でさえ光る壁なんて開発出来ていないのよ? しかも、それを作り出したのは誰も知らない程昔の人達だなんて……」


 柚葉の言いたい事も分かるが……。


「お主の言いたい事は分かる。 だが、ハッキリと共也とエリアの言う事は「嘘では無い」と断言しよう」

「な、何で?」

「お主が今言っておったじゃろう?。 誰も知らない程昔の人達が作った……と。 では、2人は何処からこの素材を手に入れたと言うのじゃ?」

「そこで2人の話しで出て来た砂漠の遺跡に行きつく訳ですね……。 だから2人は嘘を付いていないと……」

「うむ。 だがこんな人類史を揺るがす物を出されて、おいそれと信じる奴の方が危険だわい。 柚葉の言う通り疑ってかかる位が丁度良いわい。 だが、儂の記憶の中の大隊長の中には、過去の古文書などを読み漁った奴がいたにも関わらず、砂漠の遺跡の文献を見た記憶が無いとなると……ふむ」


 そのままミーリスは考えに没頭してしまうが、柚葉が何度か声を掛けた事で意識を取り戻した。 


「な、何じゃい柚葉」

「えっと、ミーリスさんの記憶に砂漠の遺跡に関する文献を見た記憶が無い事を考慮して、共也達の発見したその遺跡は、一体どれくらい年月が経ってるか予想出来ます?」

「………そうだの。 歴代の魔法大隊長の記憶を引き継いでるのが大体300年分じゃ。 その記憶の中に古文書を散々読み漁ってた者がおるのじゃが、砂漠の遺跡に関する記憶は全く無いのじゃ。 そやつが全ての古文書を読破していたとして言うが、一番古い古文書が大体3000年ほど経っておったから、最低でもそれ以上の年月は経過しておる遺跡じゃの……」

「さ、3000年!?」

「最低で……じゃの」


 あの遺跡が3000年以上昔に建設された……。 確かにベッドらしき物体を触った瞬間、灰となって崩れ落ちたが、それだけの年月が経過していたのなら納得だ。


 エリアと2人で頷き合っていると、ミーリスが石片を手に取った。


「共也、エリア王女、この石片は儂が預かっても良いかの? 今すぐにとは行かぬだろうが、研究すればこの石片を再現する事が出来るかもしれん」

「分かりましたミーリス団長、その石片はお預けします。 研究して構造が分かったなら人類の為に再現して下さい」

「任せるのじゃ、必ず再現すると約束しよう」


 遺跡の石片を大事そうに仕舞ったミーリスは俺達の今後の予定を聞いて来たが、もう報告し合う事も無いので解散しようとしたのだが、隣に座るエリアが俺の袖を引いた。


「エリア、どうしたんだ?」

「共也さん、砂漠を出て盗賊に襲われた時の事を忘れていませんか?」

「……そうだな、丁度良いし今聞くか……」


 どうしても尋ねておかないといけない事を思い出した俺は、ダグラス達に再び話し掛けた。


「なあ、ダグラス、ちょっと聞きたい事があるんだが良いか?」

「急に改まってどうしたんだよ……。 どうせ皆集まってるんだから聞けば良いだろ?」

「……じゃあ聞くが、下平の奴は今、何処で何をしてるんだ?」

「はぁ? 急に真面目な顔をして聞いて来るから何かと思ったら、よりによって下平かよ……。 あれ? あいつって、最初の晩餐会以降見かけたか?」

「はぁ? 何を言ってるんだダグラス、彼奴は晩餐会以降…………。 あれ、見かけた記憶が無いな……」

 

 室生まで……。 これは黒か?


「私もだ……。 ダグラスが言う通り、僕も晩餐会以降あいつを見た記憶が無いや……」

「私もです、スキルカードを見せ合う時は確かに居たのは覚えているのですが、次の日以降見かけていませんね……」


 ダグラス、室生に続き、鈴と魅影まで見ていないと首を振る。


「共也、結局下平の何を聞きたかったんだ?」

「実は……」


 俺は砂漠を抜けてすぐに人攫いを専門にしている盗賊達に襲われた事。

 そして、その連中のリーダーらしき人物が「自分達の雇い主は下平と言う人物だ」と口を滑らせたと言う事を説明すると、全員が顔色を変えた。


「その話しだけだと判断に困るな……」

「そうね、この世界には「召喚スキル」で呼び出された異世界人が結構いるみたいだし、同性の奴がいないとも言い切れないしね……」

「共也、他に何か判断材料になる話は無いの?」

「ちょっと微妙だけど、盗賊達が合流する予定だった場所に俺達が向かった話でも良いか? 愛璃」

「少しでも判断材料になる様なら構わないわ、お願い」


 森のすぐ近くに建てられた空き家で合流する予定だと聞き出した俺達は、すぐにその空き家に向かったのだが、あと少しで着くと言う所で転移で逃げられたと話すと、ダグラス達は更に難しい表情をした。


「ん~~~。 あの下衆なら人身売買位やり兼ねないとは思うが、まだ俺達がこの世界に来て半年も立って無いんだぞ? そんな組織をこんな短期間で作れるものなのか?」

「それは私もダグラスと同意見だよ、共也。 しかも転移で逃げたって言ってるけど、確か下平のスキルって感知系がほとんどじゃなかった? 彼奴にそんな高等技術が使えるとは、とても思えないんだけど?」

「確かに下平には転移なんて使えないかもしれないけど、盗賊達の話しでは金髪の女の協力者がいるみたいなんだ」

「協力者がいるのね。 それなら、そいつが転移の魔道具を提供していたのなら、共也達が空き家に近づいた途端に逃げる事も可能ね……」

「俺とエリアも、そいつが転移のアイテムを使って逃げたと思ってる」

「「「「・・・・・・・」」」」

「あの、共也君、ちょっと良いかな?」

「魅影、何か気付いた事でもあるのか?」


 暫く俺達の話を大人しく聞いていた魅影だったが、ある事に気付いたらしく全員にその気付いた内容を話し始めた。 


「光輝君もこっちの世界に来て何だかおかしくなって来てますし、もしかしたら下平も何か精神に作用するスキルを使用されて操られている可能性が有るのではないですか?」

「スキルか……。 確かに魅影に言うその可能性は考えていなかったな……」


 その可能性に気付いた菊流も、魅影のその話しに同意する。


「魅影ちゃんの言う通りだね……。 地球でも散々下衆な真似をして来た男だけど、日本人の矜持として最後の一線位は守っていると思いたいわ……」

「菊流に同意」


 菊流に同意した与一だったが、その後の発言は何時もの彼女だった……。


「でも私達を襲おうとするなら、容赦無く〇玉を打ち抜くよ……」

「まぁ、それくらいは当たり前だよね」

「そうですね、その後は麻酔無しで去勢しても良いですね」

「え~~。 あいつの一物から出た血なんて触りたく無いんだけど?」

「触りたくないなら踏み潰せば良いのよ。 そうすれば2度苦しみを与える事が出来るしね。 じゃあ、もしあいつが本当に襲ってきたら撃ち抜いた後、踏み潰すって事で!」

『「「「分かったわ!!」」』


 女性陣の視線が男性陣の股間へと向かっている事に気付いた俺達は、無意識に内股になるのだが一つやる事があった。


「ジェーン、ちょっとの間耳を塞ごうね~?」

「と、共兄!?」


 こんな下の話しをまだ幼いジェーンに聞かせる訳にはいかないので、彼女の耳を塞いぎ今も騒ぐ女性陣の会話を聞かせない様にするのだった。


 だが、そんな俺の行動も、図書室の扉が放った軋んだ音によって会話は遮られた。


「こ、光輝!?」

「!?」


 菊流だけでなく、この部屋にいる全員が図書室のドアノブを握って呆然としている光輝を見て硬直するのだった。 


「こ、光輝、お前今までどこに居たんだ。 光輝?」


 どうやら光輝にはダグラスが心配する声が一切聞こえていないらしく、目が血走った状態で一点を見つめ続けている。 


「菊流ちゃん……」

「ひっ!」


 一歩、また一歩菊流に歩み寄るその目は血走っている。 その目を見て慌てたダグラスが光輝の肩を掴みそれ以上菊流に近寄らない様に制止するが、全く意に介していない。


 そして、光輝は菊流に向かってユックリと口を開く。


「菊流ちゃん……、何で僕に黙ってクエストを勝手に受注して、この都市を出て行ったのかな?」

「何で私が冒険者としてクエストを受けるのに、いちいちあんたの許可が必要なのよ!」

「何故かだって? だって君は僕のパーティーメンバーじゃないか。 もう忘れたのかい?」


 全員が慌てて菊流を見るが、彼女は全力で首を左右に振って否定する。


「こんなに君をパーティーに誘ってやっと加入してくれたって言うのに、どうして君はそんな勝手な行動をして僕を困らせるんだい? まぁ、そこが可愛いと言えば良いんだろうけど、いくら僕でも我慢に限界があるんだからね?」

「光輝! お前、さっきから何を言ってるんだ!」

「何だよダグラス。 僕は今菊流ちゃんと話してるんだから割り込んで来るなよ」


 そんな台詞を聞いた菊流は、冷めた目で光輝を見つめる。


「光輝、あんたがどう思おうと勝手だけど、もう一度だけハッキリと言うわ。 私は共也が無事に帰って来た以上パーティーを抜ける理由が無いし、光輝、あんたのパーティーに入る何て真似は死んでもごめんよ!」

「菊流ちゃん、君は何を言ってるんだい? 共也が生きて帰って来れる訳『よう光輝、ただいま』……なっ! と、共也!? 何でお前がここにいる!?」


 こいつの反応。 もしかして、ダリアに俺がクラニス砂漠に転移させられた事を知らされていたのか?


「光輝、お前のその反応。 もしかして、ダリアが俺とエリアに何をしたのか、全て聞かされていたのか?」


 その俺の言葉が図星だったのか、光輝の両目が激しくぶれている。


「光輝、あんた、もしかして、共也が生きて帰って来れない可能性が高い事を知った上で、私をパーティーに加入させようとして誘い続けたの?」

「菊流ちゃん、僕は……」

「お願い、答えて光輝……」


 菊流の真剣な眼差しを前にしてわなわなと震える光輝だったが、皆の視線に耐え切れなり遂に自白とも取れる台詞を喋り始めた。 


「ああそうだよ! 僕は洞窟でダリアが共也にした事を知らされていた。 そして、転移先で共也が死ぬ可能性が高い事も知っていたさ! だけど、知っていただけの僕に何の罪が掛かるって言うんだ?」

「あんた……。 ここに来て共也に謝罪をしないどころか開き直り? 最悪だよ……」

「鈴、お前等は何時もそうやって僕を悪者にする。 菊流ちゃんの想いを共也が独占しているせいで、僕に振り向いてくれやしない事を知っているのに、誰も僕を好きになる様にしてくれやしない!」

「そんなの当たり前だろ、光輝! 菊流は1人の人間だ、ペットやオモチャじゃないんだぞ!?」

「はっ! 室生は良いよなぁ、愛璃って言う美人な幼馴染の彼女がいてさぁ。 僕何て見て見ろよ、近寄って来るのは黄昏家の財力ばかりを気にして、全く僕と言う人間を見ようとすらしない馬の骨ばかりだって言うのにさぁ……」


 両手を顔で覆いながらも、その指の間から涙を流す光輝の姿に同情しそうになるが、ここはハッキリ言っておかないと……。


「だけど光輝、その事と菊流を自分の物にしようとするのは違うだろ!」

「……菊流ちゃんに好意を持たれていると知っていながら、その想いに答えようとすらしないお前が言うな、共也!  お前と言う存在が生きているから僕は菊流ちゃんに振り向いてくれずに、常に悲しい思いをするんだ! お前なんて、転移先のクラニス砂漠で野垂れ死んじまえばよかったんだよ!」

「光輝、お前ぇ!!」


 幼馴染の死を望む言葉に激怒したダグラスが、光輝を殴ろうと詰め寄ろうとしたが、それより先に乾いた音が図書室の中に響き渡った。


―――パーーーン!!


「く、菊流ちゃん、どうして……」


 音の発生源は、光輝の頬を思いっきり引っぱたいた菊流だった。 そんな彼女は目から涙をながしながら光輝を睨みつけていた。


「光輝あんた最低だよ……。 命を懸けて帰って来た幼馴染に対して言う言葉が「死ねば良かった」とか、怒るどころかもう呆れるしか無いわ……。 それにね、私は自分の意思を持つ人間なの。 分かる? に・ん・げ・ん・なの!」

「・・・・・・・」

「この期に及んでだんまりを決め込むのがあなたの答えなのね……。 はぁ……。 今までは幼馴染だから色々と我慢してたけどもう無理だわ……。 ねぇ光輝」

「な、何だい? 菊流ちゃん」


 この後、菊流から何と言われるか察した光輝は、それ以上言わせまいと口を開こうとするが上手く言葉が出て来ない様で、口をパクパクするだけだった。


「……私にもう2度と私に話し掛けないで頂戴。 あなたがいくら私に好意を抱いていたとしても、私には共也といる事が全てなの……。 それが、子供だった私が自分に課した罰なのよ……」

「菊流……、あなた……」


 呆然と立ち尽くす光輝を放置して、与一、魅影、柚葉、愛璃など幼馴染である女性陣が、何故菊流がそこまで共也に拘るのか分かってしまった様で、全員が菊流を優しく抱きしめた。


 だが、光輝はあれだけ拒絶されたのにも関わらず引こうとしない。


「自分に課した罰だから僕を受け入れない? そんなの、そんなの認められる訳が無いじゃないか!!」

「光輝、いい加減にしないと私達もあんたと絶縁するよ?」

「五月蠅い、五月蠅い、五月蠅い!! 僕はこの世界を救う為に舞い降りた勇者なんだ! 僕がこの世界を救う以上、お前らは大人しく従うべきなんだよ! それなのに、僕の言う事が聞けないって言うなら!」

「光輝、止めろ!」


 室生の止める言葉を無視して、激昂した光輝が腰に差していた剣に手を掛けた所で、全員で菊流を取り囲み危害を加えられない様にしたのだが、その俺達の行動は無駄に終わるのだった。


「光輝、お前まさかその剣を使って菊流達を切るつもりだったのか?」


 鋭く睨むダグラスが、光輝が抜こうとしていた剣の柄を押さえ付けて絶対に剣を抜く事が出来ない様にしている。


「手をどけろダグラス! 邪魔をするならお前も切り捨てるぞ!」


 光輝が憎々し気にダグラスを睨むが、当の本人は全く意に介していない様で、全く引く気は無いみたいだ。


「そうか、残念だよ光輝……」


 悲しそうな目で光輝を見たダグラスは、一度だけ溜息を吐いた。


―――ドゴ!


「ぐ、はぁ……。 ダグラス、お前……よくも……」


 凄まじい打撃音と同時に光輝の体はくの字に折れ曲がり力無く崩れ落ちると、ダグラスは光輝の体を受け止めた。


「姫さん、悪いがこいつを地下牢に放り込むよう衛兵に伝えてくれないか? 今の光輝に何を言っても無駄だろうし、このままだと菊流の身が危険だからな」


 どうやらく、ダグラスの手加減無しの1撃を腹に受けた事で、光輝は気絶させられている様だ。


「分かりました。 兵士達を呼んで来るので少々お待ちを」


 エリアが近衛兵に連絡しようと部屋に出たが、偶々巡回していた兵士達に光輝を地下牢に連行するように通達するのだった。 


 タンカで運ばれて行く光輝を見送った俺達は気まずい雰囲気のままでは流石に何もする気が起きず、結局そのまま解散する運びとなってしまうのだった。


 そして、俺は1ヵ月半ぶりに自分の部屋に入った瞬間、大きな溜息を吐くのだった。


「明日、絶対に4人に部屋を片付けさせてやるからな!!」


 今日1日だけの我慢だと自分に言い聞かせて、俺はファンシーグッズが所狭しと置かれた部屋のベッドで眠りに付くのだった……。


==

【深夜】

 

 ピイィィィィィィィーーーーーーー!!


「な、何だ!?」


 そして、みんなが寝静まった深夜に警笛が城中に鳴り響き、蜂の巣を突いた様な騒ぎが起きるのだった。


「な、何が起きたんですか!?」

「光輝だ! 地下牢に繋がれていた光輝が……。 ええい、詳しい話しは明日の朝にでも王に聞いてくれ!」

「あ、ちょっと!」


 他の転移者達も部屋から心配そうな顔を覗かせているが、兵士達も詳しい情報は持っていないらしく朝になるまで待ってくれとの事だった。


「光輝……。 お前、何をやらかしたんだよ……」


 ==

【朝】


 そして、夜が明けると今回の事件の被害状況が見えて来たのだが、まさに悲惨の一言だった。


「何て……事だ……」


 中庭で血の滲んだ布に包まれた複数の遺体の前で、デリックさんは怒りのせいで血が滴るほど手を強く握っていた。 


「共也、話しは聞いたか?」

「あぁ……」


 今回起きた事件、それは光輝の地下牢からの脱出が原因だった。


 地下牢に幽閉されていた当時、腰に差していた剣は確かに没収していたが、スキル聖剣召喚により鉄格子を切り裂いた光輝は、偶々近くに閉じ込められていたダリアと共に脱走。


 そのまま脱出しようとしたみたいだが、巡回に訪れた兵士に見つかった為口封じの為に光輝に切られて死亡。


 その後も脱走しようとする光輝を捉えようとして切り殺された兵士多数。

 王都を脱出した2人を追うべく追跡専門のハンターを雇ったのだが、あと少しと言う所で川に飛び込まれてしまい追跡不可能となり諦めるより他が無かったらしく、どうやら光輝達にまんまと逃げ切られてしまったらしい……。 


 光輝、これがお前が憧れていた勇者のする事なのか?


 もう少し上手いやり方があったんじゃないかと後悔もしたが、脱出する為とは言え世話になった人を何人も殺した彼奴をすでに幼馴染と言う事は出来なくなっていた。


 こうして俺達は、異世界に来て初めて幼馴染の1人との縁を失う事になるのだった。




光輝とダリアはどこに行ったのでしょうね。

次回は依頼を書いて行こうかと思っています。

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