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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
3章・親善大使として親書を届けに。
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新たな絆。

 雪豹のフェリスに案内されて、俺達は雪に覆われた山道を掻き分けながら氷の魔石が貯めこまれていると言う洞窟を目指して進んでいる間に、彼女から色々な話を聞くことが出来た。


『昔は毛皮目的で襲ってくる奴等が結構いてね、私の両親もかなり昔に密猟者によって殺されてしまったんだよ。 だからあんた達を見かけた時にまさかまた……。 と思ったが一応何か事情があるかもしれないから、警戒をしても攻撃はしなかったのさ』

「それで俺達を威嚇して来たけど、襲って来なかったんだな」

『意味も無く同族で殺し合う事が出来る、人間や魔族と一緒にしないでおくれ。 私達は理由の無い殺しは絶対にしないのが誇りなんだからね』

「フェリスのその言葉は俺達にも刺さってしまうから、耳が痛いな……」

「室生の言う通りだな……」


 フェリスは俺達を蔑む様に見て来たが、実際そう言う事をしている人も多い為、何も言い返す事が出来なかった。

 一見平和そうに見える地球でも、戦争は常にどこかで起きている。 理由は領土、経済、宗教、理由は様々だ。


 そして、今まさに人類と魔族で戦争をしているので、エリアやバリスさん達はフェリスに対して何も言う事が出来ずに、黙って彼女の後を付いて行く事しか出来なかった。


 雪を踏みしめる音だけが辺りに響く中、無言でフェリスの後を暫く付いて行くと、俺達がいた場所とはまた別の斜面に洞窟が大きく口を開けていた。

 そして、その洞窟の前で3~4匹のほどの白くて小さな存在が、行ったり来たりしている姿がここからでも見えた。


『私の子供達だ、攻撃しないでおくれよ?』


 皆がフェリスの言葉に頷き、洞窟の入り口に向かって歩き続けた。


『坊や達、戻ったよ。 動物たちが妙に騒いでいたのは、こいつらに絡んでたから興奮してただけみたいだから安心おし』

(母ちゃんおかえり~、それなら安心だね!)


 4匹いる子猫の1匹がフェリスの言葉に念話で返事をした事に驚いていると、俺達の視線に気付いたフェリスがその子供の事を答えてくれた。


『この娘はどうやら特殊個体として生まれたらしくてね。 他の子達はまだ念話を使う事すら出来無いのに、この娘はすでに魔法も使う事が出来るんだよ。

 この娘は将来、私を軽く超えて強くなって行くんだろうから楽しみでは有るんだけれど、こんな狭い雪山しか知らない世界で完結してしまっているから、世界を知らずに成長してしまいそうでね……」

「フェリス……」


 自分がその娘の将来を心配して独り言を言ってる事に気付いたフェリスは、慌てて子猫の話題から変え様としていた。


「おっと、あんた達にあの娘の将来の話をしてもしょうがないね。 あんた達が目的にしている氷の魔石は、巣の奥に貯め込んであるから何人か付いておいで』

「では、収納袋を持っている私が。 後、何人かで氷の魔石を収納するのを手伝ってもらって良いですか?」

「そうだな、俺が付いて行こう」

「エリア良いわよ、行きましょう」

「俺もちょっと興味があるから付いて行こう」

「バリスさん、ありがとうございます」

「気にするな!」


 収納作業を効率良くする為に、何人かが雪豹達の巣に入ろうとすると、念話を話せる子供が俺達の横に立ってフェリスに話し掛け始めた。


(母ちゃん、奥にある変な石をこの人達に上げるのか?)

『反対なのかい?』

(ううん、変な石だし母ちゃんが決めたなら文句は無いよ、でもどうやってあの石を運ぶのか見て見たから私も付いてく!)

『邪魔だけはしないようにしなさいね?』

(分かった!)


 そして、フェリスに洞窟の奥に案内されて行くと、雪豹の子供達も面白がって俺達に付いて来たのだが、特殊個体の子供が俺の足元から何故か離れてくれなくて洞窟内を歩くのが大変だった。


 そして、洞窟の奥に到着すると、そこには信じられない量の氷の魔石が積み上げられていて、部屋の入り口から中が見えない程だった。


「凄まじい量の氷の魔石だな……。 一体どれくらいの量があるのか見当も付かんぞ……」

「ギルマスであるバリスさんでも、どれくらいあるか分からないくらいの量って事ですか?」

「部屋の奥が見えないし、これが後何部屋かあると言ってたからな……」


『いくらでも持って行って良いよ。 むしろこの石が無くなれば部屋が使えるようになるのだから、全部持って行って欲しいくらいだよ』

「……エリア、この魔石全部を収納袋に入れる事って出来そうか?」

「多分入れる事は出来るとは思いますが……。 やってみます」


 俺達が魔石を回収していると、鈴や柚葉達は雪豹の子供達を撫でたり、膝に乗せたり、抱っこしたりして可愛がっていた。

 特に可愛い物が大好きな菊流が、最初の方は柚葉達の方をチラチラと見ながらも魔石の回収を手伝ってくれていたが、鈴達の楽しそうな声にとうとう我慢出来ずに鈴達の方向に行ってしまった……。


「はぁ~…。 何なのこの可愛い生き物達は…、もう私ここに住みたい!」

「うむ、可愛いは至高」

「ちょっと菊流ちゃん、あなただけ抱っこしてないで私にも抱っこさせて!」

「ふあ~、菊流姉、この子達ふわふわの毛並みでとても柔らかいですね……」


 雪豹の子供達を前にポンコツとなった菊流達を放置する事に決めた俺達は、フェリスに本当にここにある魔石を全部持って行って良いのか確認すると、構わないと許可を貰う事が出来たので、部屋の中にある魔石を次々にエリアの持つ収納袋の中に入れて行った。


 1部屋1部屋の中にある魔石の量が予想より遥かに多い為、収納袋に入れる作業が終わった頃には、陽もすっかり落ちて辺りは暗くなってしまっていた。

 だが、男性陣が頑張ってくれたお陰で、巣の中にあった魔石は全て収納袋に収める事が出来た。 そして、魔石が無くなった部屋は俺達全員が寝転がっても平気なくらい広かった。


(母ちゃん変な石が無くなったから、今度からこの部屋も使える?)

『そうだね、魔石がこの部屋を埋め尽くしてたせいで使えなかったけど、こうやってすっきりしたし今度から他の部屋も使えそうだね。

 この子達が大きくなり始めて、この洞窟も少し手狭になり始めてたから丁度良かったよ』



 魔石が無くなった事で広くなった部屋の前に立ち、嬉しそうに会話するフェリス親子だった。


『共也、今から山を下るのは流石に危険だから、今日はここに泊まっておいき。 歓迎するよ』

「良いのか? 確かに外はすっかり夜になっているから、迷惑じゃなければお願いしたいが」

『迷惑と言う事は無いが……。 共也、私の子供達をあれだけ可愛がっている女性達に、今から拠点にしている所に帰ろうって言う事が出来るのかい?』


 フェリスの子供達を抱っこしたり、撫でたりしている女性陣は先程の会話が聞こえたらしく全員が鋭い目つきで俺に語っている(帰るって言ったら怒る!)と……。

 しょうがないので今日はフェリスの温情に甘える事にして、このまま泊まる事にすると伝えると、女性達は皆大喜びするのだった。


「共也、君は今日とても良い判断をしてくれた、ありがとう!」

「ふふふ、今日は楽しんで過ごせそうです」

「長い尻尾がフワフワの上にフリフリしてて可愛い、この可愛さは反則……」

「ジェーンちゃん、この子私の膝の上で寝ちゃった!」

「可愛いね。 でもテトラちゃん、暫く動け無さそうだね」

「う、可愛いから良いもん!」

 

 この洞窟に泊まると決めた以上はそろそろ夕飯の準備をしたいのだが、女性達が雪豹の子供達から離れようとすらしない……。


『今日くらいは歓迎して上げるよ、あんた達から色々話を聞きたいしね』

「助かるよ」


 こうして見ているととてもじゃないが、女性達が動く様子が見られ無いのでしょうがなく俺も胡坐をかいて休憩を取っていると、念話が使える雪豹の子供がテクテクと近づいて来た。

 そして、その娘は俺の顔をしばらくジッと下から眺めると、胡坐をかいている足の上で丸まって寝始めてしまった。


『おや、その娘がそこまで他人に無警戒で近づくなんて珍しいね、普段私達としか触れあわ無いから心配だったが、あんたには心を許してる様だね……』


 膝で寝始めた子供の様子を見たフェリスは、俺にある提案を持ちかけてきた。


『ねぇ共也、その子が了承するならだけど。 この娘を連れて世界を見せてやってくれないかい?』


 フェリスは少し悲しそうな眼差しを俺に向けて返答を待っていた。


 そりゃ自分の子供が1匹いなくなると考えれば悲しくもあるか……。


「俺は構わないけど、フェリスはそれで良いのか?」

『寂しくとは思うけど、可愛い我が娘が成長出来る選択肢がそこにあるんだ、選ばないのは嘘ってもんだろう?』

「そうか、ならこの娘が起きたらどうするか希望を聞いてみようか」


 俺は自分の足の上で丸まって寝ているフェリスの子供の体を優しく撫でると、気持ちよさそうに後ろ脚を伸ばしたりしていた。


 そして洞窟の前で大きな鍋を使い晩飯の食材を煮込んでいたダグラスやバリスさんだったが、そろそろ完成しそうだと伝えに来てくれたので、フェリス親子も夕食に誘うと喜んでくれた。


「これだけ寒いと火も使いにくいだろうに、どうやって煮込み料理なんて作れたんだ?」


 俺は不思議に思いダグラスとバリスさんに聞いてみると、どうやら柚葉に協力してもらったようで得意気に笑っていた。


「ふっふ~ん♪ 共也君、私のスキルに魔法固定と言うのがあるのを忘れてないかな?」


 俺はそう言われ、そう言えばそんなスキルが柚葉に発現していたなと思い出した。


「あのスキルって、もしかしてずっと魔法効果を維持する事が出来るのか?」

「そ! だから火魔法を鍋の下で固定して、火力を維持し続ける事が出来たのだよ!」

「生活魔法みたいで色々と応用が利きそうだから、便利と言えば便利だな」

「工夫次第で色々と化けそうだよね。 ちょっとこれから試行錯誤して行くのが楽しみなスキルだよ」


 確かに柚葉の言う通り、工夫次第ではかなり強力なスキルだと思える内容だった。


「取り合えず皆の分もいっぱいあるから取り分けるわよぉ~! フェリスちゃんは熱いの大丈夫?」


 オリビアさん……相変わらず怖い物が無いな。 フェリスの顔が引きつってるじゃないか……。


『ちゃ、ちゃん…。 まあ良い……。 食事の事だが、私は熱い食べ物でも大丈夫だが子供達の分は少し冷まして上げてくれると嬉しい』


 オリビアさんに、ちゃん呼びされたフェリスもさすがに動揺するがすぐ立ち直ると、子供達が食事で火傷をしないように冷まして欲しいと伝えて来た。


 こうして皆に食事が配られると、フェリス一家も一緒に食事する事にするのだった。


「「「「「「「「「「「「 頂きます! 」」」」」」」」」」」」


(いただきま~す?)


 念話が使える子供が俺達の真似をして、可愛く頭を軽く下げていた。


 こうして俺達は雪豹のフェリス親子と一緒に食事をするという稀な体験をする事になり、彼女達と新しく絆を紡ぐ事が出来た事が俺はとても嬉しかった。


 食事が終わり俺達が食器などを片づけていると、フェリスが念話を使える娘に先程俺に提案して来た事を伝えると反応を伺っていた。


『お前は気付いていないかもしれないが固体としての潜在能力がとても高い上に、これから私を軽く抜き去って行くだろう。 もし、あんたがこの世界を見て回りたい。

 少しでもそう言う気持ちを持っているなら、共也と共生魔法で絆を紡いでここから旅立ちなさい』


 具体的な共生魔法の発動条件を知っているフェリスに質問したかったが、今は念話を使える娘がどのような選択をするのか、まずはその答えを待つ事にした。


(……母ちゃん、私は世界を見て回りたい……。 でも私がいなくなっても母ちゃん達は寂しくない?)

『寂しくはなるがお前が大きく成長出来るならきっと他の子も我慢出来るはずだ、まずはあんたが自分のしたい事を優先しなさい、世界を見たいんだろう?』


 静かにその娘が頷くと、フェリスは俺に向き直ると頭を下げて来た。


『少し調子に乗る所があるがとても優しい子だ、よろしく頼むよ共也』

「分かった。 この娘が無事に成長して、この山に帰れる事が出来るように全力をつくすよ」

『ありがとう。 一緒に行動する以上その娘と言う呼び方じゃ不便だろう、名前を付けてやっとくれ』

「良いのか?」

(むしろ付けてくれると嬉しい!)

「名前か……」


 そう言われてどんな名前にすれば良いのか悩んでいると、この山に降り積もる雪とその娘が重なって見えると口から自然と出て来た。


「スノウ……、って言うのはどうだろう? 俺達の世界で雪を表す言葉なんだが、君の名はスノウでどうだろう?」


(スノウ、スノウ……、気に入った! 私は今からスノウね!)


 雪豹独特の長い尻尾を振り回し喜びを表現しているスノウがとても可愛いと思っていると、俺はいつの間にかスノウの頭を撫でていた。


『おめでとうスノウ、そして今から言う言葉を共也と手を取り2人で復唱しな、《これから共也、スノウは常にずっと一緒にいる》とね』 


 俺とスノウは手を握り、フェリスの語った言葉を復唱した。


「(これから俺、スノウは常に一緒にいる事を誓う)」


 その言葉を俺達が宣言するとお互いの体が淡く光り、ディーネの時と同じ現象が起きた、しばらくすると光りは静かに収まって行ったのだった。


『無事に絆を紡いだようだね、スノウ、これからは共也と一緒に助け合って行くんだよ?』

(分かった! 共也これかずっとらよろしくね!)

『共也、スキルカードを確認してみな、スキル項目にスノウの名前が増えてるはずだから』



――――――――――――――――――――――――

【名前】

  ・最神 共也


【性別】

  ・男


【スキル】

  ・共生魔法

  ・水魔法:(近くにディーネがいる時限定)

  ・氷魔法:(近くにスノウがいる時限定)

  ・剣術


――――――――――――――――――――――――



「確かに増えてる……。 フェリス前も共生魔法を知ってる様な事を言ってたが、何であんたがこのスキルの発動条件を知ってるんだ……」

『さてね……。 共也には悪いが、私の知識に何故かあっただけで説明は出来そうに無いんだ。 そうそう、その魔剣に魔石を1つ吸収させると、スノウもその魔剣の中で生活する事が出来る様になるから、後で吸収させてあげてくれ』

「魔剣の事まで……、何故知ってるのか聞いても説明出来ないか?」

『わかってるじゃないか、まあ何故知ってるのか理由を思いだしたら、何かしらの手段で伝えて上げるよ、今はそれで勘弁しておくれ』

「わかった、貴重な情報をありがとうフェリス」

『どういたしまして。 それじゃやらないといけない事もやったし、そろそろ寝ようかね。 明日は山を下りるんだろう?』


 フェリスにそう言われた俺達は、ここまで歩んで来た道程を思い出し辟易するのだった。


「この雪が降る中を下山するのか大変そうだな……」


 俺はこの時悪そうに笑うフェリスの顔見損ねた事を、後で後悔する事となるのだった。



 =◇===



 洞窟内に朝日が差し込み始めて俺達が王都へ帰還する為に山を下りる準備をしている同時刻。

 王都では怪しい黒のローブを纏った集団が、グランク王へ謁見している所だった。



新しい絆を結び新魔法獲得回でした

次回は破滅思想の集団で書いて行こうかと。

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