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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
2章・新たな出会い。
52/285

急遽始まった、魔物討伐戦。

 次々と魔物達を転移して来る赤黒い魔法陣に辟易としながらも、会議室にいる全員が一丸となり机で急ごしらえでバリケードにして防衛戦を築いた事で、何とか魔物達を押し留める事に成功していた。


「ぐあぁ!」「誰か! 怪我人をエリア様のいる後方に連れて行け!」


 だが魔物の数が一向に減らない上に、偶にホブゴブリンなど上位種が転移させられて来る為、いくらグランク様や護衛で来ている冒険者が強いとは言っても、どうしても倒すのに時間がかかる。

 何とか上位種を倒しても、その間に下位モンスター達が溢れんばかりに部屋に召喚される為、否応に無しにこちらの疲労だけが蓄積され始める。


「皆の者、手傷を負った者は無理をせずに下がり治療を受けよ! こんな戦いで命を落とす事は儂が許さんから心せよ!」

『はっ!』


 貴族達も何とかグランク様の台詞に元気良く返事を返すが、現実問題として怪我人が増え始めてエリアが治療している入り口に運ばれて行く。


 かく言う俺も、クレアを背負いながら戦っている影響で肩で息をし始めていた。 


(砂漠を旅した事である程度の体力を付けたつもりだったけど、下位とは言え纏まった数の魔物を相手にしただけで息が上がるなんてまだまだだな……)


 何とか背負っているクレアをバリケード内に連れて行きたいが、入り口にいる魔物が多く近づけそうにない。 そんな俺の困った顔を見たクレアは、打開策を提案をして来た。


「共也、さっき使った水壁をバリケードの入り口に展開して、私達が通るだけの時間を確保する事は出来ない?」

「その考えは良いが、無理だ」

「何で? ダリアの炎弾を防ぐ位の強度があれば少しくらいの時間は『あの魔法は発動に時間が掛かる上に、あまり長時間は維持出来ないんだ』 むう……。 なら結局地道に倒して突破するしか、エリア姉様達と合流する術は無いと言う事ね……」

「そう言う事。 クレア、必ずエリアに会わせてやる。 だから俺を信じて命を預けてくれるか?」


 今も襲って来たゴブリンを1匹切り捨てるが、何故かクレアから返事が無い。


「クレア?」

(クレアの顔、真っ赤、だよ?)

「わぁ~~! ディーネちゃん、言っちゃ駄目ぇ!! 預ける、預けるから、共也はこっち見んな!!」


 余程今の顔を見られたくないのか強引に正面を向かされた俺は、理不尽さを感じながらも何処かクレアらしい行動に懐かしさを覚えていた。  


「はぁ、はぁ、ま、まだ来るのか……」

「お前は下がれ、まだ来るなら疲れていては致命傷になるぞ」

「す、すまん。 一旦下がらせて休ませてもらう……」


 全員が魔物達を会議室から出すまいとして必死だ。 


 そこに、このままでは不味いと判断したグランク様が剣を抜き前線に躍り出た。


「魔物共よ、そう易々とこの会議室を出れると思うなよ!? 皆の者我に続け、魔物共の数を減らす為に突っ込むぞ! スキル【金剛】発動!」

『おおおおおおお!!』


 全員が打って出てくれたお陰で魔物達を押し返す事に成功し、バリケードの入り口が露となった。


「共也、今ならバリケードの中に入れそうだよ!」

「分かった、振り落とされない様にしっかり摑まってろよ!」


 何とかバリケード内に入る事が出来た俺達だったが、後ろを振り返ると魔物の群れの中に突入したグランク様達は再び召喚された魔物達によって包囲され始めていた。


「ギードよ、まだか。 そろそろ来てくれんと、この部屋が魔物達で埋め尽くされるぞ……」


 そこに会議室の扉が勢い良く開かれると、待ち人が現れた。 


「王よ遅くなりました、貴族の方々は一旦後ろに下がって休まれよ。 近衛兵達よ、王をお救いするのだ!」

「はっ!」


 ギードさんの指示を受けた近衛兵達の活躍によって、グランク様達を包囲しかけていた魔物達は次々と討伐されて行く。

 数、質、共に魔物達を凌駕して余裕が出来た事で、今まで魔物達を押し留めていたグランク様や貴族達は一旦下がり休憩する事となった。


 戦い始めた兵達の中には近衛隊長であるデリックさんやジーク君もいる。 そして、1か月半ぶりに見るダグラス、魅影、柚葉も魔物達を次々に屠って行く。 

 

「おらぁ!」

「ダグラス、前に出過ぎよ!」

「悪い、柚葉!」

「やあぁぁ!」


 安定して魔物達と戦う3人から視線を外し、未だに会議室の入り口で治療を行っているエリアの元に到着した俺はクレアをユックリと下ろした。


「あ……」


 何処か降ろされた事を惜しむ声を上げたクレアだったが、隣にエリアの笑顔があるのを思い出した事で彼女に思いっきり抱き着くのだった。


「クレア……」

「エリアお姉さま……。 よくぞ、よくぞご無事で……。 エリア姉さまが行方不明になって以来、ダリアがエリア姉さまの死亡を早く認めろと毎回言っていたの。 だから、私も次第にお姉さまはもう亡くなっているのでは……と何度も何度も思いそうになっていたけど、こうして生きて帰って来てくれたエリア姉さまを見て、本当に……、本当にエリア姉さまが生きてる事を諦めなくて良かったよ~、うぅぅぅ……」


 エリアの胸に顔を押し付けたクレアは、人目も憚らず泣き続けた。


 そんなクレアの頭を、エリアは愛おしそうに何度も撫でて慰めるのだった。


 ずっと見ていたい光景だが俺も戦える力を手にした以上、魔物討伐に参加しない訳にもいかずエリアに怪我をした人の治療を任せるのだった。


「エリア、怪我をした人達の治療は頼んだ。 俺は少しでも魔物を減らして来るよ」

「はい、共也さんお気を付けて。 ほらクレア、ここまで連れて来てくれた共也さんにお礼を言わないと」

「あ、共也……守ってくれてありがとう……」

「気にするな、この騒動が落ち着いたらまた話そうな」

「うん……」

 

 優しくクレアの頭を撫でているとくすぐったそうに眼を閉じる彼女を見ていると、俺に妹がいたらこんな感じだったのかなと思い暫く撫で続けるのだった。 


「共也さん?」

「い、行って来る!」


 我に返った俺はこれ以上エリアに誤解されない内に慌ててバリケードの外に出ると、魔剣に氷と水の刃を纏わせて戦闘を再開させた。


 巨大な両手剣を振り回して魔物達を薙ぎ払うダグラスの横で、氷を纏わせた魔剣で魔物達を切り伏せていたのだが、どうやら彼は珍しい魔法を使っているな程度の認識だったらしく、大して気にしていなかったみたいだが、その魔法を使って戦い始めた人物が俺だと分かった途端、ダグラスはこちらを2度見して来た。


「誰かと思ったら共也じゃねえか! お前、いつの間に帰って来たんだよ! それに、帰って来たなら何で一番に帰還報告を俺達にしないんだよ! しかもしれっと見た事も無い魔法まで使ってるし!!」

「後で報告するけど、俺に言えない事情があったんだから許してくれダグラス。 それに、帰って来て早々こんな事件に巻き込まれるとは思わなくてな」

「後で絶対に尋問するからな? 逃げるなよ?」

「分かってる、俺も聞きたい事があるし逃げないさ。 でも、今は……」

「あぁ、分かってる。 それでだ共也、魔物を呼び出し続けているあの赤黒い魔法陣は一体何処から出て来たんだ?」

「魔法陣の真下にダリアが倒れているだろ? あいつ、魔王リリスに操られていたらしくてな」

「はぁっ?」


 まぁ、話しがぶっ飛んでいて驚くよな……。


「でだ、まぁ色々有って操る意味の無くなったダリアを破棄するついでに、置き土産としてあの赤黒い魔法陣を発動されて現在に至るって状況だ」

「その色々って何があったんだよ!? って今はそれどころじゃ無いか……。 魅影達も事情を聞きたそうにしてるんだ、後でちゃんと説明しろよ!」

「分かってるって。 どっちにしても、皆には報告するつもりだったしなっと!」


 ゴブリンが1匹俺を襲って来たが、巨大な両手剣を持つデリックさんによって切り捨てられた事で、小さな魔石を残して消滅するのだった。


「ハッハッハ! 共也君、良くぞ生きて帰って来た! しかも魔法まで使えるようになっているとは、この旅で随分と成長したようだな。 君を指導した私にとって、うれしいぞっと!」

「ちょっとお父様、共也さんを指導したのは僕じゃないですか!」

「そう細かい事を言うなジーク、眉間に皺が出来るぞ?」


 そう軽口を叩きながらジーク君とじゃれ合うデリックさんだが、今も上位種であるホブゴブリンを1撃で葬っている。


(やっぱりこの人は他の人達より、頭一つ以上抜き出て強いな……)


 その後も赤黒い魔法陣は魔物を呼び出し続けたが、城中の兵士達が集まったお陰で余裕をもって魔物達を討伐し続ける事が出来て、途中から呼び出される魔物の数も目に見えて減り始めた。


 そして、遂に魔法陣から新たな魔物が出て来なくなった事で、ようやく魔物討伐戦は無事終わりを迎えた。

 すると、あまりの疲労の為、全員が一斉にその場に座り込んだ。


「つ、疲れた……。 魅影ちゃん、きっとこれで終わりだよね?」

「柚ちゃん、フラグを立てないで……。 でも新たに魔物が出て来ないから、そうじゃないかな?」


 会議室にいる全ての人達が一息付く中、グランク様とデリック隊長だけが険しい表情で未だに存在し続けている赤黒い魔法陣を見つめていた。

 そんな中、グランク様と小声で話していたデリック隊長だったが、納得が行っていない険しい顔で俺に話し掛けて来た。


「共也君、あの魔法陣が現れてからと言う物の、次々と魔物を転移させて来た。 これは間違ってい無いんだね?」

「えぇ、これはグランク様や貴族の人達も見ていましたから、見間違いと言う事は無いですね。 それで、何故その様な質問を?」」

「グランク……」

「分かっている。 俺とデリックが少し話したのだが、魔物を転移する役目を終えた魔法陣が何故未だに存在し続けているのか……。 と言う事を話したんだよ。 共也君はどう思う?」


 そうグランク様に指摘されて、俺もやっと気付いた。


 そう言えばそうだ、何で魔物を転移する役目を終えた魔法陣が存在し続けているんだ!?


「「「まさか……、魔物の上位種を何体も呼び寄せる事が出来たこの魔法陣が、他の魔物を全く呼び寄せる余裕が無くなる程の存在を、ここに転移させ様としていると言う事か!?」」」


 3人の意見が一致した所で、会議室の空気が震えはじめた。


―――ゴ、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!


 遅かった!


『攻撃魔法が使える者は、魔法陣に向けて攻撃を加えよ!』

「グランク様?」

『急げ!!』

「は、はい!」


 指示を受けた魔法使い達が杖に魔力を籠めたが行動が遅すぎた。


 内側から凄まじい圧力が掛かっているのか、赤黒い魔法陣が膨らみヒビが入ると凄まじい光を放ちガラスが砕ける様な音を室内に響かせた。  


「魔法陣が砕け散っただと!?」


 そして、赤黒い魔法陣が存在していた場所には、立派な錫杖を持ち、豪華なローブを着て王冠を被った骸骨がその場に立っていた。 


 その姿を見た瞬間、ゲームなどでその存在を知っていた俺達は一気に冷や汗が噴き出した。


 あの格好は、リッチか!?


 スッと立ち上がったその存在は、周囲を見渡すと楽しそうに笑ったのだ。


「カカカ! リリス様が人族を引っ掻きまわす遊びを辞めて不貞寝しておられるから、何かあったのかと思い転移陣を通って来てみれば、いるいる人間共が!!」

「貴様の恰好……。 まさかリッチ……」


 会議室に口にした『リッチ』その言葉に、笑い続けていた骸骨から笑いが消えると、奴から溢れ出た凄まじい瘴気が部屋中を覆い始めた。


「ゴホ、ゴホ……」


 先程まであれだけ勇敢に戦っていた貴族達や冒険者達も、濃すぎる瘴気を浴びた事によって次々に体調を崩して会議室の外へと運ばれて行く。


 スキルを発動しているお陰か、グランク様やデリックさんは何とか骸骨の前に立っていられるが、奴が只のリッチでは無い事は明白な為、剣を構えながら質問を投げかけた。


「これだけの瘴気を放つ者がただのリッチなわけが無い……。 貴様は何者だ、名を名乗れ!!」


 その質問を聞き、その骸骨は他者を馬鹿にしたように笑うのだった。


「カカ! 今も命の奪い合いをしている相手の幹部を知らんとは何と愚かな。 まあいい、しょせんはその程度の相手なのであろう」


 そう呟いた骸骨は、羽織っていたマントを広げ両腕を振り上げた。


「心して聞くがよい、我が名は【賢者トーラス!】 魔王リリス様の従僕にして、リッチでありながら魔国オートリス四天王となった者だ!」


 魔国オートリス四天王と名乗ったトーラスの名乗りは会議室中にいた人々の耳に入り、気の弱い者はそれだけで気分を悪くして部屋を後にしていた。


「さて、リリス様の気分を悪くした理由を調べる為に少々無理をして魔法陣を潜り抜けて来たが、これだけの強者がいるのだ、少々遊んで帰ったとしても文句を言われる事はあるまいて」

「来るのか!?」


 吹き荒れるトーラスの魔力が部屋を駆け巡る。 そして、構築され始めた魔法式を見たグランク様が、慌てて走り出す。 


「皆の者、奴の魔法の発動を阻止するのだ! もしこの魔法が放たれれば、この部屋が消し飛ぶぞ!」

「カッカッカ! 遅い遅い! すでに我が術式は完成した! 吹き飛べ塵芥(ちりあくた)ども!」


 錫杖を振り上げたトーラスだったが、1本の氷の矢が発動間近だった魔法陣に接触した事で構築式が崩れてしまい霧散するのだった。 


「カ~! この氷の矢を放ったのはどこのどいつだ! あと少しで全員を葬り去る事が出来たものを!」


 魔法陣を霧散させた功労者に視線を向けると、そこには弓を構えたまま固まっている与一がいた。 そして、その横には菊流、ジェーンは分かるのだが、何故かオリビアさんとテトラちゃんの2人も入り口に立ち尽くしていた。 


「共也? 共也だよね? 私達の幼馴染の……」


 しばらく硬直していた皆だったが、最初に声を上げたのは涙を流す菊流だった。 


「時間は掛かったけど、何とか無事に生きて帰って来たよ。 ただいまみんな」

「「「共也!!」」」


 その瞬間、全員がこちらに駆け寄って来ようとしたが、ダグラスが慌てて制止した。

 

「お前等止まれ!! 共也から話を聞きたいのは俺達も同じだが、それはあのトーラスを退けてからにしろ!!」


「あ……、そうだね……。 で、ダグラス、会議室に魔物が沢山召喚されて危機的状況だからって話を聞いたから、私達は増援として来たんだけどあのトーラスと呼ばれたリッチが最後の1体なの?」

「確かに最後の1体ではあるが……。 どうやらあのトーラスと名乗るリッチは魔国オートリス四天王の1人らしいぞ?」

「へぇ……。 って事はガルボさんと同じランクの強さを持つって意味か……」

「ん? 菊流、ガルボって誰だ?」

「えっと、私達も今回の護衛依頼で色々有ったから、これが終わったらお互い報告しあいましょう?」

「報告し合う……ね。 それもこの場を生き残れたらだがな……」

「それもそうね……」


 菊流達もトーラスの強さを理解しているのか、対峙しているだけなのに大量の汗を掻いていた。


「そうだ与一、あいつの術式を妨害してくれて助かったよ、危うくこの部屋が吹き飛ばされていた可能性があったからな」

「ふふふ、我を称えたまえ……」


 そして、武器を構えながらも視線はトーラスから放さないジェーンは、俺の帰還を喜んでくれた。


「共兄、きっと生きていると信じていました……」

「ジェーン、ありがとうな」


 そんな俺達の再会を黙って見届けているトーラスだったが、唐突に魔力を右手に籠め始めた事で事態が一変する。


「カカ! 美しい友情じゃないかね。 だが、そんな茶番劇を見せられると死者としての本能なのか、無性にその関係を破壊したくなるのだよ! 『全てを破壊し尽くせ≪ファイアボール!≫』」


 魔法陣の構築が早い上に、火球がデカイ!


 あまりにも巨大な火球にグランク様でさえ呆然としてしまっている中、1つの小さな影が飛び出すと魔力障壁を展開して受け止めた。

 しばらく魔力障壁と火球は拮抗していたが、火球の方が先に小さくなり最終的に霧散するのだった。 


 自身の火球が防がれたと言うのに、トーラス自身はその受け止めた人物をとても興味深そうに観察していた。


「我が火球を抑え込むとはやるな。 さぞや名のある魔導師と見受けるが……。(トーラスの視線が下に向いて行く)……………随分とちっこいな」

「ちっこいは余計じゃ!! 頭に毛の一本も残ってない骸骨めが!!」

「なっ、何だと!! この滑らかな曲線を描く頭と、光り輝くこの王冠! このバランスの素晴らしさが重要なのであって毛髪など無くても一向に構わんのだ! 所詮は獣人か、この素晴らしさが分からんとはな!」

「獣人差別するとは良いご身分じゃないか! 毛髪の事でちょっと煽っただけでそこまで憤るのだ、実は図星を付かれて内心ドキドキかな~~? のう、ツルピカ頭のトーラス君?」

「言ってくれるじゃないか、幼児体型」

「よっ! 幼児体型じゃと!?」

「そうであろう? 将来お主の旦那になる者は可哀想としか思えんよ、そんな幼児体型では……。 おっとこれ以上は無粋であるな」

「トーラスと言ったか? 私を幼児体型と言うが、どうせお前も長い年月を学問の探求に費やした影響で、気付いた時には誰にも相手にされなかったから、そうやって僻みを口にするのであろう? のうDT君」

「「・・・・・・・・・・・・・・」」


 2人の舌戦と言うか罵り合いから、火花が散る睨み合いに変わってしまった。


「グガガガ……!! もう許せん。 小娘、貴様から焼き払ってくれるわ!!」

「小娘じゃない、儂にはミーリス=アイスと言う立派な名前があるんじゃ!! かかって来んかいDTハゲ! 人の強さを見せてやるわ!」


 今まさに大魔法使い同士の戦いが始まろうとしていた時、ずっと倒れていたダリアの口から再びリリスの声が部屋中に響き渡った事で、ピタリと2人の詠唱が止まる。


『トーラス、私は今回の件からもう手を引くと言ったよね? なんでそこにいるのか説明してもらって良いかな?』

「り、リリス様! これはその……」

『ああ……、なるほど私の言う事が気に食わなかったと?』

「け、決してそのような事は!」

『へぇ。 じゃあ私に文句がある訳じゃ無いと言うなら早く戻って来なよ。 私が怒りを抑えている内に……ね?』

「か、かしこまりました……、今回勝手な行動を取ってしまい申し訳ありません……。 魔王リリス様」

『余計な事をせずに早く帰って来なよ』


 リリスの声も止み、辺りに静寂が訪れた。


 すると、片膝を付いて謝罪をしていたトーラスがスッと立ち上がり、苦々しい顔で全員を睨みつけた。


「今回は引かせてもらうが、次会った時は覚悟しておくが良い! とくにそこの幼児体型の猫獣人!」

「何じゃい、DT骸骨」

「そのネタはもう言わんでいい、しつこいぞ! 先程聞いたがもう1度聞いてやる、名乗れ!!」

「儂の名の事か……ミーリス=アイス。 ミーリスと呼ぶが良いぞ?」

「ミーリスだな、後日会ったら絶対に貴様の命はいただく! 覚えておくが良い!!」

「その挑戦受けても良いんじゃが、お前が怒られたのは勝手に行動したからであろう? 儂に八つ当たりされても困るんじゃが?」

「やかましい!!」


 トーラスはそう言い残すと、何かの魔道具を発動させたのか青い魔法陣が現れると空気に溶ける様に消え去るのだった。


 近衛兵達が逃がすまいとして周囲を捜索しようとするが、ミーリスに止められる。


「無駄じゃよ、止めておけ。 あ奴はすでにこの近くはおらぬ」


 ミーリスのその言葉を聞き、ようやく長い魔物討伐から四天王の邂逅と言う緊張感の連続から解放された全員が、その場に座り込むのだった。


 みんなが思い思いに休憩していると、グランク王が立ち上がり皆に感謝を述べた。


「みなの者、唐突な防衛線になってしまったが此度の勝利はとても大い物となった。 我々が戦っている魔国の名はオートリス。 そして、魔王リリス、四天王のトーラスなど、今まで知られていなかった情報を知る事が出来た」


 そこで話を区切ったグランク様は、先程まで赤黒い魔法陣が存在した場所で未だに気絶しているダリアに怒りの視線を向けた。


「本来なら貴殿達を労わないといけないのだろうが……、そこに倒れている愚か者から、火急的速やかに情報を搾り取らないといけなくなったため、今日はこの場での各自解散する事を許して欲しい」

「いえいえ、怪我人は多数出ましたが、エリア様の活躍も有り死者は1人も出なかったのですから、臣下の務めを果たしたと思って気に無さらいで下さい陛下」

「レイル辺境伯……。 助かる」


 一瞬グランク王はレイルさんに優しい笑顔を見せるが、すぐに険しい顔に戻り倒れ込んだままのダリアに視線を移し近衛兵に、意識を取り戻すまで地下牢へ幽閉するように指示を出した。


「近衛兵、その者が目を覚ましたら拷問室に連れて魔国に関する情報を全て吐かせよ! 多少の荒事は許可する!」

「はっ!」


 近衛兵達がダリアを両脇を抱えてこの場から運び出して行った事で、今回のクレア暗殺未遂、赤黒い転移魔法陣による魔物の襲撃事件は終わりを迎えた。


 が。


「共也~、感傷に浸ってる所悪いけど、ここ1か月半に起きた事を報告し合いたいから、共也の部屋にみんなで行くわよ!」

「だから何で俺の部屋に集まろうとするんだよ!!」

 

 1か月半ぶりに帰って来れたと言うのに、俺には息抜きをする権利すら無いらしい……。 


なんとか戦闘も終わり情報共有のために共也の部屋に移動する事に。

次回は情報共有をしていく話を書いて行こうかと。

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