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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
2章・新たな出会い。
51/285

シンドリア王国の王都へ帰還、そして。

  今、大会議室の中ではシンドリア王国を運営する立場にいる人達が集まっている。


 そして、その大会議室内の入り口から一番奥まった場所では、ダリアが自分の主張を通そうと今も騒ぎ続けているが、集まっている人達の目にはその姿は異様に映っていた。 


(ダリア、何がお前をそこまで王になる事に拘らせているのだ?)


 そんなグランクの疑問を知ってか知らずか、ダリアは再びエリアの死に関する採決をする様に求める。


「お父様、あなたは言いましたね? 今日、この会議でエリアの死亡判定の決を取ると」

「確かに言った……だが」

「だが? この期に及んで、また今回もなあなあで引き延ばすおつもりですか? 前回に続き今回も時間切れで採決をされないとなると、温厚な私も流石に我慢の限界が来ますわよ?

 それとも……。 もう一人大切な娘を亡くさないと、私の王位継承の序列を上げる決断は出来ませんか?」


 そう言い放つと、右手の人差し指をクレアに向けたダリアは指先に魔力を収束させ始めた。


「ひっ!」


 あの魔力弾が放たれれば私は死ぬ……。

 そう察したクレアは低い悲鳴を出して両腕で顔を庇うが、ダリアは魔力を集中させるのを止めない。


「止めんかダリア!!」


 今まさにクレアの命を奪おうとする術が発動しかけた瞬間、グランク様の怒声が間一髪の所でダリアの動きを止めた。

 そして、ダリアがグランク様を見るその目は冷めきっていた。


「ならば、エリアの死亡判定、そして、私とクレアの王位の序列を上げる手続きをどうするのか、早々に決めて下さい。 そもそも、あなたが今日採決を取ると決めた事をお忘れなく」

「分かっている……」

「ならさっさと決を取って下さいまし。 もしも、このまま前回と同じ様に誤魔化そうとするのなら……」


 ダリアは舌なめずりすると、指に集めた魔力をさらに濃密に圧縮して行き、今にもクレアに魔法を放とうとしている。

 それを見たグランク様が諦めた様に一度溜息を吐くと、彼女を諫めた。


「分かった、お前の言う通りにする……。 だから、その魔法をクレアに放とうとするのは止めるんだ……」

「それで良いのです。 最初から素直に応じて下さるのならば、私とて()()()()を手に掛けようとは思いませんよ」

「儂が止めなければあのままクレアを本当に殺していただろうに、白々しい嘘を言いおって……。 だが、皆で決めた期日は今日いっぱいだ! 夕刻までに2人の目撃の報告すら上がって来なければ、採決を取り2人の処遇を決めて、明日の朝にでもお前達の王位継承の序列変更の手続きに入る、これで良いか!?」

「勿論です。 愛しいお・と・う・さ・ま♪」


 歪んだ笑顔で感謝を告げるダリアは心の中で『勝った!』と呟いた。 


「今この場にいる貴族の方々も聞かれましたね? 今日の夕刻までにエリアの目撃情報が上がって来なければ、私とクレアの王位継承順位が繰り上げると。 勿論皆様は、採決の時に反対票を投じる事はありませんわよね?」

「・・・・・・・」


 居並ぶ貴族達も、本当ならダリアの王位継承権が繰り上がる事に対する反対票を投じたい。 だが、今実際王位に付いているグランク様が認めてしまった以上、いくら気に入らないと言えど貴族の方達も家を守る為に頷くしかなかった。


 だが、貴族達も今の状況に相当苛立っているらしく、何人も机を指で叩いている様子が見て取れた。


「あらあら、貴族ともあろうお方達が苛立ちを顔に出してどうします。 だけど、少しはあなた達の苛立ちが分かるのも事実ですわね。 う~~ん……。 そうだ、良い事を思い付きましたわ! ねぇ、クレア?」

「な、何でしょう、ダリアお姉さま」

「もう王位継承権の序列で、私達が争うのは時間の無駄だと思わない?」

「え?」


 まさか、ダリアが王位継承権を放棄するのか!? とこの場に集まった人達は思ったかもしれないが、ダリアがそんな謙虚な事をする訳が無いと俺は知っている。

 そして、俺は見てしまった。 あいつの指先に、先程消したと思った魔法陣が展開され続けている事を。 


(まずい! ディーネ、例の術の発動準備を頼む!)

(任せて~!)


 次にダリアが取る行動を察知した俺は、ディーネにある魔法の発動準備を念話で頼み、クレアの元に走り出した。 


 間に合え!


「無駄って……。 ではお姉さまは、王位継承権を放棄す『クレア、死んで私に王位を譲って頂戴?』!?」

「止めろ、ダリア!!」


 グランク様がクレアを庇おうとして立ち上がるが、距離が離れて居る為間に合わない。 そして、無情にもダリアはずっと指先に維持していた魔法術式をクレアに向けて発動した。


「ひっ!」


『【共生魔法:水壁】発動!!』


 バギン!


 あと少しでクレアの命を奪いかねなかったダリアが放った炎弾を、俺とディーネが作り出した水の壁が防ぎ切るのだった。

 そして、クレアは自分の命を救った壁を不思議そうに眺めて居た。


「これは、水で出来た壁なの?」


 今もクレアの前方を守る水の壁。 それは俺とディーネが砂漠で知り合ってから、朝日が昇って移動が出来ない時間に、ずっと練習していた共生魔法による合同魔法だった。


「くっ! そんな薄い水壁など、私の炎弾で消滅させてやるわ!」


 その後も、クレアの命を奪おうと何発も炎弾を撃ち放つダリアだったが、結局俺達の作り出した水壁を突破する事が出来なかったのだった。


 そして、ローブを纏って顔が見えない人物がクレアの前に立った事で、ダリアは忌々しそうに顔を歪める。


「……よくも私の邪魔をしてくれたわね。 私がこの国の王女ダリアと知った上で邪魔をしたのかしら?

 もしそうなら、あなたの一族郎党全てを死刑台送りにしてやるわ! それが嫌だと思うのなら、貴様の手でクレアを殺しなさい!」


 こんなに堂々とクレアを殺そうとしておいて、こいつはまだ自分が王族の権力を振るえるつもりで居るらしい……。

 こんな馬鹿に1か月半もの貴重な時間を奪われたのかと思うと、虚しくなって笑いが込み上げて来そうだった。


「一族郎党皆殺しねぇ……」

「そうよ! 私はやると言ったらやるわ!」

「でもさぁダリア、俺に家族と呼べる存在はこの世界にはいないんだわ」


 そして、俺はフードを外し会議室内にいる人達全員に顔を見せると、全員が絶句していた。


「な、何であんたがここにいるのよ……。 最上共也!!」


 ダリアは口端から唾を飛ばしながら俺の名を叫ぶが、まあ1か月半も行方不明だった人物が急に現れたらびっくりするよね。


「何でクラニス砂漠に飛ばしたお前が、生きてここにいるのよ! あの広大な灼熱地獄を生きて帰って来れるわけが……、あ……」


 ダリアは自分が失言をしてしまった事に気付き、急いで口を塞ぐがもう遅い。


「ダリア……。 何故お前が共也君の転移先を知っているのか。 そして、クレアを殺そうとした事への釈明を()()()()してくれるのだろうな?」

「そ、それは……」


 グランク様の鬼気迫る迫力に、ダリアは顔を真っ青にして後ずさりする事しか出来ないでいた。


「お、お父様、これは……その……」


 何とか誤魔化そうとして必死に頭を働かせるが、先程自分の口から俺の転移先を喋ってしまった為、言い逃れも出来ない。


「衛兵よ、ダリアを拘束しろ。 抵抗する様なら切り捨てて構わん」

「はっ!」


 近衛兵に命じてダリアを拘束しようとする、そんなグランク様は彼女に対して冷たく言い放つ。


「ダリアよ、その場から一歩でも動いて見ろ。 その時は逃亡、そして私への反意有りと判断して本当に切り捨てさせるぞ?」

「お、お父様! 違う、違うのです!」

「今更お前の言い訳など聞きたく無い。 それに、私は動くなと言ったのだが聞こえなかったのか?」

「そんな……。 あと少し、あと少しで私がこの国の実権を握る事が出来たのに……」


 結局謝罪どころか言い逃れすら口にしなくなったダリアは、全てを諦めてしまったのか両腕を垂れ下げて動かなくなってしまった。


 ふぅ~~。


 そんなダリアを放置して、俺の顔を見たグランク様は安堵の表情を向けて来ていた。


「共也君、良くぞ、良くぞ生きて帰って来てくれた……。 それで、その……、君がここに居ると言う事はエリアも?」

「ふふ。 お父様、エリアはここにいますよ」


 ずっとレイルさんの後ろに控えて事の成り行きを見守っていたエリアもフードを取り全員に正体を晒すと、会議室内に居る人達は唐突な探し人の登場に目を剥いて彼女を凝視していた。


「え、エリアお姉様……」


 クレアに至ってはエリアを見た途端安堵したのか座り込んでしまい、人目も憚らず顔が涙と鼻水でグシャグシャになるまで号泣するのだった。 


「お父様、皆様、心配をおかけてすいませんでした。 このエリア=シンドリア=サーシス、ダリアの罠によってクラニス砂漠に飛ばされましたが、何とか無事に生還する事に成功いたしました」


 華麗にカーテシーをするエリアに、グランク様は両手で彼女の顔を挟み込んでジッと彼女の顔を眺めて居た。 


「あぁ、エリア。 本当にエリアなのだな……」

「えぇ、大変な旅でしたがこうして無事に帰還いたしました」

「肌が少し焼けたか? だが、エリアだ……。 本当に……本当に生きて帰って来てくれたのだな……」


 そのグランク様の言葉に、会議室にいる貴族の人達も涙ぐむんだり、鼻をすする人もいた。


「もうお父様ったら……。 再会出来て嬉しいのは私もですが、今は今回の事態を引き起こしたダリアの処遇を決めましょう」


 ダリアの事を「姉」と呼ばなくなっているエリアに一瞬グランク様は戸惑うが、そこに彼女の思いを察しその提案に頷いた。


「そうだな、まずはダリアに此度の事で罪を追及せねば皆に示しが付かんな」


 未だに脱力して動かないダリアに向き直ったグランク様は、罪状を読み上げる。


「ダリアよ、エリアと共也君を殺す目的で、赤の転移石を使いクラニス砂漠に転移させた。 この罪状に何か異論はあるか?」

「・・・・・・・・・」


 自身の王位継承権の剥奪が目に見えているこの状況がショックなのは分かるが、自国の王であるグランク様に尋ねられているのに、先程から全く動かないのは流石に何かがおかしい……。


 そして、グランク様は再度ダリアに話し掛けた。


「ダリアよ、聞いているの『五月蠅いわねぇ』な! ダリア!?」

『せっかくこの人形を使って国を内部から崩壊させる遊びをしていたのに、バレたせいで長い年月を掛けて仕込んで来たこの状況が全て台無しじゃない!』

「仕込み? 遊び? ダリアを操っている貴様は何者だ!?」


 未だに脱力しているダリアの口から吐き出される台詞は、何故か二重に聞こえて会議室全体に響き渡っていた。


 そして、グランク様の質問に答える為に、ダリアの口がユックリと動き始めた。 


『あは! 何者かですって!? 良いわ、答えて上げる。 私の名は【リリス=オートリス】、魔国オートリスを統治する魔王で、あなた達人族に戦争を仕掛けている張本人よ』


 その言葉が紡がれた瞬間、会議室内の温度が一気に数度下がった気がした。


 近衛兵や貴族達が護衛として連れて来ていた冒険者達は、主を守るためにダリアの前に立ちはだかると何時でも動けるように臨戦体勢を取った。 


『せっかく人族の国を内部から崩壊させるゲームをやっていたのに、まさか共也君とエリア嬢がクラニス砂漠から生きて。 しかも、今日この大一番と言う時に現れてくれるとは全くの予想外の上、何もかもが台無しよ……。

 あぁ……。 こんな事態になるなら、転移罠に見せかけた暗殺なんて回りくどい事をせずに、さっさと私自身の手で殺しておくべきだったわ……』


 そのリリスの呟きに、俺は全身に鳥肌が立った。

 クラニス砂漠でディーネと出会った事でようやく共生魔法を発動出来た俺だが、もし転移される前のあのダンジョンの中で魔王に出会っていたら簡単に殺されていただろう……。


 操られているダリアにどれ程の戦闘力があるか分からない以上、おいそれと近づく訳にはいかないと考えるのは会議室にいる全員が同じ考えらしく、剣の柄に手を置いている者がほとんどだが誰一人として彼女に近づく者はいなかった。 


 その中で、再びグランク様がダリアの体を操っているリリスに話し掛ける。


「貴様が本当に魔王リリスであるかどうか我々に確かめる術は無いが、貴様は『長年』と言う言葉を口にした。 これに間違いは無いか?」

『まぁ、間違いでは無いわね。 それが、何か?』

「貴様のせいで、ダリアはここまで性格が歪んだのか!?」

『あのね、勘違いしないでくれる? 確かに私はこの人形に対して長年干渉して来た。 でもね、それはあくまでこの国を不利にする程度のものよ。 こいつの性格に関して私は一切干渉していないから、元々こういう性格だったって事でしょ』

「…………本当だな?」

『だからそう言ってるじゃん、こんな状況で私が嘘を言うメリットなんて無いんだから、それを考えて口にしなよ。 頭悪いな~」


 何だかこの魔王リリスだっけ、すぐ切れるし口調が妙に子供っぽい所があるな……。


『まあ良いや。 でも今回の事でゲームとして続けられなくなったし、もうチマチマするのや止めかな』


 そう言うと、どんな効果があるのか分からないがダリアの背後に青く巨大な魔法陣が構築され始めた。


『と言う事で~~。 唐突だけど、君達には試練を与えようと思いま~~す!』


 組み上がった魔法陣が、徐々に強い光を放ち始めた。 


『生き残ってみなよ、そうすればまた遊んでやるからさ!』」


 その台詞をリリスが呟いたと同時に青かった魔法陣は赤黒く変色し、空中に浮かぶ円の中からユックリと何かが姿を現し始めた。 


「なっ!? ま、魔物だと!?」


 ゴブリン、コボルト、リザードマン、ウルフなどまだまだ大量に魔法陣と通って出てくる。


「魔物を召喚……いや違う、転移でここに送り込んでいるのか!」

『せいか~い! 私がいる魔国オートリスの周辺には、我が国民総出でも手が回らないくらい魔物がいっぱいいるからね~~。 国民達の陳情を聞いた時に思い付いたのさ。 そうだ、自国で処理出来ないなら他国に押し付けてしまえってね! 良い考えだろ?」


 この会議室にいる全員が思った。(ふざけるな!)と。


『じゃあ、後で結果だけ見に来るけど精々死なない様に足掻いてみなよ』

「待て魔王リリス!!」

『あ、そうだ言い残した事があったんだった。 今回色々と台無しにしてくれた共也君、君は絶対に許さない。 もし、この疑似スタンピードを生き残る事が出来たなら、何時か私直々に殺しに行くから首を洗って待ってろ!』

「なぁリリス。 お前の計画が破綻したのは、俺を殺し損ねたからだろ? その事で俺に文句を言うのはお門違いだし、むしろ被害者の俺が文句を言う立場だ、この脳筋魔王め!」

『なななななっ! 脳筋魔王、脳筋魔王って言ったな!? 私は脳筋じゃないし、むしろ頭脳派寄りの魔王だ!』

「こうやって計画の穴を指摘されるだけで怒るのに、何処が頭脳派なんだよ……」


 呆れて冷静に突っ込んでしまったせいか、余計に魔王リリスを怒らせる結果となってしまった。


『ムキーーーー!! 私は脳筋じゃない、頭脳派魔王だ!!』


 怒りのせいで上手くダリアの制御が出来ていないのか、何故か地団駄を踏んでいるし……。


「脳筋と言う言葉を必死に否定するって事は、少しは自覚してるんだな?」

『五月蠅い!』

「何だか子供っぽい嫌な奴かと思っていたけど、意外と可愛い所もあるんだな」

『か、かわ?』


 最初、意味が分からなかったのか魔王リリスは少しの間キョトンとしていたが、意味を理解すると途端に焦り始めた。


『か、かわ……!? 共也、お前絶対私を揶揄って遊んでるだろ!? お前だけは後で絶対に殺してやるから、生き残れよな!』


 リリスはそう言い残すと、ダリアは糸が切れた様にその場に倒れ伏しすとそのまま動かなくなったのだが、何か施されているのか魔物達は横たわるダリアに目もくれずこちらにユックリと歩を進めて来る。


「どうやらダリアは放置で良さそうだが、この魔物達はどうしたものか……」

「共也……」

「クレア、もう少し頑張れるか?」

「うん……」


 徐々に近寄って来る魔物達からクレアを守る為に立ち塞がっていると、グランク様と宰相のギードが何やら話し合いをしている姿が目に入った。


「ギードよ急いでこの部屋を出て、城の中にいる戦力をかき集めて来れるか?」

「グランク様、それまで保ちそうですか?」

「俺を誰だと思っている、まだまだ他の奴らには負ける気は無いぞ?」

「そう言えば、あなたが戦場で傷付いた姿など見た事が無かったですな」

「そう言う事だ。 だがなるべく早く頼むぞ、私は大丈夫だとしても他の貴族達や冒険者達に取ってあの数の魔物達が一斉に動き始めたら、流石の私も手が回らず犠牲者が出かねない」

「了解しました」


 そうして宰相のギードさんは、城の中にいる全ての戦力を集めに静かに部屋から出て行った。 


 そして、徐々に近づいて来る魔物達を迎え撃つために、グランク様は腰に帯びていた剣を抜き前に突き出した。


「王国貴族、またはその護衛達よ! こ奴らが街中に放たれれば、先日の王都襲撃を凌ぐ犠牲者が出てしまうだろう。 2度とそんな事態を引き起こさないためにも、今ここでシンドリア王国の貴族としての本懐を示せ! 抜剣許可!」


 王としてのグランク様の指示の元、この部屋にいる全ての人達が手に武器を持ち魔物達に対峙する。


「クレア、今の内に出口まで走れるか?」


 そう声を掛けるが、クレアは首を横に振る。


「無理……、腰が抜けて上手く立てないの……」


 そうか、先程ダリアに命を狙われた上に、今は魔物達を前にしているこの娘はまだ8歳の女の子なんだ……。


 振るえる手で俺の服を握るクレアを背に隠す俺は、ある提案を彼女にする。 


「クレア、俺が背負ってエリアの所まで運ぼうと思うけど、命を俺に預けられるか?」

「う、うん。 共也にならこの命預けられる……。 あ、後さ……さっきは助けてくれてありがとう、嬉しかった……」


 恥ずかしそうにお礼を言うクレアは、顔を真っ赤にしながらしゃがむ俺の背にしがみ付いて来た。


「行くぞクレア、しっかりとしがみ付いててくれよ!」

「うん」


 しっかりとクレアが背にしがみ付いたのを確認した俺は立ち上がると、エリアの元に届ける為に移動を開始した。

 だが、一足遅かった様で魔物達も行動を開始してしまい、エリアの元に辿り着くには群れを突っ切る必要が出て来てしまった。


「ディーネ、攻撃魔法の準備を頼む!」

(は~い、行くよ)


『「【共生魔法:水刃!】」』


 共生魔法で魔剣に薄っすらと水の刃を纏わせた俺は、それを持ち魔物の群れに突っ込んで片っ端から切り捨てて行く。


「共也、それは魔法で合ってるの?」

「あぁ、魔法だよ。 ちょっと特殊な発動条件があるけど、何とか……ね!」

「そっか……。 共也、ついに魔法を使えるようになったんだ……。 ならもう無能だって揶揄って気を引く事は出来ないね……」

「クレア?」

「ううん、何でも無い……」


 悲しそうに小さく呟いたクレアは雑念を振り払うかのように首を横に振ると、抱き着く腕にさらに力を籠めて来た。


 リリスの置き土産の赤黒い魔法陣から溢れて来た魔物達は多い。

 エリアの待つ入口を目指す俺達の前を倒しやすい敵と判断したゴブリンが、横から襲い掛かって来たのだが、剣の中から伸ばしたディーネの触手による高速の攻撃を受けた事によって爆ぜて命を散らす結果となるのだった。


「え、今の触手は一体なに? 共也はいつの間に人を辞めたの?」


 剣から突如現れた触手がゴブリンを瞬殺してした光景を見たクレアは、どうやら俺が人を止めてしまったと勘違いしてしまった様だ。 


「辞めてないし! 先程の攻撃は、俺の相棒となったスライムの仕業だよ。 ディーネ、クレアに挨拶してあげて」

(ディーネだよ、よろしく…ね?)

「頭の中に声が聞こえる!」

(私の念話……だよ?)

「凄い凄い! ディーネ、よろしくね!」 

(よろしく~ね?)


 2人が楽し気に挨拶している間も、グランク様や貴族、そして護衛として来ている冒険者達によって、次々に討伐されて行く。

 確かに多くの人がいる事によって討伐するペースも早い。 だが、魔物達の数は減るどころかむしろ増えてる気がする。


 その元凶である赤黒い魔法陣は少しづつ光を失って来てはいるが、未だに多くの魔物を転移させていた。




ダルアを操っていた黒幕の登場会でした。

次回は皆との再会を書いて行こうかと思います。

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