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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
1章・異世界に、そして出会い。
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召喚と出会い。

今回から異世界に召喚された事でこの世界での活動を描いて行くつもりです。 まだまだ文章は拙いですが完結まで続けて行ければ良いなと思いながら投稿していくのでよろしくお願いします。

 最愛の人との別れを夢で追体験した俺は、最悪の気分で目を覚ます事になった。

 

 ……またこの夢か。


 未だにあの日の出来事が心の棘として刺さっているのか、あの日から十何年と経つが定期的にこの夢が出て来る為、もう何度見たか分からない……。


 あの別れの日から14年が経ち、俺も18歳となった。


 14年の間に色々とあったな……。 親護父さんと母さんが亡くなって天涯孤独となった俺を、京谷さん達が後見人として名乗り出てくれたお陰で、今もこの家で一人暮らしをする事が出来ている。

 

 ……いや、1人暮らしと言えば1人暮らしなんだが……、世間一般とはちょっと違うと言うか……。


―――コンコンコン!


 部屋のドアをノックする人物に心当たりがある俺は返事で返した。


()()か?」

「うん。 共也、もう起きてる?」

「今起きた所だよ」


 そう、子供ながら事故の原因を作ってしまった事に責任を感じたのか、あの事故以来、菊流は毎朝俺を起こしに来るようになったのだ。


 何度も気にするなとは言ったのに、頑固だよな本当に……。 でも、その菊流に助けられたのも事実なんだよな……。


 千世ちゃんが居ない保育圏に行った俺は、今にも後を追うんじゃないかと思う程、思い詰めた顔をしていたと少し後に親護父さんから聞かされた。


 そんな俺を見かねた菊流が一大決心して我が家に通うと言い出したのだが、俺は最初はその提案を断っていた。


 だが……。


「そんな顔してる共也を黙って見てるなんて出来無いよ……!! 私が千世ちゃんの代わりになるなんて言えないけど……。 頑張るから……。 毎日共也を起こしに行くから!!」

 

 あの事件以降、俺だけで無く菊流も傷ついている事に気付けなかった。

 彼女は自分のせいで千世ちゃんが居なくなってしまった事を、ずっと気に病んでいたのだ。


「ねぇ共也、私じゃ……駄目?」


 スカートの裾を両手で思いきり握り、両目に涙をいっぱい貯めてポロポロと泣く菊流に根負けした俺はその申し出を受け入れたのだった。



  だがその数年後、親護父さん達が事故で亡くなって一人で暮らすようになっても、菊流は毎日俺を起こしに来てくれた。

 その事に対して申し訳ない気持ちが少しあったが、すでに彼女との生活が日常となっていた俺はとうとうこの日まで『終わりにしよう』と言うこの一言を切り出せずにいた。


 だけど旅に出ると決意した以上、この生活も終わりにしないといけない……。


「共也入るよ」


 扉を開けて入って来た菊流は大きく成長し、燃える様な赤い目と髪。 そして、誰もが見惚れる程の抜群の体型をしていた。


 そんな彼女が俺の部屋に入った瞬間、顔をしかめた。


「……共也、また千世ちゃんの夢を見たの? 涙と鼻水で顔が凄い事になってるから、洗面所で洗って来なよ。 すぐに朝ごはんを作るからさ」

「本当だな。 悪いけど洗面所に行ってくる」

「うん。 高校も昨日卒業したから急がなくても良いんだし、ユックリ来て良いわよ」


 部屋を出て洗面台に備え付けてある鏡を覗き込んだ俺は、この夢を見た時の顔と対面していた。


「はは……、菊流の指摘通り酷い顔だな……。 情けないな、未だに千世ちゃんの事を、振り切る事が出来ずにいるなんて……。 でも、これで良いのかもしれないな……。 俺の生きる目的を忘れない為にも……」


 身支度を整えた俺が居間に行くと、エプロンを付けた菊流がすでに美味しそうな朝食をテーブルの上に並べている所だった。


 そんな家庭的な菊流に見惚れていると、彼女は俺に気付いた様でエプロンを外して椅子に掛けた。


「共也来たんだね、食べましょ?」

「そ、そうだな。 菊流いつもありがとうな、いただきます」

「いきなりどうしたの、急にお礼を言われると照れるんだけど……。 いただきます……」


 何となく気まずい雰囲気となった俺と菊流は両手を合わせ食べ始めたのだが、俺はテレビから流れてくるニュースを聞きながら、菊流にどうやって今後の事を伝えようか考え込んでしまう。


 菊流は4月から有名大学に進学する事が決まっている。


 逆に俺は結局高校在学中に進路を決めず、世界中に居る困った人を手助けする旅に出る事を心の中で決めていた。


 今後はお互い顔を合わせる機会も極端に少なくなって行き、自然と疎遠(そえん)になって行くのだろう。

 この2人で食事を出来るのもあと何回出来るのか……と考えていると、俺の神妙な顔に気付いた菊流が箸を置くと、彼女も神妙な顔をして声を掛けて来た。


「ねぇ共也、私達って昨日高校卒業したじゃない?」

「ああ、長い様で短かったがようやくだな……。 それで?」

「うん、私は春から大学に行く事が決まってるけど……。 共也ってどうするつもりなの?」


 ずっと一緒に生活して来たんだ、何となく俺の気持ちに気付いてるんだろうな……。


 その問いに対し俺は誤魔化そうとも思ったが、あの日から今日まで本当にほぼ毎日通ってくれた菊流にはちゃんと答えるべきだと思い、正直に心に思っている事を伝える事にした。


「実は漠然(ばくぜん)とだけど考えてた事があるんだ……」

「どんな事?」

「…………俺は高校を卒業したのを区切りとして、何年か色々な地域や国を見て回って困った人を手助けする旅に出ようと思っているんだ」


『漠然』と言ったが、もうかなり前から考えていた事だ。


「旅……。 ねぇ共也、何時か旅が終わったらこの街に帰って来るんだよね?」

「どうだろうな……。 菊流には会いたいと思うけど、千世ちゃんや俺の両親もいないこの街に帰って来るのか、と言われると悩む自分が居るんだよな……。

 だから、この家に帰って来る意味があまり無いしどうなるか……」


 その答えを聞いた菊流は明らかに気落ちした様子で、視線を机の上に向けていた。


「そう……なんだ……」

「だけど勘違いしないで欲しいのは、菊流に会いたいと言うのは本心だからな?」

「うん、それはありがとう。 でも昔からの共也が時々上の空だった時があったから、もしかしてって皆で話しをしてたんだけれど……。 共也がこの街からいなくなるのは寂しくなるね……」

「菊流……」


―――カチ、カチ、カチ、カチ。


 壁に掛けた安物の時計の針が進む音だけがハッキリ聞こえていたが、菊流が何かを心に決めた様で口を開いた。


「ね、ねぇ共也……。 もしあなたさえ良ければ、私も一緒に……」


―――キン、キン!


 その瞬間、甲高い音と共に、突如俺と菊流の足元に青白く光る複雑な幾何学模様が2つ現れた。


「ひ! 何これ、何これ、魔法陣!? と、共也!!」

「菊流、手を!!」


 お互いの手を取ろうと必死に伸ばした俺達だったが、ホタルの様な青白い残光を残してその場から消え去ったのだった。


 視界は青白い光で塗り潰されて何も見えない状態が続いていたが、卒業式の時に聞こえて来た声が今度はハッキリと耳元で聞こえた。


『お願い……私の子供達を助けてあげて下さい……。 全く関係の無いあなたを巻き込んでしまったせめてもの償いとして、私の力の一部で作成したスキルを付与しておきました……。

 どうか、どうか子供達の事をよろしくお願いします……』

「あなたは一体……」

『今は私の名を言う事が出来ませんが、いずれ会う時が来るでしょう。 その時は必ず……』

 

 女性の声が遠のいて行く。


―――キン!


「ああ、ようこそ私の勇者様、良くぞ私の召喚に応じて下さいました! 心より歓迎いたします!」


 勇者? 召喚に応じた?


 青白い光も収まり辺りが見渡せる様になって来ると、俺の目に入って来た光景に驚きを隠せなかった。


 周囲は石が積み上げられて建てられた建築物の様で、似ている建物を上げると欧州のガイドブックなどで紹介されている、中世ヨーロッパの城にステンドグラスを嵌めた感じだ。


 その立派な光景に呆然としていると、先程俺を召喚したと言う人物が再び声を掛けて来た。


「私の勇者様、どうかこの世界を救う為にあなた様の力を私達にお貸し下さい!」

「ゆ、勇者って俺!?」


『勇者』その言葉に慌てて後ろを振り向いてしまった事で体制を崩してしまい、声の主の前で片膝を付いてしまった。


 片膝を付いたままの体制で声の主を見上げると、そこには透き通るような白髪を腰まで伸ばし、目の色が翠眼の14~15歳位の少女が白いベレー帽に白いローブを纏っていた。


「ふふふ。 勇者様、慌てなくても大丈夫ですよ。 さあ、お手を」

「あ、ああ」


 彼女は跪く俺の前に立つと、その華奢な右手を差し出して来た。


 傍から見ると、その光景は忠誠を誓う騎士と、騎士に任命する王女の1枚の絵画のように、他者には映し出される事だろう。


「あなたは? それにここは……」

「私はこの【シンドリア王国】の第一王女・エリア=シンドリア=サーシスです。 そして、あたなを召喚した者でもあります」


 エリア王女。

 彼女は自身の名前を俺に告げると、いきなり頭を下げて来た。


「あなたにも、家族や生活があった事は重々承知しています。 ですが、我々人類はそれを知りながらも、あなたに助力を願う道しか無いほどに追い詰められてしまっているので……痛!」

「エリア王女?」

「……頭が…痛い?」


 痛む頭を押さえたエリア王女は、そのまま座り込んでしまった。


「エリア王女!? 貴様エリア王女に何をした!?」


 すると、その様子を周りで見守っていた兵士達から殺気を溢れ出し、俺に武器を突き付けて取り囲んだ。


 普通の兵士とは違い豪華な装飾が施された鎧を着た兵士達が、エリア王女を守るように囲み今にも俺に攻撃を加えて来そうな雰囲気に冷や汗が止まらなかった。


「お、お止めなさい! 急に頭痛と眩暈がしたので体勢を崩して座り込んだだけです。 それが無理矢理招いた客人に対する態度ですか!! 恥を知りなさい!」

「ひ、姫様……。 も、申し訳ない……」

「私に謝ってもしょうがないでしょう! 謝る相手はこちらの勇者様にでしょう!」

「申し訳なかった……」


 エリア王女に一喝された事で冷静さを取り戻した兵士達は、素直に謝罪してくれたのだった。


 だが、俺は内心冷や汗が止まらなかった。


 本当に殺されるかと思って、生きた心地がしなかったよ……。


「兵士達が失礼をしました……。 私の勇者様、順序が逆になってしまいましたが、あなたのお名前を伺ってもよろしいですか?」

「はい、私の名は最神 共也です。 ですが、親しい人からは「共也」と呼ばれているので、王女もそう言ってくれて構いません」

「分かりました。 では共也さんとお呼びしても?」

「ええ、それで構いません、お願いします」

「はい。 共也さん!」


 嬉しそうに微笑むエリア王女だったが、先程の頭痛がまだ続いているのか少し痛そうに顔を歪めているのを見た1人の兵士に助言され、一旦下がる決断をしたようだ。


「後ほど必ずあなたに割り振られたお部屋に、何故あなたが召喚されたのか、今後どの様な扱いを受けるのか説明しにお伺いしますので、少し下がって休んで来ても大丈夫ですか?」

「それは大丈夫です。 むしろ無理はしないで下さい」

「ふふ。 ありがとうございます共也さん」

「ですが、今後の予定を教えてくれる人はいるのですか?」

「もちろんです【デリック隊長】!!」

「はっ! ここに!!」


 豪華な装飾を施された鎧を着たデリック隊長と呼ばれた人物が、エリア王女の前に現れると頭を下げた。


「このデリック隊長が、この後の予定を説明してくれます。 デリック隊長、後は任せてもよろしいか?」

「もちろんです、共也と言ったな先程は部下が殺気を向けてすまなかった、謝罪させてくれ。 エリア王女が急に座り込んだ為君に何かされたのでは、と疑ってしまった様なのだ」


 デリック隊長が俺にも頭を下げると、同じくエリア王女の護衛をしていた兵士達も、俺に頭を下げるのだった。


「み、皆さん、俺は全然気にしてないので、頭を上げてください! 王女様も体調が良く無いなら、少しお休みになって下さい。 今後の予定は、デリック隊長から聞いておきますので」

「エリア……」

「え?」

「私の事をエリアと呼び捨てにして下さい。 私だけが、共也さんの事を呼び捨てにするのは嫌です!」

「え~っと……」


 呼び捨てする事を強要してくる王女様に困ってデリック隊長に助けを求める視線を送るが、彼は一度首を横に振ると諦めた様に首を縦に振った。


 それの意味する事は『エリア王女が折れる事は無いだろうから、呼び捨てで呼んで上げてくれ』の意味だろうと察っして、逃げ道を塞がれてしまった……。


 はぁ、王女様を呼び捨てにするとか、どんな拷問だよ……。


「エリア王女……」

「エリアです!」

「エリア様……」

「エ・リ・ア!!」

「……エ、エリア……。 これで良いのかい?」

「はい! これからよろしくお願いしますね♪」


 エリアは呼び捨てにされた事に満足したのか、俺に微笑むと足取り軽くこの部屋から出て行った。


 ……さっきまで体調不良って言ってなかったか??


 そんなご機嫌な様子で部屋を出て行くエリア王女の背を、俺は見送るのだった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

召喚主であるエリア王女と共也の初対面の話しでした。


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