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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
2章・新たな出会い。
48/286

ドニクレシ=カバレイル辺境伯領に。

 俺達は1ヵ月以上の時を掛けてクラニス砂漠を何とか踏破する事に成功した。


 その後、海岸沿いに歩いていた俺達の前に現れた街道を通り、シンドリア王都を目指して進んでいた。


「ん? あれは……。 エリア、草むらに隠れよう!」

「え? え?」


 まだ少し遠いが土煙を上げながら近づいて来る一団に気付く事が出来たのは行幸だったが、こんな砂漠が近い上に何も無い場所を、大勢で移動する奴等なんて用心するに越した事は無い。


 背の高い草むらに身を隠した俺達の前を馬に乗った集団が姿を現した。


「共也さん……」


 不安そうに俺を見つめるエリアの頭に手を置き、大丈夫だと口を動かす。


 来た。


―――ドドドドドドド! ドッドッド……。


 土煙を上げて現れた連中のリーダーらしき人物は、白髪が混ざった髪をオールバックにした強面の初老の男だった。


 その男に付き従うのは7~8人ほどの如何にも山賊風の恰好をした集団が、俺達が隠れている草むらの前で馬の足を止めて何かを相談し始めた。 


 さっさと行ってくれ……、まさかあの距離でこちらを認識していたのか?


 不安そうなエリアの手を握り、偶々ここに止まっただけだと自分自身に言い聞かせた。


「ここに隠れた奴、大人しく出てこい! 出て来ないならここら一帯を焼き払うぞ!」


 だが、駄目だった。 何処に隠れたのかは分かっていないみたいだが、どうやら俺達が居る事は認識しているようだがエリアを危険に晒さない為にも素直に出て行く訳が無い。


 そのまま無言で草むらに隠れていると、男が再び喋り始めた。


「出て来ないか……。 後5秒待ってやる、それまでに出て来ないなら覚悟するんだな!! 4…、3…、2…、1…、」


 俺はエリアに顔を出すなと目で合図すると、草むらから立ち上がった。


「隠れたのは俺だ、不審な行動を取ったのは謝るがお前らは何者だ?」

「ハハハ! こんな所にいるなんて山賊しかいないだろ? それとお前1人じゃない事は遠くからでも見えたんだ。 おい、そいつの後ろに隠れてる奴もさっさと出てこい! そこに矢を打ち込むぞ!」


 仕方なくエリアも姿を晒すと、彼女の姿を目にした盗賊達は感嘆の口笛を鳴らす。


「ひゅ~、こいつは上玉じゃねえか、下平の旦那に良い手土産が出来たな」

「は? お前等は下平の事を知ってるのか!?」

「あ、やべ……。 まぁ良いか、知ってるも何も俺らの雇い主だ。 下平の旦那に人身売買は儲かるって言われてやってみたんだが、本当にボロイ商売だったぜ!」

「そうそう、人が商品だからそこら辺にいる奴らを攫えば金に化けるんだからな! ガハハ!」


 盗賊達の頭目らしき人物が語った「人身売買」と言う言葉に、エリアは目を吊り上げて問い掛けた。


「あなた達は、人身売買をした者は余程の理由が無ければ、極刑だと分かっててやっているのですか?」

「そんな事は知ってるさ。 でもな、いくら罪を犯そうが捕まらなければ法律なんて無意味なんだよ!」

「あなた達はそれでもシンドリア国民の1人なのですか! 恥を知りなさい!」

「恥……ねぇ。 そうは言うがな、気の強い嬢ちゃん。 俺達も最初は幸せな家庭を持つ一般人だったんだぜ? だがな、魔族との戦争に巻き込まれて俺達以外、全員死んじまった……」

「それは……」

「そんな生きる目標を失った俺達が、人身売買で得た金で女や酒を買って心の隙間を埋めて何が悪いんだ? アッハッハ!」


 何処か投げ槍な笑いをする頭目の言う事が本当なら、確かに同情する部分もあるだろう。 だけど、それを理由に人身売買をして良い訳が無い。 


「さて、何故俺達が人身売買をする様になったのかは話した。 兄ちゃん、死にたくなければその女を置いて行け。 それとも、持ち金全てを差し出して命乞いでもするか? まあ……、どっちにしても男のお前は殺すんだがな!」


 そう言うと男は馬に乗ったまま、俺を切り殺そうと襲い掛かって来た。


「ディーネ……、頼む」

(は~い)


 念話で返事をしたディーネは柄の部分から触手を伸ばすと、頭目が振り下ろして来た剣を叩き切った。


「なっ! 俺の剣が! おい野郎共、こいつを取り囲んで弓矢で射殺せ! 女の方は生け捕りにするから傷付けるんじゃねえぞ!」

「おう!!」


 盗賊達は馬を円を描く様に走らせて俺とエリアの逃げ場を塞ぐと、馬上から弓を構えた。


「やっとの思いで砂漠を抜けたら今度は人身売買を生業とする盗賊か……。 エリア、背中は任せたぞ!」

「はい! 任されました!」


 盗賊達が弓矢で俺を射殺そうとした瞬間、1本の槍が俺達と盗賊の間に投げ入れられ地面に突き刺さった。


「お前達、そこを動くな! 我々はカバレイル辺境伯の兵隊だ、動いた者は反意有りと判断して容赦なく切り捨てるぞ!」


 カバレイル辺境伯の兵達は、俺達を囲んでいた盗賊達を僅かな時間でさらに取り囲んでしまい、各々に槍を突き付けた。


「うぅぅぅ、クソ、クソ!! 下手な欲を出してこいつ等を捉えようとさなければ、こうして追い付かれる事も無かったのに!!」

「残念だったな、お前達には後でたっぷりと首に縄をくれてやるよ!」


 盗賊の頭目はディーネに切られた剣を叩きつけると、大人しく両手を上げて投降するのだった。


「君達危なかったな。 我々が丁度近くに来ていたから助ける事が出来たが、女性も一緒にいたのならあまり無茶をしない事だ」

「兵隊さん助かりました、それとあいつ等どうやら人身売買をやってる集団みたいなので、しっかりと情報を搾り取る事をお勧めします」

「何だと!? 君、それは本当の事なのか!?」

「えぇ、俺達を前にしてる時に、頭目らしき男がペラペラと喋っていましたし」


 俺の告げ口を聞いた頭目は、目を剥いて怒鳴り散らし始める。


「てめえ、余計な事を言いやがって! あとで必ずぶっ殺してやる!!」

「・・・・・・」


 いい加減に頭目の暴言にも飽きて来た俺は、拘束されて満足に動く事が出来ない奴に近づくと、髪を上に引っ張り顔を強引に上げさせた。


「なあ、あんたがカバレイル領に連れて行かれる前に聞きたい事があるんだが、良いか?」

「な、何を聞きたいって言うんだよ!」

「さっきあんたは『下平に良い手土産が』って言ってたよな? それってこれからそいつと会う予定だったって事だよな?」

「そ、それは……」


 盗賊の頭目は言いたく無い理由でもあるのか、目が泳いでいる。

 だが、こればかりは必ず確認しないといけない事だ、本当に下平の奴がこの件に関わっているなら、下手をすると幼馴染の誰かが、危険な目に合う可能性があるからだ。


「兵隊さん、悪いけどこいつらが合流しようとしていた人物を確認しておきたいんだけど……、協力してくれないかな?」

「う~ん。 お前達に協力してやりたい気持ちはあるんだが、我々はある人物を捜索する事を優先していてな……。 最神共也とエリア王女なんだが……、知らないか?」


 俺とエリアは、兵士達から名前が出て来た事に驚いてお互いの顔を見合わせた。


「それ、俺とこの女性の名ですよ?」

「なに!? 身分を確認出来る物は持ってるか?」

「はい、ギルドカードで良いですよね?」


 提示したギルドカードを確認すると、兵隊さん歓喜すると同時に跪いた。


「エリア様、知らぬ事とはいえ今まで失礼いたしました。 何卒ご容赦を……」

「あ、頭を上げてください」

「ですが……」

「むしろ私達が盗賊達から助けられたのですから、そこまで畏まらないで下さい。 恩人に跪かせたままだと、何か落ち着かないのです……」

「ふふ、分かりました」


 跪いていた多くの兵士達は、すぐに立ち上がった。


「それで、こんなお願いをするのも恐縮ですが「下平」と言う人物が私達の知る人物かどうかどうしても確かめたいので、協力してもらえないでしょうか?」

「う~~ん、……分かりました。 盗賊達の護送があるので多くの人員を割く事は出来ませんが、私を含めた数人になら構わないでしょう」

「ありがとうございます!」

「それでは我々が、現地まで同行させていただきます」

「助かります。 では頭目さん、下平と名乗る人物との合流地点を教えて下さいますか?」

「言う! 何でも喋るから! い、命だけは助けてくれる様に減刑してくれ! あんたがこの国の姫だと言うなら出来るだろ? この通りだ!!」


 頭目はエリアがこの国の姫だと聞いて頭を地面にこすり付けて命乞いをし始めたが、彼女の答えは素っ気ない物だった。


「減刑するかどうかは後にしますので、早く合流地点を教えてもらえませんか?」

「み……、右手にある森の中に有る、空き家で合流する事になってたんだ……」

「そんな近場で……。 嘘だった場合はどうなるか分かってますよね?」

「嘘じゃねえ! 他にも変な女もいたから行けば分かるはずだ!」

「女……ですか、どのような風貌だったか覚えていますか?」

「いや、フードを深く被ってたから顔は分からなかった……。 だが、体のラインで女だとわかったんだ、……あ、あとフードの隙間から垂れていたのは金髪だった事は覚えている……」

「金髪……ですか。 シンドリア王国には大勢いるので大した情報ではありませんね……」


 下平と名乗る人物と合流する予定の場所を頭目から聞き出した俺達は、盗賊達がカバレイル辺境伯領に連行されて行くのを見届けた。

 そして、森の中を調べに行こうとする俺達に対して、4名の兵士達が同行してくれる事となった。


「犯罪組織が関わっている以上、どんな罠が仕掛けられてるのか分かりません。 ここからは足元にある草などにも注意して進みましょう!」

「分かった」


==


【???】


 ん? 脳内マップに複数の反応が急に現れたが、これは手下共……じゃ無いな……。 数が少ねぇ……。


「どうしたの下柳。 苦虫を嚙み潰した様な顔して」

「姉さん、どうやらこの場所の事がばれたらしい。 手下達じゃない奴等が、このボロボロの家屋に一直線に向かって来てやがる……」

「………はぁ、面倒臭いわね……。 下平、あんたがあんな役にも立たない下民を手下になんかするから、こんな事になって理解してる!?」

「うるせえな、何時か尻尾切りに使おうと思って手下にしてた奴らが、まさかここまで使え無いとは思いもよらなかったんだからしょうがないじゃねえか!」

「んまぁ!? あなたが悪いのに何て言い草よ!」

「うっせえよ、ブ~~~ス! ゲハハハハ、あっ!?」


 言ってはいけない言葉を口にしてしまったと理解した下柳は、慌てて口を塞いだがもう遅い。


「へぇ~~。 下平、あんたは私の事をそう見てたんだ~~?」

「い、いや。 あのな姉さん、さっきのは言い過ぎ……た? ま、待て待て待て! 俺が悪かったから、その武器をこんな所で取り出すな!」

「・・・・・・」

「頼むから何か言ってくれ~~~!」


 その後、ボロボロの小屋からは、暫く何かを殴打する音が辺りに響き渡るのだった。


「時間が無いみたいだし今日はここまでにしておいてやる! 下柳、ここに来てる奴らの距離は!? さっさと答えろ!」


 眼の前にいる女に顔面をパンパンにされてしまった下柳は床に倒れ伏している上に、背中を踏まれて身動きも封じられてしまった為、彼はもう反論する意思も無くなっていた。


「あ、後400Mくらい……れふ……」

「近いわね……。 もうこの赤の転移石を使って逃げるしか無い様ね。 こんな所で見つかる訳にはいかないから背に腹は代えられないか……。 下平、手下共が来ないならこんなあばら家に用は無いでしょ。 拠点まで飛ぶわよ!」

「ま、まっへくれ!?」


 =◇===


 心身売買組織のトップが、俺の知っている『下平』なら小心者のあいつの事だ森の中にやたら目ったら罠を仕掛けていると予想して注意深く進んでいたのだが……。


「何も起きませんね……」

「あぁ……。 小心者のあいつの事だから、絶対罠などを仕掛けてると思ったんだがな……。 もしかして、下平と言う名は奴の事じゃないのか?」


 予想に反して罠など1つも無くすんなりと進む俺達の前に、ボロボロの一軒の家が現れた。 


「みなさん、音を立てないように近づいて行きましょう」

「はい……」


 小屋の横にある樹木には、馬が1頭繋がれているので、人数は分からないが中に誰かがいるのは確かだろう。 


 あと少しで突入出来そうな距離に俺達が来た途端、突如小屋の中から青白い光が照射され辺りを明るく照らした。


「眩しい! 青白い光……ま、まさか!?」

「あ、エリア様、共也君!?」


 兵士さんに止められたがそれ所じゃ無い。

 俺達は急いで小屋の扉を蹴破り中に突入したが、どうやら遅かった様ですでにそこには誰も居なかった。


「クソ! 逃げられた!!」

「余程慌てていたようですが、まさか貴重な転移石を使ってまでこの場から逃亡するだなんて……」


 そう、先程の青白い光は転移の魔石を使用した光りだった。 誰かが先程までここにいた証拠として、何時壊れるかも分からないボロボロのテーブルの上には、この場に不釣り合いな白塗りの豪華なティーカップに注がれた紅茶がまだ湯気を立てていた。


「エリア王女様、この小屋をくまなく調べてみましたが人身売買に繋がるような証拠の品は、これと言って見つかりませんでした」

「そうですか……。 ですが頭目の語ったこの場所に、先程まで誰かが居た。 これは「下平」と言う人物を中心とした、大掛かりな人身売買組織が確かに存在していると言う証拠でもあります。 しかも、貴重な転移の魔石を、逃走に使える程資金も潤沢になりつつある……」


 エリアは一度部屋を隅々まで確認すると、テーブルの上に置かれた豪華なティーカップを、眉間にしわを寄せながらジッと見つめていた。


「エリア?」

「あ、ごめんなさい。 主犯格に逃げられてしまった以上、私達がここに居てもしょうがないですし、共也さん、早く王都に向かい生存報告をいたしましょう!」

「そうだな、丁度ここにいた奴等が丁度良いものを置いて行ってくれた事だしな」

「置いて行った……ですか? 中には何もありませんけど……」

「中にはな? 外に繋がれてる馬がいるじゃないか」

「あ、確かに馬がいましたね」

「下平を名乗る人物も、この場所は不味いと思ったから転移したんだろうし、もう戻って来ないだろう。 だから、俺達があの馬を頂いても問題無いって事だ!」

「ふふ、馬を有効活用するその考えは素晴らしいと思うのですが……」

「何だよエリア、ニヤニヤと俺の顔を覗き込んだりして……」


 何が楽しいのか、エリアは腰を曲げた状態で近づいて来ると、俺の顔を見上げながら意地悪くニヤニヤと笑っている……。


「だって~~。 共也さんは馬に乗れるんですか?」


 その言葉を聞いて、俺はハッとした……。


「あっ……」


 自分が馬に乗れない事に思い至ると、一気に顔の温度が上がるのが分かった……。 


 恥ずかしい……。


「ふっふっふ。 しょうがない、共也さんですね!」

「エリア?」


 そう言うとエリアは外に繋がれていた馬に手を添えると、ヒラリと言う言葉がピッタリな程躊躇い無く華麗に馬の背に乗り込んだ。

 そのまま俺の前に馬を横づけると、手を差し出して来た。


「さあ共也さん、馬に操縦は私がします。 だ・か・ら・共也さんは、私の後ろから()()()()()捕まってて下さいね!」


 エリアの圧に負けて彼女の手を取ろうとすると、護衛として付いて来てくれていた兵士の1人がある提案を持ちかけて来た。


「あの、何でしたら私達の連れて来ている馬に乗ってもらって、辺境伯領に向かうという手もあるかと思うので『大丈夫です。 共也さんは私が辺境伯領まで乗せて行きますので!』……えっと、エリア様にご負担を『大丈夫です!』……え、いや『大丈夫です!』あ……はぃ……、出過ぎた真似をしてしまい申し訳ないです……」

「いえいえ、私を思っての発言なのですから、出過ぎた真似だなんてこれっぽっっっっっちも思っていませんから気にしないで下さいね?」

「はい……」


 自分を思っての発言に感謝するエリアだが、その言葉とは裏腹に彼女の表情は真顔だ……。


 エリア、言動と顔の表情が合ってないよ……。 ごめんなさい兵士さん……。


「さあ共也さん、行きましょう!」

「はぁ……。 分かったよ」


 俺はエリアの手を掴むと、今度こそ騎乗するとエリアの腰に手を回して体を固定した。


「♪♪~~~♪」


 すると先程まで真顔で兵士さんを威圧していたとは思えない程、エリアは上機嫌になって鼻歌まで歌い始める始末だった。


 上機嫌となったエリアの顔を見て、俺の頭の中にはあの言葉が思い浮かぶ『効果は絶大だ!』


 ==


 あれから何事も無くもう少しで街道に戻れるかと言う所で、1人の兵士がこちらにある提案を持ちかけて来た。


「エリア様、今頃カバレイル辺境伯様にはあなた達の発見が伝わっているはずなので、急いでいる所申し訳無いのですが一旦そちらにお寄り下さい。 今、王都で出回っている不思議な情報も、辺境伯様なら把握なさっておいでのはずです」

「不思議な情報……ですか?」

「はい。 ですが一般兵である私には詳しい内容は聞かされていないので、そこからは辺境伯様からお聴き下さい」


 どうします? と視線を向けて来るエリアに、俺は即頷いた。


 王都で何かが起きているのに、このまま何も聞かず王都を目指すのは流石に自殺行為だ……。 ダリアの件もある以上、ここは慎重になるべき所だ。


「そうですね。 馬も手に入った事で時間には少し余裕が出来ましたから、辺境伯の所に寄らせていただきます。 そう辺境伯様にはお伝えして頂いてよろしいですか?」

「は、はい! 辺境伯様もお喜びになられるかと!」


 そう言うと、護衛で残ってくれていた2人が、街道沿いに繋ぎとめている自身の馬を取りに全速力で走って行った。


「残ったあなた方には、辺境伯様の屋敷までの案内を頼んでよろしいですか?」

「勿論構いません! では我々も馬を取りに行ってまいりますので、少々お待ちいただいてよろしいでしょうか?」

「いえ、私達もこのまま一緒に付いて行った方が、2度手間にならくて良いでしょう」

「了解いたしました!」


 森を抜けた先に繋げてあった馬に乗り込んだ兵士達と共に、俺達はシンドリア王都を目指す予定を変更して、かの地で起きている不思議な話を聞く為にカバレイル辺境伯様が住む屋敷を目指して馬を走らせるのだった。


 そして、兵士達に先導されしばらく馬を走らせていると王都程では無いが活気のある街並みに彩られた都市が見えて来た。


 そして都市をぐるりと囲む城壁の入り口には、茶髪の頭を下げて俺達を出迎えてくれている人物がいた。


 どうやら彼がここの領主【ドニクレシ=カバレイル辺境伯】様なのだろう。


 俺とエリアが馬から降りてその人物の前まで移動したのだが、いきなり凄い勢いで顔を上げて来たので驚いていると、辺境伯は盛大に泣いていた……。 彼の茶色の瞳からは、信じられ無い量の涙が溢れ出していたのだ。


 辺境伯は勢いそのままエリアの手を両手で取ると、額に手を当てて俺達の生還を喜んでいた。


「エリア様……。 よくぞ、よくぞご無事で……。 このドニクレシ=カバレイル、あなた様のご帰還とても嬉しゅうございます……」


「ドニクレシ辺境伯……心配をかけましたね。 この通り私は無事に生きてますので安心してください」

「はい! 聞きたい話も沢山あるでしょうが、今はお休み下さい。 そして、夜にでも場を設けさせていただきますので、今王都で何が起きているのかを報告させていただきます」

「わかりました、ドニクレシ辺境伯あなたの忠誠心に感謝を……」


 辺境伯に頭を下げて感謝をエリアが示すと、彼は慌てて頭を下げる行為を止めさせた。


「エリア様、頭を上げてください! 私は臣下として当たり前の事をしているのですから!! 取り合えず我が屋敷にてお風呂をご用意させて頂きましたので、ユックリと旅の疲れを癒して下さい」

「ありがとうございます、辺境伯」

「ではエリア様、我々に付いて来て下さい。 屋敷迄ご案内させて頂きます」


 そして、辺境伯様の案内の元、城門を潜った俺達は遠くに見える城……では無く辺境伯様の家族の住む豪邸に到着した。


 そして馬から降りた俺達は、数十人のメイドさんに取り囲まれた……。


「メイド達よ、エリア様を沐浴場にご案内してさし上げろ!」

『「「「はい!」」」』


 ドニクレシ辺境伯が手を叩くと沢山の侍女さんが、エリアを屋敷の中にあると思われる沐浴場へと連れ去って……案内して行った。


「ちょ、ちょっと! 一人で歩けますからぁ!! 共也さ~~ん!!」


 残された俺は、カバレイル辺境伯と少し会話をする事となった。


「エリア様と一緒に居たという事は、君が最神 共也君で合っているのかな?」

「はい、私が共也です、ドニクレシ辺境伯様」

「そうか、共也君、良くぞエリア王女様を守り抜いてくれた……。 もし、あの方が亡くなられていた場合、人類側の結束は瓦解してしまい魔族との戦争は敗北する事が決定してしまっていただろう……」

「今、王都にいるクレアちゃんや、ダリアでは変わりは務まらないのですか?」

「……無理だな。 クレア様の場合、10年後ならエリア様の代わりも立派に勤める事が可能であろうが、まだ今の彼女では経験が足りぬ……」

「えっと……。 ダリアだと?」

「論外だな……。 あいつは自分が楽しめる事以外は全く持って興味を持たぬが、力だけは持っている最悪の王族だよ……」


 自身が仕える者の家族をそこまでこき下ろすなんて、ダリアの奴一体何を仕出かしたんだ?


「そこまで言い切るって、ダリアに関して余程の事がこの1か月と少しの間で何かが起きたんですね……」

「ああ……。 本当なら聞かせる内容では無いのだが、君達にも関係ある話だから聞いておいた方がよいだろう。 それに、其方たちが辿って来た旅の話しも聞きたいし、嫁と子も一緒にどんな冒険をして来たのか聞いても構わないよな? なっ!?」


 目をキラキラさせて詰め寄って来る辺境伯を見て察する。


 あぁ、この人はダリアを口実にして晩餐に誘っているが、ただ単に俺達が辿って来た旅の話しを聞きたいのだと。


 俺は内心で、ちょっとクスリと笑ってしまった。


「俺は構わないですよ?」

「いよぉし!」

「碌な事が無い1か月と少しの旅でしたけど、とても大切な時間にもなりましたし。 俺が話しても大丈夫か、後でエリアと相談した上で夕食の時にお話ししますね」


「ハハハ! その時を楽しみに待つとするか!」

「あまり楽しい話しでは、無いかもしれませんけどね?」


 こうして俺達は砂漠を超える事に成功したが、1日だけ体を休めるためにドニクレシ辺境伯の住む屋敷に御厄介になる事が決まるのだった。 




結局下平を名乗る人物の確認は出来ませんでした、そして重要人物ドニクレシ辺境伯と顔合わせでした。

次回は王都の内情を書いて行こうと思います。

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