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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
2章・新たな出会い。
47/286

砂漠踏破そしてエリアの決意。

「さあ皆、王都へ帰るわよ!」


 港町アーサリーを朝日が照らし始める中、私達はオリビアさんの馬車に乗り込むと昨日からお世話になっていたサーシャさんとダランさんに別れを告げるのだった。


「皆、またこの港町に来る時は必ず俺の宿を利用してくれよ!?」

「はい、勿論です! ダランさん1日だけでしたがお世話になりました。 またこの街に来た時は、必ずこの宿に泊まらせてもらいます!」

「待ってるからな!」


 別れを済ませた事で、馬車を引く馬達が嘶きを発する。


「それじゃダラン、サーシャ、必ずまた来るわ、それまで元気でね」

「お前こそ、道中気を付けてな!」


 遠のいていくダランさんとサーシャさんに、私達は見えなくなるまで手を振り続けた。


「良い宿屋だったね。 菊流」

「与一……。 うん、必ずまた来ようね……今度は魅影ちゃん達と一緒に……」

「そうね……」


 次は幼馴染が誰一人欠ける事無く、この世界を旅行出来る事を祈る与一だった。


「与一?」


 急に頭に手を乗せる与一に困惑するが、菊流は彼女の悲しそうな目を見て昨日の夜の事を思い出しているのだと理解した。 


「何でも無い、何でも無いのよ……」

「・・・・・・・」


 甘んじて頭を撫でられる行為を受け入れていると、あっという間に港町の門を通過した私達が乗る馬車は、シンドリア王都に向けて街道を進む。

  

「さあ、シンドリア王都に帰るわよ!」


 こうして私達は護衛依頼の目的地であった港町アーサリーを後にしたのだが、夜に与一と心置きなく語り合ったおかげで共也がいない今の状況でも、もう少し、もう少しだけ頑張って生きようと思える位には持ち直す事の出来る旅となってくれた。


 魅影、柚葉、愛璃……。 帰ったら、私を心配してくれた事にお礼を言わないとだね……。


 そんな事を想いながらも、馬車はシンドリア王都を目指して進む。 


 でも、その時皆に何て言おう……。


 =◇====


【クラニス砂漠】


 場面はクラニス砂漠に戻る。


 今日も今日とて夜の砂漠を旅する俺達だったが、ここ数日はこれと言って変わった事は無く順調にシンドリア機関の旅を続けていた。


 いや、ちょっとした変化がエリアに起きていた。 彼女が髪を後ろで纏めて緩く三つ編みにして髪型を変えたのだ。


「共也さんって、私がこの髪型にしてからちょくちょく眺めてますよね?」

「悪い、気に障ったなら謝る」

「謝る必要は無いんですが、何か想う所があるんですか?」

「・・・・俺の母さんがその髪型だったから、少し思い出してさ……」

「共也さんの……。 何でしたら、元の髪型に戻しましょうか?」

「いや、大丈夫だよ。 ただ懐かしかったから眺めていただけだから……」

「分かりました……。 でも、この髪型を見るのが辛いなら、何時でも言って下さいね?」

「その時はちゃんと言うよ。 わざわざありがとなエリア。 後、あまり強く抱き着くのは止めてくれるか? バランスが崩れる……」

「え~~。 でも共也さん、こうして強く抱き締めたら私の胸の感触を背中でハッキリ感じる事が出来て、嬉しいんでしょ?」

「な、何を言ってるんだ!?」

「えへへ。 そうやって予想外の事を言われるとどもる共也さんって、可愛いい♪」

「エリア!」


 大量の血液を俺に飲ませた影響で未だに歩く事が困難なエリアを背負って歩いていたのだが、たまにこの様におちょくって来る彼女を怒りながら、俺達は夜の砂漠を旅を続けていた。


 そして、今日も地平線から太陽が顔を覗かせ始めた所で、俺達の前に砂漠には珍しく岩で出来た大きな崖が現れた。


「あの崖が良い日陰になりそうだから、今日はあそこで休もう」

「そうですね、地平線も大分明るくなって来てますしそうしましょう」


 エリアも合意してくれたので、大きく裂けている崖下に移動した俺達はここで夜になるまで休む事にするべく、遅めの夜食の準備に取り掛かった。 

 鍋を取り出した俺は、剣の中で休むディーネに声を掛けた。


「ディーネ、この鍋に水を入れて貰って良いか?」

(は~い。 これくらい?)

「あぁ、ありがとう」

(いいえ~~)


 水が半分くらいまで貯まった鍋を火にかけて沸騰するまで待っていると、ふとディーネが興味深そうに鍋を眺めて居るのが何となく分かった。


 共生魔法で契約した影響か?


「ディーネ、興味があるなら晩飯が完成したら一緒に食べるか?」

(うん、少しちょうだ~い?)


 相変わらずディーネの間延びのする返事に、クスっとしてしまう。


「エリア、煮込んで鍋にしようと思うから野菜と肉を収納袋から出してもらって良いか?」

「……共也さん、ピーマンは入れないで下さいね……」

「普通、鍋にピーマンは入れないだろ……」

「なら大丈夫です!」


(ピーマンの苦みも味の1つとして考えると、美味しいんだけどなぁ……。 嫌いな人って結構多いよな……)


 暫くすると、火に掛けていた鍋の水が沸騰し始めたので、下味として塩を投入する。

 その後、切った野菜や肉も投入して煮込んだだけだったのだが、それはそれで色々な味が素材から染み出して混ざり合った事で美味しく仕上がっていた。


「ディーネ、出来たけどお椀に入れておけば良いか?」

(うん。 ありがと~)

「熱いから気を付けてな」

「共也さん、私も頂きますね?」

「エリアも熱いから気を付けてな」


 2人が食べ始めたのを確認した俺も椀に鍋の具材を入れて一口食べると、何処かホッとする味に溜息を付くのだったの。  

 それはエリアも同じだった様で、手に持つ空っぽの椀をジッと見つめていた。


「色んな食材の味が染み出していて、とても美味しいです」

「そうか? 夜の砂漠は冷えるから鍋にしたけど、エリアがそんなに喜んでくれるなら作ったかいがあったな!」

「本当に美味しかったんですからね? ねぇ、ディーネちゃん?」

「美味しかった。 もう一杯!」

「あ、じゃあ、私も欲しいです!」

「はいはい」


 感嘆に作ったはずだったのに、結構美味しかった……。


 何だかんだで鍋の中身を全て食べ切って満腹になった俺達は、夜になるまで横になる事にした。


 が……。


「…………エリア、ちょ~~っと散歩して来るから先に寝ててくれ」

「トイレなら遠慮なく言えば良いじゃないですか。 今更私達に隠し事なんて存在しないんですから!」

「言い方ぁ!!」

(共也、エリアと何時もイチャイチャしてる)

「そりゃ、歩けないエリアを背負って移動してるからね!? ああもう、トイレに行って来る!」

「行ってらっしゃ~~い!」

(いてら~~)


 そう、尿意を解消する為に俺は崖の奥に進み発見してしまった。


「こんな所に洞窟? しかも、中は明るい……まさかこの洞窟はダンジョンなのか!?」


 尿意も忘れて入り口で呆然と立ち尽くしていた俺だが、一度戻ってエリアに相談してみる事にした。


 戻る途中で小用を済ませた俺はエリアとディーネが一緒に横になっている場所に戻ると、肩を揺すって叩き起こした。


「うぅ~~ん……。 共也さん、トイレはもう良いんですかぁ?」

「そのネタはもう良いから! 実は、さっき崖の奥で……」


 先程崖の奥で洞窟を発見した事、そして中が明るい為ダンジョンの可能性がある事を説明すると、彼女は中に入るかどうか相当悩んでいた様だが、本当にダンジョンなら放置は出来ないと言う結論に至り、俺はエリアを背負って洞窟がある崖下に移動した。  


 そして、エリアは入り口から中の様子を伺い感嘆の声を上げた。


「こ、これは凄い……」

「そんなになのか? 俺にはダンジョンとの差が分からないが……」

「共也さん、まさに今あなたが言った事に、私が驚いている事なんですよ!」

「すまん……。 地球から来た俺に分かる様に説明してくれると助かる……」

「えっとですね。 まず、今の私達が持っている技術では、ダンジョンの壁を再現する事は不可能だと言われているんです。 ですからシンドリア城も蝋燭の火で辺りを照らしているでしょう?」

「不可能って……。 え? はっ? じゃあ、ここは一体……?」

「私が何故驚いているのか、共也さんも理解してくれたようですね。 そう、ここは今の我々には不可能だと言われた技術で作られた、()()()()()なんですよ!」


 ここは、この世界の住人であるエリアすら知らない程昔に、ロストテクノロジーの技術で作られた遺跡って事か?


「でも、私もこの世界の長い歴史などを習って来ましたが、クラニス砂漠にこんな遺跡があるだなんて聞いた事すら無いですが……」

「遺跡か……。 で、エリアどうする?」

「どうする……とは?」


 何でこんな所に遺跡があるのかはさておき、今は洞窟の奥に進むかどうかだ。


「エリア、ここが今の人類では作る事が不可能だと言われた、技術で作られた遺跡だと言う事は分かったが、このまま見て見ぬふりをする訳じゃ無いんだろ?」

「確かにこんな不思議な遺跡を放置して、旅を続ける事なんて出来る訳がありませんね。 でも、ここに突入するのを躊躇する理由として、ここに魔物が住み着いている可能性がある事なんですよね……」


 そこに、剣から出したディーネの触手が、水魔法の振動を発動させて遺跡の中を広範囲に敵対反応が無いか調べ始めた。


(う~~ん。 私の~感知範囲の中に魔物の気配~は、無いみだいだよ?)

「ディーネちゃんの探知魔法を信じて、中に入ってみます?」

「そうだな。 入るか」

「(お~~!)」


 ディーネが感知範囲内に魔物が居ないと言うなら、恐らくこの遺跡内は安全だろう。


 俺はエリアを背負い直すと、遺跡らしき洞窟の中に突入したのだが……。


「やっぱり中はダンジョンと同じ様に、明るく光る壁で出来ているらしいな」

「……正直に言うと、この壁の欠片1つでさえ、今の人類に取ってどれだけの価値があるのか計り知れません……。 恐らくこの遺跡は文献にも載ってないほど、大昔に建てられた建築物なのでしょう……」

「この世界の人達さえ知らない程昔に建てられ、そして歴史から抹消された遺跡……か」 

「浪漫を感じますけど、こうも誰も居ない広々とした遺跡だとちょっと怖いですね……」


 実際、俺が歩く音だけが遺跡の中に響き渡っているから、不安を感じるのもしょうがない気がする。


「警戒だけは解かない様にしよう」

「はい」

(ディーネも、異常があれば、報告する~~)


 その後も警戒しながら遺跡の中を進んで行くが、やはり魔物どころか小さな虫の姿すら一切見当たら無い。


「ここは居住区……か?」


 そして、奥へ進んで行く内に何か所かで、人が暮らしていた痕跡のある部屋を見つける事が出来た。


 だが、部屋に残されていたベッドらしき物に、俺の指がほんの少し触っただけで音も無く崩れ落ちてしまった。


「「(・・・・・・・)」」


 気を取り直して辺りを見渡すと、部屋の隅に本棚に収められた本が目に留まった。 だが、やはりどの本もほんの少し触っただけで音も無く崩れ落ちて灰となった。


「十年、百年経った程度じゃ、こんな状態になる訳がない……。 一体何年経過したらこんな状態になるのか想像だに出来ない……。 エリア……」

「はい……」

「この遺跡ってもしかして人類にとって歴史的価値だけを見ても、かなり重要な意味を持つ遺跡なんじゃないか?」

「えぇ、私もそう思います……。 このダンジョンと同様に光る壁もそうですが、こんな大規模な遺跡をただ作っただけとはとても思えません。

 奥に必ず何か重要な施設、または品物があったんだと思います」

「行ってみるか?」

「共也さん、行ってみましょう!」 

(冒険、冒険♪)


 ディーネの探知魔法のお陰で、敵対する生物が周囲にいないと分かっていても念の為警戒を解かずに奥へと歩を進める俺達。

 そして、誰もいない遺跡の通路を暫く進んでいると、豪華な装飾の施された扉の前に辿り着いた。


「ここが目的地みたいだな……。 エリア、ディーネ、開けるぞ?」

「はい、もし攻撃が来ても、その時は防御は私にお任せ下さい」

(もし、誰かが居たら、水で、攻撃するぞ!)


 意を決して豪華な扉を押すと、どうやらこの豪華な扉は錆びていないらしく重厚な音をさせながらユックリと開き始めた。


―――ゴゴゴゴゴゴゴ……。 ゴオン……。


 扉の奥に広がる部屋はとても広く、途中にあった部屋とは違い天井もとても高く建築されている。 そして、奥に目線を移すと石作りの祭壇の上に1つの台座が置いてあり、そこには真っ白い卵が1個安置されていた。


「まさかこの巨大な部屋はこの卵の為に……?」

「いえ、この遺跡の作り方から想像すると、もしかしたらこの遺跡は避難所だったのかもしれませんね」

「避難所か。 確かにそれなら途中の部屋にベッドや本があった事にも説明が付くな」

「でも、どうして誰もいない場所に避難所があるのか、そして、何故ここに卵が1個だけあるのか、色々と謎が多いですが、一番の問題は……」

「ああ、この卵……さっきから微かに動いてるよな……?」

「ええ……。 ここから人がいなくなってどのくらいの時が経ってるのか分かりませんが、動いていると言う事は中身が無事って事ですよね……」

(動いてる~ね)


 暫く眺めていると徐々に動きが止まって行き、また台座に鎮座するただの卵に戻ってしまった。


「共也さん、どうします?」

「一応持って行こう。 卵なんだから、いざとなったら食料にすれば良いしな」


 その瞬間、卵が大きく跳ねた。


 ビク!!


「・・・・・共也さん、この卵『食料にすれば』って言葉に反応しませんでした?」

「俺にもそう見えたが……、今は動かないよな……」

(動かない……)


 しばらく3人で眺め続けたが、結局鎮座している卵はそれ以降動く事は無かった。


 結局その卵を持って行く事にした俺達だったが、やはりこの卵は生きている様でエリアの収納袋に入れる事が出来なかった。


「仕方ない……。 綿などで保護してポーチに入れておくか」


 卵をポーチに入れた所で改めてこの部屋の中を見渡したが、本当にこの1個の卵があっただけで今は何も無い広大な部屋があるだけだった。


「本当にこの卵以外は何も無い部屋だったんだな……。 エリア、入り口に戻るが良いか?」

「あ、少し待って下さい。 ディーネちゃんあの壁の一部を水魔法で壊す事って出来る?」

(どこでも~良いの?)

「うん、少し破壊出来るならどこでも良いよ」

(は~い。≪ウォータ~カッタ~≫)


 気の抜けたディーネの水魔法が発動すると、壁の一部が崩れ落ちた。


「ディーネちゃんありがと。 共也さんあの崩れた壁の破片を拾ってもらっても良いですか? 国に持ち帰って研究してもらおうと思ってるのです」

「ああ、なるほどここの施設のようにダンジョンの壁を再現出来るなら、ここの壁材を研究すれば現代でも再現出来るかもしれないって事か」

「そうです、これだけの量でも今の人類にとっては計り知れない価値がありますよ?」


 手渡した壁の破片を収納袋に収めたエリアは、満足そうに頷いていた。


 ==


 もうここには用が無いと見切りを付けた俺達が外に出ると、太陽はまだ真上を少し過ぎた所だった。


「結構長く遺跡の中にいた気がしたけど、意外と短い時間だったんだな。 2人共、今日はこの洞窟の入り口で夜を待たないか? 意外とここは涼しいからちゃんと休めそうだしな」

「そうですね、では今日はここで休みましょうか。 それに、ディーネちゃんの話しだと、もう少しで砂漠から脱出する事が出来そうなので、後少しでシンドリアに帰れそうですね」

(うん、あと少しで、海が……見えて来る~はずだよ?)


 俺達はその言葉を信じて遺跡の床に横になるとヒンヤリとした冷たさが体を進み込み、何時の間にか眠りに落ちていた。


 プル、プルプル……。

 

 遺跡で見つけた例の卵がポーチの中でまた微かに振動しながら微かに光っていた事を、眠りについていた俺達が知る由も無かった。



 =◇◇===



 俺が目を覚ますと、崖の割れ目から見える空には星が瞬き気温も大分下がって来ているらしく肌寒く感じていた。


 夜の砂漠を移動する前の食事を作っていると、エリアも目を覚ました。


「共也さん、おはようございます」

(おはよ~~)

「ああ、2人共おはよう。 もう少しで食事が完成するから、食器を用意しておいてくれ」

「はい」


 その後、完成した食事を取っている間にエリアに歩けそうか尋ねると首を横に振った。

 どうやら、立つ事は出来るようになったみたいだが、長時間歩く事はまだ無理なようで、俺は今日も彼女を背負って移動する事にした。


「あと少しで歩けそうなんですけどね……。 共也さん、迷惑を掛けてごめんなさい……」

「迷惑な訳ないじゃないか、こうやって人を背負って歩くのも良い鍛錬になってるから、気にならなくなったさ」

「もしかして、遠回しに私が重いって意味で言ってます!? 共也さん、ちょっとデリカシーが無さすぎませんか!?」


 背負われたエリアはポカポカと軽く俺の頭を叩いて来るが、全くいたく無いので気にならない。

 それが余計に彼女の怒りを増幅させたのか、腕を首に回して締めて来る……。


「参った、参ったから首を絞めるのは止めてくれ~!!」

「む~~~!!」

(またイチャ付いてる、たのしそ~う)


 そうして俺達3人は冗談を交えながら夜の砂漠を楽しく旅しながら、シンドリア王国を目指すのだった。


==


 それからまた4日ほど経ち、エリアは自分の足で長時間歩けるようになっていた。


 ずっとエリアを背負って旅してたから、背中がちょっと寂しく感じるが……。 2つの柔らかい存在を感じられなくなったからって訳じゃ無いからな?


 そんな旅とは関係の無い事を考える俺だったが、今俺達は強烈な太陽が照り付ける昼の砂漠を移動をしていた。


 何故かだって?


 それは、俺達の視線の先にある地平線に、太陽の光を反射する巨大な水溜まりが見え始めていたからだ。


「共也さん! あれって海ですよね!?」

「ああ……、そうみたいだな、長かったな……」

(う~み~!)


 ゆっくりと近づいて来る海に興奮しつつもしっかりと歩き続ける俺達は、太陽が真上に来た辺りで波の音が心地よく響く砂浜に立っていた。 


「あはは! 共也さん、海ですよ! 海! 水が冷たくてしょっぱいですよ!」

(砂漠踏破……、おめでと……う?)

「ありがと! ディーネちゃん!」


 スカートが海水に浸かってもお構いなしに、エリアは嬉しそうに海に入って行くと海水を掬い俺に向けてかけて来た。


「ぷわ、冷た! エリア、よくもやったな!」

「あはは、共也さん、こっちですよ!」


 砂漠を踏破した事が嬉しくてしばらく遊んでいた俺達だったが、俺は久しぶりに魚が食いたい衝動に駆られて、近くに有った岩場で釣り糸を垂らすのだった。 


 魚がなかなか掛からないので暫くボ~~っと、ディーネと一緒に砂浜で遊んでいるエリアの姿を眺めていたのだが、彼女も年相応の少女なんだなと再認識すると同時に可愛いなと思っている自分に気が付くのだった。


 ……俺は何時の間にか、出会ってまだそんなに経ってないエリアの事を? いや……でも……。

 

 未だに千世ちゃんの事を振り切る事が出来ない俺は頭を振り今は考えない様にすると、何匹か魚を採ると、彼女達の待つ砂浜に戻るのだった。


 新鮮な魚に塩を振って食べるのは、とても美味しゅうございました。


「エリア、ここからシンドリア王都は近いのか?」

「砂漠を抜けて、尚且つ海岸にいるとなると……。 恐らくこのまま海沿いに進んで行けば、大体1週間程でシンドリア王都に着くはずです」

「そうか、なら急いで帰ろう。 皆が心配だ」

「共也さん、前から聞こう、聞こうと思って機会が無かったので聞きぞびれていたのですが、何故そんなに急いで帰ろうとしてるのです?」


 俺は良い機会だと思い、エリアに砂漠に転移される前の事を正直に説明した。


 あの強制転移は、ダリアに魔道具を使われて起きた事。

 そして、何故高価な転移の魔道具を使ってまで俺を殺そうとしたのか、その理由も彼女に伝えた。


「そんな……。 どうしてダリア姉さんがそんな高価な魔道具を持っていたのかにも驚きですが、それ以上に何でそんな馬鹿な事を……」

「エリアと菊流の2人には黙ってたけど、合同訓練で与一とジェーンの3人で、薪になりそうな枝を拾いに行って遅くなった時があっただろ?」

「はい、湿った枝などが多くて森の奥まで行って来たって、まさか……」

「そうだ、その時ダリアが俺達に接触して来て言われたんだ、菊流をパーティーから除名して光輝のパーティーに入るように言え! とな」

「その提案は勿論断ったんですよね?」

「当たり前だ、その時一緒にいたジェーンちゃんと与一も聞いてたから俺の聞き間違いって事は無いぞ?」

「あいつ……」


 自分の姉がそんな馬鹿な行動を取った事に、エリアは眉を寄せて静かに怒っていた。


「ダリア姉さんからの提案を聞き入れなかったから、共也さんをクラニス砂漠に強制的に転移させたって事ですか……。

 私は転移される直前のダリア姉さんと共也さんの会話をずっと不思議に思ってたんです、罠にかかった人に対して、何であんな事を言うのか……と」


「まあ、あの場にいなかったエリアには訳の分からない会話だったよな……。 でも正直な話し、エリアが一緒に転移してくれなければ、俺は生きて砂漠を抜ける事が出来なかっただろうから有効な手段だったんだろうな……」

(でも、そのお陰で、共也と、会えた~~!)

「そう、ダリアの誤算は俺がディーネが転移先で出会い、そして契約した事で生きて砂漠を抜けた事だろうな。 それに俺は転移が発動する前にダリアと約束した。 必ずこの報いを受けさせると」


「今までは、心の何処かでまであの女を姉だと思っている自分がいましたが、その話を聞いて私も覚悟が決まりました。

 共也さん、無事に王城に戻ったら私にダリア姉さん。 いえ、ダリアの処遇を任せてくれませんか?」


 力の籠った眼差しで真っすぐ俺を見つめて来るエリアに、静かに頷く。


「エリアに任せるよ、ダリアに目に物を見せてやろうな」

「はい! そうと決まれば急いで王都に帰りましょう!」

(お~?)


 シンドリア王都に帰還した後の事をエリアに任せると約束した俺達は、海岸線を沿って西に歩き出したのだった。



やっと共也達が砂漠を抜けましたね。

次回は帰還まで書ければ書きたいですね。


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