成長の足掛かり。
私とオリビアさんは、気付いたら朝陽が昇り始めるまでお酒を飲み交わして親交を深めていた。
「ふぅ~……。 菊流ちゃん、お酒に弱いって自分で言ってたのに随分と飲めるじゃない」
「そう言えばそうですね、前は少し飲んだら気持ち悪くなってたんですけど……」
「う~~ん。 私の予想だけど、菊流ちゃんが持ってるスキルがアルコールの影響を抑えてるのかもしれないわね」
「そんな事があるんですか?」
「有るわよ。 例えば『解毒スキル』を持つ人はお酒に酔わないって言われてるわ。 それと似た効果が複合的に表れてるのかもね。 それとも……普通に菊流ちゃんが、お酒に強い体質になったのかね」
「えぇぇ~~。 お酒に酔えないって、人生で嫌な事があったら其方に逃げれ無いじゃないですか……」
「他にも、酔いつぶれたと見せかけて男を誘う事も出来ないわね」
「元々そんな事しないですから!」
オリビアさんの言葉を聞いて、私はある事を想像する。
もし、最上家で共也と2人きりで飲んで酔い潰れていたとしても、結局私に手を出さないだろうな~~……。
実際何度かわざと隙を見せても、共也は毛布を被せて来るだけで何もして来なかったしね……。
当時の事を思い出した事で力が入ってしまい、手に持っていたグラスから変な音が聞こえていた。
「あら、辺りが明るくなり始めたわね。 私が朝食の準備をしておくから、菊流ちゃんは3人を起こして来てもらって良いかしら?」
「はい、行ってきますね」
皆を起こしに向かおうとした私だったが、足を止めてオリビアさんに向き直った。
「オリビアさん」
「ん? 何かしら?」
「……ありがとうございました。 胸の中にあったモヤモヤが少し気が晴れた気がしますので、また共也の事を待つ事が出来そうです」
「ふふ、良いのよ。 お互い恋する乙女同士じゃない、また今度一緒にお酒を酌み交わしましょう?」
「あれ? 恋をするって……。 オリビアさん、好きな人がいるんですか?」
「あ……、菊流ちゃん? あのね……、この事は秘密にしてくれると……」
恥ずかしそうにモジモジしているオリビアさんを見て、ああ、この人もやっぱり1人の恋する乙女なんだなと、何処か納得してしまった。
「ふふふ、誰にも言いませんから安心してください。 ではみんなを起こしに行って来ますね」
「お願いね」
オリビアさんが付き合ってくれた事で、昨日よりは確実に気分が軽くなっている。 その事に感謝しつつ、私は3人を起こす為に馬車の中へ乗り込んだ。
「ジェーンちゃん、テトラちゃん、与一そろそろ起きて~~。 もう朝よ」
「ん? 菊流、おは……ってお酒臭!! あんた夜番の最中にお酒飲んでたの!?」
「む~、あ……、菊流姉、おはようござ……お酒臭い!!」
「菊流さん、もしかして店長と一緒に飲んでました?」
「え……、うん……。 今の私ってそんなにお酒臭い?」
「はい……」
服や口臭を嗅ぐと、確かに体中から酒の匂いが漂っている……。
「え~っと……ごめんなさい。 オリビアさんが朝食を用意してくれているから、3人は身支度が済んだら、焚火をしてた所に向かっておいてくれるかな」
「あんたは?」
「着替えと、口臭を何とかして来る……」
そう言うと、私は水が積み込んである後ろの馬車に力無く向かうのだった。
「菊流、少し顔色が良くなってたかな?」
「ですね、少し安心しました」
「店長も心配してましたから、良かったです……」
夜番の最中にお酒を飲むとは予想外だったが、菊流の顔色が少しだけだが良くなっていた事を安心した3人は、身支度を整えると朝食の準備をしてくれているオリビアさんの所に向かうのだった。
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「ごめんなさい、遅れました」
口を濯いで戻って来ると、すでに簡易的なテーブルの上には美味しそうな朝食が机に並べられていた。
「良いのよ~、今完成した所なんだから。 今日の朝食は食パンの上に焼いた卵とベーコンを乗せてみたわ! あとデザートにリンゴよ!」
その献立を聞いた、私と与一が視線で会話して頷いた。
((親方、空から……の食事ね!))
2人のオタクは別として、ジェーンちゃんとテトラちゃんは食卓に並んだ朝食をキラキラとした目で見ていた。
「わぁ……、朝から豪華です」
「そりゃそうよ~。 移動中って何も起きなければ暇でしょう? だから今日から移動中も鍛錬しようと思ってるのよ」
「「「「え!?」」」」
その瞬間、4人は盛大にハモったが、オリビアさんの言葉は続く。
「だから今から沢山食べて体力をつけてもらわないと、港町まで保たないかもしれないじゃない?」
『「「「えぇぇ……」」」』
その台詞を聞いた4人は、目の前に並べられた豪華な食事が今生最後の朝食に見えてしまうのだった……。
「ホラ、さっさと食べる!」
「「「「頂きます……」」」」
その後、あれだけ豪華な食事と喜んでいた4人だったが、結局お通夜気分のまま朝食を終えると港町を目指して移動を開始したのだが、オリビアさんは本当に移動中も皆の修行の指導をし始めた為、道中に女の娘達の悲鳴が響き渡るのだった。
「ほら菊流ちゃん、もっと丹田で魔力を練って全身に魔力を行き渡らせるのよ!」
「は、はい!」
「ジェーンちゃんは、その変わった短剣をどう動かせば次の動きに支障が出ないか考えて動きなさい! でも、考え過ぎても駄目。 時々動きが止まってるから、強者と戦う時はその隙を狙われるわよ!」
「はい!」
「与一ちゃんはせっかく高性能の弓を持っているんだから、どうすれば相手にその生成した属性矢を当てる事が出来るか常にイメージしなさい!」
「了解」
「はい! テトラちゃん、ワン・ツー!」
この人は本当に戦闘に関しては化けも……特化してるな……。
と心の中で思いつつも、オリビアさんのアドバイスを素直に聞き入れたお陰か、何かを掴めそうな気がしていた。
そうして、さらに数日過ぎたが、私達は移動しながら鍛錬を続けていた。 すると、遥か遠くの地平線の先に太陽光に照らされてキラキラと輝く海が見え始めた。
「おぉ…。 まだかなり遠いけど海だ……」
「ん~~! 鍛錬しながらだったから意外とこの旅も長くなっちゃたわね。 皆、あと2~3時間ほどで港町に着くでしょうから、街に入ったら私の知り合いが経営している民宿で休みましょうか」
「オリビアさん、その民宿の料理は美味しいですか?」
「ふふ、勿論よ。 特にそこの料理長が出す魚料理が絶品なのよ~~。 1度食べたら病みつきになる事間違いなし!」
「「「……ゴクリ」」」
異世界に来てから初めて絶品と言われる魚料理の味を想像して、私達は生唾を飲み込んだ。
そして、心なしか港町に向かう足取りも早くなって行く。 そんな私がふと海岸の岩場で釣りをしている人物が気になって目に留まった。
人? いや、その人物の輪郭はとても人族に見え無い、むしろ……。
そう思った瞬間、遠目で、しかも注視していた私の視界から、先程まで釣りをしていた人物が掻き消えた。
え???
「菊流ちゃん! 危ない!」
「え? オリビアさん?」
ドン!!
オリビアさんの忠告は聞こえていたが、気付いた時には私の前に立っていて、とても重い音が前方から響いてきた。
「ほう、この攻撃を防ぐか。 お前さん、やるねぇ!」
「不意打ちしておいて偉そうに……」
そんなふざけた事を言う人物の手には釣り竿が握られていた。
え? ま、まさか!? さっきまであの岩場で釣りをしていた人物!? まさか、あれだけの距離を一瞬で移動して来たの!?
腕を十字にして攻撃を受け止めていたオリビアさんが、口を開いた。
「ただの行商人に対して不意打ちとは、魔族のプライドも地に落ちた物ね」
「俺の攻撃を受け止めておいて、ただのってのは間違いだろ……」
「え、魔族ってあの!? この人が……」
目の前にいる人物が魔族……。
「いや~、腹が減ってしょうがなかったから釣りをしてたんだけどよ、いくら粘っても全く釣れなくてなぁ……。 もう空腹も限界だった所に、お前等が2台の場所に荷物満載の状態でこっちに向かって来るじゃねえか、襲撃すれば食事にありつけると思って……よ!」
「よ! じゃ無いわよ!!」
2人がお互いの体が接触するかも、と言う距離で攻撃し合う姿に寒気を感じるが、魔族が私達を襲って来た理由が空腹だったからだ……。
もし、オリビアさんが気付いて防いでくれていなければ私は今頃……。
そんな有り得た現実に寒気を感じるが、それ以上に襲って来た魔族の容姿に驚愕する。
顔が雄の獅子の獣人である事にも驚くが、それ以上にそいつが着ている服に吐き気を覚えそうになる。 何故なら……、筋肉が全身を覆う逆三角形をしているのに、フリルの付いたピンクのレオタードを着用しているからだ……。
そして私達は、その獣人が動く度に揺れ動くフリルを見て絶叫する。
「「「「 変態だ~~~!!!」」」」
「センス良いじゃない……」
オリビアさん!?
「変態とは失敬な! この腰に付けられたフリルなど恰好良いだろうが!」
腰を振ってフリルを揺らすな!! 後、股間のモッコリくらいパッドか何かで隠せ!!
「確かにね……私もレオタード愛好家だけど、フリルを付ける事までは考えてなかったわ……」
「だよな! いや~お前とは気が合いそうだよっと!!」
バシン!
その変態……、いや獣人は会話の最中に再びオリビアさんへ攻撃を仕掛けたが、その攻撃も予想していた様で綺麗に受け止めていた。
「これも防ぐかよ……。 女、お前の名は?」
「私はオリビア=ホーク、しがない雑貨店の店長よ」
「俺は【魔国オートリス4天王のガルボ】だ! オリビアよ俺と戦え。 そうすればお前以外の奴等には手を出さないと約束してやる!!」
魔国オートリス? 四天王のガルボ??? 情報量が多すぎて混乱しそうになるが、今はオリビアさんだ。
「何で魔国の4天王がこんな所にいるのとか、聞いても答えてくれないわよね……。 良いわ、その挑戦受けて上げる。 でも、あの娘達には手を出さないって約束だけは守ってもらうわよ」
「あぁ、あいつ等が手助けに入らない限りは、俺の名に懸けて手を出さないと誓おう」
「オリビアさん……」
「4人とも決して手を出さないで。 そして、巻き込まれないように離れていなさい。 ちょっとあなた達を気にする余裕が無い程の激戦になる予感がするわ……」
「そう言うこった。 まだ未熟なお前等を相手にしてもつまらんからな。 さっさと馬車と一緒に街道奥に避難するこったな」
悔しいが、確かにあれだけ遠くにいたガルボの襲撃に反応すら出来無かったんだ。 そんな私がこの戦いに付いてく事は無理があるだろう……。
4人が己の実力不足を噛みしめながら、馬車が巻き込まれない様に街道の奥に移動させると、オリビアさんの無事を祈る事しか出来なかった。
そして、ここに来るまで決して微笑みを絶や無かったオリビアさんだったが、笑顔が消すと同時に魔力を全身に巡らせ身体強化を発動させた。
「4人共、良く見ておきなさい! もし私がこいつに負けたとしても、上位者の戦いを見たあなた達は必ず強くなれるわ。 だから、一時たりとも目を離さないで頂戴! 行くわよガルボ!」
「来いやぁ! オリビア!!」
何処か楽しそうに笑う2人が足に力を籠めた瞬間、立っていた場所に蜘蛛の巣状のヒビが入り、お互いが目にも止まらない速度で接近した。
―――ドン!
「はあああああ!!」
オリビアさんの方が背が高いため、打ち下ろす形でガルボの顔面に拳打が入った。 だがガルボは少し後ろによろけるだけで、すぐ立ち直ると隙を晒したオリビアさんの腹部に掌底を入れた。
「ぐううぅぅ……」
1撃入れあった事で、2人は挨拶は終わりだとばかりに笑い合う。
「はは! やるなぁ、オリビア!」
「あんたこそやるじゃない、ガルボ!」
そんな2人が笑いながら戦う姿を前にして、私達は呆然と見ている事しか出来なかった。
真下から足を跳ね上げてガルボの顎を蹴り上げるオリビアさんに対して、今度はガルボが顔が真上を向いているのに器用にオリビアさんの軸足にローキックを入れると、体を回転させてオリビアさんの横顔に回し蹴りを叩きこんだりと、私達には理解が追いつかない戦いが繰り広げられていた。
「テトラちゃん、あの戦いに少しでも付いて行けそう?」
「無茶言わないで下さいよ菊流さん……。 私だとガルボが繰り出した、最初の掌底で終わってます……」
「だよね……。 私も同じ考えよ。 今も遠目なのに、2人の攻撃を目で追うだけでギリギリよ……」
「でも、これがこの世界の上位者達による真剣勝負なんですよね……。 私達は何時かここに辿り着く事が出来るのでしょうか……」
「分からない……。 でも、どれだけ時間が掛かっても、何時か必ず辿り着く……」
「うん。 きっとこの様な戦いが出来る位強く……」
その後も2人の攻防は続き、気付いた時には1時間近くも経っていた。
長時間のギリギリの戦いが続いた事で、2人の動きが鈍くなってきているのを私達ですら感じていた。 どうやら決着の時が近い様だ。
一瞬だが、オリビアさんが目に入った汗を気にして動きが鈍った。 その隙を見逃す程ガルボは甘く無かった様で、高速の踏み込みでオリビアさんの腹にスルリと入った彼は両手に魔力を籠めた掌底を彼女の腹に叩き込んだ。
「ぐふ……!」
「「「オリビアさん!」」」「店長!」
吐血したオリビアさんは最早限界なのか、片膝を地面に付いてしまった。
「【獣王拳奥義の1つ・鎧通し】だ。 これが決まった以上、お前の内臓は深刻なダメージを受けた影響でしばらく立てやしねえよ、オリビア」
「ま、まだ私がここで終わる訳には……!!」
必死に立ち上がろうとするオリビアさんだったが、ガルボが右手を振り上げて手刀の構えを取った。
「とても良い戦いだったが、わずかだが俺の方に運が傾いていたな。 お前の事は忘れないよ、あばよオリビア!」
オリビアさんが殺される! そう思った瞬間、私は無我夢中でオリビアさんに手刀を振り下ろそうとするガルボに突っ込んだ。
『止めろーー!!』
もう知り合った人を失いたく無い。 その一心で……。
「はっ! 俺の攻撃に反応すら出来なかった雑魚は引っ込んでろ! これは俺とオリビアの戦いだ!」
「ぐっ!!」
不意を突いたにも関わらずガルボは拳打に反応して体を屈めると同時に、私の腹に肘で1撃入れて馬車近くまで吹き飛ばした。
地面を転がり与一達がいる場所に戻った私を心配して3人が駆け寄って来る。
「く、菊流、大丈夫!?」
「与一、援護をお願い。 このまま何もしなかったら、オリビアさんは本当に殺されちゃうわよ!?」
菊流の言いたい事は分かる。 だけど、先程の戦いを見ていた事で、私達がいくら束になった所で敵う訳が無いとも理解していた。
「もう。 親しくなった人を失うなんて嫌なのよ!!」
「あ、菊流!」
ドワンゴ親方から貰った手甲に魔力を流し込み炎のオーラを纏った菊流は、再びガルボに向かって突撃して行った。
「ああもう! 必ず後で何か奢りなさいよ!」
もう言っても無駄だと理解した与一に幼馴染を見捨てられる訳もなく、属性石から様々な属性の矢を何本も生成した彼女は一心不乱に撃ち続けた。
それを見て、テトラとジェーンも動いた。
「店長はやらせません! ジェーンちゃん、気を付けて。 店長程の手練れがダメージを負う攻撃なら、私達が受けたら1撃で昏倒されるはず!」
「はい、テトラさん! 行きます【風よ答えて!】」
刀に嵌められた風属性の魔石に魔力を流し込み風を纏う、ジェーン。
「「「「わあああああぁぁぁ!!」」」」
そして、ガルボを取り囲んで4人同時に攻撃する私達だったが、あれだけ店長からの攻撃を受けてダメージを負っているはずなのに、一向に私達の攻撃は届かない。
「さすがにこれだけダメージ受けてる状態で、4人の相手はきついか? いや、どれだけ満身創痍だったとしても、お前等のようなヒヨッコに負けるほど俺は落ちぶれてねぇんだよ!」
「やぁ!」「はぁ!!」
テトラちゃんとジェーンちゃんが、タイミングを合わせて左右からの同時攻撃を仕掛けるが、ガルボは優しく上下に受け流すと同時に体制の崩れた2人を海に投げ飛ばした。
「「きゃあああああぁぁぁぁぁぁぁ………!!」」
―――ドボーーン!!
「ハッハッハ! まだまだ甘いがさっきのは肝を冷やしたぜ! 次ぃ!!」
2人を戦線離脱させた事で余裕が出来たガルボは、与一が放った属性矢を紙一重で躱すだでは飽き足らず、拳の拳圧でかき消したりしている。
まるで、この不利な状況を楽しんでいる様子すらある……。
何よ、こんな化け物を相手にオリビアさんは1時間近くも……。
心が折れそうになるが、それでも私は炎を纏った状態で必死に近接戦をしかけていると、気付かない内に状況が少しづつ変わり始めていた。
チッ!
え? 掠った?
さっきまでは一切かすりもしなかった私の攻撃を、ガルボは必死に避け始めている。
「ぐ、この!」
徐々にガルボの体を捉え始めている私の攻撃だったが、唐突に見えた白い線に無意識の内に拳の軌道を合わせた事で、ようやくガルボは私の攻撃を真正面から受け止めて苦悶の表情を浮かべていた。
「ぐぅ……。 お前、いきなり動きが良くなりやがったな。 まさか、この土壇場で身体強化を習得しやがったのか?」
「知らないわ。 でも、さっきまでは確かに身体強化の魔法なんて覚えていなかったはずよ」
私は素っ気なくガルボにそう答えたが、何となくだがガルボの言ってる事は正しいと理解していた。
動きを止めている今しか、私がこいつに勝てる見込みは無い!
私は親方にこの手甲を貰ってからずっと考えていた運用方法を、ここで実行する事にした。
全身に纏っていた炎を全て右拳に嵌められた手甲に集めると、拳を受け止めた体制のまま硬直しているガルボに向けて解き放った。
「あ、まず!」
「遅い、食らえ!!」
解き放った炎がガルボを飲み込んだが、炎が目隠しになってしまい奴がどうなったのか良く見えなかったが、次第に炎が収まって行くと徐々に状況が見えて来た。
「そん……な……」
目の前には、体とピンクのレオタードを所々焦がした状態のガルボが立っていた。
どうやら私の攻撃が避けれないと察知したガルボは、咄嗟に上半身を後ろに倒して全身で炎を浴びる事を回避したようだ。
(全身全霊の1撃を避けられた……。 もう……、力が出ない……)
私は全身の力が抜けて行くのを感じて、その場に座り込んでしまった。
そんな私にガルボが手を伸ばして来たのを目にした私は、目を閉じて命を刈る最期の1撃が来るのを待った。
(共也。 ごめんね……、私ここまでみたい……)
そう思って死を覚悟した私だったが、いくら経ってもガルボからの攻撃が来ない。
???
私が不思議に思い恐る恐る目を開けると、そこには私の肩に手を置きながら良い笑顔で笑うガルボの姿があった……。
「え?」
「あっはっは! 菊流と言ったか? 最後の一撃には死ぬかと思って、久しぶりに肝を冷やしたぜ!」
私が呆然と笑い続けるガルボの顔を眺めて居ると、彼がキョトンとした顔で私に喋り始める。
「あ~~。 何だ? もしかしてだが、お前達って俺がオリビアを殺すかもしれないと思ってたから、突っかかって来たのか?」
「だって、あなたは自分の事を魔国オートリスの4天王の1人だって言ってたじゃない。 だから私はてっきり勝者は敗者を殺すものだと……」
「お前等、俺達魔族をどんだけ野蛮人だと勘違いしてるんだよ!!」
「あら、違うの?」
「違うわ!!」
あれ? 確かグランク王から、最初そんな事を聞いたような気が……。
「いや、お前達が俺達魔族の事を勘違いしてもしょうがないのか……。 そうだよな、実際魔国オートリスとお前達人類は戦争を始めちまったのは事実なんだ。 その事に対していくら違うと言っても良い訳にしかならん……」
「ガルボ……」
「それもこれも、あの脳筋魔王が俺達の意見など全く聞かずに戦争を始めやがったせいだ!! 俺は正直こんな意味の無い戦争自体に反対の票を入れていたくらいだぞ?」
「そうなの?」
「あぁ、良く考えてみろよ、どっちが勝とうが負けようが、その後に訪れるのはお互いを憎み憎悪し合う日々だ……。 そんな世界なんて悲惨の一言だ……。 あの死体が積み上げられた光景を見ても、戦争を続けようと思っている魔王はどこか壊れてるんだろうな……」
ガルボは主である魔王に対して思う所があるのか、空を見上げながら悔しそうに歯を食いしばっていた。
「そうだったのね、魔族側も1枚岩じゃない。 その情報を人間側に流しても良いものなの?」
「構わない。 正直、今のオートリスは好きになれないから、俺は抜けるつもりだ」
「抜けるって……、そんな事して大丈夫なの? 4天王の1人が抜けるならタダではすまないでしょう?」
確かにオリビアさんの言う通り、その国の最高戦力の1人が抜けるとか、普通だったら許されるはずが無い……。
「良いんだよ。 それに魔国で最高戦力の俺を殺せる奴なんて限られて来るし、そんな上位の存在がわざわざ人間の国まで追いかけて来る事なんて無いだろ。 それに、お前らの様に強い人間が育って来ていると分かった以上、魔国に拘る必要も無くなった」
「ガルボ、あんた……。 私達人類をあなたの鍛錬の存在みたいな言い方をするのを、止めてもらっていいかしら?」
「あっはは、オリビアそう言うなって、俺はこれでもお前達を認めてるんだぜ?」
「魔国の最高戦力の1人である、あなたに認められたのは正直に嬉しいけど……」
「それとさっきの名勝負の報奨と言う程の物じゃないが、将来オートリスとの戦争が最終局面になった場合は、助太刀に行ってやるよ」
「良いんですか? 私達はあなたに勝ててないですが……」
「良い勝負だったじゃないか、戦闘前にああは言ったが、元々お前らをどうこうするつもりは無かったんだよ、だから俺にはそれで充分なんだ。 ……腹が減ってイライラしていたのは本当だがな」
ガルボが私の肩を何度もバシバシ叩いて来る為少々痛かったが、彼の笑顔を前にして悪い気はしなかった。
――――――――――――――――――――――――
【名前】
・花柳 菊流
【性別】
・女
【スキル】
・剛力
・格闘術
【魔法】
・身体強化
――――――――――――――――――――――――
変態獣人魔国4天王の1人ガルボとの戦闘でした今後もう少し戦闘シーンを詳しく書けるように精進します。
次回は港街到着など書いて行こうかと思います。




