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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
2章・新たな出会い。
43/285

護衛クエストそして鍛錬。

 冒険者ギルドで護衛クエストを受けて城に戻った私達は1週間も戻らないと言う事も有り、その日はそのまま解散して休息を取る事にした。


 そして、光輝対策として、空が明るくなり始めたと同時に城を出る事にしていた私達3人は、東門でクエストの発注主であるオリビア店長を待っていた。


「菊流姉、ちょっと質問しても良いですか?」

「ん? ジェーンちゃん、何か聞きたい事でもあるの?」

「はい。 共兄からもオリビア雑貨店は良い店だと紹介されていたのですけど、なかなか時間が取れなくて行く機会が無かったのですが、菊流姉から見てどんな感じのお店なのです?」


 顎に手を当てる菊流は、オリビア雑貨店に行った当時の事を思い出す。


「う~ん。 確かに私もあの店自体は良い店だと思うわ。 でも、店長がかなり個性的なのよね……。 でも、それにさえ目を瞑れば品揃えや店員の対応も良いし、かなり優良店だと思うわよ?」

「店長が個性的……ですか。 むう……与一姉は何か聞いてます?」

「ううん……。 何も聞いてない……」

「店長は個性的だけどとても良い人だから、怖がらないで上げてね?」

「「怖がるとは??」」


 2人の声が重なった事に笑いが込み上がりそうになるけれど、実際に会ってもらう事でしか私の言った意味が理解されないだろうから、他に言いようが無いのよね……。 


 それから私は店長に会った時にしてはいけない注意点を2人に説明していると、東門に向かって来ていた馬車が2台がユックリと私達の前で停止した。


 馬車の御者席から颯爽と飛び降りて、抱き着いて来たのは勿論。


「は~~い、菊流ちゃん。 護衛クエスト受けてくれてありがとうねぇ~! 誰も受けてくれなくて困ってたのよぉ~!!」

「オリビアさん、会えて嬉しいのは私も同じだけど、痛いです!!」


 その余りある力でオリビアさんが抱き着いて来たものだから、私の骨がミシミシと悲鳴を上げてる~~!?


「あ、あら、ごめんなさい。 オホホホホホ……」

「ケホ……。 ふふ、オリビアさんは相変わらずパワフルですね」

「ホラ、良く女は度胸って言うじゃない? だから常に鍛えているからね」

「それ、意味が少し違う気がする……」

「細かい事は気にしないのよ、緑髪のお嬢ちゃん!」

「与一。 私の名は与一。 そして、この娘はジェーン」


 彼女は青い髪をパンチパーマにしている上に身長も高い。 その上ピンクのレオタードを常に着る事を好む人物だ。

 その為、身長の低いジェーンちゃんの視点だと、睨まれていると錯覚してしまいオリビアさんを見上げたまま硬直してしまっていた。


「あら、この娘は全く喋らないけど人見知りなのかしら?」

「しょ、初対面ですから緊張しているのかもしれませんね!」

「あらそうなの? この旅の間に仲良くなれると良いけど、盗賊とか出るって話もあるから気を付けて旅をしましょうね!」


 盗賊が本当に出たとしても、私達がどうこうする前にオリビア店長が……。 いや、これ以上考えてはいけない。 何かを察した彼女が鋭い目でこっちを見てる……。


 そんな事を考えている間にジェーンちゃんが立ち直り、店長に頭を下げた。


「オリビア店長、これから1週間よろしくお願いします!」

「あら、オリビアで良いわよ。 緊急事態が起きたら呼びにくいでしょう?」

「ならオリビアさんで」

「ええ、それで良いわ。 じゃあ、3人共よろしくねぇ!」


 オリビアさんと私達が自己紹介を終えて握手を交わしていると、もう1台の馬車から長い黒髪を後ろで三つ編みにしている従業員が1人降りて来た。


「店長~~。 私も一緒に旅をするんですから紹介してくださいよ、ってあれ? え~っと……、確かジェーンちゃん……、だよね?」

「え? あ、テトラさん!」


 名前を呼ばれたジェーンが振り向くと、そこには黒い兎耳と尻尾を生やした人物が立っていた。


「この間ぶりです、あれから元気にしてました?」

「うん。 あの事件のあと、私とアーヤはミーリス様の屋敷に御厄介になっているから、報復など無く平穏に暮らせてるよ!」

「それなら良かったです。 出会った経緯が経緯でしたので、ずっと気になってたんです」

「あら、テトラちゃん。 その話しってこの前言ってた、妹さんの誘拐を未然に防ぐ手伝いをしてくれた人達がいたって言ってたけど、その娘が?」

「ええ、あと男の人が1人いました。 あの時アーヤが人質に取られてしまい本気を出す事が出来なかったので、危うく攫われかけましたからね。 ですから、ジェーンちゃんがアーヤを救出してくれたお陰で、奴らを殲滅する事が出来ましたからね。 あの時は本当に助かりましたよ」


 感謝を込めてジェーンの両手を握ったテトラは、激しく上下に振った。 改めて面と向かって感謝を伝えられる事に慣れていなかったジェーンは、顔を赤くして照れるのだった。 


「ありがとうねジェーンちゃん、うちの大切な従業員の身内を助けてくれて!」


 涙を浮かべるオリビア店長に感謝されつつ、出発準備を終えた私達は2台の馬車に乗り込むと東門を潜って出発するのだった。


「さあ、港町アーサリーに向けて出発するわよぉ!!」

「はい!」


 徐々に遠ざかっていく東門を眺めながら、この世界に来て初めて王都とは違う街に向かう事への不安と同時に、期待を込めて楽しみにする私達だった。


 =======


 私達が護衛として王都を出発してから、すでに2日経っていた。


 旅の途中で手が空いたオリビアさんに格闘術の手ほどきを受けていたテトラちゃんだったが『1人だけ訓練を受けても時間が余る。』と言う理由で(後で聞いたが、オリビアさんに長時間マンツーマンで教えられると体が保たないらしいので、私達に意識を分散させたかったらしい)、私達も強制参加させられる事となり、現在オリビアさんと組み手の真っ最中だった。


「やっぱり菊流ちゃんは格闘術の才能が有るわね、筋が良いわぁ~! でもまだ踏み込みや力の入れ方に無駄が多いわよ? ホラ、足元がお留守よ」

「キャア!」


 オリビアさんの高速の足払いを受けた私は背中から地面に転ばされてしまい、急いで起き上がろうとするが、すでに目の前にはオリビアさんの拳が付き付けられていた。


「参りました……」

「はい、お疲れ様。 ふふ、このまま菊流ちゃんがもう少し経験を積んで立ち回りを覚えて行けば、そこらにいる魔物では相手にならなくなるでしょうね」

「本当ですか!?」

「こんな嘘を言ってどうするのよ。 正直に言うと、昔の私に比べたら今のあなたの方が実力は上よ? だから自信を持ちなさい、菊流ちゃん」


『強くなれる』そのオリビアさんの言葉は素直に嬉しかったが、上手く行かない出来事が続いた事もあって、いまいち自分に自信が持てないでいた。


「オリビアさん……。 それが本当なら、私は強くなれますかね?」

「そうね……。 必ず……、とは言えないけど、焦らずに地道に鍛錬して行けば私を超える事が出来るかも、とは思える位の器だと思っているわ」

「オリビアさん……」

「菊流ちゃん、あなたが生まれ育った家って、武術に関係する職業だったりする?」

「は、はい! どうして分かったんです?」

「いえ、何となく格闘家に必要な基礎が出来ているみたいだから、もしかしてと思ってね」

「なるほど……」

「さっきの話に戻るけれど、あなたが強くなる為に足りないのは、死ぬかもしれないと言う命を懸けた実戦経験だけでしょうね。 今まで自分より強い相手との組み手をした事は?」


 オリビアさんのその問いに、私は首を横に振る。


「いいえ、ありません。 極端に強い相手との組み手は、両親が許可してくれませんでしたから……」

「まぁ、極端に力の差がある相手との組み手は危険過ぎるし、下手をすると大怪我の元だからあなたの両親の判断は正しいわ」

「やっぱりそうなんですね……。 両親が異常に強かったのは知っているのですが、結局最後まで私と組み手をしてくれませんでした。 あ、でも、兄弟子との訓練の見学は許可されていました」

「見取り稽古をする許可を貰っていたと言う事は、もう少し強くなっていたら両親から稽古を付けて貰っていたはずよ。 ねぇ菊流ちゃん、もしかして自分がどうやって動けば理想の軌道になるか、何となくイメージ出来てたりする?」

「はい、理想の動きを意識して実戦していると本当にたまにですが、白い線が見える時があるんです。  その線が見えた時は、攻撃の軌道を線に合わせると相手に防がれた記憶は無いです」


 へぇ、すでにその域まで到達してるのね。 これは下手に戦い方を矯正するより、このまま戦闘スタイルに手を加えない方がこの娘は伸びそうね。 


「良いわ。 この護衛中、私があなたの組み手相手を務めて上げるわ♪」


 その言葉にテトラちゃんがギョっと驚いて目を剥く。


「え! それって大丈夫なんですか? 店長の1撃を受けたら菊流さんの体が保たないんじゃ……」

「へぇ~。 テトラちゃんって、私が手加減も出来ない人間だと認識してるのね?」

「ち、違います! 店長の攻撃力は強すぎるんですよ! だからいつも店員達と組み手をすると、怪我人が続出するんじゃないですか!」

「む……。 あ、あれは、あの娘達が柔らかいのが悪いのよ……。 私は十分手加減しているもの……」

「そんな訳無いじゃないですか……。 菊流さん、店長は手加減する事がとても苦手でして、何度も他の店員達を病院送りにしている前科が山ほどあるんですから、断るなら今の内ですよ!?」

「酷い! 酷いわテトラちゃん!!」


 泣きながらハンカチを噛んで悔しがるオリビアさんの姿を見て、私はある考えが頭の中を占めていた。 強くなりたい……、と。


「オリビアさん、護衛クエスト中の間になりますが、弟子入りのお話しを受けても良いですか?」

「菊流さん!?」

「ごめんねテトラちゃん、私はどうしても強くならないといけないの……。 それには強者と戦うのが一番の近道のはず……。 でも、私の事を心配してくれてありがとね」

「……絶対に無茶はしないで下さいね?」

「ええ、分かったわ」


 テトラちゃんも納得してくれた事で改めてオリビアさんに向き直ると、先程の悔しそうな表情は何処にやら、今はとても嬉しそうに笑っていた。


「しょうがないわね、菊流ちゃん短い間だけど鍛えて上げるわ! 与一ちゃんとジェーンちゃんも強くなりたいんでしょ? 私が鍛えて上げるわ」


 最初2人は凄く嫌そうな顔をしていたが、共也が転移で消えてしまった日の出来事を思い出したのか、もう2度とあの場面に遭遇しない為に強くなろうと決意した事を思い出し、オリビアさんに頭を下げた。


「「オリビアさん、お願いします。 私達も強くなりたいので鍛えて下さい!」」


「ふふふ…。 3人とも素晴らしいわ! 短い期間だけどよろしくね」


 私達が弟子入りを申し出た事が余程嬉しかったのか、オリビアさんは鼻歌を歌いながら馬車を操作するのだった。


 =◇==


 さっそく夜からオリビアさんとの訓練が始まった。


「キャーーーー!! 嫌ーーーー!!」


 そんな私は、今オリビアさんの手に掛かり夜空を飛んでいた。


 何故空を飛んでいるのか。 それは訓練中いくら攻撃しても軽く受け流されてしまう事に頭に来た私が、オリビアさんの顔面に向けて正拳を放つと、その勢いを利用されて投げ飛ばされたのだ……。 


 それはジェーンちゃんも同じらしく、色々な角度から攻撃しても全て見切られてしまい、あらぬ方向に放り投げられていた。


「いやーーーー!!」


 しかも与一の攻撃に至っては弓矢で攻撃しているのに、鼻歌を歌いながら矢を全て素手で捕まれる始末だった。


「ムカつく!!」


 結局私達は1撃を入れる所か、かすらせる事すら出来ない内にこの日の訓練は終わってしまった。


「「「はぁ、はぁ、お疲れ様でした……」」」

「はい、1日目にしては頑張った方だと思うわ。 また明日も時間が有ったら訓練しましょうね」

「オリビアさん、私達全員を相手にしたのにタフすぎる……」


 与一の台詞に私達は同意すると同時に、私達の想いは一致した……。 この人に護衛っているの? と……。


 そして訓練も終わり少し遅い夕飯を取った私達だったが、食事中に与一とジェーンちゃんが先に見張りをすると提案してくれた為、私は先に仮眠を取る為に馬車の中で横になると、余程訓練の疲れが溜まっていたのか何時の間にか深い眠りに落ちていた。 


 菊流が寝息を立て始めたのを確認した2人は焚火の前に置いた丸太に腰掛けると、シンドリア王都を出てから彼女の状態に関する事を話し始めた。


「与一姉、菊流姉は大丈夫なのでしょうか……。 あ、身体的じゃなくて精神的にって意味です」

「うん、分かってるから大丈夫。 そうだねちょっと危ないんじゃないかと私達は思ってる。 ジェーンちゃんも見て来たから分かってると思うけど、菊流は共也に依存してた……。 ここまでは良い?」

「はい。 2人はやはり地球にいた時もあの様な感じで?」

「そうだね。 共也はちょっと違ったかもしれないけど、菊流の方は完全に依存していたね。 だからこそ私達は心配してる。 今はまだ共也とエリア王女が生きてる可能性が有るから希望が持ててるけど、これから日が立つ程に共也が生きてる可能性が低くなった時、あの娘がどんな行動を取るのか想像するとかなり怖いね」


 言葉を濁すが、与一の言いたい事をジェーンは何となく理解した。


「自分で命を絶つかもしれないと?」

「その可能性もあると私達は思ってる」

「先程から『達』と言っていますけど、それは愛璃さん達の事を言ってるのですか?」

「そう、主に女性陣だけどね。 ダグラス達がどう思ってるのか知らない……」

「そう…、なんですね……」

「今回は共也の消失と、光輝の迷惑行為が重なってしまったから相当疲弊してたし、このままだと本当に人知れない場所で実行しかねなかった。 だから、気分転換させる為に強引に連れ出したけど、何時どこで緊張の糸が切れるか分からないから、ジェーンちゃんも菊流の事を注意して見て上げて」

「はい……、与一姉。 共兄はきっと生きてますよね……」

「生きていてくれないと私が困る……。 ジェーンちゃんだから正直に言うけど、私もずっと前から共也が好きなのよ?」

「ふふ……。 それはさすがに知ってました。 与一姉って共兄に意地悪して怒られたりすると嬉しそうにしてるんですから」


 ジェーンのその言葉を聞いて、与一は驚きと共に顔を真っ赤に染めてしまう。


「え、私ってそんなに分かりやすく行動に出てた!? うわ~~、恥ずかしい……」

「いえ、気付いたのは本当に偶然でしたので、菊流さんは気づいてないと思いますよ?」

「なら良かった……。 今の菊流に私の気持ちを伝える事は出来ないからね……。 でも、共也が無事に生きて帰って来たその時は……遠慮しない」

「そうなるように祈りましょう与一姉、この世界は魔法なんてあるんですから気持ち次第で良い方向に転がるかもしれないですしね」

「ふふ……、そうだね。 あ~ぁ、共也の馬鹿垂れ、生きてるなら早く帰って来なさいよ! でないと地獄まで追っかけるわよ」

「そうですね、最悪使命も何も放り投げてそれでも良いかもですね」

「おや? それでも良いと言う事はジェーンちゃんも実は……?」

「ち、違いますから! 皆と一緒ならって意味でそんな深い意味では無いです!!」

「ほうほう、顔を真っ赤にして否定しても説得力が全くないぞぉ? まぁお姉さんの心は広いから今の所はそう言う事にしておいて上げましょう」

「与一姉! 違うんですってば!」


 今度はジェーンちゃんが顔を真っ赤に染めて否定するので、与一が面白がり弄り始めた。


「ジェーンちゃんは酷いな~。 私は正直に言ったのに誤魔化すんだね……。 しくしく」

「与一姉泣かないで下さいよ……。 えっと……、わ、私も共兄の事は嫌ってませ、むしろ好意を抱いていると思います……。 ですが……」

「何か理由があるの?」

「いいえ。 この想いが恋なのかと言われても、正直分からないんです。 今まで恋なんてした事無いんですから……。 ふうぅぅ……」


 もうゆでダコの様に顔が真っ赤になったジェーンを、与一は背後から毛布で優しく包み込んで抱き締めると、満天の星空を見上げた。


「ふふ……。 照れてるジェーンちゃんも可愛いな」

「もう、与一姉が根掘り葉掘り聞くからですよ!」

「ごめんごめん。  ……でも、ジェーンちゃんも共也の事を好いてる事が分かって安心した。 だから一緒に共也が生き帰って来る事を祈りましょう?」

「そうですね……。 共兄、待ってますから、私がおばあちゃんになる前に帰って来て下さいね……」

「……予想外にジェーンちゃんの愛が重かった……」

「何でですか!!」


 こうして2人がじゃれ合っている間に夜は更けて行った。


「菊流、交代の時間……」

「う~~~ん。 了解……。 今起きる……」


 目を擦りながらも何とか起きた菊流は、2人と夜番を交代して焚火がある場所へと向かった。


「今日は1人か……」


 丸太に腰掛けて1人で夜番をしていると、あの日の事を思い出して歯噛みしてしまう。


 あの時エリアは、何時発動するとも分からない赤い魔法陣に、躊躇なく飛び込んだ。 それに比べて私は……。


―――パァン!


 あ……。


 枝が爆ぜる音に意識を取り戻した菊流は、何時の間にか隣にオリビアさんが座っている事に気が付いた。


「どうしたんですかオリビアさん。 あなたはこのクエストの依頼人なんですから、私に遠慮せずに寝て良いんですよ?」

「そうしても良かったんだけど、以前会った時の菊流ちゃんと雰囲気が違う事が気になっちゃってね……」


 この人には隠し事が出来ないな……。


 そう思ってオリビアさんを眺めて居ると、彼女は2つのコップとワインを取り出すと、1つを菊流に差してニッコリと微笑んだ。 


「付き合ってくれるわよね?」

「オリビアさん……、私……お酒に弱いんですよ?」

「私が飲ませるんだもの、酔い潰れたなら朝くらいまで見張りを変わって上げるわ」


 この人は私を励ます為に、わざわざ2人分のコップとお酒を用意したのだろう……。 そんなオリビアさんの気遣いが嬉しくて、私は彼女の好意に甘える選択を選ぶのだった。


「お酒に弱いって言ってるのに、本当に酷い依頼主ですね……」

「あら! その依頼主が勧めるお酒を飲めないと言う、酷い冒険者も居るじゃない」

「もう……。 ありがとうオリビアさん……」

「良いのよ。 今はお酒の力を借りてでも良いから、鬱憤を吐き出してスッキリしてしまいなさい」

「はい……」


 思い切ってコップに注がれて行くワインに目をやると、コップの中には疲れ切った私の顔が映っている。


 酷い顔……。


 そして、私はコップの中に入っていたワインをグイっと一気に飲み干すと、アルコールが喉を焼く感覚が一気に襲って来る。


「そう、それで良いのよ。 何があったのか何となく分かるけど、気を張りすぎると近い内に潰れちゃうわよ?」


 オリビアさんの言葉が嬉しくて、私は何時の間にか目から涙が溢れ出ていた。


「オリビアさん、私……」

「ここには私しかいないのだから、泣きたいなら泣きなさい。 時には涙を流すのも、良い女の条件よ?」

「う、うわああああああぁぁぁぁ!! オリビアさん!!」


 ここまで泣きじゃくったのは何時ぶりだろうと言う位、私はオリビアさんの筋肉に覆われた胸に顔を押し付けながら泣き続けるのだった。



クエストの道中を書いてみました。

次回は護衛クエスト終了までを書いてみます。

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