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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
2章・新たな出会い。
38/285

ダリアの罠、そして。

 次々と現れる魔物を討伐しながら森の奥へと進む俺達だったが、鬱蒼と茂る異様に背の高い雑草に邪魔されて思うように進軍速度を上げられずにいた。 


「はぁ、はぁ……」


(慣れない魔物との戦闘が続き、転移者達の疲れが見え始めているな。 良し、ここら辺で一度休息を取るとするか)


「全軍停止! 一度ここで休息を取る! 兵士達は周囲の警戒を交代でするように」

「はっ!」


 湿度と魔素の影響も有り普段よりかなり体力の消耗が著しかった俺達は「休息」と言う言葉を聞いた瞬間、近くに生えていた樹に寄りかかって大きく息を吐いた。


 だが、それも斥候に出ていた1人の兵士の報告によって、休息の時間が打ち切られる事となった。


「た、隊長、緊急報告が有ります!」


 何か事件が起きた。 そう感じさせる程に帰って来た兵士の表情は強張っていた為、休息していた者達からざわめきが起きる。


「どうした! 何か事件でも起きたのか!?」

「デリック隊長、取り合えずこちらに来て確認してください!」

「確認だと?」


 兵士に連れられて来たデリック隊長が見た物とは。


「こ、これは……」


 そこに有ったのはポッカリと口を開けている洞窟だった。 


「デリック隊長。 先日、我々が下見に来た時にはこのような洞窟などありませんでしたよね?」

「あぁ、その時は異常は無かった事を私も確認している……。 そう考えると数日以内に出現した洞窟と言う事になるが……」

「隊長、まさか……」

「あぁ、この洞窟は生まれたばかりのダンジョンで間違い無いのだろうな」

「デリック隊長、どうします?」


 デリック隊長は顎に手を当てて考えていたが、すぐに決断を下した。


「普通なら王に指示を仰ぐのが普通なのだろうが、中に存在している魔物の種類や数次第では、このまま突入して間引く必要性があるから迷うな……」

「スタンピードの可能性ですね……」

「その通りだ……」


 デリック隊長と兵士達は少しの間どうするか話し合っていたが、このまま何もせずに時間を浪費しても話が進まないと判断して、俺達に洞窟に突入する事を告げた。 


「皆、この洞窟は生まれたばかりのダンジョンの様だが、中の様子を確認する為突入しようと思う」

「何故確認する必要があるのですか?」

「何故確認をするのか。 それは、洞窟内で魔物が許容量を超えて発生してしまうと、ダンジョンの外へと溢れて出てしまい、街や村々を襲い始めるのだ。 君達に分かりやすく言うと、先日王都を襲った魔物達の様な行動だな」

「なるほど……」

「ゆえにその様な事態を引き起こさない為にも、多少危険ではあるがこのまま洞窟内へと進入して、内部の様子を確認しようと思う。

 我々も出来る限り皆を守るつもりではいるが、敵の数次第では手が回らない場面も多々出て来るはずだ、なるべく自分の身は自分で守って貰う事になるが良いか?」


 先日の魔物襲撃の惨劇を目の当たりにしていた全員が、その光景を思い出し頷いた。 全員が迷いなく頷いてくれた事にデリック隊長が感謝を口にすると、まるで俺達を誘う様に口を広げているダンジョンに進入す事となったのだった。


「進入開始!」


 デリック隊長の号令を受けて俺達は洞窟内へと進入したが、中は洞窟内だと言うのに松明が要らない位に明るかった。


「これは……。 洞窟の壁自体が光を発しているからこんなに明るいのか?」


 転移者達は好奇心に駆られて不思議そうにダンジョンの壁を触ったり叩いたりしていたが、どうやら彼等もラノベの愛読者の様で「ダンジョン……、ダンジョン……」とブツブツ呟きながら興奮気味に周辺を探索していた。  


「こら! 勝手に動くと逸れるぞ!?」


 フラフラと探索しに行こうとする転移者達を必死に列に戻そうとする兵士達に、俺や幼馴染達は苦笑いしながら眺めていた。


 そして、周囲を警戒しながら奥へと進んで行くと所々に小部屋があり、そこにはゴブリン、コボルト、スケルトンなどまだ脅威度が低い魔物達が生息していた。


 最初の頃はゴブリンなど弱い魔物しか出て来なかったので、デリック隊長もそこまで深く考えずに奥へと進行して行ったのだが、奥へと進むと徐々に小部屋の数と魔物の数が増えて行っている事に気付いたが、その時にはすでに大量の魔物達が待ち構える巨大なフロアに誘い込まれてしまった後だった。


「まずいな……。 敵の強さはそうでも無いが、数が異様に多い……。 このまま戦闘が続いた場合、普段から鍛えている兵士達ならまだしも、転移者達に危険が及びかねんか……」


 モンスターハウスに誘い込まれてしまった為、撤退する事も出来ない。 そんな緊張感が場を支配する中、慣れない戦闘に体力を奪われた多くの転移者達が肩で息をし始めていた。


 デリック隊長が転移者達を下がらせる指示を出すと、聖剣を手にした光輝が前に出ると一瞬で数匹の魔物を葬った。


「光輝殿!?」

「この程度の魔物は勇者の称号を持つ僕にとって雑魚同然ですから、兵士の皆さんも少し下がって休んでて良いですよ」

『ぐぎゃあぁぁぁぁ!!』


 尊大な物言いだが、勇者と言う称号は伊達じゃ無いのか、今も襲い掛かって来たゴブリンを数匹同時に切って消滅させていた。


「すまん……。 疲れた者は一度後方に下がり体力回復に努めるのだ! 体力の有る転移者達も無理の無い範囲で、魔物達を迎撃してくれ!」


 一体どれだけの数の魔物が出てくれば終わりが見えて来るのか分からないと言う焦りも有り、徐々に陣形も崩れて行き、最終的には混戦状態となってしまいエリア達とも外れてしまった。 


「グルルルゥ……」

「あ、待て!!」


 戦っていたコボルトが逃げ出したので、止めを刺そうと追撃した俺は余りにも迂闊だった……。


 通路の角を曲がったコボルトが急に断末魔の叫びを上げると、こちらにユックリと地面に倒れると石の地面に血溜まりを作ったのだ。 


「はっ?」


 何が起きたのか分からずに呆然としていると、コボルトに止めを刺し曲がり角から現れたのは……。


「な! ダリア、お前何でそこに!」


 そう、曲がり角から現れたのは口を三日月状にして笑うダリアだった。 そんな彼女は、今もクスクス笑いながら、ユックリとこちらに歩いて来る。 


「ふふふ。 最上 共也。 あなたと言う存在は、光輝様にとって邪魔でしかないのよ……消えなさい!!」


 狂気の笑みを浮かべるダリアは、赤く光る小さな水晶体を取り出すと俺の足元に叩き付けた。 

 

 咄嗟に構えた俺だったが、何が起きたか悟った時にはもう遅かった。 


 赤い……魔法陣!?


 俺の足元に赤く光る魔法陣が現れたのを確認したダリアは、わざとらしく悲鳴を上げた。


「きゃあ! デリック隊長、共也さんがダンジョンのトラップを作動させてしまったみたいですぅ!」

「何だと! な! 赤い魔法陣と言う事は強制転移のトラップか! 共也君その魔法陣から出るんじゃない! 下手なタイミングでその転移魔法陣が発動してしまえば、体が分断されてしまうぞ!」

「いっ!?」


 急いで赤い魔法陣から出ようとしていた俺だったが、流石に体が分断されてしまうと言われては足を引き戻して魔法陣の中に戻るしかなかった。


「嫌! 共也!」


 こちらに走って来ようとしている菊流の手を光輝が握り、行かせない様に妨害していた。


「離せ光輝! 共也が危ないのに私が行かなくてどうするんだ、邪魔をするなーーー!!」

「駄目だ! 先程デリック隊長が言っていただろう! 下手なタイミングであの魔法陣が発動してしまえば、菊流ちゃんが死ぬかもしれないんだよ!」

「うぅぅ……。 共也! 共也~!」


 菊流が涙を流しながら俺の名を叫ぶ姿に、あれだけダリアの行動に気を付けていたのにこの結果かに、すまない……と言う想いだけが募っていく。


 そんな中、手が出せないこの状況を遠巻きに見ていた人の隙間を移動して来た一つの影が、魔法陣の中に飛び込ん来ると同時に抱き付いて来た。


「な! エリア!?」

「えへへ……。 来ちゃいました!」

「なんて無茶を……」

「私の役目は、共也さんをこの世界で立派に生きていける力を付けさせる事ですからね。 あなたが何処かに飛ばされると言うのなら、私はそれに付いて行くだけです」

「エリア……」

「共也さん、あなたを一人になんてさせません。 それに、この収納袋があれば食糧の事は気にしなくて大丈夫ですから、私に任せて下さい!」


『ババン!』と音がしそうな程得意げに収納袋を掲げるエリアがちょっと頼もしく思えて、先程まであった何処に飛ばされるのかと言う不安が少し和らぐのだった。 


「まさか、こんな副産物が手に入るなんてねぇ……」

「ダリアお姉様……」


 先程わざとらしくではあったが、悲鳴を上げた同一人物とは思えないほど醜悪な顔をしたダリアに、俺とエリアは眉間の皺を深くした。 


「嬉しいわ~。 最上どころか、エリアまでこの世から消えてくれるとか、今日はなんてすばらしい日なのかしら!」

「ダリア、この魔法陣は何処に繋がっているのか知っているのか!?」

「うふふ、それは到着してからの、お、た、の、し、み! ようやく、ようやく私にも運が向いて来たわ。 後はクレアを処分する事が出来れば、シンドリア王国は私の手に……。 アハハハ!!」


 心の底から楽しそうに笑うダリアに対して、俺は人差し指を突き付けて宣言した。 


「必ずこの国に帰って来るさ、その時がお前の最後だ。 ダリア!」

「あらあら怖い怖い、この魔法陣の転移先から生きて帰って来る事が出来れば、話しを聞いて上げても良いわ。 ……なんてね、絶対に無理だから期待せずに待っておくわ、頑張ってね~~♪」


 余程転移先から帰って来れない自信があるんだろうな……。 だけどな、俺がいない間もお前の好きにさせてたまるものか! 


「ジェーン、与一、後の事は頼んだぞ!」

「共兄! 必ず帰って来て下さい!」

「共也! 生きて帰って来たら、私の言う事を1つ聞きなさいよ!!」


 俺は了承の意味も込めて親指を立てた所で魔法陣が激しく輝き、転移の魔法が発動した。


「共也!!」


 光が収まった時には赤く光る小さな燐光を残して、俺とエリアはその場から消え去るのだった。


「共也……、そんなのって無いよ……」


 俺達が消えた場所を呆然と眺めながら、菊流は泣き崩れ落てしまった。


 そこに現れたジェーンが、菊流の肩に置かれた光輝の手を跳ね除けると、自分の手を置いた。


「菊流姉、共兄が帰って来るのを信じて待ちましょう……」

「ジェーンちゃん……、わぁぁぁぁぁ……」

(共兄、菊流姉は必ず守り抜きますから生きて帰って来て下さいね……)


 =◇====



  転移による浮遊感も終わり目の前を覆っていた赤い光が収まった為目を開けたのだが、それと同時に凄まじい熱気が俺とエリアを襲った。


「熱っ!!」


 あまりの熱量に、俺とエリアは開けかけていた目を咄嗟に閉じる。


 その後、薄目で辺りを確認すると、そこは視界一面が砂しか映らない場所だった。


「ここは……。 まさか……」


 だが、この砂しかない場所をエリアは知っている様だった。


「エリア。 ここが何処か知っているのか?」

「多分ですが……。 この熱風と砂しかない場所……恐らくクラニス砂漠だと思われます……」

「砂漠……。 エリア、それはシンドリア王国に帰還できそうな距離にある場所なのか?」

「クラニス砂漠の何処の場所に転移したのかにもよりますが、どれだけ順調に進んでも数日でシンドリア王国に帰還出来るような距離ではありませんね……。 それだけこのクラニス砂漠は広大なんです……」

「そうか……」


 かなり長い砂漠の旅になりそうな予感を感じながらも、今はこの照り付ける太陽と熱風をやり過ごす方が先だ。 今も熱そうにしているエリアに日除けの為にマントを被せると、日陰になっている大きな岩場に身を隠す事を提案した。


「取り合えずあそこにある大きな岩陰でやり過ごして、夜になったら涼しくなるだろうから移動を開始しよう」

「そうですね、夜になれば星の位置でどちらに向かえばシンドリアに着けるのか分かりるでしょう。 今日は色々ありましたから、休む事にしましょう」


 2人で近くにあった大岩の陰に入ると、何とか一息付く事が出来た。 まだ少し暑さを感じるが、この炎天下の中を歩くよりは遥かにマシだ。


「……エリア」

「はい、どうされました?」

「どうしてあんな無茶をして魔法陣に飛び込んで来たんだ? デリックさんの言葉じゃ無いけど、下手なタイミングで魔法陣が発動してたら死んでたかもしれないんだぞ?」

「あっはは……。 最初は召喚者としての義務感で共也さんを助けようとしたのですが、魔法陣から出れないでいる共也さんを見た瞬間、気付いたら魔法陣の中に飛び込んでいたんですよね……。 自分がこんなに行動力が有っただなんて初めて知りましたよ」


 恥ずかしそうに指を交差させるエリアに対して、小さく『すまない……』と言うと、優しく微笑んで来た。

 

「ふふ。 共也さん、そこは謝るんじゃ無くて『ありがとう』ですよ。 それに転移する直前にも言いましたが、この収納袋さえあれば2人分の食料くらい困る事は無いですから、どれだけの日数が掛かろうとも生きてシンドリアまで帰りましょう!」

「あぁ……。 必ず生きて帰ろうな……」


 俺が前向きな返事をした事が嬉しかったのか、エリアは俺の肩に自分の頭を乗せて寝息を立て始めた。


 俺はもし自分1人でこの砂漠に放り出された時の場面を想像すると、鳥肌が立ってしょうがなかった。

 実際エリアの言った通り、水も食料も持っていなかった俺がこの砂漠に放り出されて一体何日生きていられたのか……。 

 そう思った俺は何時の間にか隣で眠るエリアの頭を感謝を込めて撫でていた。 


(む、むう……。 寝かけていた所に頭を撫でられたら、起きるに起きれ無いじゃないですか……。 共也さんの馬鹿……。 そう言う事は起きている時にしてくれるのが一番嬉しいのに……)


 エリアは寝かけていた自分を呪いながらも、共也に頭を撫でられる行為を甘んじて受け入れていた。


 こうして唐突にたった2人で砂漠の横断と言う旅が始まったのだが、太陽が照り付ける中、岩陰で休んでいた俺達は何時の間にか本当に寝入ってしまうのだった。 


 明日から長い旅が始まる……。


 =◇◇===


「わぁ、綺麗……。 共也さん、空一面に星が輝いてますよ!」


 砂漠に夜が訪れると空一面に輝く星が現れた。


「ほら、エリア。 綺麗なのは分かったから、まずは服を着込まないと風邪を引くぞ?」

「あ、ごめんなさい」


 収納袋から出したエリアの為に誂えた白いローブを投げ渡すと、彼女は嬉しそうに羽織ると1度クルリと周った。


「どうです共也さん、この服って私に似合ってます?」

「あぁ、エリアの白い髪と合わせてるから、とても似合ってるよ」

「!?」


 正直に感想を言われると思わなかったのか、彼女は一気に顔を赤らめるとフードを深く被った。


「エリア、どうしたんだ?」

「何でも無いです。 何でも無いですから、少しだけこのまま放置してください!」

「そうか? まぁ、そのままで良いから移動を開始しよう」

「……はい」


 歩き出した俺の服を摘まんで付いて来るエリアだったが、煌めく星空を見上げながらシンドリアがある方角を確認しながら歩いていた。 


「あの一際強く光っている星が常に北で輝いているので、あの星を基準にして歩いて行けばいつかシンドリア王国に帰る事が出来るはずです」

「あれを基準にか……。 エリア、俺達が何処に居るかまでは分からないか?」

「そうですね……。 占星術を嗜んでいる訳では無いのでかなり曖昧ですけれど、どう少なく見積もっても1、2週間で抜けれる様な距離では無い事は確かですね……」

「長旅になりそうだな……」

「はい……」 


 エリアの言葉を聞いた上で、彼女が同行してくれなかった時の事を再び想像した俺は背中に寒気を感じていた。 


「はは……。 これは俺1人で飛ばされていたら、ダリアの思惑通り確実に詰んでたな……」

「ふふふ……。 共也さん、一生このエリア様に感謝し続けて下さいよ!」

「ははぁ~、エリア様には大変感謝しております!」

「うむ、余に感謝せよ! ……ぷ! ご、ごめんなさい我慢出来ない! あはは!」


 エリアと2人でならきっとこの砂漠を踏破して、シンドリアに帰る事が出来る。


 彼女の明るさに助けられている事実に感謝しつつ、俺はこの絶望的な状況下でも生きてシンドリア王国へ帰ろう。 そう思う事が出来たのだった。


 =◇◇◇===


 クラニス砂漠に飛ばされてから、はや二週間が経った……。


 俺とエリアは朝、昼は休み、夜になった砂漠を移動するを繰り返したお陰で体力の方はまだ大丈夫だが、一向に砂漠が途切れる雰囲気が無いものだからかなり精神的に参って来ていた……。 そして……。


「エリア、あれから2週間たったが食糧の方は大丈夫なのか?」

「えぇ、食料の方はまだまだ余裕があるのですが……。 水の方が心元無いです……」

「水か……。 ここまで何日も砂漠を移動して来たけど、全く水場を見かけなかった上に雨も一切降らなかったからな……」


 俺達は水が無くなる恐怖と戦いながらも、今日も体力温存の為に日陰で夜になるのを待つのだった。


 =◇◇◇◇===


【シンドリア王国】


 エリア王女と共也が行方不明になってから2週間。


 最早何度目か分からない緊急会議をグランク王達が開いている中、貴族達もどうして良いのか分からないと言う想いで焦燥感が滲み出ていた。


「共也とエリアが行方不明になって早2週間……。 少しの手掛かりすら無いのか?」

「はい……。 今日まで2人の目撃情報は0件です……。 あの後2人を探索しながらダンジョンを完全攻略したため、ダンジョンの中に取り残されていると言う線は有りません。 ですので残った可能性としては、相当遠くに飛ばされてしまったとしか……」

「エリアちゃん……」

「【ミリア】……。 未だに情報が無いと言う状況は絶望的……か」


 グランク王や貴族達は円卓の上で指を組みながら項垂れていた。


「お父様!? エリアお姉さまを諦めるのですか!」

「クレア、私とてあ奴の親である以上、見捨てるなどと言う選択肢を選ぶ真似はしたくない……だが……」

「嫌です、私は絶対に諦めません! 必ずエリアお姉さまと共也は生きて帰って来るって信じていますから、お父様もこんな皆の居る所で弱音を吐かないでよ!」

「クレア……」


 涙を流しながら訴えて来るクレアに、グランク王は何も言えなくなってしまった。


 だがそこに、場の雰囲気を無視した相手を馬鹿にしたような声が響き渡る。


「あらあら、クレアも我が儘言わないの。 もしエリアが生きて帰って来れなかった場合は、あなたが王位継承第1位になるんだからちゃんとしなきゃ……ね?」

「ダリア姉さま……。 そう言えば共也が転移トラップを発動させてしまった時、最初に叫んでデリック隊長に知らせたのはあなただったと報告書に記載がありましたが……本当の事ですか?」

「えぇ、私が近くで魔物と戦っていたら、最上がダンジョンのトラップを発動させてしまったのが見えたので驚いしまってね?」

「そうですか……。 真実かどうなのかは分かりませんが、今はそういう事にしておきましょう……」

「あら、クレアちゃん、お姉さんにそんな意地悪い事を言うなんて可愛気が無いわよ?」

「心にも無い事をいちいち口に出して五月蠅いですね、王位継承3位の人間が!」

「なっ、何ですって!?」


 クレアとダリアが今にも取っ組み合いを始めそうな雰囲気の中、彼女等の父であるグランク王が怒鳴り声を上げた。


『いい加減にせんか! 今ここは共也とクレアの安否を話し合う場所だぞ!』

「そうでした、申し訳ありませんお父様……」

「取り合えず今までと同様に、捜索隊を編成した上で各地を探索する。 それで良いな?」

「分かり……ました」


 流石に王であるグランク王に反抗する気は無いダリアは、これ以上の不感を買えば自分がどう言う扱いになるのか分かっているらしく、今は引き下がった。 


「それで良い。 捜索隊の編成と指示は頼んだぞギード」

「はい、お任せ下さい、グランク王よ」


(ち……。 さっさとエリアが死んだ事にすれば良いものを……)


 表面上は笑顔で、だが心の中で毒づくダリア。 表面上は美しい女性だが内心は他に類に見ない程醜かった。 


 ===


【シンドリア王城内】


 場所はシンドリア城内。


 ここにはジェーン、与一、菊流の3人が、共也の部屋の中に集まり、今後の事で会議を行っていた。


「共也ぁ……」

「菊流姉、まだ2週間です。 エリア姉は収納袋を持っていたのですから、食料に関しては心配無いはずですから気をしっかり持ちましょう!」

「そう、ここにいる者は共也が生きて帰って来る事を信じてる。 菊流、あなたももそう信じているんでしょう?」

「与一……。 そりゃ共也が生きて帰って来てくれるって信じたいけどぉ……」

「まあ……。 あの光輝って人の無神経な勧誘に、嫌気が差してるのは分かりますけどね……」


 そう、時間は今から1週間ほど遡る。


 共也がいなくなった事でパーティーとして活動出来なくなっていた3人、主に菊流を光輝が自分のパーティーに加入させようとして、また勧誘を再開したのだ。


「菊流ちゃん、共也が行方不明になって1週間だ。 もうパーティーを組む理由が無くなったんだから、僕達のパーティーに入りなよ!」


 その光輝の無神経な言葉には、周りで聞いていた幼馴染達も自分の耳を疑った。


「光輝……。 あんた幼馴染の1人が行方不明になって生死不明なのに、いきなり来てまず言う事が自分のパーティーへの勧誘な訳?」

「柚葉、俺達には時間が無いんだしさ、生きてるかも分からない人間の為に割く時間なんてもったいないだけと思わないのかい?」


 その台詞には、普段お茶らけている鈴も低い声で光輝に質問する。


「お前、それを本気で言ってるのなら、今後私はお前の事を幼馴染の1人だとは思わない事にするが……。 それで良いのね?」

「鈴、それは勇者である僕を脅してるつもりかい?」

「勇者勇者五月蠅いな!! 私は今、共也が行方不明の状況で菊流を勧誘する事が正しいのかって聞いてんだ! 今ここで勇者の称号何て関係無いでしょうが!!」

「・・・・・・」


 鈴の激怒の言葉に、流石の光輝も目を剥いて黙り込んだ。


「ねぇ、光輝君。 確かにあなたは地球に居た頃は良く共也君を敵対視する事はあったけど、今ほど露骨じゃなかったわ。 あなたは本当に私達が知る幼馴染の光輝君なの? 」


 そこに魅影が優しい口調で光輝に語り掛けたが、光輝は何言ってんだ?と言う顔で口を開いた。


「当たり前じゃないか僕は黄昏光輝、この世界では勇者でありこの世界を救う者さ」


 そう魅影に返答をした彼に対し、菊流は呆れを通り超して無表情の眼差しで光輝の顔を見た。


「……あんたの言いたい事は分かった。 今まで幼馴染からの誘いと言う事もあってハッキリ答えて来なかったけど、もう止めるわ……。 ふぅ~……、幼馴染をそんなにアッサリ見限るあんたのパーティーに入る事なんて絶っっっっ対に無い! 消え失せろ! 光輝!」


 菊流のあまりの怒気を受けても、光輝は涼しい顔で答える。


「ん~~。 今の台詞ってそこまで怒るような事かな~?」

「光輝……。 お前……」

「何だいダグラスまでそんな顔して。 まあいいや、また考えが変わるかもしれないし、また来る事にするよ」

「あんたのその考えが変わらない限り、いくら来ても答えは変わらない! 私達は共也を待つんだ!」

 

 その菊流の台詞を聞いても光輝の心には一切届かないらしく、手をヒラヒラと振りながら去って行くその背中を幼馴染達と共に見送るのだった。 



 砂漠に強制転移させられこれからどうなるのでしょうかね。

次回は運命の出会いを書いて行こうかと思います。

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