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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
2章・新たな出会い。
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魔物討伐合同訓練


 光輝襲来と言うトラブルが有ったものの、魔物討伐の合同訓練が開始される前に何とか朝食を終えた俺達はテントなどを片付けると、人が集まり始めている場所を目指して移動し始めたのだが、他の転移者達の装備品が国からの借り物だと言う事に気付いた。


「ジェーンと与一は、自前の装備って用意しなかったのか?」

「用意しなかった、じゃなくて出来なかったの。 まさか装備品にかかるお金を国が代わりに払ってくれるなんて夢にも思わなかった」

「私もそうです。 共兄と菊流姉が自分の装備品をすでに持っているのを見て、お金何処から持って来たんだろう? って、ここに来る前に与一姉と話してたくらいです」

「あぁ~。 そこら辺の説明が確かに無かったですね……。 帰ったらそこは父にちゃんと説明するようにと言及しておきます」

「お願い。 だから、この合同訓練が終わったら装備品をオーダーメイドで用意するつもり」

「私もそうするつもりです。 共兄、何処かお勧めのお店ってありませんか?」

「そうだなぁ……。 俺としては一度冒険者ギルドに寄って登録した後に、ジュリアさんかバリスって言う人に紹介状を書いて貰うと少し割安で売ってくれるようになるからお勧めだ」

「国が全額払ってくれるのに?」


 いや、与一の言い分は分かる……。 分かるが、いくら国が全額出してくれると言っても、転移者全員分の装備品となれば馬鹿にならない金額になるはずだ。


 節約出来る所はしないと、転移者達の印象の問題も有ると与一に説明すると『なるほど!』と俺の説明を納得してくれた。 


「そして、お勧めの店だったな。 装備品を揃えるなら、ドワンゴ鍛冶屋。 雑貨ならオリビア雑貨店がお勧めだな」


 2人のお店を紹介した所で、三毛猫の着ぐるみを着たエストが腹を空かせて倒れている姿が頭を過ったが、この間買ってやった魔道具のお金で何とか生活出来ているだろうと思い、あの店の話題は出さない事にした。


「共也?」

「あ、悪い。 えっと、そうそう、ドワンゴ親方に鉄志が弟子入りしているから、ある程度の要望は聞き入れてくれると思うぞ?」

「なんと鉄志が……。 ほうほう……」


 鉄志を弄って遊ぼうと考えている様で、与一の口元が緩んでいた。 俺も人の事は言えないが、親方の約束を守る為に、先に釘を刺しておくことにした。


「与一、鉄志をいじって困らせようとするなよ? 親方にも、あまりいじってやるなと忠告を受けているからな?」

「むう……。 いじって遊ぼうと思ってたのに、残念」


 そんな合同訓練が終わった後の事を話しながら移動していると、俺達は何時の間にか他の転移者達が集まる広場に到着していた様だ。


 そうして暫く待っていると、デリック隊長が1段高く設置された台の上に立った事で、ここに集まった人達の緩んだ空気が一気に引き締まった気がした。 


「では、ここに【魔物討伐の合同訓練】の開始を宣言する。 アストラ、出発の合図を出せ」

「はっ! 出発だ!!」


 そして、俺達はアストラの進軍の合図を契機に、沢山の魔物が生息すると言われる森の奥へ向かって進軍を開始するのだった。


 移動している最中にも関わらず、デリック隊長自ら本日の予定を話し始めた事で、命が掛かっている皆は一言も聞き漏らさない様に耳を傾けていた。


「本日、我々は少々魔素が濃い森の中を進み、最初はボアやゴブリンと戦う兵士達を見学をして貰う。  その後、其方達にも実際に討伐する体験をしてもらうから、今の内に命を刈ると言う覚悟を決めてくれ」


『命を刈る』デリック隊長のこの言葉に一瞬ざわめきが起きたが、皆も覚悟の上でこの場に来ている事を思い出した事で、それもすぐに収まった。


「……君達がパーティー毎に行けそうだと感じたり、戦闘をしてみたいと思った者は申し出てくれれば対応しよう。 その場合は、危険だと判断するまで我々の方から手を出させないから、各パーティーで色々と試行錯誤して戦闘してみて欲しい」


 デリック隊長の説明も終わり、順調に森の奥を目指して進んで行たのだが、妙に空気が生暖かいと言えば良いのか、何と表現して良いのか分からないが常に誰かに見られている様な粘つく様な不快な感覚を感じていた。 


「何……、この気持ち悪い感じ……。 うぇ……」


 それは他の転移者達も同じらしく、少々息苦しそうな表情で歩いている。


 俺達がこの良く分からない違和感に耐えながら歩いていると、誰かが俺の横に並んで歩いていた。


「共也、やっぱりお前もこの圧迫感を感じてるのか?」

「アストラか……。 これって説明にあった魔素ってやつ影響か?」

「あぁ、初めて魔素を感じた奴は、この妙な圧迫感に精神も体力も両方を消耗してしまうんだ」

「そうなのか……。 なあ、これって慣れるものなのか?」

「あぁ、慣れる事は出来る。 実際俺も入隊したばかりの頃は、魔素に慣れさせる為に何ヵ月もここみたいに魔素が濃い場所で駐屯させられたからなぁ……」

「マジか……」

「まぁ、結局魔素に慣れるかどうかは人それぞれらしいから、何時になったら魔素に慣れる事が出来るとか決まった事はな俺には言えん……」

「分かった……。 アストラ教えてくれてありがとな」

「良いって事よ。 まぁ、頑張れ共也。 慣れれば悪い事でも無いからよ」

「え? それは一体どう言う……」

「悪い。 そろそろ列に戻らないと怒られそうだ。 共也、また後でな」


 列に戻って行ったアストラの言葉を周りで聞いていた皆は、結局どうしようも無いのだと分かり1度大きく溜息を吐くと、力無く歩を進めるのだった。 


 暫く進むと明らかに森の雰囲気が変わって来た所で、先行偵察を行っていた兵士の1人が戻って来るとデリック隊長に跪いた。 


「隊長、ボアが3匹こちらに向かって来ます」

「よし! ここは兵士達が対魔物戦闘におけるパーティー5人での戦い方をを見せる。 皆は少し離れて見学するように」

「はい!」

「転移者の皆の手本となるのだ。 無様な恰好は晒した者は、1ヵ月間の便所掃除当番を覚悟して貰うからな?」

「あはは、それは気合を入れないとですね。 行きます、隊長!」

『ブギーーーーー!!』


 その台詞と同時に、草むらから巨大な猪型の魔物が3匹現れた。


「転移者の皆は、どう動けばボアに対して有利に戦えるか、それを頭の中で考えながら見学していてくれ」


 ガンガンガン!


「ほら、こっちだ、こっちに来い!!」


 タワーシールドと言われている大盾を持った大柄の兵士が盾を打ち鳴らし、必死にボア3匹の注意を引こうとしている。


 そして、大盾を持った兵士に気を取られている隙に、他の兵士達が2人1組のペアとなり1匹づつ引き離して各個撃破して行く。


『ブ、ブギ!?』


 大盾の兵士を襲っていたボアは、仲間だった他のボアは討伐されてすでに自分だけになっている事に気付いたがもう遅い。 その後、すぐ5人の兵士に包囲されたボアは、あっけなく討伐されたのだった。 


 兵士達がボアの処理を行っている間に、デリック隊長が先程のボアについて説明を始めた。


「皆にも見て貰った様に、ボアはその巨大な鼻で敵を押し潰そうとして突進してくるが、猪突猛進と言う言葉がるようにほぼ直線にしか動かないので、慌てず横に移動すれば簡単に避ける事が出来る為、この魔物の脅威度は低い。 

 それに、倒してすぐならば肉も取れるから解体の仕方を覚えるのも手だが、魔素の影響を受けたからか正直美味しく無いし、下手をすると魔素酔いになるから食べる際は気を付けてくれ。 何か質問がある者はいるかね?」


 その言葉を聞いた人物が、デリック隊長に手を上げて発言の許可を求めた。


「発言の許可を認めよう、何が聞きたいのかね?」

「はい、そもそも魔石とは何なのでしょう? そして、出来れば採取した方が良いのでしょうか?」

「うむ、まず魔石とは何なのか。 まだ完全に解明された訳では無いのだが、学者達の研究によると動物が体内に濃密な魔素を取り込んだ事で生成される物質だと言われている。 そして、魔石の回収についてだが、積極的に採取した方が良いだろうな。

 魔石は大小の差はあるが魔力を帯びている為、様々な分野で活用されている。 分かり易く言えば魔道具の動力源だな。 冒険者ギルドなどで買い取りを行っているから、魔物を倒す機会があるのなら積極的に回収した方が良いだろう」

「なるほど。 ありがとうございました」

「次。 聞きたい事がある者は今の内に質問するように」


 その後も、俺達の質問に対してデリック隊長は真摯に受け答えしてくれている中、兵士からゴブリン襲来の知らせが届いた。


「ゴブリン5匹、来ます!」

「ギャギャギャギャ!!」


 その不快な声を聞いた俺は血塗れで横たわるリディア姿がフラッシュバックしてしまい、無意識の内に魔剣を持つ手に普段以上の力を籠めていた事にも気付いていなかった。


「共也さん、落ち着いて……」

「あ、エリア……」


 今の俺は余程怖い顔をしていたのだろう。 その事に気付き背中に手を添えて落ち着かせてくれたエリアに感謝していると、不快な声を上げながらゴブリン5匹が藪から飛び出して来た。


「ゴブリン自体はとても弱いが、君達はまだ人型の魔物を殺す事に抵抗があるだろう。 だからまずは兵士に倒してもらうから、辛いだろうがこいつ等が倒される所を目を逸らさずに見ていてくれ」

『・・・・・・・』


 その後、あっと言う間に兵士達は5匹のゴブリンを切り伏せてしまったが、辺りに漂う血の匂いを嗅いだ転移組の人達は草むらで吐いたりしていた。


「ぐ……。 共也は平気そうにしてるけど……、大丈夫なの?」


 菊流は魔物とは言えゴブリンが切り殺された場面を初めて見た様で、明らかに顔色が悪かった。 そんな彼女は、今の状況に対して平然としている俺を不思議に思っている様子だった。


 そして、俺は正直に王都での出来事を話した。


「王都が襲われた時に、何匹かのゴブリンとハイコボルトを1匹切っているから……かな。 もう慣れたよ」

「あ、共也……ごめん。 辛い事を思い出させちゃったね……」

「菊流が謝る事じゃないさ。 それに、この魔物の討伐訓練に参加した以上は、あの日の事を思い出すのは分かっていた事だしな……」

「共也……」

「共也さん……」


 こうしてエリアと菊流には、王都が魔物に襲撃された時に『何故自分達を呼びに来なかったの!』とリディアの葬儀が終わった後に散々怒られた事を思い出す。


「隊長、追加でゴブリン2匹がやってきます!」

「分かった。 転移者達の中で、戦ってみたいパーティーはいるか?」

 

 デリック隊長が、今度は転移組に命を奪う事に対して慣れて貰う為に挑戦者を募っていると、光輝が手を上げて前に歩み出た。


「そいつ等の相手は、僕がやってみても良いですか?」

「挑戦者を募ったのは私だから、戦いたいと言うのなら止めないがお前の仲間はどこにいる?」

「パーティーメンバーは後ろで見学して貰っているので、僕だけで2匹の相手をします」

「……自信があるのは良い事だが、怪我をしても知らんぞ?」

「アッハッハ! 先程のゴブリンの動きを見てましたが遅すぎでしょ。 そんな奴等が相手なら2匹同時を相手にして僕が怪我をするなんて有り得ませんよ!」

「……わかった。 だが危険だと判断したら、即介入するからそのつもりでな」

「そんな事にはならないと思いますけど……ね!」


 会話の途中で襲い掛かって来た2匹のゴブリンを、光輝はスキルで呼び出した光り輝く聖剣を使いアッと言う間にゴブリンを切り伏せてしまい、その場に血溜まりを作ってしまった。


 聖剣を消すと、光輝はつまらなさそうな顔で徐々に紫の煙となり消えて行くゴブリンを見下ろしていた。


「つまらないな……。 デリック隊長、魔物ってこんなに弱いんですか?」

「強さのランクで言えばゴブリンは最下層だからそう感じるだけだ。 ……光輝君、怪我をする前に忠告するが、あまり調子に乗らない事だ」

「了解で~~す」


 デリック隊長の忠告に対して、光輝が何処か子供じみた態度を取った事に、俺や幼馴染達は違和感を覚えたが、今はもう普通にしているのもあって気のせいかもしれないと判断して放置した。


 だが、その違和感を見逃さなかったのは、幼馴染の桃原 柚葉(ももはら ゆずは)と魅影だった。


「ねぇ、さっき光輝が見せた姿って、何だか自分の意見が通らない事があったら癇癪を起していた保育園の頃のあいつとダブって見えた気がしたんだけど……。 皆はどう見えた?」

「私も保育園の頃の光輝君とダブって見えましたが……。 共也君はどうです?」

「俺もそう見えたが、今はもう普通にしてるから良く分からないんだよなぁ……」

「そうなんですよね……。 そう見えたのは偶々だったのかもしれないですし、少し様子を見てみましょうか」

「そうだな……。 このまま何事も無ければ良いんだが、ダリアの件もあるから油断は出来ないな……」

「ダリア?」

「あ、いや、何でも無い! 何でも無いんだ!」

「??? 変な共也君ですね」


 ダリアの名をつい口に出してしまった為、魅影には怪しまれてしまった。 すると何時の間にか俺の背後に立っていた与一に尻を抓られてしまった。


(気を付けなさい、馬鹿共也)

(す、すまん……)


 与一とボソボソと話している姿に、皆が訝し気に観て来る為、俺はスキルに関する話で話題を強引に帰る事にした。


「と、ところで2人とも取得したスキルの上達具合はどんな感じなんだ?」

「う~~ん。 スキルかぁ……。 私は全属性魔法を覚えようとしてるけど上手く行かないくてさ、まだ1属性しか覚えれてないんだよ……。 でも、覚える事が出来た属性が、中二病に必須の火属性の魔法だから割と満足してるのよね」

「おぉ、柚葉の固定魔法と相性が良いんじゃないか?」

「まあねぇ~~。 後は時間を掛かっても良いから、全属性を制覇してみせるわ!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【名前】

 ・桃原 柚葉(ももはら ゆずは)


【性別】

 ・女


【スキル】

 ・魔法剣

 ・固定魔法

 ・属性魔法・火

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「私の方は元々槍術スキルが記載されてあったので、熟練度を上げる為に鍛錬してたのでスキル自体は増えて無いですね。 でも、何時か必ず一撃必殺を取得してみせます!」


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【名前】

 ・金鳴 魅影(かねなり みえい)


【性別】

 ・女


【スキル】

  ・槍術+1

  ・分体生成


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 魅影と柚葉からスキルの説明を受けた後に、俺も剣術スキルを取得した事を伝えると2人に手を握らてて喜んでくれた。


 そんな幼馴染達との和やかなやり取りを、崖の上に立つダリアは口を三日月のように歪ませて俺達を見降ろしていた。


合同訓練が開始されましたね。

次回は罠で書いて行こうと思います。

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