宿営地での一幕
「アストラ、お前が指導員として俺達の担当になったって事か?」
「そう言う事だ。 俺も部隊長の命令でここに来たら、まさかの共也達のパーティーがいるとは思いもよらなかったぜ。 偶然ってあるんだなぁ」
ほのぼのと話していると、アストラは自分が何故ここに来たのか思い出したらしく、テントを張る為に必要な楔を1つ手に取ると地面に撃ち込んだ。
「まあ、テントの設営を指導をすると偉そうに言ってるが、慣れれば誰でも出来る事だしな。 さて、共也、まずはテントを何処に建てるか決めろ。 そして、さっき俺がしたように、楔を打ち込んでチャチャっと設営出来る様になろうか!」
「スパルタだなぁ……」
「はっはっは! そう思うなら早く旅に必要な事を覚えろ共也」
それから俺達はアストラからテント設営のやり方を教えてもらい、時間は掛かったが何とかみんなでテントを張る事に成功した。
「で、出来た……。 なぁ、アストラ。 テントの設営って結構難しいんだな」
「そうか? そう言われれば確かに、俺も最初は散々教官に怒鳴られながら設営した記憶があるな……。 まぁなんだ。 様は慣れだよ、慣れ」
「そう言うものか?」
「そう言うもんだ……」
どうやらこれ以上は聞かれたく無い様なので、話しを切り上げて感謝を伝えた。
「分かったよ。 ありがとうアストラ助かったよ」
「気にすんな共也、これも仕事だからな。 しかし共也、見事にハーレムパーティーになってるが、これから気苦労が絶えないんじゃないか?」
「言わないでくれ……。 それは俺が一番気にしてるんだから……」
「プ! あはは! まあ肩身が狭いと思うなら、早めにもう1人男を探し出してパーティーに入れる事だな!」
「男か……。 そうだ、アストラ!『お断りだ』まだ何も言って無いだろ!?」
「どうせお前の事だ。 俺にこのパーティーに入ってくれって言うつもりなんだろ?」
図星だ……。
「ほら見ろ、予想的中じゃねえか。 危ない危ない。 上司の娘と一緒とか緊張でどうにかなっちまいそうだから俺は遠慮するんだよ。 まぁ共也……。 頑張れ!!」
「アストラ―……」
「まぁ、居心地が悪いとは思うが、男の夢のハーレムパーティーなのは変わらないんだ。 まぁ精々頑張れ!!」
「他人事だと思って無責任すぎないか!?」
「他人事だからな!」
「…………畜生! とっとと本部に帰っちまえ!!」
「ははは、じゃあな共也!」
一頻り笑ったアストラは座っていた切り株から腰を上げると、兵士達がせわしなく動く本隊がいる場所へと戻って行った。
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テントも無事に設営する事が出来た俺達は、丸太を椅子代わりに座りながらパーティー内での役割を決める事にした。
「こうして5人集まってパーティーとして形成する事が出来た以上、今後の為にパーティー内での役割を決めて行こうと思っているんだが……。 希望はあるか?」
まずは意見を聞いた上で話を進めよう。 そう俺が思っていると、まず菊流が手を上げた。
「菊流、何か希望があるのか?」
「希望……とはちょっと違うかな。 確かに共也の言う通り、パーティー内での役割を決めるのも大事だけど、まずは今日の夜番を決めない?」
「そうか。 まずは夜番の順番を決めないと話にならないか……」
「菊流さんの言う通りですね。 でも、夜番の順番を決める前にジェーンちゃんに1つ聞きたい事があります」
「私ですか? はい、答えられる事なら何でも良いですよ?」
「でわ遠慮なく。 ジェーンちゃん、あなたは真夜中でも起きてる事って出来そう? 重要な事なので、無理なら無理とハッキリ言って下さいね」
どうやらエリアは、まだ幼いジェーンを心配して夜番が出来るかどうかをハッキリと尋ねた様だ。
「エリアさん、心配してくれてありがとうございます。 多分ですが、まだ真夜中にずっと起きて夜番をする事は無理だと思います。 ですので、夜番をする必要がある場合は、最初にさせてもらえると助かります」
「正直に言ってくれてありがとう、ジェーンちゃん。 そう考えると最初にジェーンちゃんが夜番をする事は決定として、後は2人毎に分かれましょうか」
「異議なし」
「うん、それで良いと思う」
その後も色々と話し合った結果、今日の所は俺、与一、ジェーンの3人がまず先に夜番をする事が決まり、その後は菊流、エリアの2人が夜番をする事が決まった。
そして、今決めるべき事は済んだので、少し談笑していたのだが……。
「あ、あの菊流姉……」
「んっ? 何かな?」
「何故私は抱っこされてるのでしょう?」
「えへへ、可愛い妹が出来たみたいで嬉しいの、だからもう少しだけ抱っこさせて?」
さっき解放したばかりなのに、もうジェーンを確保して膝の上に乗せて抱きしめている菊流に呆れると同時に彼女に対して謝罪するのだった。
「ジェーン悪い……。 菊流は昔から可愛いものが大好きで、部屋の中にもファンシーなぬいぐるみが大量に置いてあるくらいなんだ……」
「菊流姉って可愛い物好きなんですね……」
「みんなで菊流の部屋に集まった時も、大きな隈のぬいぐるみが所狭しと……。 あれはちょっとした恐怖体験……」
「与一五月蠅い! あんまり五月蠅いもんだから、ジェーンちゃんの養分が吸収出来無いじゃない……」
「はぁ……。 と、言う訳なんでジェーンには悪いが、もう少しで良いから菊流に付き合ってやってくれないか?」
「わかりました……。 でも共兄も、後でちゃんと私の事を抱っこして下さいね?」
「わ、分かった……。 菊流、程々にするんだぞ?」
「うん。 ジェーンちゃんから良い匂いがする~~。 えへへ」
こいつ……、本当に俺の言った事を理解してるのか?
取り合えず菊流は放置するとして、今度こそ役割分担を決めようとして全員に希望を聞く事にした。
「それで今日の夕食当番はどうする? そう言えば与一が料理を作ってる所を見た事が無いんだが、お前って料理出来たっけ?」
「作っても良いけど、味の保証は出来ない……」
「素直に出来ないって言ってくれ……。 エリアは料理をしたことは?」
「ありません!」
「食材を切った事は……」
「無いです!」
「そ、そうですか……」
ハッキリと言い切るそのエリアの態度から『これ以上私に料理の事を聞かないで!』と言われてる気がして、泣く泣くこれ以上聞く事を止めた……。
「ジ、ジェーンはどうだ?」
「えっと、本当に簡単な料理しか作って来なかったので、具無しスープくらいしか……」
「ジェーンちゃん! 苦労して来たんだね!!」
「ううぅ! 菊流姉、苦しい!!」
「う~~ん。 俺もそこまで料理上手って訳じゃないからなぁ……。 結局料理は菊流頼りになるのか……。 菊流、夕食当番任せても良いか?」
「ジェーンちゃん、よしよし」
「……菊流!!」
未だにジェーンを可愛がる菊流は、その事に夢中になりすぎて俺の言う事が全く耳に入っていない様なので、強めに言った所でようやく気付いたらしく、返事をしてくれた。
「ん? 共也、何か言った?」
「菊流、お前なぁ……。 えっとな、菊流にパーティーの食事当番を任せたいんだが、大丈夫かって話しが出てるんだが構わないか?」
「ご、ごめん……。 食事当番ね、了解」
「頼んだ……」
俺が他の人の役割を決めようとした所、菊流がエリアに1つの提案をした。
「ねぇエリア」
「はい、何でしょう?」
「私が料理をする事が決まったけど、エリアにも食材を切ったりして貰いたいんだけど良いかな?」
「私が手伝って大丈夫です? スープすら作った事が無いんですよ?」
「ちょっと怖い気もするけど、エリアも少しは料理作りに慣れていた方が、もし何かあった時に自炊出来るのと出来ないのとでは雲泥の差よ?」
「確かに菊流さんの言いたい事は分かるのですが……。 いえ、やります。 やらせて下さい!」
「うん、色々教えて上げるから、向こうで一緒に夕飯を作りましょ! 共也、良いよね?」
「あぁ、菊流に色々教えて貰うと良いよ」
「は、はい! 行って来ます!」
菊流とエリアの2人が晩飯の調理をする為に移動して行ったので、暇になった俺達3人は夜番でも大量に必要になる薪を集める為に森に入る事にするのだった。
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「これも使え無いな……。 与一、ジェーン、そっちはどうだ?」
「無理。 湿ってとてもじゃ無いけど使えない」
「こっちも似たような物しかないです……」
薪を拾いに森に入った俺達3人だったがどうやら前日に雨が降ってしまったらしく、薪になりそうな木の枝のほとんどが湿っていて使い物にならない。
仕方なく俺達3人は、薪になりそうな枝を求めて森の奥に移動して行くのだった。
「共兄、ここら辺にある枝は乾いてるみたいですよ?」
森の入り口は湿った枝が多かったが、どうやらこの場所は雨に降られなかった様で薪になりそうな良い枝が落ちていたので、3人で手分けして拾って行った。
そして、ある程度薪も集まったしそろそろ帰るかと言いかけた時、俺達の目の前にあった森が切れポッカリと開けた場所が現れた。
「うわぁ、凄く綺麗……」
ジェーンが感嘆の声を上げるのも仕方ないと思った。 何故なら、そこには色取り取りの小さな花々が敷き詰める様に咲き誇っていたからだ。
その光景に見惚れて立ち尽くしていると、花が咲く広場の中央に金髪の髪をサイドテールにしている青眼の女性が立っていて、何故か俺達、いや俺の顔をジッと見つめていた。
そして、彼女は笑みを浮かべたままユックリと口を開いた。
「ようこそ最神 共也。 あなたがここに来るのを、ずっと待っていたわ♪」
俺達3人は目線を合わせて頷くと、警戒心を1段階上げた状態でその女性に何者なのか、そして何故俺の名を知っているのか尋ねたのだった。
「お前は何者だ? 何故俺の事を知っている!」
「あら、これは失礼。 私の名はダリア。 ダリア=シンドリア=サーシスよ」
サーシス? 確かエリアやクレアの名も……。
「ふふふ。 そうよ、今あなたが思い浮かべたエリアとクレア。 私はその2人の姉よ」
エリアとクレアにもう1人姉が居た事も驚きだが、グランク王から全くそんな情報を聞いた覚えが無い以上、はいそうですかと彼女の言葉を信じて警戒を解くわけには行かない。
「ダリア……と言ったか。 あんたはエリアとクレアの姉だと言っているが、グランク様からは2人に姉がいるとは聞いた事が無いんだが、これはどう説明するんだ?」
「ふ、ふふふ。 それはね、私が子供の頃から色々と悪さをして来たから、お父様の逆鱗に触れちゃって王位継承権を剥奪されて地方に追放されちゃったのよねぇ。 全く、ちょっと平民を殺して遊んでたからって酷いと思わない?」
「「「・・・・・・」」」
こいつ、本当にあのエリアとクレアの姉なのか? 言動の端々でどれ程頭が狂っているのか伝わって来る為、俺は嫌悪感を表に出さない様にするだけで必死だった。 2人も同じようで眉間に皺を寄せて警戒を1段階引き上げていた。
「その王位継承権を抹消されたダリア様が、平民の俺に一体何の用なんだ?」
「ふ、ふふふ」
「何が可笑しい……」
警戒心をさらに上げた俺達を前にしているダリアの口が徐々に三日月に形作り始めると、彼女のその口から予想の斜め上の言葉が発せられた。
「ねぇ、最神 共也」
「……なんだ」
「花柳 菊流。 あの赤毛の女があなたのパーティーに在籍しているじゃない?」
「あぁ……」
「ふふふ。 王家に連なる者として命令します。 あの女が、黄昏光輝様のパーティーに入るように協力しなさい」
「…………はっ?」
今、この女は何て言った? 菊流を光輝のパーティーに入れる様に協力しろ?
この女の口から出て来た言葉の意味をを、俺は暫く理解する事が出来ないでいた。
「馬鹿じゃないのか!? そんな事するわけ無いだろ、寝言は寝て言え!」
「あはは! そうよね、やっぱりそう言うわよね! でもね、私は光輝様の願いを叶える為なら、どんな手段を取ってでも叶えてみせるわ、例え相手の感情を捻じ曲げてでもね!!」
その瞬間ダリアの目が桃色に光ると、俺は徐々に思考が鈍くなって行く感覚を味わっていた。
(何だこれ……。 ダリアのあの目を見ていると、段々と俺自身が願いを叶えてやりたくなってる?)
「最神共也。 私、ダリア=シンドリア=サーシスが命じます。 花柳 菊流をあなたのパーティーから追放し、黄昏 光輝様のパーティーに入るように誘導しなさい」
「は、は……〖ペタン〗……!!」
ダリアの言葉に頷きかけた所で、俺の頭に何かが張り付いた感覚にハッと我に返る事が出来たのだった。
「お、俺は一体何を……」
「ちっ! あと少しだったものを」
「ねぇ、共也教えて、あの女に何かされたの?」
「分からない。 あいつの目を見ていると、徐々にダリアの願いを何としても叶えてやりたいって衝動に襲われててもう少しで頷きかけていた……。 2人は何とも無かったのか?」
「ええ、私は何も感じませんでしたけど……。 与一さんはどうでした?」
「私も何も感じなかった。 ダリアの目が光った後思ったら、共也の表情がどんどん変わって行ったから、やばいと思って意識を逸らせる為に玩具の矢をくっ付けてみたの。 元の共也に戻ったみたいで良かった……」
「あ~~あ。 あと少しで完全に術中に嵌める事が出来たのに、平民如きが私の術を……」
明らかに口調が変わったダリアが、苛立ちを籠めた視線をこちらに向けて来た。
「それがあんたの本性か……」
「ふふふ、それが何か?」
「開き直りか……何でこんな馬鹿な事をした? それに光輝の名前がさっきからチラホラと出て来ているが、今回の件はあいつが命令したのか!?」
ダリアは口に指を当てると、蔑んだ様な目でジッと俺を見ていた。
「アハハ! 馬鹿ねぇ、高潔な光輝様が私にそんな命令をする訳ないじゃない、。 でもね、きっと光輝様は口に出さないだけで、きっと菊流と言う女が自分のパーティーに入ってくれる事を、心の底から望んでいるはずよ! だから、私は光輝様の願いを叶える為に1人で動いてたのよ。 今回は失敗したけど、光輝様の願いを叶える為ならどんな手段でも取るつもりよ!!」
こいつ、人に状態異常のスキルを使用しておいて、全く悪びれる様子が無いんだが、どうすれば……。
「それと話は変わるんだけれど。 さっき私が地方に追放された話をしたけど、どうやってここに戻って来る事が出来たと思う?」
わざわざ質問形式で話題を変えようとしていると言う事は、どうやらその話を誰かに喋りたくてしょうがないみたいで、ダリアは俺達に笑いかけている。
「知りたくは無いが、喋りたくてしょうないんだろう?」
「あはは! そうよ、どうしてこんな事をしたのか理由を喋りたくてしょうがないのよ! 聞いてくれるかしら?」
俺達が拒否をする前に、ダリアは嬉々として語り始めた。
「実はねぇ、実は私もエリアと同じ様に異世界人を召喚するためのスキルを持っていたのよ。 こんなクソの役にも立たないスキルを授かった自分を恨んだわ。 だけど今回、大召喚を行う事になった事で、スキルで異世界人を召喚する事を条件に、王都への帰還が許可されたのよ!」
「そして、呼び出された者が……」
「そう! 光輝様よ!! その後はあなた達も知っての通り、光輝様は勇者に認定された事で、私も勇者の称号を持つ者を召喚した功績でこの国に戻る事を許された上に、王位継承権も復活したわ! クレアの下の3位だけどね!」
「だから、食事会でも、謁見の間でも、あんたを見かける事が無かったのか……」
「その通りよ! ここまで人生を変えてくれた、あの人の願いを私は必ず叶えてみせるわ……。 例え生まれ育ったシンドリア王国を傾ける事になってもね!」
「あんた狂ってるよ…」
「あはは! 確かにあんたの言う通り私は狂ってるかもしれない。 だけど私は光輝様の願いを叶える為なら、どんな手段も使ってみせる! 覚悟しておきなさい!」
その台詞を一方的に言うだけ言うと、不思議な事にダリアは空気に溶けるように俺達の前から消え去るのだった。
エリアとクレアの姉ダリアの登場ですね、今後どのように絡んでくるのでしょうね。
次回は『魔物討伐訓練』を書いてみようと思います。




