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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
2章・新たな出会い。
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兵士達との合同訓練②


「ぬ? それは私をパーティーへ誘っていると考えて良いのですか?」


 ジェーンを俺のいるパーティーへと勧誘した事が余程予想外だったのか、彼女は目を丸くして驚いている様子だった。


「嫌だったか?」

「嫌な訳ありませんよ。 私としては共兄からの勧誘なので飛び跳ねて喜びたい所ですが、パーティーメンバーのお2人は、私が入る事を認めてくれますかね?」

「まぁ、菊流はどうか分からないが、エリアはジェーンの事を知ってるから断る事は無いと思ってる。 それに、小姫ちゃん達ともジェーンを守ると約束したからな」

「共兄……。 その台詞って勘違いする女性が多いですから、そう何度も使わない方が良いですよ?」

「……善処する」


 ちょっと頬を紅く染めるジェーンに謝罪すると、先程の話しの続きをするのだった。


「2人と合流した後にジェーンをパーティーメンバーとして迎えても良いか聞いてみるから、他のパーティーから勧誘されたからと言って入らないでくれよ?」

「そんな事は絶対に無いですから安心して下さい。 共兄から直々に誘われたのですから、こちらを優先するのは当然じゃないですか」


『心外だ!』とばかりに頬を膨らませて抗議するジェーンの頭を撫でながら、俺は彼女に素直に謝罪するのだった。 


「私もパーティーに入~~れて?」

「うわ! ビックリした!!」


 頬を膨らませていじけるジェーンの姿が可愛くて油断していた俺も悪いのだが、だからと言って気配を消して話し掛けられたら誰でも驚くだろう。 


「与一! 気配を消して背後から声を掛けるなよ、ビックリするだろ!」

「やっほ、共也」


 俺を驚かせた人物は、右手を軽く手を上げて挨拶する与一だった。


「相変わらず眠たそうな目をしてるな、与一」

「…………相変わらず女だったら見境なく口説いてるんだね、共也」

「そんな事してねえし」

「へぇ。 じゃあ、専属メイドさんの事は不可抗力だって言いたいんだ?」

「俺が意図した事じゃ……って待て与一、何でお前がその事を知ってるんだよ?」

「さっきダグラスから聞いた」

「・・・・・・・」


 兵士の人達から防具の装備の指導を受けていたダグラスを見つけて目線を合わせると、ニッコリと微笑む俺の横に与一がいるのを発見した奴は、ミランダの事を喋った事がバレたと分かったのか、青い顔をしたまま何処かに逃げて行きやがった!!


 後で絶対にダグラスの腹に1撃入れる事を心に誓った俺に、与一がパーティー加入の件で再度問いかけて来た。


「ねぇねぇ。 私を共也のパーティーに入れてくれる?」

「はぁ……。 俺としては、ジェーンを加入させたとしてもまだ4人だから、与一が加入しても構わないと思っているけど。 ジェーンと同じく、エリアと菊流に聞いてからになるから、どうなるか分からないぞ?」

「うん。 ジェーンちゃんとの話を聞いてたから分かってる。 2人の答えが出るまでは、ジェーンちゃんと行動するから、結論が出たら宿営地でまた声を掛けて?」

「あれ? いつの間にか、私と与一さんが一緒に行動する事になってます?」

「嫌だった?」

「嫌な訳無いじゃないですか。 むしろ、お姉さんが出来たみたいで嬉しいです」

「…………共也、この娘頂戴?」

「やらねえよ!!」

「むう。 じゃあ良いよ、宿営地に付くまでは私がジェーンちゃんを独占するから」

「お、お手柔らかにお願いしますね、与一姉様」

「与一……姉様……新鮮な響き!」


 与一姉様と呼ばれてた事でだらしなく微笑む彼女に、ジェーンがちょっと苦笑いしていたが、嫌っている訳では無いようで安心した。


「ジェーン、与一。 エリア達には2人の事を伝えておくから、宿営地で合流しよう」

「はい!」

「待ってるからね、共也」


 ジェーン、与一の2人と別れた俺は、パーティーメンバー加入の件でエリアと菊流を探して歩き回っていたのだが、出発予定の東門の少し離れた場所から菊流の声が聞こえて来た。 だが、彼女は何故か相当イライラしているようで、長年一緒にいた俺でも聞いた事が無い様な口調で、誰かと言い争いをしている様子だった。 


「はぁ~…。 光輝、もういい加減にしてよ! 私は共也とエリアの2人とパーティーをすでに組んでいるし、冒険者ギルドで登録までしているのよ!? 今更共也のパーティーを抜けてまで、あなたのパーティーに入る理由が無いし、私は本当に迷惑してるんだから勧誘とか止めて!」


 菊流と言い争っている相手は、これから勇者として活躍しようとしている幼馴染の光輝だった。


 勇者と言う称号を得たからか王城から煌びやかな鎧を提供されて身に纏ったあいつは、今も菊流を自身のパーティーに加入させようとしつこく勧誘していたが、その姿はお世辞にも勇者の称号を持つ人物が取って良い行動とはとても思えなかった。


「そんな邪険に扱わないでくれよ菊流ちゃん、勇者の称号を持つこの僕が直接勧誘してるんだよ? 今回の合同訓練で活躍する僕の勇姿を見て、こちらのパーティーに入りたいと気が変わるかもしれないじゃないか」


 何処からその自信が出て来るのか不思議だが、頭の後ろで手を組んだままその台詞を吐く光輝に、菊流は嫌悪感をを隠そうともせず、出発する準備の手を止めて立ち上がった。  

 

「それは何? 光輝の勧誘を受け入れた場合、私が頼んで入れて貰った共也のパーティーを抜けて? あなたのパーティーに加入する可能性があると、そう言いたいわけ?」


 うわぁ、止めろ、もう止めてくれ光輝! 菊流の顔が般若みたいになってるのに気付いて無いのか!?

 うん、勇者と言う称号を得た事で、自分に酔ってる今の光輝だと気付いて無いんだろうな~~……。


「その通りさ! 僕が勇者の称号を得た以上、この国を救う義務がある。 だから、優秀な人材がいたら権力を使ってでも強引にでも加入させるのは当たり前の事さ!!」

「……あんた。 ……そんな事して許されると思ってるわけ?」

「許されるんじゃないかな? 勇者のパーティの戦力が上がるなら、きっと人類側としても喜ばしい事だろうし、案外許容範囲なんじゃないかな?」


 その台詞が決定打となったのか、菊流の顔から感情が抜け落ちたかの様にスッと真顔になる場面を目にした俺達は、彼女が光輝に対して本気で切れた事を悟った。


「へぇ……。 散々勧誘と言う手段を取っておいて、いざ私が共也のパーティーに本格的に加入したら、権力を使ってでも自分のパーティーに加入させるつもりなんだ。 へぇ~~。 あんたの事、幼い頃から頭のネジが1本は抜け落ちてるなとは思ってたけど違った様ね。 3~4本抜け落ちてる様ね……」

「酷いな、僕は正気だよ。 菊流ちゃんこそ現実を見た方が良いよ? 実際、今魔王に対抗出来る可能性があるのは、勇者の称号を持つ僕だけなんだからね。 間違っても、訳の分からないスキルを持つ男が終わらせられる戦いじゃ無い事は確かさ」

「訳の分からないスキルを持つ男って、それは共也の事を言ってるの?」

「僕は共也の事だと、一言も言って無いんだけど?」

「・・・・・・」


 切れた菊流が目を細くして光輝の事をしばらく睨んでいると、2人の険悪な雰囲気を感じ取った兵士達もどうして良いか分からず、遠巻きに見ている事しか出来ないでいた。


 落ち着け私……。 こんな所で光輝を攻撃しても問題の解決にならないわ……。 それに……。


 ざわ……。 ざわ……。


 自分の周囲が騒ぎ始めるのを感じた菊流は、落ち着くために1度大きく深呼吸をすると、ユックリと息を吐いた。


「ふぅ~…。 光輝、取り合えずもう1度だけ言うわ。 私は共也のパーティーを抜けるつもりは無いし、今回の合同訓練が終わったら私達は他国に遠征する予定が決まってるの。 だから、本当に迷惑だから、私の事が大事と思うなら今すぐ勧誘自体を止めて……。 分かった?」

「な! 菊流ちゃん、僕を置いて他国に遠征するつもりなのか!? そんな事、勇者である僕が権力を使ってでも許さないぞ!」


 この男は何処まで私の邪魔をすれば……。


 光輝とのかみ合わない会話のストレスで頭が痛くなって来たのか、菊流は眉間を指で押さえていた。


「あ・の・ね。 何で私がパーティーで遠征するのに、あんたの許可を取る必要があるのよ! 確かに私とあんたは幼馴染よ? だけど私達も先日高校を卒業して、無事に成人したわよね? 私達は、この世界で生きて行く為に、自分の考えで行動するべきじゃないの? いちいち干渉して来るんじゃ無いわよ!! 迷惑だわ!」


『ついに言ってやった!』そう菊流の顔に現れているが、どうやら彼女の声は届いていなかったらしく、光輝が急に泣き崩れたと思ったら、理解不能な事を言い始めた。


「菊流ちゃんが僕の心配をしてそんな助言をしてくれるなんて……。 ありがとう!!」

「……はぁ? こ、光輝、あんた頭本当に大丈夫?」


 だが、奴の暴走は止まらない。


「これは近い内に僕のパーティーに入ってくれると言う意思表示だね!? 待ってるよ、菊流ちゃん!」


 あぁ……。 駄目だこいつ……。


 諦めた様な表情で肩を震わせると、菊流はユックリと拳を構えた。


「私が言った言葉の、何処をどう取ったらそんな都合の良い話になるんだ!! いい加減に人の話をちゃんと聞け、この馬鹿光輝!!」


―――ドゴン!!


「グハ!!」


 とうとう我慢の限界が来た菊流の拳が光輝の腹に突き立った。


 まさか本気で攻撃されると思っていなかった光輝は、そのあまりの衝撃に前のめりに地面に倒れ込むと気絶してしまったのか、ピクリともその場から動かなくなった……。

 

 気絶した光輝をその場に放置して宿営地へ移動を開始し始めた菊流は、俺の姿を見つけると駆け寄って来ると、光輝に見せつける様に腕を絡ませると舌を出したのだった。 要するに「あっかんべー」である。 


 そして、宿営地で陣地を作る為の資材の点検が終わった兵士達と転移者達は、ユックリとだが東門から移動を開始し始めた。


「おい……。 あの勇者の尻の部分が、妙に盛り上がってるのって……まさか」

「うえぇ……、マジかぁ……」

 

 先程の光輝の異常な言動を間に当たりにしていた人達も多く、誰も光輝を起こそうとしない所か触ろうとすらしない。 そんな気絶している光輝が街道のど真ん中で気絶している為、面倒だが左右に分かれて進軍するしか無かった。 


 腫れものに触る様な態度を取る人々の中から歩み出たダグラスが大きな溜息を吐くと、無言で光輝を肩に担ぎ上げてると、宿営地に向かって移動を開始したのだった。


「はぁ~…、くっせえなおい……。 それにしても、お前ってこんなに話の通じない奴だったか?」


 白目を剥いて気絶している光輝に語り掛けるが、当然返事が返ってくるわけも無く……。


「光輝、これからもそんな行動を改めないと言うのなら、本当に菊流に嫌われんぞ? ……まぁ、それは今更か……」


 鼻をつまむダグラスの独り言は誰に聞かれる事も無く、行軍の足音に掻き消されるのだった。



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