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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
2章・新たな出会い。
30/283

兵士達との野外合同訓練当日。

 結局、唯一誘拐を依頼してきた人物を知っていたグラスが死亡したため、集まってくれた人達には申し訳ないが、解散するより他が無かった。


 その際、人身売買組織に攫われかけたテトラとアーヤの2人には身寄りが無い事が判明、そして今暮らしている家もスラム街にある様で、このままでは再び危険な目に合うと判断したミーリスが、2人を自分の家で預かる事を決めてしまい、3人は一緒に暮らす事になるのだった。


 この後、姉のテトラはすでに働く職場が決まっていたためミーリスの家から通う事に。

 そして、妹のアーヤはオッドアイの影響で魔法の適性が高い事が分かっているため、幼いながらも特例として、シンドリア王国魔法師団への入隊を認められるのだった。


 何故入団を認めたのか、その理由をグランク王のに聞くと、アーヤを狙う輩から身柄を守るためでもあるらしい。


「私の国で舐めた事をしてくれた奴を炙り出して、死ぬより辛い拷問を味合わせてやりたいからな!」


 グランク王の顔は笑ってはいたが、目が笑っていなかった……。

 

 その後、俺は姉のテトラにどこで働いているのか聞いたのだが、最近聞いたばかりの店の名前が出て来て驚いた。


「私の勤め先ですか? オリビア雑貨店で働いてますよ?」

「え……オリビア雑貨店って、あのオリビア雑貨店?」

「えぇっと他にオリビア雑貨店は王都中に無いので、合ってると思いますが……。 なるほど、共也さんとジェーンちゃんはすでに店長と会ってしまったのですね?」

「ええっと……はい……」

「なるほど! 確かにインパクトの強い店長ではありますが、とても働きやすい職場ですし、時間がある時は店長が格闘術の稽古を付けてくれたりする素晴らしい方ですよ?

 そのお陰で、今日アーヤを守る事が出来ましたのですから、店長には感謝しかありません!」


「そ、そうか……。 店に出勤した時に店長が居たら、また共也が何か買いに行くかもしれないから、その時はよろしく。 と伝えておいてくれるかい?」

「はい! 店長に伝えておきますから、また遠慮なく店に来てくださいね!」


 俺は曖昧に頷いたが、店長の弟子であるテトラがあの強さなら、その師匠である店長はどれだけ……、いや、恐ろしいから考えるのは止めておこう……。


 明日は兵士達との野外合同訓練に参加する予定が入っている為、俺は早々に就寝する事にしたのだが、誘拐を指示した男の変な笑い方と言う言葉がずっと頭に引っかかっていた。


 そして、リディア……。 兵士達との合同訓練で必ず強くなって、世界を平和にしてみせるからな!



 =◇====


【次の日の朝】


 兵士達との野外合同訓練の朝を迎えた俺は、諸々の準備を終えると集合場所に指定されている東門に向かって移動し始めた。


 俺が東門に着いた時には、多くの転移者達が東門に集まっていて、大半の人がまだ自分の装備を持っていない為。装備の貸し出しを行う兵士さんの前には多くの人が並んでいた。


 エリアの提案道りに、パーティーに必要な装備品や雑貨などを揃えていて良かった。


 東城門の周りを見渡すと、緊張した面持ちの人達が多くいる事に嫌でも気付かされる。

 そうして集まっている転移者の中に、ジェーンが兵士達から借りた物資や装備品の確認をしているのを見つけた。

 俺は足音をさせない様に、背後からジェーンに近づくと手を頭の上に置いた。

 すると手を置かれた事に気付いたジェーンが何事かと思った様で、顔を上に向け見ると俺が居たので笑顔を向けて来た。


「えへへ。 共兄じゃないですか、会えて嬉しいです。 共兄もやっぱりこの野外訓練に参加するんですね」

「あぁ、俺もこの世界で生き抜くと決めた以上は、魔物の生態や倒し方を知らないと命に係わるからな……。 それにしても、やっぱりジェーン以外の年少組は不参加なのか?」


 俺がこの質問をしたのは不味かったのか、ジェーンは自分の頭に乗せられている俺の手に、自分の手を重ねながら俯いてしまった。


「はい、演習とは言え、命に関わる事なので強制はしたくないですし……。 だから小姫ちゃんが言ってたように年少組の心象が悪くならない様に、私だけでも参加しようと決めたんです」

「ジェーンは、魔物と命のやり取りをする事が怖くないのか?」


「怖く無い、と言えば嘘になるのでしょうけれど……、私は先の戦争で両親を亡くしているのです。

 そんな私が戦災孤児として偶々(たまたま)日本に来ていた所に、この世界に召喚されたので、身寄りが無い私が死んでも、誰も悲しむ人はいないんです。

 だからグランク王が言ったように、両親がいる地球に戻れる可能性があるなら、年少組の皆には無理をして欲しくないんです……」


 悲しそうに語るジェーンの言葉を聞いた俺は、頭に置いてある手で彼女の頭を優しく撫でるのだった。


「自分が死んでも悲しむ人がいないと言うのは止めるんだ……。 ジェーンが死んだら小姫ちゃん達は、絶対に悲しむぞ?」

「そう……ですね。 共兄も私が死んだら悲しんでくれますか?」

「当たり前じゃないか、死んでも良いと思う奴の頭をこうやって撫でる訳ないだろ?」

「えへへ。 じゃあ、これからもずっと生き残れるように頑張らないとですね?」

「ああ、お互いにな?」


 俺とジェーンがお互いに笑い合い、出発の準備をしている兵士達を少し離れた場所から眺めていると、東門を抜けて近づいて来る子供が3人(小姫、風、冷)が、ジェーンの横まで来ると俺に頭を下げて来た。


「共也さん、先日は本当にありがとうございました! 本当なら私達も、この訓練に参加出来れば良かったのですが……」


「小姫ちゃん、戦う事は俺達に任せてくれれば良いんだ。 それに小姫ちゃんは錬金術で、俺達に出来ないやり方で色々な人達を助けて行くんだろう?」


「はい!もちろんです! いつか皆さんを私の錬成したお薬で助けれるように、これからも沢山精進して行くので、共也さんも私が作った薬品をいつか使って下さいね!」

「あぁ、その時を楽しみに待っているよ」


 小姫ちゃんは、俺の言葉に満足したのか小さく頷くと、懐から新たなアイテムを取り出してジェーンに差し出した。


「そうだジェーンちゃん、はい! これ」


 小さなポーチを手渡されたジェーンは、中を見てみると緑色のポーションが入った小瓶が6本収められていた。


「これはポーションですよね……。 この短期間でこれだけの量を錬成するのは大変だったでしょうに……」

「ううん、前回の反省を生かして、今回は兵士さん達にお願いして新鮮な薬草を取ってきてもらったから大丈夫だったよ! ジェーンちゃん合同演習を怪我無く乗り越えるのは当たり前として、頑張って来てね応援してる!」


 ジェーンは目に涙を浮かべていたが袖で拭い、小姫ちゃん達に笑顔で答える。


「任せてください! 私も強くなれるように努力して来ますから、皆でいつか地球に帰りましょうね!」

「うん! 風ちゃん、冷ちゃんも何か言わないと!」

「「死なない程度に頑張れ?」」

「もう……2人共……」


「共也さん、パーティーは違うかもしれませんが、ジェーンちゃんの事よろしくお願いします」


 そう言うと小姫ちゃんは、日本人らしく俺に深々と頭を下げた。


「ああ、今回の演習は兵士さん達も沢山いるんだから、何か自己が起こるとも思えないし、安心して待っていると良いよ」

「はい! ジェーンちゃん、私達はこれでお城に戻るけど、帰って来たら合同演習のお話をしてね!」

「ええ、3人とも、また後日にまた会いましょう」


 小姫ちゃん達3人は、ジェーンに手を振りながら城に戻って行った。


 ふむ……、違うパーティーか……。


 小姫ちゃん達が見えなくなると、俺はジェーンにある提案を持ちかけた。


「なぁジェーン、エリアと菊流に相談した後になるけれど、俺達のパーティーに入る気はないか?」


 俺からのパーティーの勧誘が来ると思って居なかったジェーンは、目を丸くして驚いていた。


「ぬ? それはパーティーへの勧誘と考えて良いのですか?」

「ああ、そのつもりだ」

「そうですね……。 私としては共兄からの勧誘なので喜んで受けたい所ですが、すでに組んでおられるお2人が受け入れてくれますかね?」

「まぁ、断れる事は無いと思って居るが、一応野営地に着くまでに2人に聞いてみるから、ジェーンも他のパーティーに勧誘されたからと言ってそこに入らないでくれよ?」

「それは無いですよ、共兄に誘われたのですから、こちらを優先するに決まってるじゃないですか!」


 ジェーンは俺の言葉に心外だ! とでも思ったのか頬を膨らませていた。


「なら私もパーティーに入れて欲し~い……、かな?」


 ジェーンのいじける姿が可愛かったのでつい油断していた俺は、後ろから急に声を掛けられたので本気で驚いてしまった。


「うぉぉ! 与一! 急に背後から声を掛けるなよ驚くだろ!」

「やっほ、共也」


 驚いて振り返ると、俺を驚かせた声の主である与一が軽く右手を上げて立っていた。


「俺のパーティーに入りたいって事らしいが、エリアと菊流に聞いてからになるから、どうなるか分からないぞ?」

「分かってる。 2人の答えが出るまでは、ジェーンちゃんの2人でしばらく行動しておくから、パーティーに入っても良いって話が決まったら宿営地でまた声を掛けて」

「あれ? いつの間に、私と与一さんが一緒に行動する事になったのです?」

「ふふふ、こんなお人形みたいに可愛い娘は、私が守るの」

「そ、そうですか。 では宿営地までよろしくお願いしますね、与一姉様」


 与一姉様と呼ばれて笑顔になっている彼女に、ジェーンがちょっと苦笑いしていたが、そこまで嫌っている訳では無いようだ。


「わかったよ、エリア達に加入させても良いか聞くから、演習の宿営地でまた合流しよう」

「はい!」

「待ってるからね、共也」


 ジェーン、与一の2人と別れた俺は、エリアと菊流の2人を探して歩き回っていたのだが、東門の少し離れた場所で菊流を見付ける事が出来た。

 俺が菊流に近づいて声を掛けようとしたが誰かと揉めているようで、相当イライラした口調で菊流がその誰かと言い争いをしていた。


「はぁ~…。 光輝、もういい加減にしてよ! 私は共也とエリアの2人とパーティーをすでに組んで、冒険者ギルドにまで登録しているの! 今更あなたのパーティーに入る気も無いんだから、本当に迷惑だから勧誘とか止めて!」


 菊流が言い争っている相手は勇者として扱われている光輝だった。

 あいつは王城から支給された煌びやかな鎧を身に纏い、しつこく菊流を自身のパーティーに勧誘していたのだが、その姿はお世辞にも勇者と言われる職業に付いてる人間の者とは思えなかった。


「そんな酷い事言わないでくれよ菊流ちゃん、この僕が直接勧誘してるんだから気が変わるかもしれないじゃないか!」


 その言葉を聞いて、出発の準備をしていた菊流の動きが止まった。

 

「それは何? 光輝の勧誘を受けて? 私が今組んでいる共也のパーティーを喜んで抜けて? あなたのパーティーにホイホイ入る可能性があると、そう言いたいわけ?」


 うわぁ、止めろ、もう止めてくれ光輝! 菊流の顔が般若みたいになってるのに気付いて無いのか!?

 うん、自己中の光輝だから気付いて無いんだろうな~~……。


「その通りさ! 僕は勇者としてこの国に扱われているのだからね。 優秀な人材がいたら強引にでも勧誘するのは当たり前の事さ!!」

「……あんた。 ……そんな事して許されると思ってるわけ?」

「許されるんじゃないかな? 勇者のパーティの戦力が上がるなら人類側としても喜ばしい事だろうし、許容範囲なんじゃないかな?」


「あんたが勧誘している私の意思は完全に無視するつもりなのね……。 幼い頃から頭のネジが1本は飛んでるとは思ってたけど違ったわ、3~4本飛んで行ってるわね……」


 菊流が光輝を目を細くしてしばらく睨んでいると、合同演習の為に集まっていた兵士達も2人の険悪な雰囲気を感じ取り、どうして良いか分からず遠巻きに見ている事しか出来ないでいた。

 そんな周りがざわめき始めるのを感じた菊流は、落ち着くために1度深呼吸をすると、静かに息を吐いた。


「ふぅ~…。 取り合えずもう1度だけ言うわよ光輝。

 私は共也のパーティーを抜ける気は無いし、今回の演習が終わったら私達は他国に遠征するつもりなんだから、今更勧誘とか本当に迷惑だから今すぐ止めて頂戴……」


「な! 菊流ちゃん、僕を置いて旅に出るつもりなのか!? そんな事勇者である僕が許さないぞ!」


 菊流は光輝とのかみ合わない会話に、本気で頭が痛くなって来た様で指で額を押さえていた。


「あ・の・ね。 何でパーティーで旅に出る事で、あんたの許可がいるのよ! 確かに私とあんたは幼馴染だけど、もう高校も卒業して成人してるんだから、今はこの世界で生き残るために、自身の考えでお互い行動するべきじゃないの?」


 すると光輝は急に泣き始め、意味の分からない事を言い始めた。


「そんな! 菊流ちゃんが僕の心配をしてそんな助言をしてくれるとは……、ありがとう!! これは近い内に僕のパーティーに入ってくれると言う意思表示だね!?」


 菊流が肩を震わせ拳を構える。


「私が今言った言葉の、どこをどう取ったらそんな話になるんだ!! いい加減に人の話をちゃんと聞け、この馬鹿光輝!!」


〖ドゴン!!〗


「グハ!!」


 菊流の全力の拳が光輝の腹に突き立つと、あまりの衝撃に光輝は前のめりに地面に倒れこみ、気絶したのかその場から動かなくなった……。

 

 気絶した光輝を放置して宿営地へと移動を開始した菊流は、俺の姿を見つけると光輝から解放された事が余程嬉しかったのか微笑んで合流し、宿営地で陣地を作る為に動き始めた兵士達と一緒に、東門から移動を開始しするのだった。


 先程の光輝の気持ち悪い発言を皆が聞いていたので、誰も光輝を起こそうとしない上に、気絶している光輝を避て通る為、左右に分かれて進軍を開始し始めた。

 そこで後ろから来たダグラスが、大きな溜息を吐くと無言で光輝を肩に担ぎ上げてると、宿営地に向かって移動を開始したのだった。


「はぁ~…、お前は何をやってんだよ、そんな事してると本当に菊流に嫌われるぞ? ……まぁ、それは今更か……」


 ダグラスの独り言は誰に聞かれる事も無く、行軍の足音に虚しく消されるのだった。



 その後、森の中を移動している中、近衛兵達に護衛されていたエリアとも合流を果たすと、東門で会ったジェーンと与一の2人が、俺達のパーティーに入りたいと言って来た事を伝えると、2人とも2つ返事で了承してくれた。


「ジェーンって、最近共也と良く一緒に行動していた金髪の娘だよね、共也が問題無いと思うなら良いんじゃないかな? 与一の方は良く知ってるから問題無しね」

「私も2人の加入に対して、特に反対する理由がありませんね」


「なら宿営地で、2人にパーティー加入の件は大丈夫だったと伝えるぞ?」

「はい、ジェーンちゃんは前日に会ってますし、与一さんとも会えるのは楽しみですね!」

「ジェーンって娘は人形みたいで本当に可愛いのだけれど、与一の方はかなり癖があるからエリアも気を付けてね?」

 

 その菊流の言葉に、与一のパーティー加入を賛成した事を早くも後悔するエリアだった。

 

共也のパーティーが3人から5人パーティーになりそうですね。

次回は脅迫で行こうと思います。

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