悪魔7人衆との戦い。
俺を庇って瀕死の重傷を負ったティニーを助ける。 その一心で、俺達の中で唯一呪いを解除する事の出来るエリアのいるクリスタルフォートレス城へと向かおうとしていた。
「何当然の様に私達を無視して行こうとしてるかな、行かせる訳無いでしょ!?」
だが、光輝の腕を切り飛ばした俺を悪魔達がすんなりと行かせてくれるはずもなく、今も背後から猛スピードで迫って来ていた。
だが、紫の両手剣が奴らの進行方向に突き刺さって邪魔した事で、先頭を走っていたスーリエは歩みを止めた。
「はい、スト~~プ。 ここから先は通行止めだ」
「ダグラス!」
そう、ダグラスがグラトニーを構えて奴らの前に立ちはだかってくれたのだ。
「行け共也、千世ちゃんもこの事態を把握して待ってくれているはずだ。 文字通り命を懸けてお前を守ったティニーさんを死なせるんじゃ無いぞ」
「すまない……」
急いで、だがなるべく揺らさない様に戦場を離脱した俺は仲間の行為を無駄にしない為にも、もう振り返る事はしなかった。
「ちょっと~~、邪魔しないでくれる? このままだと、光輝の右腕を切り飛ばして消滅させたあの男を殺しにいけないじゃない!」
「お前馬鹿か? そんな事を言われて、はい、そうですかって素直に通す奴何ている訳がないだろ!?」
「む~~、じゃあ良いわよ。 強引に押し通るからぁ!!」
そう言ったサキュバスのスーリエの足元に蜘蛛の巣状のヒビが入った瞬間、先程とは比べ物にならない速度でこちらに接近して来た。
速い!?
あと少しで手が届くと言う距離まで詰められたダグラスだったが、1枚の半透明の布がスーリエの腕に絡み動きを強引に止めた。
「またあんた? 面倒臭い相手ねぇ、リリス」
「五月蠅い、あんたの相手は私よスーリエ。 ダグラスさん、あなたはその全身鎧の相手をお願い!」
「リリス助かったが……。 俺の相手はこいつか~~……」
ふしゅ~~! ふしゅ~~~!
全身3Mくらいの巨体の上に全身金属の鎧に覆われて顔も見えない人物が、至る所から蒸気を漏らしながら立ち塞がった。
「お、お前が俺の相手だべか?」
「らしいな……。 で、お前の名は何て言うんだ?」
「お前に名乗った所で、死ぬお前には関係ないと思うんだべが……。 まぁ、冥途の土産にするが良いべ。 俺の名は悪魔7人衆が1人、力の【ウロボロス】……だべ。 感嘆にくたばるでねえべよ!?」
「ウロボロスか……。 確か地球に伝わっている伝承の中にも、同じ名前の悪魔がいたな、これは偶然なのか?」
これから戦う巨漢のこいつを、今一度見上げると、普段あれだけ持つだけで心強く感じるグラトニーが、マッチ棒を持っているかのようにとても心細く感じてしまう。
全身鎧の上に固そうだなぁ……、それに力も強そうだ……。 グラトニーで殴り付けたら折れないよな?
(暗黒神の因子で保護してるんだから、折れる訳ねえだろ!!)
グラトニーの叱責で黒剣の方は大丈夫だと確信したが、左手に持つ両手剣は……。
この両手剣で奴の鎧を突破するのは無理だな……。
俺は左手に持つ両手剣を仕舞うと、メリムの海龍の鱗で製作された大槌に持ち換えて構えた。
「さて、共也が千世ちゃんの元に駆けつける時間を稼ぎますかね」
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リリスとダグラスさんが、悪魔の幹部連中と戦いを開始する中、私は目の前に立つ浪人風の男に対して、飛び掛からない様に歯を食いしばって怒りに耐える事に必死だった。
ギリ。
「娘、先程から何故私を仇を見る様な目で見ている。 私とお前は確か初めて会う気がするのだが、何処かで会った事があったか?」
「いいえ、私とあなたは確かに初見同士です。 ですが、その胸に刻まれた傷を私は良く知っているわ【ベリアル】」
そのカトレアの言葉に、浪人風の男ベリアルの整った顔の方眉が跳ね上がった。
「貴様……。 何故我が名を……。 それに、何故この傷の事を知っている。 この傷の事は誰にも話した事が無いはずだが?」
「……レレイアーラ。 この名に勿論聞き覚えはありますよね?」
「レレイ……か」
和服っぽい隙間から覗く胸に刻まれた傷跡を、懐かしそうに撫でるベリアル。
「確かにこの傷を付けた者の名はレレイアーラで合っている。 だが、何故貴様が彼女の名を知っている。 彼女は何百年も昔の人間のは……ず。 待て……まさか、その年代の者と言えば役立たずのカムシンに付けた……」
「あなたの予想で合っています。 カムシンに護衛として付けた英雄バルトス。 彼に呼び出されたレレイアーラから受けた、記憶の継承の秘儀にてあなたの存在、そして彼女に何をしたのかを知りました。 迂闊でしたね、悪魔ベリアル」
「べルゼブブの馬鹿が! バリルート山脈の洞窟で偶々見つけた遺体が勇者バルトスだとしても、こうなる可能性が有るから何度も破棄しろと言ったのに!」
余程自分達の情報が漏れた事が許せなかったのか、ベリアルは両手で顔を覆って呻いていた。
「さて悪魔ベリアル、レレイアーラとの戦いからどれだけ強くなったのか分かりませんが、当時の戦いの記憶を継承した私を軽く倒せると思わない事です」
右手に持った王家伝来の蒼い金属で作られた剣先を突き付けて挑発すると、ベリアルの動きが止まった……。
そして、前屈みになったベリアルの指の隙間から赤く光る瞳孔がこちらを凝視してるのを見た途端、一気に血液の温度が数度下がった様な錯覚に襲われた。
「調子に乗るなよ小娘。 あの戦いの記憶となればディアブロ、ベルゼブブ、私の情報か……。 その情報を知る者達を探し出し全員処分すれば、活動に支障は起きない。 ただそれだけの話しだ……。 まずは貴様から……」
そう呟いたベリアルの全身から痛い程の魔力と殺気が溢れ出すと、私の周囲を覆った。
「流石、この世界を裏で操って来た者の覇気ですね。 さて、私の勇者としての剣術とレレイから受け継いだ大盾術で何処まで食い下がる事が出来るか……勝負です!」
正体を現したベリアルと勇者の称号を持つカトレアの戦いが始まる。
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少し離れた場所では、魅影が金髪を短髪に刈り上げた男と対峙していた。
「ちっ! 俺の相手は、弱そうな上に華奢な女の槍使いか……」
「私が相手では不満ですか?」
「あぁ、不満だね。 せっかく面白そうな獲物が沢山いるのに、よりにも寄ってお前の様な奴が俺の相手だぞ!? ガッカリするに決まってんだろうが!」
クス。
「あっ? 何が可笑しい女」
「あら、気に障ったならごめんなさい。 でもね、悪魔7人衆と名乗る程の者が、人を見かけで判断するとはよっぽどお強いのだろうなぁと思っただけですよ?」
「……お前、俺を馬鹿にしてるのか?」
「してますよ? 昔の不良漫画にモブとして出て来そうな恰好をしているあなたが、そうやって力の象徴だと言わんばかりに槍を見せびらかすあなたにイライラします」
「俺はモブじゃねえし【ダンテ】って立派な名を持つ悪魔7人衆の1人だ。 それに、力ある者が弱者を下し全てを手に入れる事が出来る。 地位、金、食料、全てだ!」
「……哀れですね、力を証明する事でしか己の存在価値を示せないあなたが……」
「俺を哀れと言うか……。 なら、お前は俺とは違う答えを持ってるって事か?」
「勿論あります。 武術は己と向き合い、昨日の自分より1歩でも良いから乗り越える物です。 私は人生の師匠にそう教わりました!」
武術とは、昨日の自分を1歩でも良いから乗り越えて強くなる手段。
そうハッキリとお婆様から教わった物をダンテに伝えたつもりだったが、どうやら私が言った事は彼の心に響かなかった様だ。
「くっだらねえ……。 お前の言い分は、相手を殺さなければ飯どころか命すら奪われる。 そんな状況を体験した事が無い、恵まれた者だから言える暴論だ!」
そこに、分け身のスキルで現れたお婆様が呆れて大きく溜息を吐いた。
「ふむ、恵まれた者だから言える暴論か。 確かに私達はその様な状況を体験した事が無い故、お前の言葉を否定する事は出来んかもしれん。 だが、相手を殺さないと逆に殺される? 会う人会う人、殺して奪う事しかせぬお前の理論は、暴力を正当化するだけのガキの理論ではないのか?」
「なっ!?」
「図星を付かれて動揺するか。 それだけでお前がどうやって生きて来たある程度予想が付く。 どうせ、いくら力を誇示しようとも心から付き従ってくれる者は現れなかったんじゃないのか?」
「うるせぇ……」
「まぁ、良く恥ずかし気も無く悪魔7人衆の1人だと名乗れると、その度胸には感心するよ」
「うるせえって言ってんだろうが! 良いだろう、このダンテがお前等を殺して、俺の理論が世界の心理なんだと証明してやるよ!!」
ダンテが槍を構えると、お婆様は人差し指を立てて手招きした。
「お前みたいな粗暴者が私を倒す? 百、いや千年早いわ、出来るものならやってみなさいよ、ぼ・う・や?」
ビキ!
「殺す!!」
青筋を浮かべるダンテは、槍を肩に担いだまま突進して来るのだった。
メイサさんの記憶を継承して初の実戦だ。
お婆様と一緒に戦うのなら、彼女の神技を試すには丁度良い相手かもしれませんね。
槍術の練習相手になって貰いますよダンテ!
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悪魔7人衆の内、姿を見せないディアブロとベルゼブブを除き、次々と対戦相手が決まって行く中、姑息にも全員に気付かれない様に空で隙を伺う鳥型の悪魔がいた。
「1対1での戦いを受けるとは、面倒臭い事をする奴らですね。 こうして空から攻撃すれば相手は何も出来ない上に、一方的に蹂躙できると言うのに。 まずは先手 ≪エアバレッ……≫!?」
展開していた探知魔法に引っかかる何かが、私に高速で飛んで来ている!?
「エ、≪エアウォール≫」
嫌な予感を信じて発動仕掛けていた攻撃魔法を中断し、風の防壁を張った途端空気の壁に食い込む握り拳大の形状をした物体を目にした瞬間、冷や汗が止まらなかった。
これが、もし風の防壁を張っていない状態で受けて居たら……。
そう考えたら全身に寒気が襲うのだった。
鳥型の悪魔はその物体の危険性を認識すると、飛んで来た方角を凝視してうつ伏せになっている男に目が留まった。
奴は不思議な形状の巨大な筒の先端をこちらに向けている。
奴も自分の居場所が気付かれた事を察したのだろう。
こちらを向いていた巨大な筒の先端が火を噴いた瞬間、常時発動していた探知魔法に体で受ければ即死しかねない威力の攻撃だと言う事を知らせていた。
『悪魔を舐めるな! ≪エアバレット≫』
悪魔の放った風魔法の玉と奴の放った物体は暫く拮抗していたが、限界が来たエアバレットが消え去ったと同時に筒から放たれた物体は砕け散った。
「城に引き籠って攻撃するやり方が、貴様の攻撃手段か? それなら、これを食らって死ぬが良い≪フェザーランス≫」
鳥の獣人から放たれた大量の羽根が、一直線にクリスタルフォートレス城のテラスでアンチマテリアルライフルを構えていた室生に殺到した。
(私を甘く見たな、そのまま大量の羽根に貫かれて命果てるが良い!!)
今まさに命を落としかねない程の大量の羽根が襲い掛って来ていると言うのに、室生は微動だにしない。 その答えは、2人の間に割り込んだ人物が教えてくれた。
カカカカカカカカン!!
2本の剣を持つ青髪の美女が、室生に向けて放たれていた羽根を全て華麗に叩き切ったからだ。
(なっ!? 私があれだけの量の羽根を放ったと言うのに、たった2本の剣だけで防ぎ切るとは……化け物め……。 あいつ等を攻略しない事には、他の悪魔達と戦っている人間を不意打ち出来ないでは無いか! この【ガルーダ】様がたった2人の人間に足止めを食らうとは何たる屈辱!!)
そう思った瞬間、またしても張った防壁に巨大な礫が突き刺さった。
調子に乗っていられるのも今の内だ……。 何故私が空中戦を得意としているのか、それを嫌と言う程味合わせてやる。
ここに空中での、超遠距離戦の幕が切ってお落されるのだった。
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「愛璃、奴からの攻撃を防ぐ役は任せる。 俺は必ず奴を撃ち落して見せる」
「任せて頂戴、あなたに攻撃は1度たりとも届かせないわ。 千世ちゃん、共也がティニーさんを連れて向かって来てるから解呪の準備をしていてね」
「うん。 だけどティニーさん、間に合うかな……。 ここには今も怪我や呪いを受けた人が沢山いるから、私が向かう訳にもいかないし……」
「そこは共也が急いで来てくれる事を祈る事しか出来ないでしょうね……」
「共也ちゃん、急いで……」
広間に集められた怪我人の治療をしながら、ティニーさんが到着した時にすぐ解呪に移れるように今からスキル発動の準備を始めるエリアだった。
そんな怪我人が多く集められているクリスタルフォートレスの上層の広間は、今まさに戦争中とは思えない程穏やかな空気が流れていた。
「おばあちゃん、しっかりして!」
「泣かないでおくれ、大丈夫この歌が聞こえている間は頑張れそうだ」
そう、怪我人が大勢集められた広間の中央では、木茶華がずっと歌い続けていた。
「ラ~~~~、ラララ~~~ラ~~~ラ~ラ~~~~♪」
「木茶華ちゃん、皆を落ち着かせる為にずっと歌い続けているわね……。 途中で何度も休めって言ったのにあの娘ったら聞かないんだから……」
「本当に頑固だよね……。 今の私にはこれくらいしか出来ないからって、頑として譲らないんだもの……」
「でも木茶華ちゃんがこうして歌ってくれていなかったら、こんな穏やかな雰囲気の中で治療なんて出来なかったでしょうね」
「確かにそうだね、木茶華は歌を歌ってバフを付与するしか出来ないって言ってるけど、魔力を籠めて歌う事でそれが出来るって、この世界に住む私達からしたら普通に凄い事だよね」
エリアのその言葉に、豪華なドレスを纏った人物が頷いた。
「本当に凄い事です。 エリア様の言う通り、歌を歌う事で皆を安心させる事が出来るのは彼女だけです。 しかも、歌を聞いている者にバフを付与するなんて、このノグライナ王国の女王である私にも出来ません……」
「リリーちゃん、木茶華ちゃんを見てももう大丈夫?」
「はい、誠にお見苦しい場面をお見せいたしました……」
この国のトップであるリリーが頭を下げた事に驚くが、体勢を戻した彼女は未だに自国の民の為に歌い続ける木茶華ちゃんを見て、自分の行動を後悔しているのか下唇を強く噛みしめていた。
きっとこの戦いを無事に乗り切ってみせる。 そして、木茶華に会ってからの事を謝罪するのよ。 だけど、光輝だけならまだ勝てる見込みはあったけど、彼奴の背後でコソコソ動いていた悪魔族までこの戦に参戦するだなんて……。 ジュリアお姉様、私達は勝てるのでしょうか……。
女王の証である杖を強く握り締めるリリー。
ヴォーパリアの王である光輝を退かせる事に共也が成功してくれたが、それでも嫌な予感が収まる事は無かった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
光輝は一度後退して、改めて悪魔族との戦いへと移行しました。
まだ登場していないキャラも多く居ますが、今回の戦いで必ず登場させるつもりなので楽しみにしていて下さい。




