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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
17章・激動のノグライナ王国
280/285

幼馴染の結末。

 長年の因縁に決着を付けるべく戦っていた光輝と俺だったが、光輝の体を乗っ取って降臨したトワによって身動きを封じられてしまった俺達は漆黒玉によって全滅する寸前で、駆け付けたシルと鈴によって命を助けられるのだった。


「共也、長年に渡る因縁に決着を付けようじゃないか……」


 黒く禍々しく輝く鎧の胸部から光輝の顔が浮かび上がると奴はそう宣言する。 だが、それだけでは飽き足らず、さらに漆黒に輝く4本の腕を背中から生やすのだった。


 6本の腕で武器を構えるその姿は、俺の知ってる光輝とは似ても似つかない異形の者だった。 


 親護父さん、綾香母さんの殺害を下平父に依頼したりと、俺に散々嫌がらせをして来た奴との決着を付ける事に文句は無い。 無いんだけど……。


「光輝……」

「何だ共也? 僕のこの禍々しい姿に怖気づいたのか?」

「いや……。 何と言うか……」

「何が言いたいんだよ! ハッキリ言え! イライラする!!」

「じゃあ言うが……。 何でお前の体をトワが使って、お前は漆黒の鎧なんだ?」

「・・・・・・・」


 指摘を受けた光輝は鎧となった自信を1度見渡すと、自分の体を支配しているトワを潤んだ目で見上げた……。 


「・・・・・・・光輝君、何か僕に言いたい事でもあるのかな?」

「トワ……………」

「…………はぁ~~~。 本当に僕も甘いね……。 分かった分かった、じゃあ後は君がこの戦いにキッチリ決着を付けるんだよ?」

「ありがとう! トワ!」


 鎧から光輝の顔が消えるとすぐに変化が現れた。

 黒髪黒目となっていた光輝の顔から俺の知る金髪青目に戻ると、彼奴は何度か手を握ったりして自身の力が戻った事を確かめていた。


「共也君、気付いていますよね?」

「トワの気配が消えた事なら、勿論気付いてるさ。 でも、あの漆黒の鎧と副椀は残ったままと言うのがやっかいだな……」


 シルと小声で話し合っていると、俺達を見下すような表情で光輝はニヤリと笑った。


 来る。


『ぎゃあああああぁぁぁーー!!!』


 だが、鳴り響いた絶叫はヴォーパリアの兵士達の物だった。


 そう、光輝は何を思ったのか、味方であるはずの自国の兵士達を急に切り殺したのだ。


「光輝、お前!」

「お前と決着を付ける願いをトワに聞いて貰ったんだ。 お礼として、少しばかりの供物をトワに送ったとしても、何もおかしい何て無いだ……ろ!?」


 早い!


 多数の兵士を切り殺した光輝は、今度こそ俺を殺そうとして襲い掛かって来ると、多数の腕に持つ武器を振り下ろそうとしていた。


「死ね! 共也!」

「させないわ!」


 背後に高速で移動したシルが攻撃を繰り出すが、光輝は漆黒に輝く椀で受け止める。 副椀自体が相当の硬度を持っているのか、金属同士を擦りつける様な音が響く。

 そして、光輝はシルを居ない者として、振り上げていた武器を振り下ろした。


 剣が俺に当たる瞬間、勝利を確信した光輝は今まで見た事が無い程恍惚に染まった表情をしていたが、奴は俺が獲物を持ち換えている事に気付いていなかった。 前屈みになった俺は雷切の柄を握り、今放つ事が出来る最大の奥義の名を呟いた。 


 さよならだ、光輝……。


「……神白流抜刀術奥義の壱・【瞬】」


 発動した瞬間、光輝が振り下ろした漆黒の剣の中程から先が音も残さず切断された。 


「はっ?」


 光輝の抜けた声が聞こえたが、俺は構わず瞬によって彼奴が纏っていた漆黒の鎧と副椀までもを切り裂き消滅させて行く。


「ぎゃあああああああ!!」


 全ての漆黒装備を破壊された光輝は、全身血濡れの状態で地面にうつ伏せになって何が起きたのか理解出来ていない状態だった。

 現状を理解出来ない光輝は震える腕で何とか己の体を起こしたが、そこに俺は雷切の切っ先を奴の顔の前に突きつけた。


「光輝、俺の勝ちだ」

「・・・・・・」


 うなだれたまま何も言わない光輝に俺は背を向けて、皆が待つ場所へと戻って行った。


 喜んで出迎えてくれた皆の中にいたダグラスが、いち早く俺に声を掛けた。


「止めを刺さなくて良いのか?」

「プライドの高い光輝をあそこまで完膚なきまで叩きのめしたんだ、流石にもう俺達を殺そうとはしないと思う。 それに……」

「それに?」

「いくら俺の両親の殺害を依頼したと言っても、高校卒業まで一緒に遊んで来た幼馴染と言う事実も本当なんだ。 だから、1度。 1度だけあいつが更生出来る可能性を信じたい……。 そう思ったんだ……」

「良いんだな?」

「あぁ、それにまた戦う事になったとしても次も勝てば良いだけだろ?」

「ふっ、それもそうだな。 そら、お前の嫁さん達が心配そうにこっちを見てるぞ? 行ってやれ」


 強めに背を押して来たダグラスを目を細めて睨むが、すぐにリリスや魅影達に取り囲まれてしまい有耶無耶になってしまうのだった。


「共也、やったわね! これで光輝と言う王を失ったヴォーパリアは、勝手に瓦解するでしょうね」

「リリスちゃん、ヴォーパリアが消滅する事は嬉しいけど、その後の事もちゃんと考えてるよね?」

「??? 鈴姉、この後の事って?」

「わ・た・し・た・ち・の・結婚式!」


 ざわ……。 


 鈴の一言が、俺の周りに集まっていた婚約者達の頬を否応なく紅く染めた。


「そ、そう言えば、共也は世界が平和になったら全員と結婚してくれるって言ってたよね……。 ね?」


 全員の目が期待を込めて俺を凝視して来る。


 これは間違った答えを言ったら、後で暗殺でもされかねない雰囲気だな……。 


 俺が答えを口にしようと顔を上げると気付いてしまった。 光輝が漆黒の気を手に溜めて、何かを放とうとしている事に。


「皆、俺から離れるんだ! 光輝が何か仕掛けて来るぞ!!」



 ==


 時は少しだけ遡る


 僕に止めを刺す事無く自軍に戻って行く共也の背を、歯茎から血が出るのも構わず食いしばって見送っていた。


 僕から菊流ちゃんを奪った憎き共也に、情けを掛けられて無様に生き延びる姿を大勢の兵士に目撃された以上、荒くれ者の集まりだったヴォーパリアと言う国は瓦解するだろう。


 どうしてだ! どうして僕は共也を見上げている!? どうして共也は、僕をそんな哀れんだ目で見降ろしている!?


 そんな僕を放置して自軍に戻る共也に、真っ先に駆け寄る人物がいた。 ダグラスだ。 だが、彼も1度だけこちらに視線を寄こすが、すぐに共也に視線を戻し話し掛ける。


 何かボソボソとダグラスと話した後すぐ共也を女達が待つ方向に突き出すと、皆が優しい笑顔であいつを取り囲む。


 どうしてだ……。 どうして共也の周りには、何時も心から楽しそうにする者の笑顔が溢れているんだ!? 僕の周りには何時も何時も、顔色を伺う連中ばかりしか集まって来た試ししか無かったと言うのに……。


 何故?


 何故僕から菊流ちゃんを奪った共也の、楽しそうにしている姿を見せつけられないといけない!?


 ふざけるな! ふざけるな! ふざけるな! ふざけるな! ふざけるな! ふざける ふざけるな! ふざけるな!な! ふざけるな! ふざけるな! ふざけるな! ふざけるな! ふざけるな! ふざけるな!


(何故かだって? それはね、共也君は君の事が昔から大嫌いだからだよ!)

(トワか! どう言う事だ!?)

(言葉の通りさ。 このまま共也君が生きている限り菊流君だけじゃなく、いずれダリア君すらも君から離れていくだろう……ね)

(ダリアも!?)


 焦燥感に駆られた僕は、再び共也を取り囲む人々を見ると皆が心の底から楽しそうに笑っている。

 その僕が絶対に手に入らないと言われた眩しい光景と、心の底に住むトワの心配する声を聞いた事で僕の頭の中で何かが切れる音が響いた。 


『ふざっけるなぁ!!』


 そう心の底から絶叫した僕は無意識に生成した漆黒の槍を、共也の心臓目掛けて撃ち放っていた。


 ==


「共也、逃げろ!!」


 ダグラスの絶叫が響き渡る中、心臓目掛けて一直線に飛んで来る漆黒の槍を俺は何処か他人事の様に眺めていた……。


 甘かった……。 ごめん、皆……。


 後悔の中、俺は自分の死を覚悟して目を閉じた……。


―――グサッ!!


 肉を割く音に身構えたが、不思議と何時まで経っても痛みは襲って来ない。


「ティニー!!」


『ティニー』カトレアがその名を口にした事で、俺は慌てて目を開けた。

 そこには身を挺して俺を守ってくれたティニーがいた……。 彼女の体を貫いている槍先からは、血が滴って地面を濡らしている……。


「よ、良かった……。 共也さん、無事で……」


 彼女の体を貫く槍による傷は致命傷だと分かっているにも関わらず、俺を心配させまいとして微笑む彼女を見た瞬間……。 


 プチ……。


 自分が今まで大事にしていた物が、音を立てて切れたのが自分でも分かった……。


 そこに、更生を願っていた光輝の口から聞きたくない言葉が発せられた事で、嫌でももうこいつは幼馴染の1人じゃない……敵だと認識させられた。


「と、共也と仲良くする奴らなんぞ全員死ねば良いんだ! 死ね死ね死ね死ね!! 死ねぇ!!」

「光輝ぃーーーーー!!」


 再び漆黒の槍を生成しようとする光輝の右腕を怒りのままにカリバーンで切り飛ばすと、2度と再生出来ない様に炎魔法で灰にした。 


『ぎゃあああああぁぁぁ~~!!! ぼ、僕の右腕が!!』


 転がって距離を取った光輝は往生際悪く俺に反撃する為に、左手に魔力を集中させて何かの魔法を放とうとしている。


 だがその魔法構築内容は、ミーリスに比べると遥かに劣る……。

 

 こんな奴の助命を願い出たばかりにティニーは!!


「ひ、ひぃ!! く、来るな!!」


 残った左腕でやけくそ気味に漆黒の槍を何本も生成して撃ち込んで来るが、もう何度も見た俺には通用しない!!


「これでお前との長年の因縁に決着だ、光輝ぃ!!」

「ぼ、僕は神に選ばれた人間だ、こんな所で死ぬ訳が無いんだ!!」


 そして、俺が剣を振り下ろした途端、金属同士がぶつかり合う音が辺りに響き渡った。


「済まぬが、ここで光輝殿の首を取られる訳にはいかぬのでな。 無粋だがここで介入させて貰う」


 カリバーンを受け止めている人物の恰好は、汚れた和服を纏った浪人と言う言葉がピッタリだった。


「お前は誰だ! 何故光輝を庇う!?」

「何故と言われてもなぁ……。 拙者達はトワ殿に付き従う者ゆえ、憑依体であるこいつを庇うのは当然であろう? 少々介入するのが遅かったみたいだがな……」

「お、お前等、助けに入るのが遅いんだよ! そのせいで僕の右腕が無くなったじゃないか!」

「その状況になったのは、我らの忠告を無視して前線に出たお主の自業自得であろう? それに、我々はお主のその体が生命活動を続けてさえいれば、手足が吹き飛ばされて欠損していようが一向に構わないのだが……。 なんなら、拙者が今からダルマにしてやろうか?」


 皆が居る場所に俺を弾き飛ばした男は、下らない者でも見るかの様に視線を落とすと光輝は悔しそうに下唇を噛む。


「ベリアル~、そんなに光輝を虐めたらそれを苦に自殺するかもしれないじゃな~~い。 追い込みをかけるのが悪いとは言わないけど、程々にねぇ?」


 聞いた事が無い甘ったるい声色が辺りに響き渡ると、見た事も無い赤髪と豊満な胸を強調した服を着る女が光輝の頭を掴んで持ち上げていた。


「【サキュバスのスーリエ】、放せ!!」

「……光輝ちゃん勘違いしないで欲しいんだけど、トワ様の憑依体に選ばれたあなたは確かに私が敬うべき存在よ? だけどね、さっきベリアルが言った様にその体が生命活動さえしていれば、私達は手足を落としても構わないと思っているのも本当の事よ?」

「・・・・・・」

「スーリエ、お前の言いたい事も分かるが、あまり光輝の旦那を追いつめてやるな。 俯いたまま何も言えなくなってるじゃないか」

「・・・・ちっ、分かったわよ【憤怒のラース】……」 

「流石スーリエのあねさん、賢明な判断で。 さて光輝様、ここは我ら【悪魔7傑】が受け持ちますんで、大人しく下がって治療しましょか」

「ふざけるな! 俺は共也を殺すまで『光輝様、下がって治療しましょか?』……分かった」


 切断された右手の止血をしつつ立ち上がった光輝は、目を血ばらせて一度こちらを睨むと引きずられるように後方へと下がって行く。


 逃がすかよ!!


 俺が追撃しようとして、一歩踏み出そうとした時だった。


「ケホ、ケホ!」

「ティニー、しっかりして!!」

「ジュリアさん、シルさん、ティニーさんを助けて!」

「カトレア、魅影、私達は出来る限りの出力で回復魔法を掛けてるわ! でも、呪いが邪魔をして効果が薄いのよ!!」


 軍の指揮をしていたはずのジュリアさんと、俺と一緒に光輝を相手にしていたはずのシルが、額に大量の汗を掻きながら必死に心臓に槍が突き刺さったままのティニーに回復魔法をかけ続けていた。


「駄目、逝かないでティニー……。 死んだと思われていた相手を想い続けて、やっと結ばれる事が決まったばかりじゃない!」

「カ、トレア様……。 もう、もう、良いのです……、恋し続けて来た相手を文字通り命を懸けて守る事が出来た……。 それで充分です……」

「駄目! あなたの恋路の終わり方が死に別れだなんて、勇者である私が認めない!! だから生きてよぉティニー……」


 呪いが回復魔法を阻害して効きが悪いなら、エリアならその問題を解決出来る! だけど……、クリスタルフォートレスまでティニーが保つのか? いや、保つかじゃない、俺が間に合わせるんだ!!


「俺がエリアの所まで連れて行く……」

「共也さん……。 ならあの悪魔共の相手は私達が受け持ちます……。 だからお願い、ティニーを助けて上げて……」

「分かった……」


 俺の胸の中で涙を流しながら懇願するカトレアに精一杯頑張る事を誓った。


「ティニー、痛むかもしれないが我慢してくれ」

「共也さん……。 お願いします……」


 出来る限りユックリとティニーを抱き上げるが、漆黒の槍が揺れて痛覚を刺激してしまうらしく呻き声を上げる。


 だけどこの槍を今抜くと、ティニーが即死しかねない……、どうすれば……。


 思い悩んでいると、ダグラスが俺の前で黒剣を抜き立ち塞がった。


「グラトニー、構わないな?」

(ティニーの嬢ちゃんは知らない仲じゃ無いからな、だがダグラス呪いが強力過ぎて全部を食うのは無理だって理解してるよな?)

「分かってるさ……。 共也、動くなよ。 手元が狂うと状況が悪化しかねないからな」

「ダグラス、グラトニー……。 頼む」


 瞬間、黒剣から放たれた黒い何かがティニーを貫く槍を包み込んだ。


 ボリ、ゴリ、ゴリ……、ゴクン。


(まっじぃ……。 呪いの力を持つ槍ってこんなに不味かったっけ???)


 グラトニーのその言葉と同時に黒い光が戻って行くと、ティニーを貫いていた漆黒の槍が前後から無くなっていた。


 これなら!


「グラトニー、ありがとう!」

(感謝は良いからさっさと行け、時間が無いのは変わらないんだぞ)

「行け共也、クリスタルフォートレスで待つエリア嬢に呪いを解除して貰え!」


 親友とグラトニーに感謝の言葉を伝えた俺は、エリアならきっと何とかしてくれると思い弾かれたようにクリスタルフォートレス城に向けて走り出した。


「【共生魔法・回復魔法】」


 気休めかもしれないが少しでもティニーの痛みを和らげる為に、回復魔法を発動させたまま俺は走り続けた。


 死ぬな、死なないでくれ、ティニー!!





光輝との戦闘でティニーが共也を庇い負傷。 急遽エリアに呪いを解除して貰う為に、共也がクリスタルフォートレス城に戻る事になるのだった。


 更新が遅くなって申し訳ない。



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