王都の動乱③。
未だに激しく燃え盛る南門近くで何人もの市民達を助け出した俺達は、彼等がこの災難を無事に乗り越えられる様に避難場所を指し示した。
「皆さん、せっかく生き残ったのですから、今一度頑張って冒険者ギルドまで避難をして下さい。 あそこなら回復魔法を使える冒険者が沢山いるはずです」
「だけど俺達、着の身着のままで逃げて来たから、治療費を払える金銭など持ち合わせていませんよ?」
「もし治療費を請求されるようなら、私の名を出して構いません。 だから急いで避難して!」
「は、はい。 まだ沢山の魔物達がいるはずです。 ジュリアさんも気を付けて……」
冒険者ギルドに避難しようとしている人達は至る所に血を滲ませている人がほとんどで、中には今にも倒れそうな人もいる。 そんな状況を目撃して、ジュリアさんが黙って行かせる訳が無かった。
「皆、待って」
「え?」
「完治するまで回復魔法を使う訳にはいきませんが、止血するくらいならあまり影響が無いでしょう。 ですから、今からあなた達に回復魔法を掛けますので大人しくそこに立っていて下さい」
まだどれだけのコボルトが生存しているか分からないこの状況で、貴重な魔力を使い切る訳にはいかない為、止血程度の回復魔法を掛けて上げると、彼等は先程よりはマシになったのか、ユックリとだが冒険者ギルドに向かって歩き出した。
「なぁ共也」
「何ですか、バリスさん?」
巨大な両手斧を肩に担いだバリスさんは太い腕を腰に当て、ここから去っていく群衆を納得いかない顔で眺めて居た。
「いやな。 何で冒険者ギルドマスターの俺がここに居るのに、皆ジュリアさんばかりにお礼を言ってるんだと思う? 俺ってそんなに存在感無いのか?」
あ~~。 うん。 バリスさん、それは俺にも言える事だから止めて?
「多分ですが、ジュリアさんは毎日ギルドの顔として受付に立ってるから、親しみやすいって言うのが大きいんじゃないですかね?」
「本当にそれが理由ならまだ納得出来るんだが、助けに入った俺に誰1人としてお礼を言って来ないのはなぁ……」
割と本気で凹んでいるバリスさんを横目で見ていると、杖の先端を地面に叩き付けた事で乾いた音が辺りに響いた。
「ホラ、バリスちゃん、共也君、まだ魔物達は沢山いるんだから、そんな所でボ~~っとしないの!」
「分かったから、分かった。 少し待ってくれ……って! ジュリアさん後ろ!」
「グルアアァァァァ!!」
「しまった!」
―――ガギン!!
「共也君!」
ギチ、ギチギリリ!
「グルルルルル!!」
ジュリアさんを、背後から不意打ちをしようとした個体は、恐らく体の大きさから考えて上位種のハイコボルトだろう。
剣で噛みつきを防いだ俺は暫く拮抗した後、ハイコボルトを後方へと弾き飛ばす事に成功したが、奴はまずは邪魔をした俺を排除しようと考えたらしく、俺を起点とした円を描く様に旋回し始めた。
奴の脚力では射程内。 だが、俺の剣では範囲外と言う微妙な距離を取るハイコボルトに対して、何時襲われるか分からない恐怖の中で冷や汗が止まらなかった。
落ち着け。 リディアの仇を取るんだろ!?
一度大きく深呼吸した俺は、どんな効果があるか分からないがやらないよりはマシと判断して、ドワンゴ親方に託された魔剣に魔力を流して樋を薄く光らせると、剣先をハイコボルトに向けた。
「共也君、まだ今のあなたではそいつには……」
ジュリアさんの言いたい事は俺自身が一番分かってるけど、俺は……!!
「ジュリアさんの言いたい事は十分に分かってます。 でも……、お願いですからこのままやらせて下さい! 世界を救おうとしているのに、こいつくらい余裕で倒せるようにならないと、死んだリディアに合わせる顔がありません……」
「共也君、あなた……」
ジュリアさんは暫く悩んでいた様だが、俺の意思を汲んでくれたらしく、ユックリと頷くと条件付きだがこいつの相手をする許可をくれた。
「条件は【付与魔法・身体能力上昇⦅小⦆】を掛かった状態なら許可をします」
「感謝します、ジュリアさん……」
「ですが、まだまだ沢山の魔物やこの群れを指揮する存在を倒していない以上、そんなに時間を掛けられ無いのも事実です。 だから、身体強化魔法の効果時間内に決着を付けなさい。 その効果時間が切れた瞬間に、私達が介入して討伐するわ。 良いわね?」
「分かりました」
樋が薄青く光る魔剣を力強く握ると、俺は頷いた。
「お、おい、ジュリアさん本当に共也に、ハイコボルトを1人でやらせるつもりなのか? いくら何でも無茶だろ!?」
「なら冒険者ギルドを出る時に言った様に、私がサポートに回るから決して共也君に怪我をさせないわ。 バリスちゃん、それなら構わないかしら?」
「……ジュリアさん、どうしてそこまで共也にやらせ様とするんだ? 下手をすると、彼奴はこの戦いで潰れてしまうぞ!?」
「えぇ、バリスちゃんの言う通りかもね。 でも、ここで仇を取らずに引いたら、共也君はきっと戦場に立てなくなるわ。 バリスちゃんも今まで何人も似た理由で潰れる新人を見て来たから分かるでしょ? 彼に取って今ここが、立ち直れるかどうかの分水嶺だって」
「・・・・・・・・・」
毛髪の無い頭を何度も掻くバリスさんは、俺達2人の説得を諦めたのか空を仰ぎ見た。
「あぁ、クソ!! 共也、絶対に勝てよ!! 負けたら許さんからな!!」
「はい。 2人共、ありがとうございます。 行って来ます……」
俺は2人に軽く頭を下げて感謝を伝えると、巨大な石剣を油断なく構えてながら笑みを向けるハイコボルトに向かい合った。
「ジュリアさん、本当に行かせて良かったのか?」
「ええ、若い子が自分の壁を乗り越えようとしてるのを助けるのは年長者の役目よ」
「年長者か……。 やれやれ、子供頃散々ジュリアさんに可愛がられた俺も、遂にそう言われる歳になっちまったか……」
「ふふ。 子供達の成長を見届ける事が出来るのはエルフの利点ではあるけど、皆私より先に死んじゃうのは欠点よね……。 ねぇ、バリスちゃん……」
「何だよ?」
「長生きしてね?」
「…………あぁ」
俺のサポートをする為に杖に魔力を通し始めたジュリアさんは、バリスさんに他の助けを求める者達を救いに行くように促した。
「ここは私と共也君に任せて頂戴。 バリスちゃん、あなたは今も助けを求める人々を助けに行って上げて」
「それしか無いか……。 分かった、ジュリアさんの指示に従おう。 だけどな、共也は将来有望な冒険者なんだから、こんな所で潰さないでくれよ?」
「愚問よ。 そんな心配をするより、さっさと困ってる人を助けに行きなさい!」
「へぃへぃ」
巨大な両刃斧の重量を物ともせず背負ったバリスさんは、目を疑う様な速度で未だに悲鳴が上がる街中に向かって走って行くのだった。
「グルルルルル!!」
そうだ。 今は自分の事に集中しないと……。
「お前は直接あの娘を手に掛けていないが、お前達がこの街に攻めて来なければ沢山の人が死ぬ事も無かったし、リディアは今も笑っていられたはずだ……。 お前等があの娘を殺したんだ!! ああああああ!!」
『グルアァァァ!!』
同時に切りかかった事で剣と石剣がぶつかり合い、火花を散らせる事となった。
―――ガギン! ガガガン!! ガン!
ジュリアさんが掛けてくれた補助魔法のお陰で、今も力負けする事無くハイコボルトと鍔迫り合いをする事が出来ているが、少しでも力を抜くと押し切られそうだった。
そんな俺を好敵手とでも思ったのか、奴は口を歪め笑ったのだ。
お前等が! お前等がこの都市に攻めて来たせいで多くの人が死んだ! なのにお前はそうやって口角を上げて笑うのか!!
―――ガン! ガガン!
「リディアと触れ合った時間は短かったけど、大した力の無い俺に『ありがとう』って言ってくれたんだ! そんな彼女をお前達が、お前達があぁぁぁぁ!!」
「グ!?」
何故かハイコボルトが焦りを含んだ表情に変わり、俺の繰り出す斬撃を石剣で受ける事を極端に嫌う様になって行った事に、頭の中で疑問符が大量に浮かぶのだった。
(何だ? 何であいつは俺からの攻撃を受ける事を嫌い始めた? 考えろ!)
そして、俺は気付いた。 奴の視線が俺では無く剣の方に向いている事に。
剣?
視線を奴から外すのは怖かったが、一度距離を取って自分の持つ剣を見て驚いた。 どうやら俺は無意識に普段より多くの魔力を魔剣に注いでいた様で、樋だけで無く両刃も薄青く光っていた。
これか!!
何故斬撃を受ける事を嫌い始めたのか、その理由が分かった以上もう遠慮する必要は無いと判断した俺は両刃が蒼く光る剣を、ハイコボルトの持つ石剣に叩き付けた。
奴が片目を閉じて『しまった!』と言う顔をしたと同時に、石剣がひび割れて欠片が次々に地面に落下して行き、今にも石剣自体が崩れ落ちてしまいそうになっていた。
(共也君の持つ魔剣が薄青く光り始めてからと言う物の、動きもそうだけど明らかに剣の攻撃力が増したわね。 あの魔剣を、あの子は一体何処から手に入れたのかしら……)
いくら身体強化の補助魔法があるとは言っても、所詮効果は弱だ。 最初は内心冷や冷やして見ていたジュリアさんも、ハイコボルトの動きに拮抗しだした俺を驚愕の眼差しで見ていた。
「ああああああ!!」
『グルアァァァ!!』
そして、遂に互角に打ち合い始めた俺に、ハイコボルトは最初の頃の人を馬鹿にした様な表情では無く、一人の戦士の表情をしていたが遂に均衡が崩れる時が来た。
―――バギン!!
『グ、グルァ!?』
そう、ハイコボルトが持っていた石剣が、俺の魔剣との衝突に耐えられ無くなって砕けたのだ。
石剣が砕けた事で動揺している隙を見逃さずハイコボルトの両手を切断すると、その勢いのまま首を落とそうと剣を構えたが、最後の悪足掻きとばかりに口を大きく開けて奴は俺の肩に噛みついて来た。
「ぐああああ! 痛ってぇ……」
「共也君!」
「だ、大丈夫です、もう終わりました……」
「終わったって……」
肩に噛みついたまま動きを止めたハイコボルトの背中から、俺の魔剣の刃先が顔を出しているのを確認したジュリアさんは、安堵して杖に込めていた魔力を霧散させた。
ユックリと地面に倒れ伏したハイコボルトは紫の煙となり消滅した。 奴がいた場所には大き目の魔石が1つ転がるのみだった。
「共也君、まだ危ない場面が多々ありましたが、まずはお疲れ様。 その傷、感染してしまう可能性があるので、さっさと回復魔法で治してしまいますね」
「はい、お願いします……」
「【回復魔法・解毒】【回復魔法・ヒール】すぐその傷も塞がりますし、どうやら魔物達を率いていた大物も討伐されたようですね」
『魔物達を率いていた大物が討伐された』と言う言葉に反応するべきなんだろうが、俺は今何気なく2つの魔法を同時に発動させたジュリアさんの技術に驚愕してそれどころじゃ無かった。
これってかなり高度な技術じゃ……。 後でミーリスに聞いてみよう……。
「共也君、聞いてます? 勝鬨を上げている兵士達の声が聞こえませんか? と聞いてるのですけども?」
「え?」
『え~~~い、え~~~~い、お~~~~~~!!』
『え~~~い、え~~~~い、お~~~~~~!!』
確かにジュリアさんの言う通り、バリスさんが向かった方角から勝鬨の声が聞こえて来ていた。
「共也君、あなたがどんな思いでハイコボルトと戦うと決意したのか私には何となく分かるけれど、これだけは覚えておいて」
「な、何でしょう?」
「あなたが死ぬと、悲しむ人が近くに沢山いるって事をね」
「えっと……」
「あなた、エリアちゃんと菊流ちゃんの2人とパーティーを組むんでしょう?」
「はい……」
「エリアちゃんはどうか分からないけれど、菊流ちゃんはあなたが死んだ場合、絶対に後を追うタイプよね?」
「俺と菊流は幼馴染と言うだけで、そんな関係じゃ……」
「そ・う・だ・と・し・て・も・よ! 今回みたいに自分の命を軽く扱うのだけは止めなさい。 お姉さんと約束出来る?」
「えっと……」
「良・い・わ・ね?」
「はい……」
ジュリアさんの綺麗な顔が、俺の鼻に振れるかどうかの距離まで近寄られた事で動揺してしまい、そのまま約束させられてしまうのだった。
「よろしい!」
言質を取って満足したジュリアさんはニッコリ笑って離れてくれたが、先程の彼女の笑顔を思い出した俺の心臓が痛い位に脈動していた。
ようやく長い1日が終わった……。
そう思っていると、顔を水滴が濡らした。
雨か……。
ポッ ポッ ポポ サーーーー。
雨が降り出した事で都市南部を包み込んでいた炎が徐々に小さくなり、次々に鎮火されて行くのだった。
「流石はミーリス様だね、南門付近で燃えている建物に限定した上で雨を降らせるなんてね」
「え、この雨はミーリスが降らせてるんですか?」
「そうだよ、南門がある真上の外壁に立って、腕を天に向けている人物が見えるでしょう?」
ここからだと微かにしか見えないが、確かに南門の真上に立つ小さな獣人の女の娘がいるのが見える。
「本当だ……。 実はミーリスって凄かったんですね……」
「そうね、見た目はあんなに小さいけれど、シンドリア王国の魔法大隊長を任されているんだから本当に凄い人物なのよ?」
「……今度からは、もう少し敬意を払う様にします……」
「それがお互いの為ね。 ふふ」
こうして残敵処理も、後は兵士達の仕事と割り切った俺達は冒険者ギルドに戻ろうとしたが、先を歩いていたジュリアさんが急に立ち止まった。
「ジュリアさん?」
「冒険者ギルドに戻る前に、共也君がハイコボルトの討伐に成功した報酬として、これをあなたに進呈するわ。 【ボックス】」
『ボックス』その宣言と共に、ジュリアさんの手には1本の白いユリに似た花が握られていた。 そして、それを俺に手渡して来た。
「これは?」
「この世界の花言葉で『鎮魂』を表す珍しい花よ。 明日、今回の犠牲者達の合同葬儀が行われるでしょうから……。 共也君、あなたには必要な物でしょう?」
「あ……」
その瞬間、目から涙が溢れ出してしまい止める事が出来なかった。
「はい……。 ありがたく……頂きます……。 う……」
今日1日で起きた事を思い出した俺は両膝を付くと、両手で白い花を包み込むと胸に抱き寄せた。
目を閉じてリディアの事を思い出していると、唐突に顔が柔らかい何かに包まれる感覚に襲われた。
「共也君、今ここには私と君しかいないわ。 だから今の内に胸に貯めた想いを吐き出してしまいなさい。 私はそれを黙って聞いてて上げる」
顔を包み込む柔らかい感触はジュリアさん胸だったが、彼女が一緒に居てくれる。 その安心感に包まれた事で俺はついに我慢が出来なくなり、ジュリアさんの胸の中で思いっきり泣き出してしまった。
「ジュリアさん、俺は、俺は!!」
「良いよ、思いっきり泣きなさい。 その涙はこの雨が誤魔化してくれるわ」
「わあああああああああぁぁ……!」
こうして、シンドリア王都南地区全体を巻き込んだ魔物達の襲撃も、グランク王達、近衛兵、魔導士隊の活躍もあり終わりを迎えたのだった。
=◇===
次の日となり、魔物の群れを指揮していたのはコボルトジェネラルと言う事が判明。
だが、グランク王、デリック隊長、ミーリスの3人を相手にするにはコボルトジェネラルでは力不足だったらしく、見つかった瞬間周囲に一緒にいた魔物共々瞬殺された様だ。
そして今日、今回の魔物の襲撃で亡くなった犠牲者を合同で埋葬する事が、グランク王の一言で急遽決まったのだった。
合同葬儀が行われる事となった共同墓地に来ている俺の前には、1つの小さな棺桶が置かれていた。
「リディア……」
そう。 この小さな棺桶の中には、リディアが眠っている。 彼女は自分の事を孤児だと言っていたからせめて葬儀だけでもと言う想いでリディアが過ごしていた孤児院を探し当てたが、その孤児院とそこで暮らしていた子供達も、今回の魔物の襲撃により全員が……。
その為、リディアの棺桶に花を供える者は、俺以外誰も現れる事は無かった。
別れを惜しんですすり泣く声が辺りから聞こえて来る中、葬儀を執り行っていた兵士の言葉が響く。
「これから棺桶に釘を打ち込んで行くから、最後に別れを言いたい者は今の内に済ませておくように!」
棺桶の蓋をずらして中で眠るリディアの胸の上に、俺がジュリアさんから貰った1輪の白いユリの様な花を供えると、最後に一度だけリディアの柔らかそうな銀髪を優しく撫でて別れを惜しんだ。
「お兄ちゃん……」
その声に反応して後ろへ振り向くとそこにケイトが、両親と思われる人物と共に俺と同じく白いユリの様な花を1輪持って立っていた。
「ケイトちゃん……。 ごめん、君を助けたお姉ちゃんを助けて上げられなかった……」
俺の言葉を聞いたケイトは、ユックリと首を横に振る。
「ううん。 お兄ちゃんのせいじゃ無いよ……。 元を辿ったら、私が……お父さん達と逸れたから……お姉ちゃんが私の身代わりに……。 ううううぅぅぅ……」
そこにケイトの両親が、俺とリディアが眠る棺桶の前に歩み出ると深く頭を下げた。
「あなた達2人がケイトを救ってくれたお陰で、この娘と生きて再会する事が出来ました。 私がどれだけ感謝しているか言葉で言い表せない位だが、あえて言わせてくれ……。 ケイトを助けてくれてありがとう、感謝している……」
お父さんが俺達に頭を下げている間に、ケイトがリディアの棺桶に持って来ていたユリの様な花を入れた。
「お姉ちゃんが助けてくれたお陰で私、生きてお父さんとお母さんに再会する事が出来たよ……。 お姉ちゃんが命を懸けて繋いでくれたこの命で、何が出来るのかまだ分からないけど、お姉ちゃんが助けた事を後悔しないくらい立派に生きて見せるから、天国で見ててね……。 わあああああああああん!」
「ケイトおいで……」
「お母さん……」
「リディアさん、これは私と夫から……」
ケイトの両親がリディアの棺桶に、俺が供えた同じ白い花を2輪入れるのだった。
そこに、俺と同じくゴブリンの魔の手からリディアを救い出した3人が手に花を持って現れた。
「共也お兄さん……」
「小姫ちゃん、風ちゃん、冷ちゃん……。 それにジェーンや皆まで……」
「共也さん、私達もこの花をリディアちゃんに献花して良いですか?」
エリア達の手には、俺と同じく白いユリの花が握られていた。
「エリア……。 それに、皆もありがとう」
そして、皆が次々に献花して行くと、リディアの眠る小さな棺桶の中はすぐに白いユリの花でいっぱいになったのだった。
そして、遂に兵士がリディアの棺桶に釘を打ち付ける番になった。
「最後にもう1度だけ、顔を見ても良いですか……?」
「はい、時間は大丈夫なので、ユックリと最後のお別れをして下さい」
最後にもう1度だけリディアの顔を見ようと棺桶の中を覗くと、気のせいだろうけれど、棺桶の中で眠るその顔は、どこか嬉しそうに笑っている様に見えた……。
「ありがとうございます……」
リディアの棺桶から離れた事を確認した兵士は釘を打ち付け終わると、神父の様な恰好をした人物が葬儀を執り行い始めた。
遂に彼女とのお別れの時が近づいて来た。
「それでは埋葬いたします……」
ユックリと墓穴に下ろされた、リディアの棺桶に土が被せられて行く。 そして埋葬も終わり、兵士達の手によって小さな墓石が立てられたのだが、どうやらグランク様が気を聞かせてくれたらしく、リディアの埋葬を最後にしてくれた様だ。
「今回の事で、我が国の課題として防衛の甘さを知る事となってしまった……、犠牲となった者達に私は誓う。 必ず戦争を終わらせ、平和な世界を築く事を……。
だから、あの世でこの約束が達成される日が来る事を、天国で見守っていてくれ……」
グランク王の言葉が終わるとデリック隊長が前に出て来て、墓地に向かって黙祷の号令をかけた。
『黙祷!』
黙祷を止めた兵士達が最後に抜剣して正面に構えた事を合図に、今回魔物の襲撃によって沢山の死者を弔う合同葬儀の終わりを告げたのだった。
一陣の風が共同墓地に吹き抜けると、俺達の頬を撫でると同時に草花を巻き上げて空に舞い上がったのだった。
遠ざかっていく草花を見て、俺はリディアが語った想いと、彼女が夢見た未来を必ず実現して見せると自分自身の新たな目標として心に刻むのだった。
今回で王都動乱は終わりとなります。 次回からまた新たな話しになりますのでご期待下さい!




