2人の因縁。
―――ガン、ガガガガガ!
戦場で対面した俺と光輝は、全力での切り合いを無言で始めた。
「こ、光輝様、我々も援護に『こいつとの戦いに横やりを……入れるなーーーー!!』ぎゃああぁ!!」
1対1の戦いに割り込もうとしたヴォーパリア兵は容赦無く光輝が切り捨てて行く為、周りにいる者遠は遠巻きに見守る事しか出来ないでいた。
「お前さえ……、お前さえ居なければ、菊流ちゃんの笑顔は僕の物だったんだ! そして、10年前のあの日、彼女の命を僕自身の手で刈り取る事なんか……。 う、うわああああああぁぁぁぁ!!」
「何が菊流の笑顔は僕の物だっただ! 確かにお前は彼女に惚れていたのかもしれないが、菊流を1人の人間として見ていたのか!?」
「1人の人間? そんな物に何の価値があるって言うんだよ! 現に僕は1国の王と成り、こうして大勢の兵士に「死ね!」と命令出来る。 これは僕が今までやって来た事が正しかった事への証明だろうが!!」
その台詞に俺は光輝と鍔迫り合いをしていた体勢から、後方へ弾き飛ばした事で奴は蹈鞴を踏んだ。
「くっ! あり得ない! お前の様な弱者に何処にこんな力が!」
「……お前の行動が正しかった? じゃあ、10年前のリリスの離れで菊流を斬殺した事も正しかったって言うのか!? 光輝!!」
―――ガン!!
再び鍔迫り合いする形となったが、俺の指摘に動揺しているのか先程より力を感じない。
「あ、あれは呪いの力によって視界がおかしくなっていただけで……、僕が望んだ事じゃ……」
「お前が望んでいようが望んでい無かろうと関係無い! あの日、お前は愛していた菊流を自分の手で殺したんだよ!!」
「う、五月蠅い五月蠅いうるさ……い……」
??? 急に黙り込んでどうしたんだ?
脱力した光輝が予測不可能の行動するのを警戒して俺は一旦距離を取ると、変化はすぐに訪れた。
「う、うううるるる……うううううううううううううるるるさ、さささ……」
宙に浮き、痙攣する壊れた人形の様に手足を別々の方向に動かす光輝の姿に、幼馴染である俺達が目を逸らす理由には十分だった。
暫くして落ち着くと、光輝の口から聞いた事が無い声が発せられた。
「全く、こんな事で動揺するくらいなら、最初から私に任せておけば良かったんだ。 だろ?光輝君」
「しょ、しょうがないじゃないか【永遠】。 実際、僕が菊流ちゃんを手に掛けたのは事実なんだから動揺くらしするさ……」
光輝の1つの口から2つの声が発せられた事よりも……、トワ……。 その名を聞いた瞬間、この場にいる全員の全身が総毛立った。
「あ、あああぁぁぁぁぁ…………」
ヴォーパリアの兵士達は、名を聞いただけで全く動けなくなってしまっている。
「…………はぁ、嫌だ嫌だ。 僕の名を聞いただけで兵士達まで委縮するのか……。 この後戦えそうなのは、ディアナの加護を受けている君達くらい……かな?」
光輝の瞳が漆黒に染まると、こちらをギョロリと見た。 すると、いきなり上から巨大な圧力が掛かった様に地面に強制的に跪けられてしまった。
う、動けない!!
「何だい何だい、僕がちょっと見ただけだってのに動けなくなっちまうのかい? 良い線行くかと思ったけど、期待外れだったね……。 そこの茶髪の男が、光輝君が恨んでる相手だって言うし……取り合えず殺しとくか?」
そう言った途端に、トワに操られている光輝が右手を上げると巨大な漆黒の玉を生成した。
「じゃあね、共也君……だっけ? ん~~。 まぁ、どうせこれで永遠にお別れだし覚える必要は無いか。 ポイ!」
軽い掛け声と共に巨大な漆黒の玉が投げられ、ユックリこちらに向かって来る。
「こ、光輝様! あれが爆発すれば我々も死んでしまいます!!」
「良い事じゃない! 君達が死んで魂になれば、僕の栄養になる事が出来るんだから喜びたまへ!」
「ふ、ふざけるな!! 俺は逃げる、逃げるぞ!」
「それって今更だねぇ……。 もう、間に合わないよ!」
光輝の手から解き放たれた漆黒の玉が、敵味方諸共殲滅するべくこちらに向かって来ている。
動く事すら出来ない俺達は、その攻撃を防ぐ手段が無い……。
「させない!」
死を覚悟していると、空から炎の翼を生やした剣士が俺の前に降り立った。
「共也君、遅れてごめんなさい。 鈴ちゃん、お願い!」
「共也、あんたが死んだら誰が私に花嫁衣裳を着せさせてくれるって言うのさ! 絶対に殺させないよ!! ≪結界魔法:半球≫」
『シル! 鈴!』
すり鉢状の巨大な結界を展開した鈴は漆黒の玉を受け止めると同時に、さらに上半分を生成して包み込んだ。
「ははは、無駄だよ無駄! いくら転移者が持つ強力なスキルであっても、暗黒神である僕が放った漆黒玉を防げる訳が無いじゃないか! そのまま絶望に包まれたまま死ね!!」
「確かに彼女の力だけなら無理かもしれませんが……。 共也さん、今こそマリちゃんの≪海龍魔法≫を同時に使う時です!」
「そうか!! 行くぞシル!」「はい!」
『「≪≪海龍魔法!≫≫」』
シルと同時にマリの海龍魔法で暗黒神の魔力に干渉した事で、漆黒玉は徐々に形を歪めて行き小さくなり始めていた。
「ぐっ! こんな訳の分からないスキルで僕の魔力に干渉するなど聞いた事が無いぞ!?」
そして、暗黒神の抵抗虚しく、鈴の結界に閉じ込めていた漆黒玉は跡形もなく消失した。
「聞いた事が無いですって? 何を当たり前の事を……」
「何だと?」
「共生魔法。 この魔法スキルは、人類の長い歴史の中で私とここにいる共也君しか発言する事が出来なかったですからね。 何千年かに1度、他人を乗っ取って地上で好き勝手に暴れるだけしかしてこなかったあなたが知る訳が無いじゃないですか」
「共生魔法……。 共生魔法だと? 海龍魔法と言う魔法は知らないが、共生魔法は知っている……。 まさか、お前は前回降臨した時に魔法都市で戦った……」
「そうです。 魔物の軍勢を引き連れて暴れていたあなたを討伐したのは、あの魔法都市の王ギルバートと王妃マーサ、そして、ケイレス達と共に戦ったのは、このユグドラシルの精霊であるシルよ!」
シルの正体を知って目を剥くトワだったが、すぐに含み笑いをし始めた。
「クックック……」
「何が可笑しいのですか!?」
「何故かだって? それはな! 僕が漆黒玉で殲滅するしか出来ないと思ってる、お前達の能天気さに笑いが込み上げて来たんだよ!」
そう言うと同時に、俺達の目の前に立っていたはずのトワが掻き消えた。
「え?」
不味い!
「シル!」
―――ガアン!!
漆黒の剣でシルを叩き切ろうとしていたトワの攻撃を、間一髪の所で防ぐ事に成功した。
「共也君!」
「ほう、良い反応じゃないか。 光輝の記憶の中の君は大した事が無かったはずだが、この10年で大分強くなったようだね」
弾き飛ばされた事で元の場所に戻ったトワだったが、俺の持つ魔剣カリバーンを見て笑みを浮かべた。
「おやおや? 共也君、何とも懐かしい剣を持ってるじゃないか」
「この魔剣カリバーンの事を言ってるのか?」
「そう、それは僕が創造した魔剣だから返してくれ……って言っても無駄か。 魔剣自体が君を所持者として認めてしまっているから、僕には扱えなくなってる……。 ん~~、しょうがないな。 今の所持者が死ねば、こちらに所有権が戻って来るだろう。 共也君、悪いが死んでくれ」
そう言うとまたもトワの姿が掻き消えた。
「!?」
「2度も同じ手が通用すると思わないで!」
氷で出来た剣を俺の少し前に振り下ろしたシルの攻撃を漆黒の剣で受け止めたトワは、一度舌打ちをすると元の場所に戻った。
「ちっ、やるじゃないか。 もう私の動きに対応するとは思わなかったけど、今のが僕の全力だと思わない事だ……ね!」
「ぐぅっ!」
また掻き消えたと思ったら、トワはシルの腹に蹴りを入れていたが彼女は氷の盾で防御して身を守っていた。
「へぇ、これも防ぐのか、やるねぇ。 でも、何時まで防ぐ事が出来るかな!?」
そう言うとトワはさらに速度を上げて俺とシルを攻撃して来るが、何とかトワの攻撃を受け流していると、シルから念話が届く。
(共也君、あなたが光輝と長年の因縁に決着を付けたいのは分かります。 ですが、このままだといずれトワの攻撃を捌けなくなり2人共殺されてしまいます)
(シル、どうすれば良いか考えがあるのか?)
(先程の漆黒玉を消し去った様に、私と同時に共生魔法を使い効果を上乗せして戦いましょう!)
確かにあの時の海龍魔法は普段と違い魔力に干渉する力が強かった。 だが、そんな裏技の様な能力がこの共生魔法にあるのか?
返答に困っている間も、トワの攻撃が激しくなって行く。
(共也君!)
……ええぃ、悩んでる暇は無いか!
(分かった! まずは菊流の身体強化を使うぞ、シル!)
(了解よ!)
「「身体強化!」」
共生魔法で菊流の身体強化を同時に使った瞬間、動きを捉える事ですら困難だったトワの動きをハッキリ認識する事が出来るようになっていた。
「ほう、身体強化を使ったか。 ならばさらに速度を上げるが付いて来れるかね」
一体どれ位余力が有るのか分からないが、今からする事に対処出来るか!?
(シル!)
(分かったわ!)
「「水魔法:水禍」」
ディーネの水魔法を発動させた瞬間、俺達の周りから大量の水が沸き出しトワを襲った。
「ぷわ!! でも、こんな威力の無い攻撃など、僕には無意味!」
「「氷魔法:銀世界」」
「なっ! 周囲の水を凍らせるだと!?」
これが、俺の考えた速度重視の攻撃を仕掛けて来るトワへの対抗手段だ。
俺達の周囲が起伏のある氷によって地面が覆われた事で、今までの様な速度で俺達を攻撃する事が出来ないはずだ。
「やってくれたね。 まさかこんなやり方で、僕の能力を制限してくるとわ思いもよらなかったよ。 でも、それは君達にも僕と同じ事が言えるよね?」
「そうでもないさ」
「何?」
奴の言葉を否定するように、俺とシルは同時にトワに向かって駆け出した。
「何で氷に足を……、まさか!?」
「お前の想像通りだよ。 水と氷、この両方は俺とシルが自分で作り出した物だ。 だから足を取られる訳が無いだろ?」
「き、貴様等~~!!」
こちらを攻撃しようとするトワだが、踏ん張った瞬間氷に足を取られてしまい、俺達の攻撃に対処が追いつかない。
「くっ! いい気になるなよ!!」
そして、避けきれず光輝の整った顔に徐々にかすり傷が刻まれ始めると、奴は漆黒の霧を出現させると鎧に変化させた。
「さあ光輝、今までの恨みを晴らすお膳立てをしてやったぞ。 見事に女神ディアナの眷属を駆逐して見なよ」
漆黒の鎧に変化した胸の部分から光輝の顔が浮かび上がり、両目を開き青い眼球がこちらを捉えた。
「あぁ……。 共也、長年の因縁に決着を付けようじゃないか」
鎧から1対の漆黒の腕が生えると、いかにも呪われていそうな2本の剣を作り出すと柄の部分は赤く充血した目がギョロギョロと動いていた。
「さあ共也、長年の因縁に決着を付けようじゃないか……」
暗黒神永遠が光輝の体を乗っ取り降臨。 そして、こちらはシルとの共同戦線となりました。
一応説明補足として、鈴は最後の魔力を使い結界術を使った影響で、ぶっ倒れてジュリアさんのいる後方に運ばれています。
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