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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
17章・激動のノグライナ王国
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開戦。

 朝日が昇り、ノグライナ王都周辺が照らされ始めるとやはりと言えば良いのだろうか、鈴の結界の外では、今か今かと欲望に濡れた眼差しでこちらを凝視するヴォーパリアの兵士達の姿が目に入った。


 そして俺達はジュリアさんが指揮する事となった、最前線の近接部隊に参加する為に移動していた。 そして、俺の横にはこの巨大な結界を張った鈴が一緒に歩いている。 


「共也、準備は良い?」

「鈴……。 あぁ、行こう」


 遂に光輝との長年の因縁に決着を付ける時が来た。


 彼奴がどうやって鈴の結界を攻略するのか分からないが、あれだけ自信満々に宣戦布告をして来た以上、きっと打開策を用意しているはずだ。 その事を前提として作戦を立てた俺達は、予め受け持つ場所を決めて奴らが来るのを待ち構えていた。


 クリスタルフォートレス城には呪いを受けても回復出来るエリアが待機しているし、戦場全域に歌でバフを掛ける事の出来る木茶華もいる。


 どれだけの戦力を光輝が連れて来ているのか分からないが、この布陣ならそうそう遅れを取る事は無いはずだ。


 一緒に近接部隊に参加しているダグラス達の事を心配しつつも、一緒に戦う事が出来る事に何処か嬉しさを感じていた。


―――ブオオオオオォォォォ~~~~~!!


 そして遂にヴォーパリア側から開戦を知らせる角笛が響き渡った事で、空気が一気に変わった事を肌で感じていた。 


「さあ光輝、どうやって鈴の結界を突破する気だ!?」


 そう俺が口に出した瞬間、ある一点から黒い染みの様な物が這う様に、鈴の結界を侵食し始めた。


「嫌……」

「鈴?」

「何よこの怨嗟の声は……。 あいつ、この10年で一体どれだけの人数を殺して来たって言うの!?」

「落ち着け鈴! 一体どうしたって言うんだ!?」


 顔が真っ青になっている鈴は、耳を塞いで抵抗しているようだが意味が無い様だ。


 そして彼女は、自分の身に起こっている事について説明を始めた。


「今も私の結界を侵食している黒い染み。 あれは……光輝によって殺された人々の怨嗟が集まって出来た物よ……。 分かり易く言うと、光輝を憎む力を集めて私の結界を破壊する力として利用しているようね……」

「あれ……全てがか?」

「えぇ……。 だけど、光輝に取っても予想外の事だったのでしょうね。 私の張る結界を侵食する事で、まさか彼等の思考が魔力を通してこちらに伝わるなんてね……」


 自分の結界を侵食する黒い染みを見て涙を流す鈴は、片膝を付くと静かに彼等の冥福を祈っていた。


 浸食が進むたびに結界にヒビが走り、遂に砕け散ると同時に黒い染みも用済みとばかりに消え去った。 それが意味するものは……。


 殺された上に、結界を破壊する為だけの力として利用されて消費する。 彼等のあんまりな結末に、握る手に力が入るが、ヴォーパリア側の雄叫びによって現実に引き戻される。


『うおおおおおぉぉぉ! 殺せ! 奪え! 殺せ! 奪え! ……略奪だぁぁぁぁぁ!!』

『わああああああぁぁぁ!!』


 こいつ等は、港町アーサリーを略奪しに来た奴らと何ら変わらない、人間のクズだ……。


 俺は少しだけあった躊躇いも、その事実を知って以降こいつ等を殺す覚悟が決まったのだった。


 それはジュリアさんも同じ立った様で、容赦無くまずは飛距離、破壊力の出る魔導士に攻撃を命じた。


「魔導士隊、撃ちなさい!」

『「「「「撃ちます!」」」」』


 ジュリアさんの指揮を受けた事で、魔導士達も覚悟を決めたのだろう。 進入して来たヴォーパリアの兵士に向けて様々な魔法が撃ち込んだが、奴らはその攻撃で死んだ仲間が見えていないのか、一切足を止める事無く進軍して来た。 


 その異様な姿に、ジュリアさん直属の兵士達も動揺を隠し切れないでいた。


「おいおい、あいつ等仲間がすぐそこで死んだって言うのに、お構いなしかよ……」

「狂ってるわ……」

「落ち着きなさい。 先程の魔法の斉射で何人も倒せている以上、奴らが人であるのは間違い無いのです。 今ここで私達が引いてしまえば、我々の背後にある都市にいる戦う力を持たない人は一体どうなるか想像出来ないあなた達では無いでしょう?」

「ジュリア様……」


 そんなジュリアの言葉に反応した兵士達は、先程と同じく杖に魔力を籠めるとヴォーパリアの兵士達に向けて照準を合わせた。


「やってやる! 都市では妻と娘が俺の帰りを待ってるんだ! こんな所で死ねるか!!」


「弓兵の一斉射後に、魔導士隊は氷魔法を撃ちなさい! 炎系統を撃ってはなりませんよ、森が燃えてしまいますからね!」

「了解です!」

「…………放て!」


 前線を足っていた敵兵達に矢の雨が降り注ぎ、多くの者が倒れ伏した。 そして、矢傷を負って動けなくなった所に、容赦なく魔導士隊の放った氷の氷柱が降り注いだ事次々に物言わぬ死体へと変わって行ったが、略奪と言う名の欲望に染まった彼等の進行は一瞬たりとも止まる事は無かった。 


『うおおおおおおぉぉぉ!! 略奪だぁぁぁ!!』


「ジュリア様、次はどうされます。 これ以上接近されると満足に矢や魔法が撃てなくなりますよ!」

「…………近接部隊、前へ。 奴らを食い止めて下さい、我々遠距離組はさらに後方の敵に向けて斉射して数を減らして行きます」


 行くか。


 前線に出ようとした所で服を引っ張られた。

 何だろうと思い視線を後方に向けると、そこには都市を覆う程の結界を破壊された影響で、暫く結界を発動出来なくなっている鈴が、涙目になりながら俺の服を親指と人差し指の2本で摘まんでいた。


「鈴?」

「……共也、必ず生きて帰って来てね。 また10年待たされるなんて嫌だよ?」

「大丈夫だよ。 10年前とは違い神白流抜刀術の奥義の1つを習得出来た事で、十分力を付けたと胸を張って言える位には強くなったはずだ。 だから鈴、長年に及ぶ光輝との因縁を終わらせて、皆と一緒にこの世界を旅しような」

「約束だからね? ……でも、これは約束の手形として貰っておくよ?」


 鈴はそう言うと首に掛けていたタオルを俺の首に回すと、強引に自分の方に引っ張った。


「!!?」


 そう、鈴は強引に俺に接吻したのだ。


 そして、鈴は目を潤ませながらユックリと離れて行った。


「えへへ。 じゃあ共也、光輝に勝って。 そして、必ず私を迎えに来るんだぞ!?」


 そう言いながら人差し指を突き付けた鈴は、ジュリアさんが指揮する後方へと戻って行った。


 鈴が走り去った後、俺の背後からいくつもの殺気がぶつけられて来ていた。


「共也?」「共兄?」「共也君?」

「皆……。 あ、あのな? さっきのは俺のせいじゃ無いって分かってるだろ!?」

「分かってるけど! この戦いが終わったら、あなたを慕う全員に鈴とした事を要求するわ! 良いわね!?」

「リリス、今はそんな事を言ってる場合じゃ『良いわね!?』……はい」


 約束を取り付けた事に満足したのか、彼女達はこちらに無計画に突っ込んで来る敵兵を蹴散らす為に突っ込んで行った。


 彼女達に負けられ無いと思い前線に出ようとしたのだが、何故かやれやれと言う顔をしたダグラスが肩に手を置いて来た。 


「ダグラス、何か言いたい事があるなら早めに頼む。 もう戦闘が始まってるんだぞ?」

「いやな、男の夢だと言われたハーレムも、お前を見てると案外そこまで良いものでも無いんだな~~って言う事が知る事が出来て感謝しているぜ? って言っておきたくてな……ぷっ!」


 カッチ~~ン!!


 どうやらこいつとは、1度本気で殴り合う必要がありそうだ……。


 両拳を構えた所で、ダグラスも「やべ!」と思った様で逃げようとしたが、それよりも早くジュリアさんからの叱責が早かった。


「共也君、ダグラス君、さっさと前に出る!」

「「は、はい!!」」

「……ダグラス、覚えておけよ!」

「あぁ、いくらでも相手してやるよ。 ……だから、お互い生きて再会しようぜ……親友」

「……勿論だよ、親友」


 お互い拳をぶつけ合って健闘を祈った俺達は、未だに突撃してくるヴォーパリアの兵士に向けて走り出すのだった。


 先に前線に到着していたリリス達は、何人もの敵兵を昏倒させて身動きできない様にしていた。


「共也、遅いわよ!」

「わ、悪い」

「ぷっ! リリスに怒られてやんの!」

「おまっ!」

「ダグラス君も、ちゃっちゃと動く!」

「ぷっ! 魅影に怒られてやんの!」

「「・・・・・あっ?」」


 2人で顔を近づけて睨み合っていると、俺達の行動を見かねた女性陣達から雷が落ちるのだった。


「「「「男共、さっさと動けーーー!!」」」


 こうして光輝との決戦の火蓋が切って落とさたのだが、俺はクリスタルフォートレス城で救護班として働く事となったエリアに、生きて再会する事が出来るのだろうかと言う不安を胸に抱いていた。


 ==


【ノグライナ東方面】


 鈴の張っていた結界が破壊された事で、ヴォーパリアとの戦闘が始まった事を察知した私はスノウとタケの3人で、進行してきたアカシャを相手にするべく立ち塞がった。 


「与一、私達だけで、あの数のアカシャを相手に出来るのかな?」

(スノウの言う通りだよ。 ぼ、僕も強くなったとは言っても、地球に居た頃はただの狼犬だったんだから不安だよ与一……)

「大丈夫。 私達が一緒に戦えばあいつ等程度なら物の数じゃない」


 3人の視線の先には、森から続々と出て来るアカシャの大群がいた。


 2人にはああ言ったけど、ちょっと数が多いかも……。


 光輝と対峙しているエルフ達は人手が圧倒的に足らず、こうして共也達が連れて来た強力な仲間達を分散させてまで防衛する必要が出て来たのだが、流石に3人であの数のアカシャを相手にするのは無理だ。


 内心冷や汗を掻いていた与一だったが、背後から幼い声が聞こえて慌てて振り向いた。


「与一さん、助けに来ましたよ」

「イリスちゃん!? あなたはノインちゃんの護衛に就いてたはずじゃ……」

「えぇ、私もノインの護衛に就くつもりでしたが、こっちが一番手薄になるだろうからと言われて救援に駆けつけました」

「でもイリスちゃん1人来たからと言って、あの数のアカシャ相手では……」

「大丈夫ですよ、与一さん」

「何故?」

「先程姉達に連絡がついて、救援に来てくれる事が決まりましたから!」


 イリスのその言葉と同時に、足元に3つの魔法陣が現れると、天界でディアナ様に会った時に護衛していた3人がそこに立っていた。


「イリスちゃん、お久しぶり~~」

「シシリー姉、お久しぶりです」


 ウェーブした桃色の髪を肩の辺りで切り揃えた、おっとり系の戦乙女3女シシリー。


「ふん。 ディアナ様の頼みだったから来て上げただけなんだから勘違いしないでよね、イリス!」

「はいはい、分かってますよ、サリナ姉」

「おぉ、リアルツンデレ……」

「与一さん、しっ! サリナ姉はあれで傷付きやすい人なんですから!」

「なるほど……」


 編み上げた茶髪を後頭部で纏めて垂らしているのは、ツンデレ属性の4女サリナ。


 ドゴン!


「イリス。 あの変な獣の様な奴らが、今回の私達の敵か?」

「はい、メープル姉。 いくらでも敵が沸いて来ていますから、今日はいくら暴れても誰も文句を言いませんから存分にどうぞ」

「よっしゃーーー!!」


 金色に輝く巨大なハンマーを地面に置いて石畳を砕いたのに喜んでいるのは、体は小さめなのに男気溢れる5女のメープル。


「私達4人姉妹もここの防衛に回りますから、与一さん達も存分に暴れて下さい!」

「了解! スノウ、タケ、これで何とかなりそうだから存分に戦えるよ」

「分かった。 タケ、行こう!」

(分かった!)


 こうしてノグライナ東エリアで、与一達はたったの3人で大量のアカシャを相手にする予定だったが、戦乙女の姉妹が4人も参戦した事でむしろ過剰戦力となってしまうのだった。


 


遂にはじまってしまった光輝との決戦。


 なるべく早く続きを書いて行こうと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。


 評価などしてくれると幸いです。


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