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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
17章・激動のノグライナ王国
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各々の想い。

 光輝に正体を明かした後、ダグラスに胸倉を掴まれて『何故正体を明かした!』と激怒されたが、後悔はしていない。


 皆は俺の反省の無さに呆れていたが、皆も心の中では光輝の物言いに腹が立っていたらしく、それ以上は言って来なかった。


「だけどな共也、お前が安易に正体を明かした影響は意外と大きい事だけは理解しておけよ?」


 確かにダグラスの言う通りだ……。 もしかすると光輝はダグラス達もここに来ている可能性を考慮して、戦略を練り直している可能性があるのだから……。


「分かってる。 もし本当に明日光輝と戦場で対峙する事があったら……。 その時は俺があいつを止めるよ」

「あ~~、共也悪い。 俺が言いたいのは、光輝に正体を明かした責任を取れって言う事じゃ無くてだな?」

「じゃあ、どう言う意味なんだ?」

「その……。 あれだ」

「ダグラスはこう言ってるの、『そう気負うな共也、お前は1人じゃない。 こうして俺達や、お前と共に行動すると決めてくれたディーネ達もいるんだから、遠慮なく頼れ』ってね」

「おま! 与一!」

「ハッキリ言わないダグラスが悪い」

「……まぁ、俺の言いたい事は与一が全部言っちまったが、共也、周りを見て見ろ」


 ダグラスに言われて改めて周囲を見渡すと、幼馴染達は勿論、ディーネ、スノウ、マリ、タケ、天狐、空弧、ミーリス、そして、新たに合流したシルもいる。 


 全員が俺を優しい目で見ている状況に、胸に込み上がて来るものがあるのはしょうがないと思う……。 


「室生、皆……。 あぁ、そうだな……。 俺には頼もしい仲間が沢山いるんだから、きっと明日の戦いも無事勝利で飾る事が出来るよな!」

「そうだ、その意気だよ共也!」

「明日は絶対に勝って、長年の因縁に終止符を打つわよ!」

『「「「「「ああ!」」」」」』


 もう光輝を討つ事に躊躇いは無い。


 そう俺達が円陣を組んで明日への意気込みを話している中、少し離れた場所でこちらの様子を眺めている人物が2人いた。


「ティニー、あの中に……いや、共也さんと話さなくて良いのですか? 明日、もしかしたら全てが終わるかもしれないのですよ?」

「カトレア姫……。 私は……その……、共也君の周りにいる娘達の様に、もう若く無いですから……。 その……」


 顔を真っ赤にしている上に、指を組んでモジモジするティニーに、カトレアは思った『乙女か!』と。


 あぁもう! こんな可愛い乙女の視線に気付かないだなんて、相変わらず共也さんは鈍感ですね!! ……そうだ、ここは上司である私がティニーの為に一肌脱ぐべきシチュエーションではないですか!!


 そう決意したカトレアの行動は早かった。


「共也さん、ちょっと良いですか?」

「カトレア? どうしたんだ?」

「良いですから、ちょっとこちらに来て下さい!!」

「お、おう? って力つよ!!」


 カトレアが俺に腕を絡ませて強引に連れて行こうとする場所には、顔を真っ赤にして落ち着き無くアタフタするティニーさんがいる。


 何故カトレアが急にその様な行動を取ったのか素早く理解した仲間達は、小さく手を振った。


「「「「「「「頑張ってな~~、共也!」」」」」」」


「何を!?」


 そして、カトレアはティニーさんの前に俺を連れて来ると、彼女の前に押し出した。 


「ひ、姫様、わ、私……」

「共也さん、ティニーがあなたに伝えたい事があるらしいので、少しお時間を頂いてもよろしいですか?」

「ひ、姫様ぁ!!」

「俺は大丈夫ですが……。 ティニーさん、伝えたい事とは一体?」

「う、うぅ……」

「ティニー……」


 俯いたまま何も言わないティニーさんに痺れを切らしたカトレアは、2人で夜の庭園を散歩して来てみては? と提案して来たので、俺は了承した。


「で、でも、先程の襲撃者が襲ってきたら……」

「それは大丈夫よティニー。 彼が結界外に逃亡したのは、兵士達によって確認済みよ。 安心して散歩して来て頂戴?」

「ひぃぃぃ~~ん……」


 にやぁ~~っと笑うカトレアの背中に、黒く小さな翼が生えている様に見えたティニーは「もう逃げられ無い」と悟り、意を決して共也の腕を絡め捕ると夜の庭園へと足を向けるのだった。


「頑張れティニー、私は応援してるから~~」


 その何処か他人事の様な言い方に腹を立てたティニーは、キッ!っと鋭い視線をカトレアに向けた。


「姫様、後で覚悟しておいて下さいね!!」


 そうして怒りながらも俺の腕を離さないティニーさんと共に、クリスタルフォートレスの綺麗に整理されている夜の庭園へと足を踏み入れた。


 そこでは木々の周りを手の平サイズくらいの光の精霊? の様なものが多数浮遊して、夜の庭園を淡く照らしていた。


「綺麗……」

「えぇ、前回来た時は昼でしたから、まさかこんな光景が夜の庭園で見られるとは思いもよりませんでしたよ」

「そう言えば前回も1日だけ滞在しましたが、晩餐会が終わったら皆すぐ部屋に戻りましたね。 こんな光景が広がっているのなら、世界が壊れる前にアレンとオイフェ、そしてクルルの4人でもう1日だけ滞在して、この光景を一緒に見たかったな……」

「ティニーさん……」


 そう呟いた彼女の紫の目から、いくつもの雫が零れ落ちていた。


 そうだった、シグルドさんの話しではシンドリア王国の動乱で、アレンさんとオイフェさんの2人は、今だに生死が分からないんだったっけ……。


 2人の間に何とも言えない空気が漂う中、真面目な顔でこちらに向き直るティニーさんに対して、俺も真剣な顔で彼女に向き合った。 


「共也さん、何故オイフェとアレンが、私を逃がしてくれたか分かりますか?」

「……いえ。 分かりません」

「別れる前に彼等は私に言ったのです『お前のその恋心を成就させるまで死ぬな!』と……」


 オイフェ、アレン、私に勇気を頂戴……。


 そう言うと彼女は一度大きく息を吸うと、ユックリと口を開いた。


「共也君。 私はあなたの事が好き。 いえ、愛しています。 だから他の婚約者と同じ様に、ヴォーパリアとの戦いが終わってからでも構わないから、あなたの妻の1人として迎え入れてくれないかしら?」


 胸に当てているティニーさんの右手は、あまりの緊張のせいか震えている。


 そんな彼女の姿を愛おしいと思ってしまう俺は、やっぱり女垂らしなのだろうか……。


「……ティニーさん、何時から俺の事を?」

「初めて会った時は良いなとは思った程度でしたが、人魔大戦前に再び会った時に何処か違和感を感じる自分がいたの。 これが共也君への恋心だとハッキリと認識したのは、アレンとオイフェに言われてからよ……。 ねぇ、共也君30過ぎたおばさんは……嫌?」

「そんな事考えた事もありません! ティニーさんは、綺麗で……。 あっ……」

「ふふふ、嬉しい……。 じゃあ共也君、私をあなたのお嫁さんの1人にしてくれますか?」

「…………分かりました。 俺もここまで素直な気持ちを伝えられて応えないほど、鈍感じゃありません。 ですが、本格的な婚姻はヴォーパリアとの戦いが終わってからですからね?」

「うん、分かってるよ、将来の旦那様♪」

「ティニーさん、出来れば今まで通り共也と呼んでくれるとありがたいです……。 正直面と向かって旦那様なんて呼ばれると……」

「私は言いたいんだけどなぁ~~。 う~~ん……。 じゃあ、条件として私の事は人前でも『ティニー』って呼び捨てにする事。 これが条件です」

「えぇぇ……。 人前でも、さんを付けじゃ駄目なんですか!?」

「駄目!」

「ティニーさ……『ティニー!』……ティニー」

「えへへ♪ よろしい。 えい!」


 少しだけ俺より身長の低いティニーに急に抱き付かれた為、彼女の結い上げた薄紫の髪から良い匂いが鼻腔を擽って来るし、形の整っていた胸が潰れて柔らかい感触が伝わって来る……。


 あれ……。 この光景って何処かで見た事があるような……。


 既視感を覚える光景に困惑していると、案の定背後にある木々が揺れ動き沢山の人達が俺達の前に雪崩れ込んで来た。


「鈴、今すぐ退け! 退いてくれ、重い!! 中身が出る!!」

「何ですってぇ!? 小っちゃくて可愛い鈴ちゃんが重い訳無いでしょ、この馬鹿ダグラス!!」

「自分で言うなし!! 重いもんは重いんだよ!!」

「何ですってぇ~~~!!」


「いっ痛たたたた……。 あっ、ティニー永久就職先が決まったみたいだね、おめでとう!」

「ひ、姫様! それにエリア様や皆さんまで!?」

「ティニーさん、共也ちゃんを一緒に支えて行きましょうね!」

「いっ何時からそこに……」

「何時からと言われてもねぇ……。 ずっと?」

「ずっと!? じゃあ、私が共也さんに告白している姿を、皆で見ていたと言う事ですか!?」

「ティニー」

「何でしょう姫様」

「照れながら告白するティニーは可愛かったよ!」


 親指を立てて祝福するカトレアに顔を引きつらせるティニーは、腰に下げていた収納袋から自身が愛用している槍を取り出した。


「ティ、ティニー? その槍で何をするつもりなのかなぁ……?」

「何をするつもりなのか……ですって? 私は一世一代の告白を覗き見した不埒者を、成敗する為に槍を取り出しただけですよ? まさか1国の姫ともあろうお方がそんな事をする訳無いですよねぇ?」

「あ、あははははは……。 あ! 明日に向けて装備の点検をしないとだったわ! 皆さんおやすみなさい!」

「待ちなさい姫! 死ねーーーー!!」

「死ねって何よぉ!? あ、ごめん、本気で反省してるから勘弁して!!」

「許す訳無いでしょう!!」


 そう言いながら2人はどこか楽しそうに笑いながら、城の中へと入って行くのだった。


 その2人の姿に、俺達は顔を見合わせると笑い合った。


『ぶ、あはははははは!!』


 そして、横にエリアが並び立ち俺の腕に絡ませて来ると頭を俺の肩に寄りかからせて、夜の庭園で笑い合う皆を眩しそうに眺めていた。


「綺麗……。 明日、光輝君と命のやり取りをするとは思えない光景だね……」

「本当にね……。 さっきのやり取りで、もうあいつが俺達の知る光輝では無い事は分かってるから、遠慮はしないよ……」

「……ごめんね共也ちゃん。 元を正せばこの世界の人間が地球に住む人達を召喚した事が原因で『千世ちゃん』……む?」


 人差し指をエリアの口に当ててこれ以上言わせないように黙らせると、不思議そうに眼をパチクリさせる彼女の姿がちょっと面白くてつい吹き出してしまった。


 千世ちゃんは、そんな俺を力無く駄々っ子パンチで叩いて来るものだから笑いながら謝罪すると『馬鹿にしてる!』と言い、さらに不機嫌になってしまった。


「ごめんごめん。 エリアの顔が可愛くてついね。 それと、他の人はどうか知らないけど、俺はこの世界に召喚されて良かったと思ってるよ。 だから、むしろ謝罪はしないでくれ」

「何で? この世界の人間達が大召喚を実行しなければ、共也ちゃんもそうだけど、光輝君だって今も地球で平和に暮らしていたかもしれないんだよ?」

「君に会う事が出来たじゃないか」

「え、私?」


 驚いて見上げて来るエリアの手を強く握り締めると、ずっと彼女には言わない様にしていたが高校を卒業してから俺が取る予定だった行動の内容を告げると、初めて聞いた彼女は驚きで固まっていた。 


「まさか共也ちゃん、死ぬつもりだったの?」

「自殺するつもりは無かったけど、旅先で何時死んでも構わないとは思っていたのは本当かな……。 だけどあの日、菊流と最後の朝食を一緒に食べている最中にこの世界に召喚されて、俺は千世ちゃんに会う事が出来た……。 何千、何万光年じゃ効かない距離にいる君に再会し、一緒に行動する内に俺は君に再び恋をした事で、この世界で必死に生き足掻こうと考え直す事が出来たんだ……。 光輝の事は残念だったと思うけど、それは暗黒神のせいであって君が責任を感じる事じゃ無い」

「でも、でも……。 皆迄巻き込んでしまって……」


 ポロポロと目から涙が溢れ出して止まらなくなったエリアの頭に手を当てて撫でていると、俺達の周りをダグラス達が輪になって取り囲んだ。


「千世ちゃん、俺もこの世界に召喚されて後悔なんてしていないぞ。 メリムと言う美人な妻を娶る事が出来た上に、子供にも恵まれた。 確かに母親に孫の顔を見せてやれ無いのは残念ではあるが、あの人はそんな事は気にせず元気に生きているはずだ。 だから気にするな!!」

「ダグラス君……」


「私と室生もそうよ? 高校卒業後、社会人になった影響で私達の交際も自然消滅しそうだとお互い話していたのが、こうして結婚して愛奈を授かる事が出来たのよ」

「そうだな。 召喚された事を感謝こそすれど、君を恨む道理なんてあり得んさ」

「愛璃ちゃん。 室生君……」


「私もそう。 共也への想いはずっと封印したまま過ごすつもりだったけど、こうして惑星アルトリアに召喚された事で、共也の妻の1人になれた。 今もこうして触れ合える事に感謝してるよ?」

「与一ちゃん……」


「そうですよ千世ちゃん、私と鈴ちゃんも共也君の事が好きだったけど、彼の何処となく生きる事を諦めている姿に心配していたけど、この世界に来てみるみる変わって行ったわ」

「そうそう。 って千世ちゃん聞いてよ! 地球にいる共也ったらさ無駄に顔が整ってるでしょ? だから他人に興味が無いって姿に騙されて、恋心を抱く女性が沢山いたんだよ!?」

「はぁ!? 俺、小中高と告白された事なんて1度も無かったんだけど?」

「そりゃぁ……、あんたの側には常に菊流が目を光らせていたし……。 ねぇ、魅影ちゃん」

「え、えぇ……。 私も共也君に告白したいと相談された事は、1度や2度じゃありませんし……」

「ふぅ~~ん、へぇ~~~……」


 さっきまで泣いていたはずの千世ちゃんが、2人の暴露に目を細めて睨んで来る姿に寒気を感じていると、そこに救世主が現れた。


「ほらほら、千世ちゃんもそう睨まないの」

「柚ちゃん……」

「要は皆はこう言いたいのよ。 私達全員、この世界に召喚された事に対して、一切の恨み言は無い……むしろ、憧れていた異世界に来る事が出来て感謝してるってね?」

「分かった。 皆をこの世界に召喚した事に対してはもう何も言わない。 でも光輝君は……」


 そこにずっと俺達の成り行きを見守っていた木茶華ちゃんが、俺達の前に歩み出てくると口を開いた。


「エリア、光輝が元に戻れる可能性は有ると思う?」

「無理……だと思う。 本当に暗黒神の意思が光輝君に憑依しているだとすれば、もう彼の魂と融合してしまっていて、元に戻る事は不可能だと思うわ……」

「そう……。 なら彼奴がもう元に戻る事が出来ないと言うのなら、私達の手で止めて上げるのも情けだと思わない?」

「木茶華はそれで良いの?」

「…………例え私が助けたいと願ったとしても、もうあいつはこの世界で恨まれすぎているから、助かったとしても生きて行く場所なんて無いのよ……。 だから、お兄様方、光輝を殺して解放して上げて」

「本当にそれで良いんだな?」

「ダグラス兄……。 えぇ、これは唯一の肉親である私が決める事だと思うから……」

「なら、昔からの因縁がある俺があいつを止めるよ」

「お願い共也君……」


 そのお願いに静かに頷いた俺は、光輝がいるであろう鈴の結界の外に視線を向けた。


「明日。 光輝との因縁を終わらせないとね」

「鈴……。 あぁ……」


 そこには、続々と松明の光が集まり始めているのを、この場にいる全員で眺めていた。


 明日、ヴォーパリアとの決戦が始まるのを肌で感じながら……。 

 


ここまでお読みいただきありがとうございます。


この作品が面白い、読みたいと思って下さった方がいたら幸いだと思います。


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