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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
1章・異世界に、そして出会い。
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王都の動乱②。

 都市の至る所が燃え盛る中、ケイトが来た道を遡って彼女を助けたお姉さんを探していた俺だったが、ある事に気付いた。 助けるべき女性の名前や容姿を聞かなかった事に……。


(お姉さんを助けると言っておいて、一番肝心な事を聞き忘れるとか何をやってるんだ……)


 こうして悔やんでいる間も、彼女を助けた女性が危ない目に会っているかもしれない。 それにケイトと別れてもう距離が大分離れてしまった以上もう戻る時間も無いと判断した俺は、このままケイトを助けたと思わしき人物を探して燃え盛る都市を駆けずり回るのだった。 


 至る所に魔物によって殺された無残な遺体に目を覆いたくなるが、何時か必ず仇を討つと心の中で手を合わせると全速力でその場を後にした。

 そして、南門近くの公園に来た時にそれを目撃した俺はさらに速度を上げた。


「ぎゃっぎゃっぎゃ~~♪」


 ゴブリンが倒れている少女に止めを刺そうとしているのか、棍棒を回して今にも振り下ろそうとしていたからだ。


「間に合え!!」


 地面に落ちていた手頃な瓦礫の破片を手に取った俺はゴブリンに向かって全力で投擲すると、見事に頭に命中した。


「うぎぎいぃぃぃい~~!!」


 相当痛かったのか、頭を押さえているゴブリンは怒りの表情でこちらに振り向いたが、もう遅い。 俺はすぐ近くまで近寄っていて、ゴブリンが慌てて俺に棍棒を振り下ろそうとするが、すれ違い様に抜刀して2つの肉塊に切断すると、ゴブリンはすぐに紫の煙へと変化すると小さな魔石を1つ残して消滅したのだった。


「君! 大丈夫……か……」


 そして、ゴブリンが棍棒を振り下ろそうとしていた場所に横たわる少女を見て俺は全身の血の気が引く思いだった。 全身血塗れの銀髪の少女を俺は知っていた……。


「あ、そんな……。 君は……」

「う、うう……。 あ、森で助けてくれたお兄ちゃんだ……。 昨日ぶり……だね……」


 今も全身を痛みが襲っているはずなのに俺を心配させまいとして微笑むその少女は、小姫ちゃん達を助けた時に一緒に居た女の娘だった……。


「お兄ちゃん……が、冒険者ギルドの方角から来た……って事は……女の子を助けてくれた……って事で合ってる?」


 その事を知ってるって事は、この少女がケイトを助けたお姉さんって事だ……。


「ああ、君が助けた少女は無事だ、今頃きっと冒険者ギルドで保護して貰ってるはずだから、安心して……くれ……」

「そうなんだね、良かった……。 だから……ね。 お兄ちゃん、そんな悲しい顔をしないで?」

「でも、君が……」


 剣術スキルが生えたばかりの俺は、回復魔法も、ポーションも、薬草すら持っていない……。

 そんな俺が、この血塗れの少女を助ける事の出来る手段を持ってる訳が……無い……。

 俺は……、無力だ……。


「ふふ、お兄ちゃんは無力な存在じゃないよ……」


 その言葉に俺は驚いて、女の子に視線を向けた。


「え……。 どうして俺が考えてた事を……」

「何となく……かな。 それにね、森の中で私を助けてくれたお兄ちゃんは……私に取って勇者様……だよ? だから、そんなに泣かないで……」


 少女はその小さく震える手で、俺の目からいつの間にか溢れ出ていた涙を拭き取ると、力無く微笑んだ。


 その少女の笑顔を見た俺は、思い切り自分の頬を引っぱたいた。


 まだ、この娘は生きてるんだ、俺がこの娘を救わないで誰が救うって言うんだ! 俺に救う手段が無いならある場所まで抱えて走れ!!


 そう決意した後の俺の行動は早かった。


「ごめん、少し痛むかもしれないけど、君を助けてくれる手段を持っている人の所まで運ぶが良いかい?」

「う、ん。 お兄ちゃん、お願い……」


 少女をユックリと持ち上げると背中は血でベットリと濡れていたが、そんな事を今は気にしてる余裕は無い!


「う! うぅ……」

「痛むか?」

「大……丈夫……。 体が痛むって事は……まだ生きてるって言う証拠だもんね……」

「ああ、そうだとも、俺もなるべく揺れない様に急ぐから耐えてくれ……」


 少女を背負った俺は、京谷さんに習ったなるべく地面から足を離さない古武術の歩法を使い、振動させないように注意して走った。


「わぁ、お兄ちゃん凄いね、ほとんど揺れないや……」

「喋るんじゃ無い、体力が無くなるぞ!?」

「ごめんね……。 でも、お兄ちゃんこれだけは教えて貰って良いかな?」

「何だ!? 答えるから、もう喋らないでくれ、お願いだから!」


 こうして冒険者ギルドを目指して移動している最中も、ゴブリン2匹が行かせまいとして行く手を阻む。


「邪魔だ! この娘の治療が間に合わなくなるだろうが!」


 だが、すでに人型の魔物を切った経験を得ていた俺は容赦なく2匹を切って消滅させた。


「ふふ、お兄ちゃん凄い……。 私が聞きたいのはね、お兄ちゃんの名前なの……」

「俺の名前何て聞いてどうするんだよ……」

「お願い、聞かせて……」

「……最上 共也……だよ」

「その珍しい名前は……、もしかしてお兄ちゃんは召喚された勇者……様の1人?」

「そんな大層な者じゃないよ。 獲得出来たスキルは専門家も聞いた事の無い上に、使い方も全く分からない未知のスキルみたいだしな……。 それで、俺ばかり名乗るのはどうかと思うぞ? 君の名は?」


 見えた、冒険者ギルド! あそこに行けば必ず誰か回復魔法を使える人か、ポーションが常備されてるはずだ!


 あと少しで少女を救える!


 俺は意識を繋いでもらいたくて、少女に話し掛け続けた。


「もう、しょうがないから共也お兄ちゃんに、私の名前を教えて上げる……。 聞き逃さないでね……? 私の名は【リディア】……だよ。 ……街はずれにある孤児院で生活してるから、ただのリディア……」

「リディアだな、しっかり覚えたぞ!?」


(冒険者ギルドに着いた! これでリディアは助かる!)


「勇者様が私の名を覚えてくれた……。 嬉しいなぁ……、何時か戦争が終わって平和な時代が来たら……、私が共也お兄ちゃんの…………お嫁……さん……に……」


 その台詞を最後に、背負っているリディアの手から力が抜けて垂れ下がった。


「リディア? リディア! く!」


 慌てて冒険者ギルドの扉を開けて中に入ると、丁度バリスさんとジュリアさんが今まで見た事が無い完全装備で魔物達との戦いに出ようとしている所だった。


「と、共也君!?」

「共也!?」

「ジュリアさん、バリスさん、リディアを助けて! ポーションも回復魔法も持ってない俺じゃ助けられ無いんだ、今にも死にそうなんだ!」


『今にも死にそう』その言葉を聞いて、最初に動いたのはジュリアさんだった。


―――ガシャーーン、パリン、パリン!


 近くのテーブルに置いてあった冒険者の酒瓶を払いのけたジュリアさんは、ここにリディアを乗せるように促した。


「共也君、このテーブルにその娘を乗せて! 早く!」

「は、はい!」


 ユックリとリディアをテーブルの上に乗せると、バリスさんとジュリアさんはあまりの惨状に眉を寄せた。


「これは酷い……。 バリスちゃん、急いでポーションをこの娘に掛けて!」

「だが、これは兵士達の納品用で『バリスちゃん、早くしなさい!』は、はい!」


 青色のポーションをリディアの全身に掻けたバリスさんに感謝しつつ、様子を見ていると徐々に出血自体は止まって行ったが、何故か意識を取り戻さない……。


「リ、リディア?」

「・・・・・共也君、今からあなたにとって、とても酷な事を言うわ……」

「何でしょう……」


 ジュリアさんが言おうとしてる事は何となく分かってる……。 聞きたく無い想いが強い。 だけど、ここまでリディアを連れて来たのは俺だから、最後まで聞かないと……。


「今から出来る限り私の全力の回復魔法を掛けるけど、この娘は恐らくもう……」


 あぁ、やっぱり……。 でも、助かる可能性が少しでもあるなら……。


「お願いします……。 治療する為のお金なら、後日、借金してでも必ず払います……。 だから……」

「最後まで言わなくて良いわ共也君……。 バリスちゃん、そう言う訳だから回復魔法1回分この娘に使うけど文句は無いわね?」

「はぁ……。 子供の事となったらジュリアさんは、テコでも動かないって分かってるんだから、好きにしてくれぇ……」

「バリスちゃん、どうやら私がこの娘に回復魔法を使う事に文句があるみたいね? この騒動が終わったら、ちょ~~っとギルドマスターの部屋でお話ししましょうか?」

「わ、悪かったと思っているから、是非その娘の治療を優先してください!」

「…………後で絶対お話しするわよ!?」

「俺にどうしろってんだよ!!」


 ジュリアさんはバリスさんと言い争いをしている最中も、持っている杖に大量に魔力を籠めて何時でも回復魔法が発動出来る様にしていた。


「共也君行くわよ【回復魔法・リカバリー】」


 発動された回復魔法によって、リディアの体が白い光に包まれると体の傷がもの凄い速度で修復されて行く。


 帰って来てくれ、リディア!!


 そして、光が収まるとジュリアさんはユックリと杖を下に降ろした。


「ジュリアさん、リディアは!?」

「…………ごめんなさい。 体の方は綺麗に治せたけど、魂の方がもう……」

「え、じゃあリディアは……」

「……今は寝ているだけに見えるでしょうけど、魂の無い体はいずれ朽ちて行く運命よ……」

「そんな……。 リディア……。 俺はまた、守る事が出来なかった……のか」


 俺は両手で顔を覆うと膝から崩れ落ちてしまい、暫く動く事が出来なかった。


 リディア、ごめん、俺がもう少し早く到着していれば……。


「マリナさん、この娘を医務室に……。 私はこのまま南門に向かい魔物達を殲滅するわ」

「分かりました! ジュリアさん、お気を付けて」

「共也君、この娘を救う事が出来なかったのは残念だけど、今もまだ沢山の人が助けを求めているはずだから私は戦場に出向くけれど、あなたはどうする?」

「どうする……とは?」

「このまま嘆き続けて誰かにこの騒動を鎮めて貰うのを待っても誰も文句は言わないだろうけれど、あなたは本当にそれで良いと思っているの?」

「ジュリアさん……、俺は……」


 マリナと言うギルド職員の人に抱えられて運ばれて行くリディアの顔を見て、俺は歯を食いしばって立ち上がる。


 これは完全に八つ当たりかもしれない……。 でも、リディアを殺した魔物共を1匹でも多く殺す事が彼女の弔いとなるのなら……。


「行きます……。 もう、これ以上人が死ぬのを見るのは沢山だ……」

「うん。 一緒に助けを求める人々を救いに向かいましょう」

「お、おい、ジュリアさん、王国軍の手伝いをしなくて良いのか?」

「それはギルマスであるバリスちゃんに任せるわ、あなたが王国軍に合流して手助けをすれば体面を保つ事が出来るでしょ? それに、共也君が前を向く為には、彼女の仇を討つ必要があるのもまた事実なのよ……」

「それはそうなんだが……」

「もうバリスちゃんと、問答をする時間すら惜しいわ。 私がサポートに付くから行くわよ共也君。 彼女の仇を取りに」

「はい!」


 俺は1度だけ医務室の方に視線を向けると、ジュリアさんと一緒に冒険者ギルドの扉を開けて、今だ燃え続けている南門付近を目指して走り出すのだった。


 =◇===


 ここ南門より少し離れた場所では辺り一面が炎に包まれている中、グランク王自ら陣頭指揮を執りゴブリンやコボルト達を倒して回り、逃げ遅れた民衆達を救助していた。


『クギャーーーー!!』


「退け!!」


 兵士1人1人も負けていられないとばかりに、孤軍奮闘していた。


『皆の者! 今の内に我がシンドリア城へと避難するのだ! 殿は私が受け持つ!』

「グランク様?」「グランク様だ!」「グランク様が来てくれたぞ!」


『「「「「「わあああああああああ!!!」」」』


「グランク、あまり前に出るな! 俺達近衛の意味が無くなるだろう!」

「う、デリックすまない……、襲われていた民を見てつい……な」

「はぁ、まあ良い。 『民を見捨てる事など出来ない』そこがお前の良い所ではあるんだからな。 だが覚えておけ、この国に仕える兵士達も今回の魔物達の襲撃に対して心を痛めていると言う事をな」

「あぁ、分かっているさデリック」

「分かっているならキリキリ働け! グランク!」

「それ、王である俺の台詞なんだが!?」


「な、何だこいつ。 ぐああぁ!」

「!?」


 2人が言い争いしていると、他のコボルトと比べて明らかに一回り以上大きなコボルトが石剣を振り回しながら突進して来た。


「ハイコボルトか? コボルトの上位種がもう出て来るとは、この群れを率いている存在は、かなりの上位の存在みたいだな……」

「グランク、ここは俺が」


 デリックが前に立つと近衛隊長に代々受け継がれて来た巨大な剣を構えてハイコボルトを迎え撃とうとしたが、上空から聞こえて来た幼い声によって阻まれた。


「アッハッハ! 身の程を知らぬ奴らは、儂が殲滅してくれるわ! 死ね!《アイスニードル》」

『グガァァァァ!』


 氷属性の初級魔法の小さな氷の針が視界一杯に展開され、ミーリスが翳していた右手を振り下ろしたと同時に一斉に打ち出され、ハイコボルトの手、足、胴体が削られて行き、最後に断末魔を上げる事無く小さな魔石を1つ残して消滅したのだった。


「ミーリスか。 相変わらず敵だと判断した相手には容赦無いな……。 正直敵で無かった事を感謝したい程だ」


 グランク王がそう呟くと、空中に浮いていたミーリスが着地すると跪き頭を下げた。 


「魔法兵団大隊長のミーリス、王都に入り込んだ魔物共を駆逐する為に参上しました。 グランク様、何なりとご命令を」

「助かる。 ハイコボルトが単独行動していたと言う事は、恐らく群れを指揮している存在がいると思うのだが、まだ見当たらん。 ミーリス、デリックと協力して目に付く魔物を全て殲滅して行けば、いずれ群れを率いている存在にぶち当たるだろう。 それに、民を殺された私の怒りもこいつ等に知ってもらわねばならんからな……」

『「御意」』


 こうして近衛、魔法兵団、両トップを引き連れてグランク王は魔物の殲滅を開始したが、この群れを率いる存在とは一体どんな上位種なのか分からない為、不安を募らせる一行だった。



 =◇◇===


【ある路地裏にて】


『ガウガウガウ! グルルルルル!』


 共也達が冒険者ギルドを出た同じ時間に、路地裏で占い屋を開いているカーラ婆さんの元にもハイコボルトが現れていた。 そして、奴等は殺意全開で歯を剥き出しにしており、今にもカーラ婆さんを殺そうとして襲い掛かろうとしていた。


「何だい何だい、騒がしいと思ったら犬っコロ達が王都を襲撃してきたのかい、全く面倒な。 でも本能でしか動かない魔物達を、こうも組織的に動かす事が出来るって事は、最低でもジェネラル以上が生まれたって事かね?」


『ガアアアアアア!!』


 自分達を恐れる事無く考察するカーラ婆さんが気に入らなかったのか、集団で路地裏を塞いでいたハイコボルト達は一斉に彼女に襲い掛かった。

 だが、それはハイコボルト達に取って悪手だった。


『ぐ、ぐ、ゲ』


 メキメキメキメキ。


 それは、傍から見たら信じられ無い様な光景が展開されていたからだ。 見た目が老婆の彼女が1匹のハイコボルトの喉を片手で掴むと、その見た目からは想像も付かない程の力で持ち上げてみせた。


「犬っコロがいちいち五月蠅いのよ。 魔物如きが私の楽しみの邪魔をしやがって!!」


―――ドゴ! 


「ガッ!」


 石畳が砕ける勢いで床に叩き付けられたハイコボルトは首の骨が折れたのか、1個の魔石を残して消滅した。


「ガ、ガ……ウ……」


 仲間の壮絶な死を目の当たりにしたコボルト達は、恐慌状態になりカーラ婆さんに襲い掛かるが、突進してくるコボルト達の額にカーラ婆さんがユックリと手を置くと、全身の骨が砕ける音を響かせながら石畳に叩き付けた。

 即死だった……。


 そして、調子が出て来たカーラ婆さんが楽しそうに笑い、路地裏を埋め尽くしていた、コボルト、ゴブリン達を次々に襲いかかり、気付いた時には小さな魔石が路地裏に沢山残して完全に消滅していたのだった。


「まだ召喚されて日の浅い共也達だと、この強さの魔物が相手だとちょいと厳しいかねぇ。 しょうがない、今死なれてもつまらんしこの群を指揮する存在を見に行って、隙があるなら殺しとくかね。 ふぇっふぇっふぇ」


 轟轟と燃え盛る炎の音に掻き消された事で、カーラ婆さんの呟きは誰にも聞かれる事は無かった。 


次回は『王都の動乱③』で書いて行こうと思っています。


 出来れば次回で終わらせる事が出来れば嬉しいかな?

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