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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
17章・激動のノグライナ王国
269/284

決戦前の夜会。


―――コッ、コッ、コッ。


 地下へと降りる為の階段を足音を響かせながら下っていると、目的地である鉄格子が嵌められた牢屋が見えて来た。 私は護衛として付いて来ていた兵士達の制止を振り切ると、鉄格子を掴むと目的の人物が中にいるか確認する為に声を荒げた。 


『ハンネちゃん! ハンネちゃん、中にいるんでしょ、返事して!?』

「……う。 ここは……。 それに、この声は……リリーちゃん?」

「ハンネちゃん、しっかりして!」


―――ジャラ。


 意識を取り戻し薄っすらと目を開けたハンネは、鎖が自身の腕と壁に繋げられているのを見て何故この様な状況になっているのか理解出来無いでいた。 


「どうして私の腕に鎖が……。 あぁ、そうか……。 襲撃に失敗した私は、あの着ぐるみに気絶させられて地下牢に連れて来られたのね……」

「ハンネちゃん、ごめんなさい……」

「リリーちゃん、何であなたが謝るの?」

「だって、木茶華が光輝の妹だって私が教えたから、ハンネちゃんは私の無念を晴らそうとして襲撃する決意をしたんでしょ?」 


 違う……確かにリリーの無念は知っていたけど、私は別にあなたの為に襲撃する事を決めた訳じゃ無い……。 キーリスお兄ちゃんを殺した光輝に、身内を殺される事がどれだけ苦しいか教えてやりたかっただけだ……。 


「ごめん、リリーちゃん。 私は別に話を聞いたからと言って、あなたの無念を晴らして上げたかった訳じゃ無いの」

「え……。 ハンネちゃん、じゃあ、何で……」


 リリーが尋ねた瞬間、ハンネの口は三日月状に笑い、両目から涙が溢れ出した。


「……私はねリリーちゃん。 愛するキーリスお兄ちゃんを殺した光輝に、爪の先程でも良いから心の痛みを与えてやりたかっただけなの! あなたの無念なんか、今回の襲撃に()()()()の!!」

「ハンネちゃん……」


 気付いてリリーちゃん、このままだとあなたも私との共犯で捕まってしまう可能性が有るわ。 でも、ここで私を切り捨てればあなただけは助かる。 今回の襲撃の責は私1人が背負うから、ダークエルフ達が迫害されない様にお願いね……。 


「うぅ……。 ハンネ……ちゃん……」


 悔しそうに下唇を噛みしめて護衛の兵士達と共に地上への階段を昇り始めたリリーは、大きな足音を響かせながら地下牢から出て行った。


「そう。 それで良いのよリリーちゃん。 さようなら……」


 ハンネ以外誰も居なくなった地下牢に、彼女の独り言が響くのだった。


 ==


【クリスタルフォートレス城・晩餐会場】


 様々な楽器による演奏が夜会の会場を包み込む中、俺達はエルフの貴族達に取り囲まれて質問攻めにあっていた。


「いや~~、鈴殿の結界を通り抜けて来た人物が、まさか10年前に親善大使としてこの地を訪れた共也殿達だとは思いもよりませんでしたわい!」

「ほんにのう。 ヴォーパリアの連中に長期間包囲されて気が滅入っていた所にこの朗報、女神ディアナ様と神樹ユグドラシル様の思し召しとしか思えぬ!」

「そうとしか思えぬな! これは我らに、奴等との戦いに必ず勝利せよとの神託か!?」

「共也殿だけでは無い。 沢山のお仲間も参加してくれるとなれば、我らの勝利は確実なものだ!」

「では皆さん、もう一度グラスを持って!」


 カチン!


『かんぱ~~~い!!』


 気楽なもんだな。 こちとら光輝のニヤケ顔を見てからと言う物の、イライラが収まらないって言うのに……。


 10年前のリリスの居城での出来事が思い起こされる。


 子供の頃から俺を恨み、その事から呪った事はまだ分かる……。 だが彼奴はディーネと菊流を殺し、マリを崖へと突き落とし、重傷だったリリスをいたぶった事を俺は忘れ無い……。


 そして、あの時俺は地球に転移する直前に光輝に指を突き付けて宣言した『いつか必ず皆の仇を取りに戻って来る。 首を洗って待っていろ、光輝……』と。


 10年前の俺のままだと勝てなかったかもしれないが、様々な人と出会った事で絆を結び、ケントニス帝国ではバルトスから勇者の称号と能力を受け継いだ、今の俺なら光輝に正面から戦っても勝てるかもしれない……。 彼奴との長年の因縁に、決着を付ける時が来たのかもしれない……。

 

 手を力強く握り込み光輝との決戦に思い描いていると、普段三毛猫の着ぐるみに身を包んで顔を見せない様にしていた人物から声を掛けられた。


「共也さん、今お時間よろしいですか?」

「エスト……。 今は一人だから時間はあるが、お前着ぐるみ脱ぐ事が出来たんだな……」

「当たり前でしょ!? あなたの中で私はどのような扱いになっているのか、今度詳しく聞かせて欲しいものですねぇ!?」

「冗談だよ、冗談……。 半分本気だったが……」

「むむむ……。 はぁ……。 まぁ、後でユックリ問い質しますから今のは聞かなかった事にして上げます。 取り合えず、ここに来る前に約束した通りお伝えしたい事があるので、少しテラスでお話ししませんか?」

「分かった」

「では行きますか。 おっと、その前に」

「エスト?」

「はい、共也さん。 話しが長くなるかもしれないので、飲み物を持って行きましょう」


 ワインの入ったグラスを差し出して来たエストの恰好は、銀髪は結い上げていて、普段はボッテリした三毛猫の着ぐるみを着ている体には紫のドレスに身を包み、耳には一目で高価だと分かる青のピアスを嵌めて薄く化粧を施している彼女の姿は、本当にエストなのかと疑いたくなる程だった。 


「ん? 共也さん、ボ~~っとしてますがどうかしました?」

「え、いや。 何でも……無いぞ?」

「んん? はっは~~ん。 何時もの私と違いお洒落をしているものだから、見惚れちゃってました?」

「……正直に言うとそうだ……」

「…………へ!?」


 素直に綺麗だと言えば良かったのだろうが、それは何か悔しかったのでエストの言葉に返す感じで返答したのだが、どうやら俺の返答が予想外だったのだろう、彼女の顔が一気に真っ赤に染まった。


「いやいやいや、共也さん、それは不意打ち過ぎますってぇ……。 うわ、うわ、うわ、顔があっつ!!」

「ほら、手で顔を仰いでないで、早くテラスに行くぞ!?」

「誰のせいで、こうなってると思っているんですか!! もう!!」


 漫画で表現すると頭から煙を出しているエストを連れてテラスに出ると、池に冷やされた一陣の風が優しく頬を撫でて通り過ぎて行った。


「ふぅ~~。 共也さんのせいで火照った体が良い感じに冷やされますね」

「……エスト、それ絶対に皆の前で絶対に言うなよ? 誤解されたらお互い酷い目に合うからな」

「え~~? どうしましょうかね?」

「…………分かった分かった。 後で何か1つ言う事を聞いてやるから、早く俺に伝えたかった事を言ってくれ」

「ニシシ、約束ですよ?」

「良いから早く言えって……」


 そう口にした途端、エストは先程までの小馬鹿にした様な顔を止め、真顔になるとその特徴的な紫の瞳でジッと俺を見つめて来た。


「共也さん。 今日の襲撃して来た奴が言った様に、私はダークエルフではありません。 偶々容姿があの種族の特徴に似ていたので、ダークエルフと名乗っていただけです」

「エスト、じゃあお前の本当の種族は何なんだ?」

「……私の種族。 それは、今もこの世界に混乱をもたらしている〖悪魔族〗。 そして……。 その悪魔達が崇める暗黒神と呼ばれる存在、永遠(トワ)の娘です……」

「なっ!?」

 

 悪魔族ってバルトスの記憶の中で見た、あの? そして暗黒神永遠の娘? 駄目だ、情報量が多すぎて処理しきれない……。


 エストからもたらされた情報を頭を抱えて必死に処理しようとしているが上手く纏まらない。 そんな苦悩を知ってか知らずか、触り心地の良い白の手袋をした彼女が俺の頬に手を添えると困った様に微笑んだ。


「ふふ。 やはりそう言う反応になりますよね。 でも共也さん、安心して下さい。 いくら暗黒神の娘だと言っても、幼少期に捨てられてからここ数千年会ってもいませんしその配下の者達にも連絡すら取っていませんので、恐らく奴らの中で私は野垂れ死んだと思われているでしょうね」

「……エスト。 お前は何でそんな重要な秘密を俺に暴露したんだ? 数千年も前の話しなら、ずっと黙っておけば良かっただけじゃないのか?」

「私も自分の種族は何時か訪れる消滅の時まで、ずっと心の中に仕舞い込むつもりでした」

「なら何で俺に……」

「それはですね。 ここ数千年各地を彷徨いながら、私は1つ決めていた事があるからです」

「何をだ?」

「着ぐるみを着た状態でも仲良くなり、奇怪な行動をする私を妻として娶ってくれると言った人に全てを打ち明けようと……」

「全てを打ち明けた結果、拒絶されるとは思わなかったのか?」

「……思いましたよ? ほら、今も共也さんに拒絶されたらと思ったら、恐怖で手が震えが止まりませんし……」


 俺の頬に添え続けているエストの手は、確かに小刻みに震え続けていた。


「・・・・する訳・・」

「え?」


 小刻みに震え続けるエストの手を強く握り、俺は心の内を暴露した。


「拒絶する訳無いだろ! お前は俺の仲間で共生魔法の契約者の1人だ。 確かに最初会った時は着ぐるみの姿に驚きもしたが、今はもう見慣れて俺の日常の一部になってるんだよ!」

「共也さん、あなたの日常に慣れてる事はとても嬉しい……。 でも、私は寿命の無い化け物なのよ? それでも私を側に置く事に抵抗は無いの?」

「無い!」


 即答した俺を驚きの目で見るエストは、瞳孔がブレて今にも涙が溢れそうになっていた。


「でも、でも……。 あなたが年老いて亡くなる時も、私はきっと変わらずこの姿のままで……」

「そうだとしても、一緒に過ごした年月による想い出は消えないだろ? そうした想い出が、残される事になるエストには辛すぎると言うなら無理に引き留めないよ。 どうしたい?」


 そう尋ねた瞬間、とうとうエストの両目から涙が溢れ出した。


「嫌です、離れません……。 今更皆と離れて1人で暮らすなんて考えられませんし、こんな私を妻に迎えると言ってくれる人に、今後また出会えるとは思えません……」

「そうか……。 エスト、定命の者である俺と一緒に居て本当に後悔は無いんだな?」

「えぇ、後悔なんて有る訳ありません。 あ、もし寂しくなったらあなたの魂を召喚して使役するのも手ですね。 その時は覚悟してくださいね?」

「おいぃぃ! 俺って死んだら、自分の妻に使い魔にされちゃうの!?」

「あはは、冗談ですよ、冗談♪」

「悪魔のお前が言うと冗談に聞こえないんだから勘弁してくれよ……」

「うふふ。 じゃあ頑張って長生きして下さいね?」


 涙を流しながらニッコリ微笑むエストは、心の中で新たに1つの決意をした。


(もし本当にこの人が年老いて死に別れる事になったら、魂にマーキングをして私も後を追おう……)


 と。


 ガヤガヤガヤガヤ


 晩餐会上はさらに盛り上がりを見せている為、俺はエストの手を取ると主賓として顔を出すべく会場に向かって歩き出した。


「エスト、エリア達も待っているだろうし会場に戻るか」

「はい!」


 付き物が落ちたかの様に微笑むエストを連れて、月夜の照らすテラスから離れる俺達だった。


 



晩餐会が開かれ、エストの本当の種族を共也に告白する回でした。


後数話晩餐会の話しをする予定ですので、お付き合いの程よろしくお願いいたします。



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