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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
17章・激動のノグライナ王国
268/285

リリーの心の傷。 

『うわあああぁぁぁ!!』

「リリー、止めなさい!!」


 木茶華ちゃんが光輝の実の妹だと知ったリリーは急に激昂すると、ジュリアさんの制止を振り切り彼女に向かって炎魔法を放つのだった。


 だが、その炎の魔法もある人物が間に入って受け止めた事で、木茶華ちゃんに届く事は無かった。


「私だって光輝に対して思う所はあるわ。 だけど、木茶華がいくら光輝の実の妹だったとしても、いきなり殺そうとして魔法を撃つのは酷いんじゃない?」

「リリス、ありがとう……」

「木茶華、間に合って良かったわ」


 そう、リリーの放った魔法を受け止めた人物はリリスだった。 彼女はトーラスの魔力で織られた半透明の布を体に纏い、その布で炎を受け止めるとそのまま握り潰した。 


「私の炎が……。 わ、私の邪魔を、するなぁ!!(単発の炎魔法が駄目だと言うのなら、複数の炎弾で押し潰してやる!!)」


 魔力を杖に込めたリリーの周りには、パッと見数十もの炎の塊が空中に生成されて、今にも木茶華ちゃんやリリスに襲い掛かろうとしていた。 


「光輝の血縁者なんて、全員死んでしまえば良いんだーーーー!!」

「リリー!!」


―――パーーン!


 今まさに多数の炎弾が木茶華ちゃん達に放たれようとしていたタイミングで、ジュリアさんがリリーの頬を引っ張叩く音が辺りに響くのだった。


「ジュリア……お姉様?」

「いい加減にしなさいリリー。 木茶華ちゃんは確かに光輝の血縁者かもしれないわ。 だけど、あの娘はあの娘、光輝では無いのよ? いくら彼がキーリスの仇だとしても、彼女を殺した所で仇を取ったと言える訳無いじゃない。 冷静になりなさい」

「じゃあ。 じゃあ、お姉様は私に仇を討つなと言うのですか!?」

「いいえ。 キーリスの仇を取りたいと思うのは私も一緒よ。 当然じゃない、ずっと小さい頃から面倒を見てくれた兄の様な存在を殺されたのよ……?」

「そう思うなら、何故彼女を攻撃して仇を取ろうとする行為を諫めるのですか!?」

「それはねリリー、あなたのその行為は、仇を取ると言う大義名分と言う名の『八つ当たり』だから諫めたのよ」

「八つ当たり? いくらお姉様でも、その言い方はあんまりじゃ……」

「そう? じゃあ、冷静になった今のあなたなら彼女の周りが見えるのではなくて?」


 そうジュリアさんに言われたリリーは、木茶華ちゃんに目を向けた。


「え……? エリアさん、ダグラスさん、それに、共也……。 何でそんな奴を守ろうとしているの? そして、何でそんな目で私を見るの?」


 普段はあれだけ犬猿の仲だったエリアだけでなく、ダグラスや室生達も木茶華ちゃんを中心に円陣を組み、俺達は厳しい視線をリリーに向けていた。


「共也君……。 お兄さん達まで……」

「木茶華、無事? 全くいつも心配かけるんだから……」

「エリアまで……。 うん、うん……」


 木茶華ちゃんに何事も無くてホッとしたが、流石にこのまま済ます訳にはいかないと思い、リリーに何故この様な行動を取ったのか問い質そうと口を開いた。


「リリー……。 何故この様な暴挙を……」


 ビクッ!


「な、何よ何よ何よ何よぉ!! 皆して私を悪者扱いして、私は謝らない、絶対謝らないんだから!!」

「リリー、待ちなさい!」


 問い質す行為自体が悪かったのか、1度肩を跳ね上げたリリーは癇癪を起した子供の様に髪を振り乱すと、こちらを振り返る事無く城の方に走って行ってしまった。 


「皆、久しぶりに会ったというのにこんな事になってしまって申し訳無いと思う……。 だが、リリーがあの様な行動を取ったのも原因有っての事なのだ……。 許してくれとは言わないが、リリーに変わり私が謝罪する……。 すまない」

「ディーナス様、頭を上げて下さい! どうしてリリーは光輝の名を聞いただけであそこまで激昂したのですか? 理由を聞いても?」

「むう……」


 言い難そうに無言になるディーナスさんに対して、ジュリアさんが諭すのだった。


「お父様、共也ちゃん達には伝えるべきです」

「ジュリア、だが……。 いや、違うな。 リリーの心を救う為には、甘やかすだけでは駄目なのだな……」

「えぇそうよお父様、共也ちゃん達ならきっとリリーの心の傷に寄り添って癒してくれるわ」

「ふぅ……。 分かった、話そう。 何故リリーがあの様な性格になってしまったのかを」


 そこからディーナスさんによって、10年前にリリーの身に起きた出来事を聞き絶句するのだった。


 ==


 木茶華に攻撃した事を、身内のはずのジュリアに非難されたリリーは、悔し涙を流しながら城に帰還する道を走っていた。 


「皆嫌いよ、キーリスの仇を取らずにどうやって彼の無念を晴らせって言うのよ……」


 ドン!


「キャ!」


 泣きながら走っていた為横道から現れた人物に気付かずぶつかってしまい、リリーはその人物と一緒に尻餅をついて倒れてしまった。 


「いったた……。 一体何処を見て歩いて……ってリリー? リリーじゃないの、そんなに泣いて一体何があったって言うの!?」

「ハンネ? ハンネェ……。 うえええぇぇぇぇん」


 リリーと一緒に尻餅を付いた人物は、10年前の人魔大戦が始まる寸前まで人魔将として活動していた、ダークエルフのハンネだった。


「よしよし、リリー詳しく話して下さい。 あなたに一体何があったのかを」

「うん……」

「そうですね。 丁度あそこに喫茶店がありますから、あそこに入りましょう」


 近くで営業していた喫茶店に入り一通り注文したハンネとリリーは、向かい合って何故泣いていたのか、その説明を受ける事になった。


「ごゆっくりどうぞ!」

「ありがとう。 ではリリー、君に何があったのか話してくれるよね?」

「……分かった」


 そこからリリーはハンネに、先程あった事を語るのだった。


「そう……。 光輝の実の妹が今この国に……」

「うん……。 私だって本当は彼女を攻撃する事は間違ってるって分かってる。 でも『光輝』と言う名を聞いた瞬間、10年前のシンドリア王都を脱出する際に、命を投げうって光輝から逃がしてくれたキーリスの顔が浮かんでしまって、抑えきれなかったの……」

「……リリー、今も間違っていると分かっていても、その妹さんを殺してキーリスお兄ちゃんの仇を取りたい。 そう思ってる?」

「思って無い……。 頭の中では彼女を殺した所で仇を取った事にならないのも分かってる……。 だけど、キーリスの最後の顔が思い出されてしまって、私にもどうして良いのか分からないのよ……。 うぅ……」


 顔を覆い泣き続けるリリーを見続けるハンネは1度小さく息を吐くと、急に昔話をし始めた。


「ねぇリリーちゃん。 昔はジュリアちゃんを加えた3人で良く悪戯をして、キーリスお兄ちゃんに叱られたよね」

「ハンネ……ちゃん?」

「グロウに騙されて一時離れ離れになっちゃったけど、小さい頃にこの国で過ごした思い出は私の宝物だよ?」

「待ってハンネちゃん。 何で今そんな事を言うの? まるで別れ話の様に……う、何で急に眠気が……」

「リリー、あなたはキーリスお兄ちゃんが命を懸けて守ってくれた事に恩義を感じている様に、私はね……キーリスお兄ちゃんを愛していたの……。 私もその妹さんを害すると言う事は、間違ってるって分かってる……。 けど、光輝の実の妹だと聞かされた私の中にも忘れかけていた想いが蘇ったの。 その妹さんを害した事で、光輝が少しでも悔しい思うをするのなら、私は……」


 この甘い臭いは睡眠花? 不味い、ハンネちゃんは本気で彼女を……。


「待ってハンネちゃん! 彼女を攻撃した私が言うのも違うと思うけど……,木茶華と呼ばれたあの娘は攻撃した私を睨む事は無かった。 むしろ、光輝と言う名を聞いて激昂した私に、最後まで申し訳なさそうな顔をしていたの……。 だ……だか……ら……」

「リリー、今は眠りなさい。 あなたが起きた時には終わってるから」

「待って、お願いだから……ハ、ハン……ネちゃ……」


 寝息を立て始めたリリーに肩掛けを掛けたハンネは、険しい表情で装備の点検を始めた。


「ハンネ様、行かれるのですか?」


 店員のダークエルフが近づいて来ると、ハンネに問いかけた。 


「えぇ……。 リリーちゃんはこのまま寝かせて上げて。 そして、警察部隊がリリーを保護しに来たら、彼女が()()()()()泣きつかれて眠ったと証言して頂戴」

「分かりました……。 ハンネ様、御武運を……」

「うん、行って来ます。 もし、本当にその娘を害する事に成功した場合、またダークエルフ族は放浪の旅に出ないといけない事態になるかもしれないけど、その時は私の命1つで許して貰えるように懇願してみるわ」


―――カランカラン


 店の扉を出て行ったハンネを見送ると、店員のダークエルフは小さく呟いた。


「もし、本当にそうなったとしても、誰もあなたを恨む人はいませんよ。 どうか、襲撃が失敗してハンネ様の罪が少しでも軽くなりますように……」


 両手を組んだダークエルフの店員は、ハンネの襲撃が失敗する事を密かに祈るのだった。


 ==


 ハンネがリリーから説明を受けている間、俺達はディーナスさんから何故彼女があそこまで思い詰めた行動に出たのか説明を受けていた。


「そうですか、10年前のシンドリア王都が崩壊した日。 王都から脱出する際に光輝の襲撃を受けてしまい、それに対してキーリスさんが命を懸けて戦って時間を稼いでくれたお陰で、リリーは何とか逃げ切る事が出来たのですね……」

「あぁ、アポカリプス教団から襲撃を受けた際にジュリアとも別れて行動していた事が仇となってしまった様だ。 転移門で逃げるという選択肢を潰されていたからどうしようも出来なかったと、後日リリー本人から聞かされたよ」

「その状態で良くノグライナ王国に帰還出来ましたね」

「どうやら何かあってジュリアと逸れた場合は、アーサリーと言う港町で合流する予定だったらしい。 事前に取り決めていたお陰で、リリーは転移門を通って帰って来たのだが、帰還して来た時には憔悴し切ってすぐに倒れてしまったからな……」


 ディーナスさんの説明を受けて、俺はリリーの行動に対して何処か納得していた。


 再会した時に、何故あれ程弱気なリリーになっていたのか。 そして、ジュリアさんの背後にずっと隠れていたのか。 その謎が解けた気がした。


「その日からなのよ。 あの娘が心から笑わなくなったのは……。 貴族の人達もリリーの状態を知って、アポカリプス教団に対して宣戦布告をするべきだという意見が出たのだけれど、目を覚ました本人に止められてはそれ以上の議論は出来無かったわ……。 多分だけど、これ以上大切な人達が消える事に恐怖を覚えたんでしょうね……」 

「ごめんなさい、ライラお母様。 私がリリーに女王を継がせてしまった為に、あの娘に嫌な思いをさせてしまったわ……」

「ジュリアちゃん、女王の座に付くと決めたのはあの娘自身の意思よ。 その事に対して、あなたが負い目を感じる必要は無いし、戦争で負ってしまった心の傷を乗り越える事が出来るのは、あの娘だけなの。 私達が出来る事は、精々彼女がこれ以上傷つかない様に見守る事だけよ。 そこは重要な所だから、決してあなたからリリーに謝っては駄目」

「分かりました……」


 重苦しい空気が流れる中、木茶華ちゃんが1歩前に歩み出るとユックリと頭を下げた。


「血が繋がっているだけのクソ兄貴が迷惑を掛けて……、ごめんなさい……」

「ふふ。 クソ兄貴……ね。 どうやら其方も、光輝に対して色々と思う所があるようね」

「それは勿論です。 出来れば、私が直接息の根を止めてしまいたい位には!!」 


 その台詞を聞いたライラさん達も、木茶華ちゃんの光輝に対する殺意の高さに一歩引いてしまうが、密偵では無い事は理解出来て貰えたようだ。


 ずっと隠れて警護しているエルフ達の、木茶華ちゃんに対する警戒心だけが解けていなかったからな。


「さて共也ちゃん。 リリーの事が心配ではあるけど、晩餐会までには必ず説得してみせるから参加……してくれるよね?」


 ちょっと悲しそうな顔でお願いする、ジュリアさんの頼みを俺達が断れる訳が無い。


 全員で頷き合うと、晩餐会に参加する事を告げる。


「良かった。 前回と同じくクリスタルフォートレスに、あなた達が滞在出来るお部屋を用意するから、メイド達に案内してもらってね」


 リリーの事が気掛かりだが、取り合えず俺達はクリスタルフォートレスに1泊し、明日攻めて来ているヴォーパリアとの決戦に向けて話し合いをする事になったのだった。




 リリー親衛隊体調であるキーリスは10年前のシンドリア王都にて死亡している事を告げられ、その時の事がトラウマとなり、リリーも臆病な性格になってしまったという話しでした。


 そして、木茶華の命を狙い動き出したハンネ。 攻めて来ている光輝。 話の構成が難しいですが何とか書き上げて見せますので応援よろしくお願いします。


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